24話 夜が明けて全てが動き出す
ユラユラと揺らめく黒い影が階段を降りてくる。
「ううう…あああ…」と呻き声をあげて。
廃墟写真は大好きだ。
でも廃墟に行きたいとは思わない。
ネットでホラー話や怪談話を漁るのは好きだ。
でも本物に会いたいなんて思った事は一度も無い!
だって怖いやんっっ!!
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!」
四足になれたのを幸いにとばかりに足を必死に動かす。
しかし焦れば焦るほど足は空回り。
きっと今日ここで死んだ者達の魂が彷徨って血迷って出てきたのだ。
勝負は時の運みんな恨まず成仏してくれ南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏!
ところでこの世界に仏様はいらっしゃいますでしょうか!?
「…あれ?」
同じく逃げようとして躓いてよろけたカロンが何かに気付く。
慌てよろける姿も可愛いかったろうに僕は見逃してしまった。
「もしかして…ルシア?
ルシアさん!?」
ルシアといえば…あの可哀想な女性か。
昼間森へ逃げたきり行方不明だったが、結局行くところがなくて帰ってきたのだろうか。
「うううう…ああああああ……」
ルシアはよだれを垂らして泣いていた。
まとっていたボロ布はさらにボロボロで泥だらけになっている。
カロンが階段を上がりルシアの手を取る。
「みんな!
カロンさんが帰って来たよっ!!」
光の魔使石を最大級に発光させて大声で砦の2階の部屋へ飛び込むカロン。
泣いているルシアの手を引いて。
暗く静かにしてくれないかな。
これじゃあユーエンの城まで光と声が届きそうで焦る。
おおっ!と部屋の中から歓喜の声があがる。
僕は2人に遅れて部屋に駆け込んだ。
「ルシア、生キテタ、ヨカッタ!」
「ルシアッこのクソがぁっ!
生きてやがったのかよぉ!
お前泥だらけじゃねえかー、
それにクセェし。
アタシまで汚れんだろー!」
「リーン、リーン、リーン!」
「リーン」と叫ぶルシアを満面の笑みで抱きしめるアイリーン。
監禁されていた4人組がルシアを中心に泣いて抱き合って喜んでいた。
モーリエは寝床で横になって微笑んでいた。
立ってこの円陣に加われるまでの体力は回復していなかった。
ええ光景や。
こっちまでもらい泣きしそうだ。
「すごい絶叫が聞こえたから敵が来たのかと思ったけど。
ふーん。
さしずめダルマがルシアをお化けに見間違えてビビッたんでしょー」
寝床で半身を起してニヤニヤとイヤらしく笑うミサキが僕の感動に水を差す。
「うるせー。
カロンも驚いてたし」
「カロンさんは良いのよ、可憐な少女だし。
驚いて当然。
番犬がお化けにビビッてどうすんのよ」
確かに驚いた顔も可愛かったから反論は無い。
この騒ぎの中でもミルミルとマリちゃんは静かに寝息をたてていた。
「おいカロン、光のクソ石を消せ。
みんなもう寝ようぜ」
アイリーンとルシアは抱き合ったまま一つの寝床に入る。
「寝床をもう一つ用意しようか?」
後ろで「アンタは寝床の用意できないでしょ、なにを偉そうに」とかボヤくミサキを無視する。
「いいんだよ。
アタシとルシアはずーっとこうやって寝て励まし合ったんだ」
「リーン…リーン…リー…」
ルシアは安心したのか眠気に負けて声が少しずつか細くなる。
「…もしアタシが最初に捕まってたらアタシもおかしくなってたろうぜ、クソッ!
そう思うと可哀想で申し訳なくてよぉ…」
アイリーンが瞳を涙で濡らしながらルシアを強く抱きしめる。
ルシアは寝息をたて始めていた。
痩せこけてはいたが目を閉じて眠る顔は目鼻の掘りが深く美しく整っていた。
「アイリーンは悪くないよ。
悪いのは全部賊のヤツらだ」
「おう。
一番憎いのは女をさらう指示を出したクソ貴族だ。
ここを出たらソイツらを探し出して追い詰めて、
ルシアの前に引きずり出してクソ土下座をさせてやる!」
「アタシモ手伝ウ」
「わ、私も!」
星明りが差し込む部屋で雑魚寝をしながらリルジットが、遅れてカロンが誓い合う。
ミサキがシーツを頭から被って丸まって寝た。
僕は見張りの壁に上ってスフィンクス座りをする。
そして部屋を見渡して考える。
アイリーンは口が悪いが心は熱く、そして優しく強い女性だ。
ルシアは気の毒だったが他の女性の心が壊れなかったのはきっとアイリーンがみんなを励ましていたのだろう。
あくまで僕の想像だがきっと間違ってはいない。
他人の事を想って自分の心を痛めても涙を流せる人だからだ。
このヒトの命をゴミ同然に扱う世界で生まれた奇跡の人。
思い返せば僕も昔はそうだったような。
誰かの為に本気で泣いて笑って生きてた気がする。
いや、思い出何て美化されるものだからきっと思い違い。
マリちゃんは僕にアイリーンのようになって欲しいのだろうか。
うーん。
そんな自分は吐き気がする。
でも。
マリちゃんだけには、僕は。
みんなが寝静まったのを見てると僕も瞼が重くなる。
僕は番犬失格だ。
番犬じゃなくて獅子族だけど。
「リーン!リーン!リーンッ!!」
悲痛な呼び声に僕は覚醒させられた。
見上げると空は半分青く、半分朝色に染まっていた。
部屋を見下ろす。
ルシアがアイリーンの名前を呼びながら部屋を歩き回っている。
リルジットが藁の寝床から起きてルシアをなだめる。
マリちゃんとミルミルの寝床は。
空だった!
「左手が使えないんだからな。
容器を足で挟んでゆっくり喰え。
こぼすなよ」
「はい」
部屋の真ん中で魔使石ヒーターから直接食事をとってる2人がいた。
「ま、ま、ま、ま…」
「ん?
あ、おはようダルマちゃん」
「マリちゃあああああああん!!」
僕は崩れた壁から飛び降りるとマリちゃんの太ももの上に飛び乗る。
「マリちゃん、もう大丈夫なの平気なのもう大丈夫なの平気なの、
もう大丈夫なの平気なの!」
「うるせえ、
キャンキャン吠えるなイヌ」
ミルミルのツッコミに覇気が無い。
まだ十分回復…するわけないがない。
あんな大怪我をした次の日に自力で食事をしてるのが奇跡だ。
「まだフラフラします」
「大丈夫?
無理しちゃダメだよ」
「はい」
表情の無い顔の目や口が動いているのを見上げているのが嬉しくて、僕は滅茶苦茶に尻尾を振っていた。
「感動の再会のところ悪いけど」
ミサキが僕の首根っこを持って身体を持ち上げる。
そして耳打ちをする。
「見張ってたんでしょ。
どういう状況か説明して」
「寝てた」
「は?」
「ずっと寝てました。
すんまへん」
「もうっ、
ホントに使えないイヌね!」
ミサキは乱暴に僕を床に置いた。
お尻が痛い。
目の前には紐付きの木箱。
水の入った瓶がキレイに並んでいる。
部屋を見回して僕が言う。
「ヤツが動いたね」
「見りゃわかるわよ!」
「ミサキ、何とか出来る?」
「出来る限りやってみる」
「おい、何の話だ?」
ミルミルがヒソヒソやってる僕達を見兼ねて声をかけた。
「後でちゃんと説明するから」
ミサキが答えるのを背中で聞いて。
僕はルシア達のところへ歩いていく。
「ところで何を騒いでるんだ、ルシアは」
「あ、アイリーンがいなくなったって」
僕の問いにカロンが青い顔で答える。
「トイレデモ、イッタ。
スグ帰ッテクル、オチツイテ、ルシア!」
「リーン!リーンッ!!」
暴れて服を掴んでいたリルジットの手が離れるとルシアは部屋を飛び出していった。
「いやあああああああああああああああ!!」
すぐにルシアの絶叫が響いた。
僕達は慌てて部屋を飛び出す。
「リーン!リーン!!リィィィィンッッ!!」
階段の1階から数段上のところに背中にナイフが突き立てられたアイリーンがうつ伏せで倒れていた。
それにすがりつき泣き叫ぶルシア。
リルジットが素早く階段を降りてアイリーンの脇に座る。
手を取って脈をとり、首や背中に触れる。
青ざめ悲愴な顔をあげて首を振った。
医者志望の娘がもう助けることが出来ないって。
その身体にもう魂はないって。
「マダ体温少シ残ッテル。
死ンデ時間、アマリ経ッテナイ」
「いやああああああっっリィィィィンッッ!!
うわあああああああああっっ」
「そのナイフ、
昨日リルジットが使ってたナイフじゃないか」
僕の言葉にハッと顔をあげるリルジット。
「…昨日、ナイフ、ドコ置イタ?
タシカ、布団ノ、ワラノナカニ、カクシテ…」
血の気が引いた顔を上げて獣人の娘は叫ぶ。
「チガウヨ!
ワタシ、犯人チガウヨッ!!」
「面白かった!」
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