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さあ美味しいモノを食べようか  作者: 青ぶどう
61/91

60.手記 (27日目)〈22話、5月1日に修正した真ん中部分を読んでから読んでください〉

隠し部屋です。ドキドキ……。



「お、あった」


 さっそく領主館の書斎にやってきていた私は、書斎に入ってすぐに範囲探索をかけて、窓から2つ目と3つ目の本棚の境目に「隠し部屋入口」を発見した。窓からの月明りしかなくて見え辛いので、もちろん身体強化で視力を強化している。明かりは窓があるので付けられないのだ。


 ここの本棚は、私が両手をめいっぱい広げてやっと届くかという幅の本棚が、いくつもくっつけて並べてある造りになっていた。よくよく見ても、他の本棚の境目との違いは無い。ニルヴァス様に隠し部屋の存在を教えてもらわなければ気付かなかっただろうし、探しもしなかっただろう。取っ手もボタンのような物も、鍵穴と思しき物も見当たらない。「開錠」しても反応が無い。……さてどうやって開けるのか。


 とりあえず押すか。

 隠し部屋など誰かに手伝ってもらって入るものではない。ならば1人でも開けられる作りになっているはずなのだ。鑑定しても本の題名と「本棚」「隠し部屋入口」としか出なかったので、罠なども無さそうだ。駄目ならば引いてみればいいし、それで開かなければ引き戸の開け方を試して、それでも駄目なら他の方法を考える。……本を全部どかさないと駄目とかありませんように。

 方針を決めて、本棚に手を掛けた。


「ふんぬ」


 押す。簡単に本棚が奥に開いた。……む?

 別に身体強化を使ったわけではない。普通に体重を掛けて押しただけである。

「鍵」で探索しても反応が無かったわけだ。なるほどだが、隠し部屋にしてはずいぶんと警戒がゆるくないだろうか。いや私が開け方に戸惑ったのだから、そういう狙いかもしれない。

 中に入って本棚から手を離すと、本棚は勝手に戻って少しだけ揺れて止まった。隠し部屋から見ると、そこはちゃんと扉になっていて、取っ手が右側扉に付いていた。押すとかずに、引けばく。なるほど、隠し部屋の方にしか開かないようだ。


 出入りする方法を確認した後、真っ暗な室内に明かりを付ける。もちろん光魔法で出した光を天井にピタリと張り付けたのだ。

 隠し部屋は12畳ほどの広さだった。右側の壁を背にして領主執務室にあった机に似た形の、小さめの机と椅子がある。そして左の壁と正面の壁には天井まである本棚が。こちらは壁に直接本棚が作られているようで、壁の端から端まで一枚の木板で棚が作られていた。

 正面の本段はほぼ埋まっており、一番下の段の左半分が空いていているのみだ。左壁はすべて空いていた。


 並んでいるすべてに『バルファン家手記』と書かれている。その下に何代目と書かれているので、歴史書か記録のどちらかだろう。一番上の段の右端『11代目』が始めで、一番下の段の『55代目』が最後。代によって冊数はまちまちのようだが、13代目と14代目の冊数が目に見えて多いので、ダンジョンが出現するのはそこあたりだろうか。

 時計を確認すると夜の9時を少し過ぎたところだった。朝5時半まで8時間は読めるとして、果たしてどこまでいけるか。

 私はまず11代目と書いてある5冊を取って書斎に戻って読み始めた。え? 書斎に戻る理由? 誰かが来たら観察したいからさ。



 ─────日記だ。

 読書は好きな方だと思うが、ガチガチの歴史書などは読める気がしない。これならば飽きずに読めそうな……飽きたら明日にしよう。うん。





 +    +    +






 ────私は11代目メナード・バルファンである。


 そんな書き出しで始まった一冊目は、上級貴族であったバルファンが、戦の時の働きを王に気に入られて、大貴族に出世したところから始まっていた。

 この時に負けた民族が「ポルカ」という定住民で、勝った自分たちが『ダル』という遊牧民だと書かれている。『ポルカは捕虜にした者の所有とされたので、大規模なポルカ狩りも行われた。』これを読んで推測するに、現在の「ポルカ」は捕虜となった民族の子孫という事なのだろう。

 戦の理由は、『おごりし民を討て』としか書かれていなかったが本当かどうか。そんな事実は無いのにダルがポルカに難癖をつけた可能性もある。気になるところではあるが、判ったところで過去も今も変わらない。次に行こう、次に。


 大貴族となった事で俸禄が倍以上になったり、王族の娘を息子の嫁にもらったり、他の大貴族と親交を深めたりと、その頃からかなりウハウハな生活を送り始めたらしい。文面が喜色に溢れている。

 11代目の時はまだダンジョンは無かったようだ。ずっと王都での話が続いて終わった。

 代替わりは次期当主が40歳になるとするのだろうか。5冊目の半分を過ぎたところで『息子が40歳になったので、バルファンの今後を次代に託す』と言う記述で終わっていた。

 ……えーと、20歳で結婚して21歳で子供ができるとして、その子供が40歳ってことは早くて61歳ぐらいで引退か。そんな事を考えながら次を取りに行く。



 12代目は、王の娘を嫁にもらった息子だ。

 息子は父親に比べて、謙虚な性格のようであった。王の娘が嫁になった事の幸運を書き連ねて、書かれた言葉の端々から、その娘にふさわしい立派な夫であるように努力を惜しまないという想いが伝わってくる。しかも戦を父親と共に戦い抜いただけあり、かなり武術に優れていたようだ。王家の剣術指南役として実直に勤め上げて、3冊をほぼ家族への愛と王家への献身で埋めて『今後を40歳になった息子に委ねる』と締めくくった。大きな波風も無く平穏であったようだ。


 やはり40歳。そしてまだダンジョンは記載されていない。ダンジョンはいつ出てくるのか……。いや12代目の人柄は大変に素晴らしくて好感が持てたのだがね?


 13代目のは何と10冊あった。これはどう考えても、バルファン一族にとっての大事が起こったのだとしか思えない。

 王都に居て順風満帆だったバルファンにとっての大事。そういえばニルヴァス様は食糧難になったから、食材をもらうようになったのだと言っていた。という事は、ダンジョン出現の前に食糧難事件が起こるわけだ。じゃあここで食糧難かな。


 読み進めていくと、13代目はずいぶんと冷静な考え方をする人だと判った。脳筋の子は脳筋では無かったようだ。

 13代目は食料の問題は11代目の頃から起こり始めていたと書いている。どうやら12代目は完全なる脳筋さんだったようで、その辺りは財政担当の上級貴族に丸投げだったらしい。12代目の手記にそういった事がまったく書かれていなかったのは、問題が無かったからではなくて、自分で詳しく知る気が無かっただけのようだ。

 うん、せっかくの好感度が一気に下がってしまったな。


『肉が手に入りにくくなったので仕方なく作物を食べるようになった。今度は作物が足りなくなった。』飢餓期の始まりだ。王族や大貴族、上級貴族までは金と権力を使って食料を確保していたが、中級貴族と下級貴族は相当生活が苦しくなっていたようだ。貴族でそうなのだから、平民はもっと苦しい状況であっただろう。

 農村から我先にと買い上げる貴族たちの様子の他に、各貴族のポルカへの扱いも少し書かれていた。

『ひたすら畑で働かせて、その収穫物全部を接収する貴族が普通。そうでない貴族の方が少なかった。』だと? そら死ぬわ。農作物を作る人も居なくなるわ。

 ポルカへの扱いに腹は立ったものの過去の事であるし、そこまでされる程の何かがあったのかもしれないので流したけどね、今ここのポルカが攻撃されたらもちろん黙っているつもりはない。むん!


 その13代目が46歳になった時に、新種の作物がいくつか発見されたとあった。「ジャガイモ」と「人参」と「白菜」と「玉ねぎ」と「大根」と「カブ」。他にもあったが、サイズが大きい物に絞って栽培する事が決まったと書いてある。そう決まったことで、これまで作られていた作物は作られなくなった。『「パラミ」という作物が甘くて美味であったのに残念だ。』と書かれていた。……可哀想に。

 ふむ。どの作物を育てるかは、国で決めたのか。国家プロジェクトだね。しかしまだ鑑定スキルが無いはずなのに、どうやって名前が判ったのか……ニルヴァス様と話せる人が昔は居たって言ってたから、そこからかな?


 ダンジョンが王都周辺に現れたのは、13代目が58歳の時。その頃には肉が全く食べられなくなっていて、貴族たちも平民たちも野菜を食べて飢えを凌いでいたようだ。死ぬ者が増えてきたと書かれている文字が、心なしか苦し気に見える。

『大地が大きく揺れた後に出現したその穴は、「謎の通路ダンジョン」と名付けられた。』……ダンジョンてここから来たんだね。こっちの世界では通路って意味になるんだ。へー、ふーん。


 その後を読み進めていくと、以下のことが判明した。

 最初は兵士が入ったが、怪我人が出たためポルカに入らせる事になったこと。

 肉や二へに似た粉が手に入って王都が沸いたこと。……二へって何だろう。手に入って喜ぶ粉って小麦粉か塩かな。上層で獲れるし。

 ダンジョンが4つあって、それら全部が王族の所有になったこと。

 大陸中に調査団を向かわせて調べた結果、他にもダンジョンが出現していたこと。

 この食糧難の危機に、大貴族は責任を持って各ダンジョンを調査し食材確保に勤しむべし、と各地への移住を決められたこと。そして区分けだけなされた地図を出されて、どこにするか決めろと言われたこと。

 バルファン家は東に調査団を出し、最初の場所で肉と二へが出たのでそこに決めたと書いてある。つまりはここだね。


 バルファン家と家臣全員、それと彼ら所有のポルカたちがここに移住してきたのが13代目が64歳の時であったとあるから、貴族にしては晩婚だったのだろうか。この人は自分のそういった事を書かないつもりのようで、家族の事が今まで一度も出てきていなかった。反面教師か?

 何も無い土地だったから、街を先に作ってからの移住となったと書いてある。街建設に携わった職人の中に居残る者たちが居て、その職人たち相手の商売をしていた者たちがそのまま店を続けて。そうして今の状態になったのだそうだ。

 そして移住生活が始まったところで代替わり。次は14代目だ。



 14代目は父親に似て真面目な感じだった。文面から、領地を運営していく覚悟が感じられる。

 ポルカを積極的に潜らせてドロップ品をチェックしたり、領地内を兵士に巡らせ地図作りをさせたり、実に意欲的に活動していた。そしてその意欲的活動の中に、とても気になる記述が。


『海辺に辿り着いた兵士たちは、海岸に沿っていくつかの集落を見つけた。「ザルト」という民で、作物を栽培しながら海の糸を拾って生活をしているのだと言った。海の糸は白色をしていて、浮糸パニ流糸ペレメの2種があり、束ねなければ気付かぬが浮糸パニには光沢が、流糸ペレメにはツヤがあった。我がバルファン家はザルトと契約し、浮糸パニ流糸ペレメそれぞれと、それらで織った布を購入した』


 うん、先住民の登場だ。

 海の糸を拾って生活というところを読んだ時は、海藻系を「海の糸」と表現してるんだろうなと思っていたのだが、白色で束ねると光沢がって、完全に糸じゃん?! 海で糸を拾うって、相当ファンタジーだよね。

 考えてみたら動物が居なければ動物の毛も無いわけで、そしたら毛布も無いはずで。……何度か使った毛布の感触が私の知っている毛布と同じで、今着ている服の肌触りも綿みたいだったから、素材が何かとか全く気にしていなかったよ。

 そもそも異世界でも植物や動物から繊維がとれると、当然のように考えていたのがいけない。うむ、私反省。


 バルファン家が光沢のある浮糸パニで織った布を王に献上したところ、その光沢の美しさにいたく感動した王族が、すべての衣服を浮糸パニで作るとか言い出したらしい。

 1番に献上したバルファン家は他領から責められたというが、どうせ自分たちが着て王族の前に出れば同じ末路だったに違いないのだ。着ていたものを禁止されるより、最初から着れないと割り切った方がいいだろうに。……まあ着れなくなる前に着ておきたかったっていうのもあるかな?

 結果、大貴族以下の貴族が流糸ペレメを使い、平民は生糸レレモを使うという決まりが生まれたと書いてある。ポルカには平民の使い捨てたものが下げ渡されるとも。……ロジ少年たちが古着を着る事が、決められた事だったとは思わなかった。あれ? じゃあ新品の服を作ろうと思ってたんだが、まずいのだろうか。


 第3の糸、生糸レレモが登場したわけだが、じゃあ私が着ている服もソレで作ってあるのかなと鑑定してみると「生糸レレモ織りの服」と出た。ローブと靴はその後ろに「パーラ染」、中に着ている服の方は「ニルニェ染」とあるから、黒に染めるにはパーラ、薄茶色に染めるにはニルニェという染料か技法が必要なのだろう。


 それにしても浮糸パニ浮糸パニの織物を、ザルト民族からバルファン家が買って王族に献上しているのか、献上は最初だけで後はお代をもらっているのかも不明だ。浮糸パニは高級品だと書いてあるのでちゃんと買ってもらわないと厳しいよね。買ってもらっているといいのだが。


 14代目のその後の人生は、領地の調査に費やされていた。その調査結果には私が知りたい生糸レレモも含まれていて、魔生物を捕まえて取るものだということが判明。しかもソレは3種いた。

 ちなみに生糸レレモは昔から存在していたのだそうで、遊牧民であったダルの主な収入源だったとここで知った。海の糸の存在に気付かなかった今までは、生糸レレモが普通に着られていたのだそうだ。


 毛布や寒期に着る外套がいとうにはレイから取った毛を、肌触りが柔らかく染色の発色が一番良いレキラから取った毛玉で糸を紡いで衣服を、肌触りが一番硬いが丈夫な布が作れるモニの毛糸で袋や鞄を。それらの頭の文字をあとって「レレモ」と名付けられたと書かれていた。……面白い! 3種あっても鑑定では「レレモ」としか出ないのも面白い。魔生物からどうやって毛を取るのかも興味津々である。もちろん海の糸にも興味アリアリだ。……見に行きたい!! けど、とりあえず手記読み終わるまでは我慢だ私。


 めっちゃ働いた14代目は『息子に託す』と締めくくって終わっていた。15代目は父親が頑張り過ぎたせいか、やることがあまり無かったのか3冊しか書いていない。

 彼の手記に書かれた「仕事」と言えるものは、ポルカに監視を付けてダンジョンに潜らせる事を引き続きやっていたのを、父が亡くなったのを機に変えた事だけだった。

収穫量を調べて接収量を決め、ポルカのみを潜らせるようにしたのである。『貴族を危険に晒すなど馬鹿げておる』という理由からだ。これだけ読めば傲慢ぽいが、ダンジョンに監視として赴く兵士の家族から何度も嘆願を受けている様子がちょこちょこ書かれていて、領主の苦悩が伺える。

 兵士の家族にしてみれば、そりゃあモンスターがいる場所になど行って欲しくはないだろう。家族愛に乾杯だ。

 おかげ様で現在は監視も無く、獲り放題食べ放題でいられるので、このご家族たちと15代目には感謝を捧げたい。


 この15代目の時に飢饉は終わりを迎えたようだ。私の見解ではあるが、王都に固まっていたのが分散されて、各地で食料を調達するようになったのが大きいのだろう。大貴族と臣下の家族、職人や商人たちが8領地にごっそり移動したのだ。そもそも大貴族が何人居るのか知らないが、倍の16人居たとしても半数が出たのだから、王都の食料事情も解決に向かったに違いない。


 安定した食材確保が行えるようになっていたので、気のゆるみと一緒にシモもゆるんだのだろうか。最後の数ページに娼館で気に入った娘がうんたらかんたらと、家臣と娼館通いをする様子などが書かれていた。


 さて次だ。なんと16代目の手記は20冊に及ぶ長編であった。これは何事?! いやワクワクしてますけどね? ───まあそのワクワクはサクッと踏みにじられたわけだけども。


 まず最初に、父親の娼館通いの悪癖を罵る言葉から始まった16代目の手記は、父親への愚痴であったり臣下への不満だったりと、今までで一番「外に出しちゃならんだろ」という内容だった。この調子で20冊なら、燃やしてしまおうかと思ったほどである。運のいいことに3冊目の中ごろで王都から使いが来るくだりがあって、半年に一度の登城が義務付けられたとあった。しかもそれが2カ月後。16代目は大喜びだ。

 軽蔑している父親より優位に立った気になっているのが窺える、かなり浮かれた文面で数ページ書かれていた。父親は呼ばれなかったのに、自分は呼ばれたうんぬん。……まあ娼館にハマり込んでる父親を軽蔑する気持ちは解るが、愚痴ばっかりで領地経営が全く見えないこの手記では、君の優秀さが何も分からないよ? 仕事してんのかね、この人。



 ───あれまあ、王都は楽しくなかったようだ。しかしさすが愚痴慣れしているね。

 書き殴られた数ページというか1冊の半分がソレだったので、まとめてみたらこんな感じだ。


『王都に行ったら他の大貴族たちが、領地のダンジョンで獲れたモノを高値で売買して金を儲けていた。うちもやろうと思ったが持ってきていなかったので、気の利かない家臣を怒鳴ってやった。大貴族会議で貴族院が作られる事が発表され、男子が13歳になったら3年間通わせることになった。王都で貴族教育をする事で、貴族の常識のズレを無くすためという理由があるらしい。他領に負けない寮を作らなくては。』


 貴族院は最初からあったわけでは無かったのか。世代を重ねていくと何であれ変化はする。同じ常識を学ぶ事は、無駄な諍いを無くすことにも繋がるよね。いい考えだし、この時はまだ金があったのだろう、大貴族としての見栄が張れたのだ。それにしても他領がこの時、何を持ち込んだのかまで書いてくれたら良かったのに。怒って愚痴っているばかりで、そういう事は何も書いていない。……この領主、駄目じゃないだろうか。その後、寮を作る事を最優先にしながら、ポルカからの接収量を増やしやがったのだコイツは。


 とにかく領地のダンジョンで獲れるモノをすべてかき集めて再度王都に出発したコイツは、意気揚々とそれを売りに出した途端、「二等品ですな」と言われてブチ切れたらしい。何度も抗議して味比べなどをしてくれるように王に嘆願したら王の側近たちがしてくれる事になったのだが、皆一様に「王都のモノの方が味が良い」と答えたのだそうだ。16代目は激怒して王都を後にしたと書いてある。


 この後16代目は、何度自分で味比べをしても差が判らなかったと、染みができてうねったページに書き殴っている。そういった内容のページが時々あるのだが、そのすべてに染みとうねりが見られたので、悔し泣きでもしながら書いたんではないかと思われた。

 16代目が味オンチでなかったのなら、これは商業戦争だろう。王都ダンジョンの物を高く売りたい人が居るから、それと被ったバルファンの物を貶めたのだ。そういう可能性を考えもしないで、16代目は領主会議で王都に行くたびに、差が無い事を訴えていた。……不屈の人である。正直見直しました。駄目とか言ってゴメンナサイ。


 結局16代目の時にそれが覆されることは無かったが、頑張ったと思う。その頑張りを見ていた17代目はもう諦めているけどね。


 そう、17代目は諦めていた。父親が無駄な頑張りをして、王都に行くたびにわらわれたり煙たがられたりするのが恥ずかしいと書いている。そして自領のダンジョンドロップ品の評価を受け入れていた。

 その手記はたった2冊。今までで一番少ない。2冊目の後半に入ったところで『16代目が亡くなったので、王都の市場で肉と粉と塩を売るようにした。』という記述があった。


 それまでは自領の貴族と王都の貴族院寮のみで使っていたのだが、実はダンジョンドロップ品の二等品扱いが確定した時に、相当数の臣下がごそっと居なくなったのだそうだ。───おっとここで重大発表きたね。

 16代目は悔し過ぎて書けなかったのか、現実を見たくなくて書かなかったのか、そんな臣下は最初から居ないモノとして書かなかったのか。

 とにかく臣下は半分に減っていて、残った臣下の子供たちを入れても接収した量を使い切れなかった。しかし16代目が生きているうちは、その余りを売る事もできずに、腐らせて捨てていたのだそうだ。


 17代目のラストには満足気な様子が窺えるほどの柔らかい字で、『16代目が亡くなってやっと売れるようになったのだ。捨てるぐらいなら安値でも収入とした方が良い。これが私の最後の仕事となるだろう。次代に期待する』と書かれていたのだが、16代目が亡くなったと書かれてから、かなり早い気がする。っていうか時間差か? っていうほどすぐだ。……えーっと、40歳で領主になるんだから、子供が40歳になるまで20年領主やる計算だよね? 17代目が60歳で引退する直前まで16代目は生きていたって事? じゃあ16代目は80歳ぐらいで亡くなったのか。14代目の手記でも父親が亡くなったって書かれてはいたけど、もっと前半だった気がする。この時代にしては長生きなのだろうか。

 16代目が死ぬまで諦めていなかったとしたら、さぞうるさい思いをしていたのだろうね。16代目の気持ちも分かるが、17代目も可哀想……。



 まあそんな感じで空が白み始める午前4時ぐらいまで読んでいたのである。

 まだ25代目までしか読めていなかったが、まだ金銭的に不自由はしていなかった。貴族院の食事代も衣服代も記述が無かったので問題無く用意できていたのだろう。少なかった家臣は、世代を重ねるごとに当然ながら増えていき、25代目の時には元の数を超えたと書かれていた。良かったね。




隠し部屋にあったのは領主の日記でした。歴史書を読むのはちょっと……なアナタにもオススメ!……のはず?!

ポルカが民族の一つだということが判りました。新品の洋服に、「ちょっと待った」がかかります。


次話は地図を見つけます。



バルファンの歴史を解りやすく簡単に書きたかったのですが、だいぶ苦しみました。今の私ではこれで精いっぱいなので、許してくださいませ。(お辞儀)


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