第1章:イーファと新しい村
イーファは村の中央へ行き、同年代の子供たちの輪に加わろうとするたび、結局は輪に入れずにいた。彼女はいつも少し離れた場所から、片方の手をぎゅっと握りしめ、楽しそうに遊ぶ仲間たちをじっと見つめているだけだった。
孤独を感じてはいたが、どうしようもなかった。遊ぶときの感覚が、他の子供たちとはどこか違っていたのだ。
他の子と関わるとき、イーファはいつも違和感を覚えていた。彼らの理屈に合わない返答に、どう応じればいいのか分からない。彼らは本当に楽しんでいるのだろうか、それとも楽しんでいる「ふり」をしているだけなのだろうか、とさえ思ってしまう。
イーファはただ、自分らしく遊びたかっただけなのに。
やがて、一人の子がイーファから離れ始め、気づけば他の子供たちも彼女を避けるようになっていた。
だがイーファもまた、その状況を受け入れていた。今の友達と無理に付き合い続けることに、耐えられなくなっていたからだ。
しかし、イーファが9歳になったとき、彼女を悲劇が襲う。
父親が亡くなったのだ。泣き崩れる母親を前にして、イーファはその状況で自分がどう振る舞うべきなのか分からなかった。
――空虚。
彼女はただ前をぼんやりと見つめることしかできなかった。流れる母親の涙、そして彼女をなだめようとする医者と神父の姿を、ただ無心で見つめていた。
イーファはゆっくりと母親に近づこうとした。だが……。
世界が霞み、グラグラと揺れているように感じられた。母親を慰めるために踏み出そうとした足が、それ以上前に進まない。
イーファの手は空中で震えていたが、彼女はすぐに手を下ろし、自分の手をきゅっと握りしめた。
◇
それから2年後……。
いつも通りの慌ただしいイーファの家でのこと。
母親が、別の村にある祖父の家へ引っ越そうとイーファに提案した。
その誘いを聞き、イーファは引っ越すべきかどうか迷った。しかし、母親に従わない理由も、この村にとどまり続ける理由も、彼女にはなかった。
こうして二人は、手配した貸切馬車に乗り込み、祖父のいる村へと出発した。
祖父の家に到着すると、イーファは手際よく新しい家での荷物の整理を手伝った。
一通りの重労働を終えたとき――
「さあイーファ。ここで自分の荷物を片付けるのを手伝ってくれたんだから、少し外へ行ってきたらどう? ずっと埃と戦っていて、息が詰まったでしょう?」
モリガンお母さんがそう言った。
イーファは少し考えた。前の村ではあまり馴染めず、親しい友達も作れなかったからだ。だが、少し思案したあと、イーファは母親の言葉に応えた。
「わかったわ、お母さん。少し外に行ってくる」
「ええ、いってらっしゃい。あまり遅くならないようにね」
イーファは軽く走り出し、やがて足取りを整えてゆっくりと歩き始めた。
イーファは空を見上げた。太陽が眩しく照りつけている。通りには同年代の子供の姿がまったく見当たらない。この村では今が昼寝か、昼食の時間なのかもしれないとイーファは考えた。
イーファは右へ左へと振り返り、この村が思っていたよりも広いことに気づく。
遠くにどこかの家の庭が見えるが、いくつか建つ家に遮られて、そこへ続く道まではっきりとは見えなかった。
「今度、お母さんに村を案内してもらうよう頼んでみようかな」
イーファは呟き、手をかざして手のひらに吹きつける風を感じた。
そして、風が吹いてくる方向へ向かって軽く走り出した。
辿り着いたのは断崖絶壁だった。見下ろすと、砂浜と水平線の彼方まで広がる海が見えた。
時折、小さな波が激しい音を立てて崖の縁にぶつかっている。
風の音もまた、この崖の上からの景色を眺めるイーファへのBGMのように響いていた。
そのとき、突然背後から誰かが彼女の肩を掴み、ゆさゆさと揺らしながら声をかけてきた。
「あはっ! つかまえて良かったよ。じゃなきゃ君、崖の下に落ちてたぞ!」
イーファは驚きで体に小さな震えが走った。
まだ少し震える体を振り返らせると、驚かせた張本人は黒髪の少年だった。少年は続けて言った。
「君、この村に来たばかりだろ? よろしくな、俺の名前はノウカ!」
イーファは答えた。
「よろしくね、ノウカ。私はイーファ。……ねえ、人に挨拶するときは、いつもそんなやり方をするの?」
「へへっ、ごめんごめん! 新しい村の子供にちょっとしたサプライズをしたかっただけなんだ。見た感じ、君は俺より少し背が低いだけだけど、同い年くらいかな?」
「たぶんね。私は11歳よ」
ノウカは嬉しそうにパッと顔を上げた。
「へえ、マジで!? 俺も11歳なんだ! だったら、もう一人11歳の友達がいるんだけど、紹介しようか?」
「もう一人の友達? その人もあなたみたいな感じなの?」
イーファが尋ねると、ノウカは答えた。
「ううん、あいつはいい奴だし親切だよ。君も絶対気に入るって!」
ノウカはイーファの手を掴むと、そのまま引っぱって住宅街の庭へと連れて行った。そして、ある一軒の家の前へと向かった。
「ちょっと、気をつけてよ」
引っ張られながら、木の柵の前でイーファが言う。
木製の柵の前に着くと、ノウカは息を吸い込み、大声で叫んだ。
「フィン!! 遊ぼうぜー!!」
その大声に少し驚いたイーファは、ノウカに尋ねた。
「そのフィンっていう人、いつもそうやって叫んで呼ばなきゃいけないの?」
「へへ、普段は違うよ。でもこんな真っ昼間はいつも家の中に引きこもってるからさ、大声で叫ばないと出てきてくれないんだ」
すると、木の柵の向こうにある家の扉が開いた。
後頭部を押さえながら、金髪の少年がノウカとイーファの方へ歩いてきた。
「なんだよノウカ……。そんな大声で呼ばなくたっていいだろ」
ノウカは金髪の少年に向かって言った。
「フィン、紹介するよ! 今日この村に着いたばかりの新しい友達だ!」
「フィン、こっちはイーファ。イーファ、こっちはフィンだ!」
「はじめまして、フィン。私はこの村に来たばかりで、ガーバンおじいちゃんの家に住んでいるの。……ところで、ノウカはいつもあなたを呼ぶとき、あんな風に叫ぶの?」
「あー……まあね。毎週水曜日になるといつもあんな感じなんだ。……で、まさかそれだけを言いに僕を呼んだわけじゃないよね?」
フィンが二人に尋ねる。
「一緒に遊ぼうと思ってさ!」
ノウカが答えた。
「それにほら、新しい友達には村の隅々まで案内してやらないとだろ〜?」
ノウカの言葉に、フィンは少し考えてから頷いた。
「いいよ。イーファもきっと、この村がどんな場所か見てみたいだろうしね」
こうして、先頭に立つフィンとノウカに導かれながら、イーファの新しい村を巡る探検が始まった。




