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放課後のふたり

「三井さん三井さーん」

 部活が終わって1年生がモップ掛けをしている体育館に浅井の声が響き渡る。

「ん?」

「た、滝田先輩が来てんすけど・・・まさか、誰かの彼女さんっすか?」

 元からハイテンションなこの後輩はそのハイテンションさに輪をかけて、あれだけのメニューをこなした後なのに疲れなんて全然見せずに、着替えて早々俺のところへ駆けてきた。

「あ・・・愛也」

 言われて振り向くと、体育館の入り口のドアのところに愛也が立っていた。

「え、もしかして三井さんの?」

「うん、彼女」

 俺は浅井を置き去りに、愛也のもとへ向かう。遅くなるから帰れないし、待たせたくないという俺の希望通り、付き合い始めてから、愛也は大人しく先に帰ってくれていた。体育館に顔を出すのはあの入学式の差し入れの日以来、2回目だ。

「愛也、どうしたの?」

「宗一郎・・・あの、明日、会えない?」

「明日?」

 部活は午前中だけど、午後は玲と家でゆっくりしたい。

「明日、部活が午前中だけだって聞いたから・・・」

 誰?そんなこと愛也に教えたの。

 俺は心の中で深くため息を吐いた。俺は愛也に告白されたとき、条件を出した。それは・・・部活が最優先。

「午後は自主練するつもりなんだ。何か特別な用事がある?」

 なるべく角が立たないように、そして、理由は部活。休日の自主練はいつも家の近所の公園で玲を相手に行う。玲とふたりきりの特別で大事な時間。だから、誰にも絶対に邪魔されたくない。

「そっか・・・特別ってわけじゃないんだけど・・・たまにはデートとか、どうかなって・・・」

 付き合い始めて約2か月。デート、0回。

「悪いんだけど、また今度でいいかな?新学期始まってから、授業と部活のバランスにまだ慣れられなくて、少しでも早く体慣らしたいから」

 俺がにっこり微笑めば、愛也は少し寂しそうに笑う。ごめんね、でも、愛也とデートに行く暇があったら、俺は玲と練習したいんだ。

「・・・わかった。じゃあ・・・」

「暗くなる前に帰ってね。俺、まだ自主練してくから。気を付けて。夜にメールするよ」

 『待ってる』といわれる前に俺は言いきって、愛也はしぶしぶ帰っていった。

「はぁ・・・」

 思わずため息が出る。

「・・・三井さん」

 忘れてた。ひとりじゃなかった。

「ん?」

「まじで滝田先輩と付き合ってんすか?いつから?どうして?やっぱ三井さんが告ったんすか?」

 モップ掛けもほっぽりだして(ちなみに俺が愛也と話して、浅井がそんな俺たちに興味津々な間にほかの部員は帰ってしまった)、浅井は俺に詰め寄る。

「なんで俺が愛也に告白するんだよ。高1の終わりから。愛也に告白されて俺がOK出したから。俺は呼び止められるまで愛也の顔も名前も知らなかった」

 俺の答えに浅井はしばし目を見開いて立ち尽くす。

「・・・み、三井さん・・・めっちゃラッキーですね」

「そう?」

「ってか、彼女なのに一緒に帰らなくていいんですか」

「うん」

 呆然としている浅井を差し置いて、俺はさっさと自主練してさっさと帰る支度をする。眠る前に、一度玲に会って、少しでいいから話したい。

「じゃあ、出てよ。鍵閉めるから」

 無駄に俺に懐いた後輩をさっさと追い出して体育館を閉める。

「じゃあ、お疲れ」

「あ、はい!お疲れさまです!」

 俺はめいっぱいチャリを飛ばして家に帰る。


「ただいまー」

 家に帰ると、共働きの両親は夕食も済んでいてすっかりとリビングでくつろぎモード。俺は手を洗ってひとり、冷蔵庫から夕食を出してレンジで温める。

「宗、玲ちゃんがパウンドケーキ持ってきてくれたわよ」

「うん、あとで食べるよ」

 夕食を掻き込むように食べて、次は風呂に入る。

「宗、先に寝るわよ」

「はいはい、どうぞー」

 俺が風呂に入っている間にリビングの電気は消され、両親は先に寝てしまうという薄情さ。まあ、慣れているから別に気にしない。

「・・・・・・」

 ドライヤーで髪を乾かして、2階の自室へ上がって時計を見れば、11時。

「寝ちゃったかな・・・」

 玲は子供のように早く寝てしまう。だから、もう寝てしまったかもしれない。でも、俺は玲の声を聞きたいし、顔も観たい。だから、電話をする。

『ん・・・宗ちゃん?』

「玲、寝てた?」

『う・・・ん、平気』

 完全に寝ぼけた声で、それでも相手が俺だとちゃんとわかってむにゃむにゃしつつも話している。窓を開けたら玲の部屋の窓が近いから顔を見られるけど、ここまで寝ぼけてる玲を窓辺まで来させてるのはかわいそうだから、顔を見るのは断念する。

「明日さ、部活午前中だけなんだ。だから、午後からいつものとこで自主練しようと思うんだけど、手伝ってくれる?」

『うん・・・わかった・・・おやすみ・・・』

 よほど眠いらしく、玲は電話がつながっているにもかかわらず眠ってしまった。

「おやすみ」

 俺は言って、その声で玲はいったん覚醒し、玲が先に電話を切った。玲は電話が切れた後のツー、ツー、という音を聞くのが嫌いだ。だからいつも、電話を切るのは玲から。意識が半分とんでいる状態でも、玲は先に電話を切る。


 早く明日になったらいいのに。








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