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第1.25章 日常と異常の境界

なんか今日、長編もこっちも何故か筆が進んだので、載せちゃいます。


途中から作者が遊び出して、会話が楽しくなってしまったので、無理やり終わらせました。


第1.25章 日常と異常の境界

 篠田はバイトを終え、脳内低速モードで運行していた。

 帰宅して、そのまま読書を始める。仕事の後は、有限反芻ループがあるのを知っている。

 だから、そのループはブレイク条件として10分を極大値と仮定している。そしてその後は低速で動く。

 サブスクしている音楽アプリから、クラシックだけが静かに篠田に寄り添っていた。

 そんないつもを過ごしている時に……。


 気がついたら、この前のソコにいた。

 ただし、今度は椅子と小さなテーブル、そしてなぜかいつも通っているカフェの、お気に入りのコーヒーが置かれていた。何もない空間だと思っていたが……この香りは悪くない。

「お元気そうで何よりです。」

 聞き覚えのある声が響いた。目の前には、例の銀髪さんがいた。

「で、これはなんの冗談だ?」

「俺はバイト終わって、家で静かにしていたかったんだが……。世界ってのはいつも俺に優しくないな。」

「……いや、人類に、か。」

 ふぅっと軽く息を吐く。ただ、体は妙に重かった。

「ここ、座っていいのか?」

「ええ、もちろん。そのために用意したのですから。ついでに、あなたが好きなコーヒーも用意しておきました。」

「それはユーザーフレンドリーで結構なことで。」

「つまり、非常にめんどくさい話が、これから展開されるって認識で合ってるか?」

「……まぁ、あなたにとっては。少なくとも、そうなりますね。」

「あんたは俺のことを知っているようだが……そもそもここはなんだ?」

「ここは……、一般的には、『女神の間』と呼ばれています。」

 (そしてカリキュラム『廃人コース』とも……。)

 篠田は視線を銀髪さんから逸らす。少し泳がせる。

「……。つまり、特殊な呼び方もあるわけだ。まぁ、どうでもいいが。」

「一つ質問、いいか。あんたは俺のことを知っているようだが、俺はあんたを知らない。」

「関係性の不均衡だ。少なくても、あんたが何者で、なんて呼べばいいかぐらいの情報が欲しい。」

「ええ……そうですね。前回お話しするつもりだったのですが、あなたがちょっと調子悪そうだったので。」

「あれで『ちょっと』なら、あんたの見てきた世界もロクなもんじゃなそうだな。」

「……。」

 銀髪さんの凛とした姿勢が、わずかにズレたような気がした。

 そして、少し目が鋭くなった。ただの気のせいかも知れないが。

「私は……女神です。名前は……ウェンディ、です。」

 篠田はコーヒーを一飲みする。少しだけ苦味が強かった。

「なぁ、例えばなんだが……コスプレの女の子が堂々と『私は女神です』宣言した場合と、どこか意味ありげに『私は女神です』という女性。」

「このどちらかが正しいと仮定した場合、俺は何を判断基準にすればいいと思う?」

「それと、あんた、ウェンディって仮名だろ。自分の名前をいう前に、口籠もるか、普通。」

「バレましたか。」

「ええ、もうバレバレでしたね。」

「で、俺は女神の判断基準の議論と、ラブコメするためにわざわざ呼ばれたのか?」

「ここは暇な大学生の深夜のファミレスですかね。」

「あーいますね、それっぽいこと言って、長居する人たち。ドリンクバーだけで粘る人たちですね。」

「まぁ、店側からしたらなんとも言えんね。深夜なら空いているが……物理的な音としては迷惑だな。」

「ふふっ、あなた、簡単に失礼なこと言っちゃう人ですね。」

「……そう、かもな。だが、丁寧に扱われる人間なんているのかね。」

 (ウェンディ?って人、わざわざ俺に合わせてる?なぜ?)

 (……この会話のテンポいつ以来だ。)

 (もう……覚えていないな。)

 銀髪のポニテが少しだけ揺れた。

「あなたには、これからあなたがいた世界とは違う世界、いわゆる異世界へ行ってもらいます。」

「そして、人類と魔族との戦いを終わらせる、または始めさせない、あるいは……。」

「魔王の討伐、か。」

 こくりとウェンディは頷く。ポニテの揺れ幅が少し強く感じた。

「俺はもう、どうでもいいんだが、現実?というのが適切かわからないが、元いた世界はどうなる。」

「バイトのシフトに穴が開く上、無断で長期欠勤とか困るんだが。」

 (主に社員さんが。)

「あなたの世界は今、止まっています。」

 その言葉を理解するのに、空間が必要だった。

 (止まる?時間がってことか?それとも……俺の生き方が固定化されているという意味か?)

 (……まぁ、文脈上、時間だろうな、この場合。)

「気になっていたのだが、時間って、プランク定数空間なのか、それに勝手に流れるのか、それとも……。」

「申し訳ないけど、我々からあなたに教えてあげらることは限られているの。」

「いわゆる、『禁則事項』」

「それ、ちょっと古いな。文化圏ババァか。もっとも、俺も他人のこと言えないがね。」

 ちょっとだけ肩をすくめてみる。ウェンディはちょっとだけむくれる。

「まぁ、とりあえず時間軸がズレているってことか……。」

「……ん?じゃあどうやって俺を観察してた?」

「禁則事項」

「それ、強いな。」

「ええ、我々のパワーワードです。」

「くそっ、人類……ていうか、俺に対抗手段はないのか!」

「ありませんね、この場合。」

 クスッと笑う。さっきとのギャップ、意図的なのか。だとしたら、上級者だな。

「まぁいいさ、俺は捨て駒でいい。だが……流石に転移していきなりモンスターとか魔族とか、あとなんか盗賊とかそういった系統の連中とやり合うには、俺じゃスペック不足なんだが?」

「その点はご安心ください。我々があなたの適正に応じて、色々と能力の底上げをしておきます。」

「ただし……。」

「我々はあなたの能力の最大値を伸ばすのであって、現状は……ちょっぴり伸ばすぐらいですね。」

「ですから……。」

 ウェンディが話を続けようとしたところ、突然音に遮られる。

「興味深いな。自分で自由に能力を伸ばせるのは、かえって都合がいい。」

「環境への適応という点において、こちら側で制御できるからな。」

「……ところで『最大値』ということは、逆に言えば、それ以上の成長も見込めないわけだが。」

「それは逆に可能性を閉じるということでは?」

「あ、いえ……言葉のあやです。厳密には、あなたの能力に限界という概念がありません。」

 そう言ってウェンディは片手を唇に寄せた。

「……そうか。」

「それは……重いもの、背負ったな。」

(やっぱりこの人、思考が少し……。でもだからこそ。)

「あの、これは言わない方がいいかと思っていたのですが……。」

 ウェンディはわずかに指が震えているように見えた。

「実はすでに、何度か異世界への転生者を送っています。」

「ですが結果は……。」

「……なるほど。厄介な話だな。もう切羽詰まってる、そんな感じか。」

 ウェンディは軽く微笑んだように見えたが、明らかに疲れた笑顔だった。

「ま、やりますよ。どこまでできるかはわからないですけどね。」

 (人類側の意見や、魔王側の意見なども聞きたかったが……。)

 (これ以上、長居はできそうにないな。そもそもこの女神……。)

 (いや、ただの観測で断定はできない、か。)

 

 (それに……。)

 (俺が死んでも、代わりはいる。問題はない。)


 そうして、最低限のやり取りを終えて、篠田は異世界へと飛ばされた。

 なお、その間に何度も篠田独特の問いがウェンディを困らせたのはいうまでも無かった。


 続く


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