第三章① 緋水
なんか気がついたら、10話超えてた。
短編描いてたんだけど、連載だから、定義上、もう短編じゃないのか、これ。
久瀬としては単に短編書いてるだけなんですか。。。
第三章① 緋水
宿の寝室でゴロリとする篠田。
結局、ウェンディからは核心的なものは引き出せなかった。
ゴブリンの自我や紫魔石ゴブリンについて問いただした。
「それは……禁則事項です♩」
だったからな、なんだよ禁則事項って。俺にもそのスキル付与しておいてくれよ。
しかし、ちょっとその時の光景を見てみたかったかもしれない。
銀髪の美少女……いや、銀髪の美女が口に人差し指当てて、「禁則事項です♩」はちょっとズルい。
でも「禁則事項」ってあれだよな。20年ぐらい前に流行ったアレだよな。
ってことはやっぱり文化圏ババアだよな。必然的に、ウェンディ中年疑惑が浮上する。
(まぁ、なんか昔のラノベ読んだだけかもしれないし……。これだけだと検証不能だな。)
(それにしても……もっと昔のアニメで『それは……秘密です。』ってキャラいたけど、まさかそっちまで網羅してるのか、あの文化圏ババア。)
……。
観測されている。
俺の空間に異物が入り込んでいる。
「フラッシュ」
一瞬にして周囲は三十万ルクス以上の眩い光で覆われる。
そして。
「フレアレーザー」
指先から放たれた光線は、『何か』にクリティカルヒットしたらしく、妙な機械音とともに、その異物感は消え去った。
一方その頃……。
*
「うわっ、目が!目がー!」
ツインテールのキャシーが思わず両目を両手で覆う。いや、もう失明したかも。
「どうした大佐。クリリン系スキルでも使われたか?」
「やばいやばいやばい、まじでやばい、目がー!」
「……キャシー、落ち着け。ただ単に突然の光に網膜が反応しきれなくて、脳がバグってるだけだ。」
青髪は目にかかりがちな前髪を軽く払って、続ける。
「……俺としては、以前からキャシーの動き自体がバグっていた疑惑があるがな。」
「なにそれ酷!」
「うーむ、キャシーに可哀想だが、宮廷魔術師の浮気調査依頼を副業してる時点で、弁明の余地がねえんだよな。」
頭をぽりぽり掻きながら、バーレスは冷えた水を飲む。無駄に……いや、計算され尽くされた筋肉ダルマが妙に映えてみえた。
「で、なにがあったのよ?」
ザービだけが氷たっぷりの冷水を飲んでいた。
キャシー目を両手で覆いながら。
「れ、例の仮面のやつをまた追尾しようとしたのよ。」
「で、どうなったの?」
「あいつ、秒で『フラッシュ』ぶち込んできたわ、それに『フレアレーザー』で魔法ユニットをぶっ壊しやがったわ。」
「ああー腹が立つわね!なによフラッシュって!こんな時に使うとか、悪意あるスクリプトとしか思えないわ!」
キャシーのツインテールが右往左往している。目は覆われたまま。
「なぁ、そいつどこにいたんだ?」
「え?わからないけど、多分宿屋のどっかよ。仮面つけてたかどうかもわからなったけど。」
「おい、お前には他人様のプライバシーという概念はねぇのか。」
「ないわ!私の前に、観測不能なんてありえないんだから。」
「お前だけはずっとトモダチでいたいぜ。」
「面白い話ね。その仮面の人、一瞬でキャシーの魔法ユニットを感知して……。」
少し氷が減ったグラスを手に持って、ザービが続ける。
「嫌がらせした上で、破壊したわけね。当然、あなたのことだから不可視だったのでしょう?」
「無論よ。大体、追尾魔法を可視化された状態で使うなんて三流以下のやることよ。」
「いや、そんなことするの、お前だけだろ。」
「……キャシーの不法行為はとりあえず黙認するとして、やはりあの仮面、只者ではないな。魔法まで使うのか。」
青髪は続ける。
「魔法剣士?それにしては、体の動きに隙がなさすぎる。あれは生粋の剣士の動きとしか思えないのだがな。」
「謎が深まったな。」
バーレスは完全にぬるくなった水をグビグビ飲みながら続ける。
「なぁ、こういう奴、なんつーか知ってるか。」
ツインテールが静かに動いた。目は覆われたままで。
「……中二病。」
「それな!なんか前に、『俺、強いんで入れてくれ』とか言ってきて……。」
「話は盛り上がったけど、変なやつだったな。あいつも。……でも結局。」
バーレスは伏目がちになる。
「シュバルに瞬殺されて、その後は消息不明ね。」
ザービは相変わらず容赦ない。いや、こいつに『優しさ』という概念が頭の中にあるのかはちょっとわからないが。
「あれは……規格外だった。」
「そこは俺の誤算だ。そして……動きがど素人すぎた。これも誤算だった。」
「あの……皆さん、私、まだ目が、光に満ち溢れているんですが?」
「それは前途が光明に照らされて何よりだな。お前に一言、至言を教えてやる。『自業自得』」
「ねぇ!なんかさっきから私の扱いひどくない?」
「いや、そりゃあお前、人の寝室頻繁に覗くような奴はさ……。」
「相手の力量もろくに観察せず、行動に出たお前の負けだ。」
「私はそんなお願いした覚えはないわね。」
キャシーの不道徳案件は全会一致で可決された。
「剣技だけでなく魔法も一流、突然現れた仮面の英雄、か。」
「これはマジで一戦構えてみたいな……。」
その後も緋水の間で仮面の男の話は話題の中心だった。ただ一人、キャシーだけがその円から外れ気味の位置にいた。
キャシーは翌日も半目で、明らかに見づらそうだった。
「おい、目は無事か?」
バーレスが小さな笑みを浮かべて話しかける。ただし、キャシーにその笑みが見えているか判然としないが。
「光しか見えてないわ。」
「普段からなにも見えてないだろ。」
なお、目がまともに戻ったのは、翌日の正午過ぎだった。
静かに剣を磨くシュバル。
「早く会いたいな、あの仮面。」
銀色の剣がシュバルの青髪を反射させていた。
*




