追憶
侵略された方の世界の魔華の話です。
私はこれまで、色々なものを失ってきた。
妹、友人、両親、兄、学校、家。
人も、居場所も。
もう、失いたくない。
深い闇の中を独り歩く。
より深く、暗いところまで。
視界に写るのは、全てを塗り潰す黒だけ。
ただ、前に歩く。
静寂は耳鳴りに食い破られ、体は宙に溺れる。
認識は表裏の区別が付かなくなり、私から何かが溢れていく。
最早自身がどうなっているのかすら分からないまま、仮定の中で進めるようにと指示を出す。
不安や焦燥を押し殺し、機械の様に。
ふと気が付けば、闇は晴れ、光の満ちる部屋にいた。
正面には女性が立っていて、優しげな笑みを浮かべている。
「いらっしゃい、あなたが私を求めたのね?」
これが、神。
「待ちなさい、それを使えばあなたは——」
神の制止を無視し、この力を使う。
私の心なんて関係ない。
私の体がどうなろうとどうでもいい。
私が消えたとしても、目的だけを達せられれば、それで。
頭に、これまでに感じたことのないような、全身を生きたままズタズタにされたかのような、そんな痛みが衝撃と共に与えられる。
膨大な、情報の波。
その波に流されるのを感じながら、私の意識は落ちていった。
古代の人々をまとめ上げ、存在を葬られた為政者。
現代を生きる黒い飼い猫。
守ってきた人間に全身を焼かれ、殺された魔女。
地を這い蠢く、黒いナニカ。
全身が闇に覆われた、顔のない男。
血を纏い、多くの人間に傅かれる赤い女。
半身をカラクリに侵された男。
脳髄を啜り、女を真似る異形。
長く崇拝されていた邪悪な石像。
覆う物のない、肉や内臓が露出した2mの男。
擦り切れたローブを纏った、巨大な人間の骨格。
獣の体に人間の頭部を持った、黒い顔のない怪物。
常に姿を変え続ける触手の塊。
未来を見通す力を持ち、家族に殺された幼き少年。
闇から這い出る黒い影。
黒い角笛を持った、魚の鱗が肌を覆う男。
何百年、何千年、何万年分の記憶が、たった十数年しか生きていない私を黒く執拗に塗りつぶしていく。
行きたまま引き裂かれる痛み。
大切なものに裏切られる悲しみ。
人ならざるものの思考。
人ならざるものの価値観。
正真正銘、純粋な神の魂。
自分自身が崩れるのを感じながら、それでもそれを止めようとしない。
必要なのは、この思いだけ。
私の感情はいらない。
私の記憶もいらない。
私の自由もいらない。
この魂の支配権もいらない。
大切なものだけを守って、他を全て投げ捨てる。
記憶や経験なんて、有り余ってるから。
瞼を開けば、目の前で神が笑みを湛えていた。
「素晴らしいよ、君! これだから人間は面白い!」
そう言って、俺の肩を掴む。
「あぁ、せっかくの逸材なのに壊れてもらったら困るな……」
何かをぶつぶつと呟いていた神は、一頻り考えを巡らせると、僕の顔に手を翳して来た。
「君に自由と記憶を返す。これから、面白いものをいっぱい見せてね?」
その言葉とともに、私の心が僅かに弾けた。
戻った記憶は一部だけなので、帰った後に蓮弥と愛結の記憶から残りを保管しています。
が、それでも所々抜け落ちていたりするので、継ぎ接ぎになっていたりとボロボロ。主人公と会った時に少しだけ回復しました。
これで更新終わりだと思います。あとは本編の最後を変更するだけ……。




