第一章 メランコリックデイ
今回はギャグなしで、普通に書きたいことを書きたいと思います。
ちょっと真面目かも?しれません。
第一章 メランコリックな男
女神の間。
暗闇と静寂が空間を埋める。唯一、女神が座る台座だけに、ご都合主義の光源があった。
「シルフィーナ先輩、うつ病か……。」
「まぁ……このポジション、責任全部向かってくるから、気持ちはわかります。」
「そもそも、女神世界の構造に欠陥があるのよね。」
「私は……なんとか切り抜けるしかないわね。」
シルフィーナが残したレポートを流し目で読む。
「……酷い話ね。」
「この物理学科の男の子、捻くれすぎだわ……。日常生活、どう送っているのかしらね。」
「こっちの高校生の男の子は、真面目すぎる。装備が役に立たないなら、なんで現地で変えなかったのかしら。」
「まぁ……いずれにせよ、極端すぎる。」
スカウトが残していった、人物候補の用紙に目をやる。かなりシワがよっていた。
入念にプロフィールを見ていくが、あまり真新しい人間は見当たらない。
普通。いや、ただの人。そんな感じの人間ばかりだった。
……。
そんな感想を抱きながら、ペラペラとめくっていたが、ふと気になる人物がいた。
篠田亮介。30代男性。フリーター。中学生時代にいじめに遭い、引きこもりになる。
その後、うつ病及び、PTSDを発症し十年以上通院。最終学歴は高校中退。
いじめの原因……。
「なるほど。これは興味深い。」
召喚の儀式を行おうとしたが、一瞬、伏目がちになる。懸念がないわけではなかった。
いや、むしろ、懸念の方が強かった。だが、この篠田という人物、実に……。
*
篠田は気分が優れなかった。
こういう日は、昔は日常だった。でも、今はなんとか抜け出した。
……希死念慮だけを頭に残して。
「業務が多忙になると、これ、多いな。」
「メランコリックデイ、か。」
月に1〜2日ほど、理由はよくわからないが、極端に気分の低下、鬱の気配を感じる日がある。
それを篠田は『メランコリックデイ』と呼ぶことにしている。
「で、希死念慮さんのご登場ですか。」
「うつ病もPTSDもなんとか寛解した。いろいろなものを失ったが……嘆いてもしょうがない。過去に拘泥することも、美化もしない。今は今を生きるしかない。」
「だが……しんどいものは、しんどいな。」
飲みかけのペットボトルのコーヒーを軽く飲む。いつもと同じはずなのに……一瞬、身体がゾクッとした。
目の前のiPadではソシャゲでギルメン達が戦略がどうのこうの話していた。
「これ……そもそもリアタイが足りてないだけなんだよな。」
「いくら議論しても、いくら戦略練っても、無駄。」
そんなことより……。
今、ここに絶対楽に死ねる薬があったら、俺はそれを飲んでいるかもしれないな。
……もうそれ、薬じゃなくて毒薬だけど。
エアコンの無機質な空気音だけが響く。机の前で、眉間に親指を当てて、目を瞑る。
ふと、何かが変わった気がした。
明らかな違和感。
iPadはもうそこにはなく……。
目の前には銀髪の女性が座っていた。
*
「ん?寝落ち?夢?いや、明晰夢か、これ。」
周囲を見渡すが暗闇でほとんど何も見えない。そもそも、物質という概念が存在しないのではないか。
「篠田亮介さん、ですね?」
銀髪の女性が優しい声色だった。だが……それがなぜか癪だった。
「……明晰夢というのは、妙にリアルなものだな。声が普通に聞こえるのか。」
「あなたが見ているのは『現実』ですよ。と言っても、夢の世界の住人に『現実』と言われても、あなたは納得しないでしょうね。」
「……俺のことを知っているのか?」
「……はい。おおよそのことですが。」
「夢であれ、現実であれ、俺がこのよくわからない空間に実在しているのは確かなようだが。」
「もっとも存在しているだけかもしれないが……。」
「随分と冷静ですね。」
「今まで嫌な世界しか見てこなかったので。」
「要は慣れですね。ただし、悪い意味で。」
銀髪の女性はどこか寂しげだった。だが、それは篠田にとって日常だった。
「勝手にお呼びして申し訳ないのですが……。」
「あなたに、いえ、あなただからこそお願いしたいことがあります。」
「申し訳ないが……今は、その……ちょっと余裕が、ないな。」
銀髪の女性は一旦何かを考えてるように見えた。
「そう……ですか。では、『今』はやめましょう。」
「……次があるのか。」
「はい、これはあなたにしかできないことなので、お願いするしかないのです。」
「ですが、今のあなたは少し……。」
銀髪の女性はそこで止まった。視線が泳いでいる。
「今は、あなたは休んだ方がいい気がします。」
「……メランコリックデイ、ですか。自分で自分の状態にラベルを貼れてるだけで、もう十分ですよ。」
「あなたは……このままでは終わらない。」
「まるで俺のことを観測してたような振る舞いだね。正直、不快だが。」
「少し未来の俺に託しすぎじゃないか。何をお願いされるかはわからないが、俺はそんな傑物ではないよ。」
「ただの人さ。」
(それが言えるのは……あなたの強さなのよ。)
(でも……弱点でもある、か。いずれにせよ、今はタイミングが悪そうね。)
「一旦、あなたを元の世界にお返しします。ただし、元気になったらまたお呼びします。」
「……その物言いだと、俺に拒否権はないようだね?」
「はい、私、一応女神ですから。」
*
気がついたら、机に突っ伏していた。
「俺、また病院行かなきゃダメかな……。」
続く




