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練習試合のふたり

   練習試合のふたり   進め!他校との危険な出会い?


「いいか、今日は年度初めの・・・」

 他校との練習試合で朝早くから体育館に集合した俺たちの部活動はまず、監督の無駄に長い話を聞くことから始まる。

「三井!」

「はい!」

「そろそろあちらも見えるころだろう。佐伯とふたりで正門で出迎えてきなさい」

「はい」

 大所帯の男子バレー部(野球部ほどではないけれど)でたった一人の女の子、マネージャー業に勤しむ佐伯とともに陽の照り付ける木陰ひとつない正門で相手校を出迎える。

「暑いな・・・」

「ええー、三井も暑いとか感じるんだ」

 直射日光に肌を焼かれ始めて思わず言えば、佐伯は大げさに、何とも失礼なことを言ってきた。

「どういう意味だよ?」

「いや、ほら、三井って色とか真っ白いし、確かに試合中は汗だくだけど、なんか、いつも涼しそうな顔してるし、勝手なイメージで暑さとか感じないんだと思ってた」

「そんなわけないだろ」

「だよねー」

 俺がむっとして言えば、佐伯はからからと笑った。

「あ、あの子はっ!」

「ん?」

 佐伯がはるか彼方を指さす。

「玲・・・?」

「だよね。玲ちゃんだよね」

 見慣れた姿だから俺はともかく、佐伯はものすごく目がいいんだな。

「和海せんぱーい」

 俺より先に佐伯の名前を呼んだことであとで説教しないと・・・なんて考えていたら、手を振る佐伯に気づいて、玲が小走りにかけてきて・・・道のど真ん中で派手に転んだ。何もないのになぜ転ぶ?

「玲ちゃんっ!」

 高校生にもなって転ぶなんてこと、普通はあまりないから、佐伯のほうが慌てて玲に駆け寄っていく。俺は玲が転ぶのを見慣れているから特に慌てない。小さい頃からそれこそ飽きるほど玲が転ぶのを見てきた。

「痛い・・・」

 見事に右ひざをすりむいて血がにじんでいる。

「おいで。部室で消毒してあげるから」

 佐伯は玲を立たせてこの前のようにスカートをパンパン払ってあげている。

「ありがとうございます」

「っていうかさ、なんにもないのにどうやって転んだの?」

 俺は玲を見下ろしながら首を傾げる。

「ちょっと三井!そんな言い方ないでしょ?怪我しちゃったんだから」

 反論してきたのは玲ではなく佐伯。ほんと、玲がマネージャーになってたら、佐伯は本当にいい先輩に違いないよ。

「だって、こんななんにもないところで転ぶほうが難しいよ」

「うっ・・・」

 玲は俺の毒舌に慣れ切っているし、佐伯の前なので俺を“宗ちゃん”ではなく“三井先輩”扱いしなければならないので反論しない・・・というよりできない。

「もう!三井、いい加減にして。私は玲ちゃんの手当てしてくるから、お客様はひとりでお迎えしてよね!」

 俺に言い放ち、佐伯は玲を連れて体育館へと戻っていく。その間に、こっそり後ろを振り向いた玲が俺に向かって小さく舌を出したのが腹立たしい。



「三井さんの弁当美味そう」

 午前午後で組まれた練習試合の間の昼休憩で体育館のあちこちでそれぞれ弁当を広げる。

「お、さては滝田の手作りか?」

 浅井と小橋の余計な一言で、みんなが俺の弁当にたかる。

「そんなわけないだろ」

 とりあえずみんなを無視して弁当を食べていると、玲が焼いた真黒な卵焼きが誰かの箸に奪われる。

「っ!」

 驚いて箸の先を見れば、卵焼きは浅井の口に運ばれた。

「おい!ふざけんなよ!」

 俺は思わず身を乗り出して浅井の胸ぐらをつかんだ。

「ぐえっ」

「お、おい、三井」

「返せ!」

「うぐっ」

「三井、浅井の首が締まってる!」

 小橋が慌てて俺を羽交い絞めにするけど、俺と小橋なら、圧倒的に俺のほうが強い。

「どうした?」

 俺たちがあまりに騒がしかったため、相手校のキャプテンと弁当を食べていたうちのキャプテンが戻ってきた。

「いや、それが、浅井が三井の弁当の卵焼きを勝手に食って、それに三井が怒って、浅井を殺そうと・・・」

 小橋の説明を大体聞いたキャプテンは浅井の頭に渾身の拳骨を落とした。

「うっ・・・」

 その衝撃に俺は思わず浅井のシャツを掴んでいた手を離し、浅井は真剣な涙目で恐る恐るキャプテンを見上げた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 しばし、恐ろしく重い沈黙が流れる。

「浅井、人の弁当を勝手にとるな」

「・・・はい」

「三井、すまん、許してやれ」

「・・・はい」

 もう、キャプテンには俺も小橋も、当然浅井も勝てない。

「もう少し静かに食え」

「・・・はい」

 神妙な顔で謝る俺たちの姿を今にも笑い出しそうなのを必死にこらえる顔で佐伯が見ているから、それにつられて俺も思わず笑いそうになる。佐伯のやつ、あとで仕返ししてやる。


「いえ、知り合いが出ているので応援に・・・そうなんですか?」

 静かに弁当を食う俺の耳に、玲の声が聞こえてきた。どうやら、体育館の外で誰かと話をしているらしい。

「・・・・・・」

 俺は声を頼りに外へ出ると、体育館脇の水道のところで、相手校の選手と話している玲を見つけた。

「玲」

「あ、そ、三井先輩」

 毎度ながら、思わず“宗ちゃん”と呼びそうになったのを改めて、玲は俺を見上げる。

「あれ?知り合いって、もしかして三井?」

 くいっと俺を見上げたのはポジションこそ違うけど、同じ2年の相手校のエース。

「玲、佐木と知り合い?違うでしょ?」

 あまりにも近くにいすぎる二人を引き離すべく、俺は玲の手首を引き寄せた。

「なに?もしかして玲ちゃん、三井の彼女なわけ?」

 佐木が一歩踏み出す。これは、中学時代にも何度か当たった“牽制しなければあとが面倒になるパターン”だ。

「あ、いや、そんな・・・」

 何か言いかける玲の口をふさぐ。

「そうなんだ。だから近づかないで」

 にっこり笑って言えば、佐木もにっこり笑った。

「へー、でもさ、三井の彼女なんて苦労しそう。俺のほうがいいと思うよ」

 お互いににっこり笑いあっている俺たちは、傍から見たらさぞや気味悪いんだろう。

「三井っ!」

「いまいく」

 俺を呼んだのは小橋。

「佐木さん」

「はいはい」

 佐木を呼んだのは後輩。

 それぞれのチームメイトが呼びに来て、俺たちは午後の試合に臨むことに・・・。


「では、次は総合体育館あたりで」

「そこまで勝ち上がって来いよ」

 両キャプテンが挨拶をして、相手校を門で見送る。

「じゃあ、玲ちゃん、メールするから」

 去り際に佐木が俺の目の前で玲に言い、玲はにっこり笑って手を振った。

「・・・玲、知らない人に連絡先教えちゃいけないって、さんざん言ってきてるよね?」

「知らなくないよ。宗ちゃんのお友達でしょ?」

 玲はにっこり笑って俺を見上げた。


 “ライバル”は“友達”ではない。


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