第六章③ウェンディの苦悩
第六章③ウェンディの苦悩
ローディア。女神の間。
ウェンディは椅子に座ることなく、転移者用の魔法陣の周りをうろうろしている。
「私がやっていることって、『正しい』のかしらね。」
「現代日本から優秀な者を選別して、異世界へ送る……。」
「神々はここまで介入する必要、あるのかしら。」
「秩序って、そこまでしても守るものなのかしらね。」
「モンスターがはこびっています、魔族が一方的に人類を滅ぼそうとしてます、悪の組織が無辜の民を傷つけています。このぐらいなら、まだわかるのだけれども……。」
「篠田さん……。彼を送った世界に、私たちが介入する必要、本当にある?」
「確かに人類には問題があったわ。でも、そんなこと言い出したら、全ての世界を秩序だけで埋め尽くすのと同じよ。」
「魔族との小競り合いはあるけれど、現魔王は人類を滅ぼしたいわけでない。いや、むしろ、その人類と魔族の戦争を導いたのは、我々なのでは……。」
ふと立ち止まる。書類に目をやったり、しなかったりと視線が虚ろげだ。
「私がやっていることって、単にユリウスの思想に振り回されてるだけ?」
「……。考えすぎかしら。それにしても……。」
「最近の業務の激務は異常だわ。各世界の秩序を見て周り、魔法陣の調整、転移者の選別の緻密化、各世界の魔力の暴走度の監視……。」
「偏りすぎよ。これ、私のクビ、切りに来てる?」
「……篠田さん。彼には酷なことをしてしまいました。」
「ですが……彼でないと、この構造は変えられない。」
「いつまでも続く。このユリウスの秩序は。」
「絶対神ユリウス、か。名前だけは大袈裟ね。絶対神って言葉は伊達じゃないのは知っているし、あの神がどれほど優秀かも嫌というほどわかってる。」
「でも……勝者が秩序を定義する、慈善は世界を腐らせる。」
「私には……そう思えないのだけれども。」
「篠田さんがユリウスの思想を聞いたら、どう反応するかしらね。」
「……激昂?困惑?同意、はなさそうだけど。」
「彼が私と同じ光景を眺めてくれたら、あるいは……。」
「……これって反逆になるのかしらね。」
「……。」
(篠田さん。)
(……文化圏ババアの登場か。)
(相変わらずですね。……ご機嫌はどうです?)
(よくはないな。)
(……そう。)
その一言だけで、続きが出てこなかった。
(……何か用か?)
(一つだけ、聞いてもいいですか?)
(ダメって言ったら引っ込めるのか?)
(いえ、続けますね。)
(初めから拒否権ねぇじゃないか。)
(ちょっと意地悪でしたね。)
ふぅと、一息つくウェンディ。
(……もし、この世界そのものが間違っていたら、あなたはどうしますか?)
(……いきなり重いな。)
(正直、わからん。)
(だが、違和感を覚えるなら、考え続ける。少なくても俺はそうして生きてきた。)
(……そうですか。)
通信が一方的に途絶えた。
「なんだったんだ、今の?」
通信が途絶えると、ギルドの喧騒は再び耳へ戻ってきた。
アラミスは軽く首を傾げる。
どこか見覚えのあるフードの二人組がアラミスに寄ってきた。
「お久しぶりですね、アラミスさん。」
その言葉を発したのはレティだった。
続く




