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転生犬語 ~杖と剣の物語~  作者: 館主ひろぷぅ
1章 義姉妹の誓い
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26話 全ての元凶

 部屋の中は静まり返っていた。


 いや。

 入り口に近い壁に座り込んでいるミルミルが虚ろな目でよだれを垂らして「うー」とか「あー」と呻いている。

 部屋の奥ではリルジットとミサキが軽く抱き合って横たわっている。

 マリちゃんは昨晩と同じ場所で横たわっていた。

 モーリエも昨晩と同じ場所で目を閉じている。


「みんな起きろーっ!

 カロンはみんなを貴族に売り渡すつもりだーっっ。

 もうすぐ貴族や賊が来るからみんな逃げろぉぉぉぉっっっ!!」


「ダルマさん、

 ざんねーん」


 いつのまにか部屋の入り口には、目が笑っていない笑顔のカロンが立っていた。

 ラチェットを手に。


「朝用意した全部の水の瓶にパサル―をたっぷり入れて置いたから。

 みんな昏睡か意識が吹っ飛んでまーす。

 ふふふふっ」

「くっ!」


 僕はカロンと対峙すると、隠し持っていた黒い石を差し出す。

 黄色の紋が入った魔使石(マジカストーン)。


「これはお前の石だろ。

 パサル―で賊の幹部の自我を崩壊させてこの石を耳にはめて操っていた」

「あら、1個足りないと思っていたらアナタが持っていたのね」

「カロン、

 お前の魔法は魔使石使い。

 それも石に声を吹き込む事が出来る魔法」

「そう、それも黄色の鉱物が混じった魔使石が一番声がキレイに聞こえるのよね」


 この魔使石を耳に入れると聞こえる。

 「敵を殺して」と甘く囁くカロンの声の果てる事の無いリピート。


「お前も拉致されたんやろ!

 なんでなんでこんな事をしたんや!?」


 カロンはクセのある前髪をいじる。


「んー。

 双子の小男の幹部が私に興味を持ったのよね。

 だからいっぱい身体で楽しませてあげたら色々話してくれたの。

 この山がある貴族の闇取引に使われてる事とか、

 取引に巨額の金が動く事とか、パサの場所とか。」

「もしかして、

 その取引を横取りしようとか考えたんか」


 前髪いじりを止めてニィッと笑うカロン。


「そうそう。

 さっきのラリった芝居といい、頭がいいねダルマさん。

 私にメロメロになった双子はあの地下で自由に動ける許可をくれたの。

 だから幹部達の飲み物にパサル―を入れて。

 幹部を思い通りに出来ると賊どもも私の指示通り動くの。

 気持ちよかったわ」

「なんで…」

「何?」

「それやったらアイリーンも大事な商品やろ。

 なんで殺したっ!」

「だってー。

 私キライなんだもーん、あの人」

「水の浄化魔法で牢獄の女性を操れなかったから?」

「それもあるけどー。

 私は自由にやってるのにいつも牢獄のドアを叩いて叫ぶの。

 『モーリエ大丈夫か―』とか『カロン大丈夫かー』とか。

 もー鬱陶しくてー」


「ガハッ、グハッ」


 リルジットが嘔吐して苦しそうに身体をよじる。


「あら、パサル―を入れ過ぎたかしら」


 遠くからガラガラと複数の馬車が近づく音が響く。


「お客さんがおいでみたい。

 もぅっ、みんなの耳に魔使石を入れたかったけど時間が無くなったじゃない。

 …ま、いっか。

 このまま渡せば」

「なぁ…」


 歩き出したカロンの背中に声をかける。


「なにかしら?」

「みんなが売り飛ばされると僕は路頭に迷うんだ。

 だから…

 キミについていっていいか」

「んー…

 ペットとか興味ないしあなたはブサイクだしー。

 …でも頭はいいみたいだしヒマつぶし相手にはいいかもねー。

 残飯しかあげないけどそれでいいなら勝手にしなさいよ」

「おう…

 ありがとう」


 ブサイクなのはほっとけ。

 僕もこんな姿になりたくてなったワケじゃない。


 カロンは1階に下りず、砦の南端の天井や壁が盛大に崩れた部屋に移動した。

 ここからなら中庭を一望できた。


 正門跡から黒のコーティングに金の装飾の入った、多分この世界では高級な部類に入るだろう木の馬車が入ってきた。

 馬車はいいとして牽引する2頭の馬が小さくないか。

 馬と言うかポニー?

 その足は太く毛玉が生えている。


 カロンはしゃがんで身を隠す。

 僕はその右斜め後ろでエジプト座りをして待機。


 黒い馬車の後ろから賊や人夫を乗せた2頭だての馬車が2台。

 中庭が崩れて狭くなっているので1台の馬車は城壁の外に停められた。

 

 馬車が止まると賊や人夫が降りて中庭に集まる。

 黒の馬車のドアが開く。

 ドアの紋章に見覚えがある。

 伝説の獣が盾を持つ構図。

 どこで見たっけ…うーん。


 黒の背広の男二人が降りる。

 一人は180センチぐらいの薄青の髪をした細身のイケメン。

 もう一人は同じぐらいの背丈で少し猫背。

 黒い髪をして陰気な顔をしている。


 イケメンがイケメンボイスで人夫達に指示を出す。


「ダナン将軍旗下の者は死体の処理をしろ。

 それ以外の者は坑道に入れ!」


 男達が作業を始める。


 カタカタと鳴る音がする。

 カロンのマチェットを握る右手が震えていた。


「あんなに男共が…

 ホントなら護衛が4人付いてたハズなのに。

 ダナンだけでもいればよかったのに!」


 魔剣を持ちだしたあの大男はダナンという名前らしい。

 ダナンなんだー。


「震えてんぞ、怖いのか。

 怖いならやめちゃえよ、こんな事」

「こ、怖くなんかないわよ。

 私はね、この可愛い顔と声でいろんな男を騙してきた女よ。

 これぐらい何でもないわ。

 なんだったら最悪、この男共を全員私の操り人形にしてやるわよ」


 自分で可愛い、って言ったか。

 とんでもない毒婦だな。

 たしか二十歳ぐらいだって言ってなかったか。


「ヤツめ、

 魔剣には触るなと言っておいたのに…」

「兄さん、逃げて来たヤツらの話だと。

 大きなヤンジーガと女剣士が攻めてきたと」


 この事件の元凶と思われる2人の貴族が話はじめた。


「ダナンはそれだけで約束を破る男ではない」

「この下にヴァーリアの燃えたテントがあったって事は。

 もしかして…」

「あの女がダナンを殺したとでも?

 バカを言え」

「でもアイツは家の高価なモノと隠し倉庫の金まで持ち出してますし。

 この場所も知っていたのでは」

「だからといってなんだ?

 あの女がここまで出来ると思うか」


 ここでカロンが立ち上がって叫ぶ。


「春の秋風!」


 何言ってんだ?

 コイツもパサル―を飲んだのか。


「私はダナン将軍の使いの者。

 取引を始めるぞ。

 さあ、合言葉を言え!

 『春の秋風』!!」


 ああ、合言葉ね。


「ダナンは私が直々に引き抜いた男だ。

 だからよく知っている。

 しかしお前のような小者は知らん」


 イケメン貴族は二階を見上げ冷静に対処をする。


「しかし合言葉を知ってるならここの関係者かも。

 この状況がわかるのでは?」


 陰気な貴族が提言する。


「ふむ。

 ではお前の知っている事を教えろ、少年」

「取引だ、取引をしろ!

 『春の秋風』!」

「『ユーエンの夏に雪が降る』。

 …合言葉を叫ぶバカと取引なぞできるか」


 もっともやね。


「パサル―は倉庫に用意してある。

 魔剣も坑道を掘れば全部ある!

 そして女が5人、この2階の奥にいるっ!」

「おい、ダナンの部下達。

 女を連れてこい」

「へい!」


 ダラダラと死体を片づけていた賊共が急に目を輝かせ砦に走り出す。


「いや、ちょっと待て。

 ダナンは顔のある魔剣を持ちだしたと言っていたな」

「へい、そうです旦那様」


 賊共が足を止めて答える。


「小僧、顔の付いた魔剣はどこにいった?」


 イケメン貴族がカロンに尋ねる。


「それなら中にいる女剣士が持っている」

「女が…持っているだと!?」


 イケメンがかなり間抜けな顔をしてカロンを見つめていた。


「かまわない。

 女を連れて来い、お前達」

「へ、へい」


 イケメンの代わりに陰気な方が賊に命令する。


「うわっ!」


 すぐに賊の足が止まった。


「リーン!リーン!リーンを返せぇぇっっ!!」


 階段前でルシアが血まみれの短剣を突きだして賊と対峙していた。

 それはアイリーンの背中に刺さっていたモノ。

 髪を振り乱して、目を充血させて。


「これがお前の用意した女か、少年」

「ソイツは違う。

 幽閉中に壊れた女だ。

 商品ではない」

「斬れ」


 イケメン貴族が冷徹に端的に命令を下す。


 ルシアは誰の説得にも応じず、ずっとアイリーンの遺体にすがっていたのだろう。

 だからこうなるってわかっていた。


 僕は顔と耳を伏せる。


「ぎゃあああああああっっ!!」


 剣を振る音と血しぶきがあがる音と女性の悲鳴。

 思わず目を硬く閉じて耳を塞いだ。


 瞼の裏に浮かぶのは昨晩の4人が抱き合う姿。

 あの姿を見て僕はカロンは大丈夫だ、なんて判断したんだ。

 許してくれアイリーン、ルシア。

 瞳が熱くなり涙の粒が盛り上がる。


 僕の全身全霊が全力でカロンを憎んでいた。


 僕に彼女を八つ裂きにする力は無い。

 それが出来るなら朝の時点でそうしていただろう。


 でも僕には言葉がある。

 例え殺せなくても追い詰める事が出来る『言葉』がある。

 アイリーンとルシアの仇は討てなくても慰めにはなるハズだ。


 賊が階段を上がって僕達が寝泊りした部屋に近づく足音が聞こえる。


「なあ、カロン。

 昨晩お前はほとんど寝てないよな」

「はあ、何?

 今忙しいのよ!」


 地上からはイケメン貴族が昨日からの状況を説明するよう催促していた。


「アイリーンが魔法で真水にした瓶を回収しようとしたんじゃないかと思って。

 でも不思議に思わなかったか。

 空き瓶がほとんど見つからなかった事に」

「あなた見てたの?」

「いんや。

 僕はぐっすり寝てたから、まあ僕の想像話と思って聞いてくれ。

 朝にみんなが水を飲んで外に投げていたのを見て少し安心したんじゃないか。

 全部部屋の外に投げられたんじゃないかって。

 違うかい?」


「おい、そこに誰かいるのか?

 誰と話している!?」


 貴族がうるさい。

 今はちょっと大人しくしてもらう。

 指図ばかりで自分達で動こうとはしないから暫くはバレないだろう。


 なるべく低い声を出す。

 でもそんなに野太い声が出ないので吠えるようにして誤魔化す。


「ダナンだ、久しぶりだな!

 ケガをしていて顔を出せなくてスマンな。

 ちょっとこのガキと話をしてるんだ、黙っててくれ」


 ダナンになったつもりで声をあげる。

 昨日聞いた声はもっと低かったよな、と思いながら。

 僕は身体が小さいし、カロンより後ろにいるので下からは見えない。


 下では声が違うだの喋り方が違うだの、あのひどく潰れた遺体は誰のだ?と話し合っている。

 まあ全然声が違うよねー。

 というか僕らはダナンがまともに話してるところを知らん。


 それでもなんとかカロンと会話する時間が作れそうだ。


「えーと、どこまで話したかな。

 ああ、今朝の水の瓶の話だ。

 話は変わるんやけどさあ、

 お前だけなんだよな、ミサキの魔法を知らないのは」

「だから何よ、

 何が言いたいのよ!」


 2階の隣の部屋がガタンバタン、と騒がしくなる。


 ここから僕が出来る限りの、そして僕にしか出来ない反撃の始まりだ。


「ぶっちゃけると……」

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


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