38 吸血鬼
『ふむ、そなたらが侵入者か』
『ほざけ。侵略者が』
30代ほどの男性とほとんど変わらない姿の悪魔の言葉に、リダが返す。
アーサー君は静かに剣を構え、相手も戦いの構えを取る。
……話す敵は二人目だね。
いや、ルイナはなんとも言えないところではあるけど。
『……なるほど、そなたはちょろちょろと逃げ回っていたネズミの一匹か。自ら向かってくるとは……自身の身も弁えられぬほど落ちぶれたか?』
『〈明鏡止水〉』
アーサー君の目が据わり、殺気が消えた。
(蓮弥君、鬱憤が溜まってるでしょ? それ全部、あいつにぶつけていいよ。私が許す)
(……いいね)
リダは笑う。
いつも作っている、子供のような笑みではなく。
瞳に狂気を宿して。
『〈海底〉〈深淵〉〈海底撈月〉〈落月〉』
『ぬお!?』
海が現れ、闇が開き、月が落ちる。
悪魔が逃げようと試みても、移動することも叶わず。
その場でもがき、飲み込まれていく。
『〈水刃烈波〉』
リダが溺れる悪魔に追い打ちをかける。
放たれた水の刃は、痛みつけるように悪魔の体を抉る。
傷付いた箇所から出る血は、水を赤く染めていた。
『〈聖王斬〉』
そこに、アーサー君が飛び込む。
白く光る剣を構え、敵を流れるように一刀両断した。
……うん、ここももう大丈夫かな。
(リダ、あとは好きに暴れていいよ。あいつは死んだから)
(了解)
さて。
あとは……。
蓮弥君が100を超える数の怪物を屠っていたり、リダが早速暴れていたり。
ルイナが道中で鬼を倒していたりするけど、特に問題はない。
鈴ちゃん達も順調に進んでて、そろそろ目的地に着くね。
「私、行っていいよ」
「わかった」
神が降臨したことを確認した。
強さは私以上、でも思ったよりは強くない。
それでも、一対一は無理だと思うけど。
感覚的に、位置は中部地方の日本海側くらいかな。
ルイナ達を邪魔されるわけにはいかないし、向こうの私には削りあってもらう。
もちろん、傷付く前に助けに入るか回収する。
……あ、鈴ちゃん達が接敵した。
鈴ちゃんの四倍はある体格の鬼。
でも、神の武器たる雷属性は、他の属性と比べても火力が高い。
高く見積もっても悪魔と同レベルのこの敵じゃ、相手にならないかな。
『……〈神の制裁〉』
先手必勝とばかりに魔法を放つ。
『〈落雷〉〈雷撃波〉、〈雷撃〉〈雷光斬〉』
神の制裁をなんとか防いだ鬼に、空からの一撃が刺さる。
感電し動けなくなったところにさらに雷撃、直後に体を叩き切られ絶命した。
うん。
まぁ、こんなものだね。
あとはルイナの方と……神だけ。
(時間稼ぎをお願い)
(わかった)
敵は向こうの私に即座に気が付いて、猛接近して来てる。
なるべく逃げ回って、時間を稼いでもらうことにした。
ルイナを見る。
ちょうど、吸血鬼と遭遇したところ。
『こ、この! 裏切り者っ! 今更何しに来たのよ!?』
ルイナに近い見た目の、小柄な少女。
ルイナを見て、怒ったような、嬉しいような、悲しいような、複雑な表情をしている。
『ごめんね、レア。通してくれない? 女王に会いたいんだ』
白愛結は見つからないように隠れていて、今のところ気付かれていない。
口振りからも察せられるように、この二人は旧友だ。
吸血鬼達は元々さらに別世界の住人で、女王によって統治されていたが、神によって侵略され軍門に降った。
そして、女王の決定は絶対の世界で、それに異を唱えたのがルイナ。
その行動の結果、吸血鬼から追われることになったわけだけど。
ルイナの目的は、吸血鬼の女王を倒して自分が女王になること。
吸血鬼の女王は吸血鬼の中で一番強いものがなるらしく、侵略されて以降女王には力が与えられたせいで代変わりしてない。
だから、女王になって吸血鬼達を救いたい、っていうのがルイナの意思。
それに、協力してあげようと思ったから。
『女王さまには会わせないわ! あなたなんて……! あなたは通せない!』
『……ごめんね、レア』
溢れ出た涙を振り払って武器を構えたレアと呼ばれた少女を、ルイナは抱きしめる。
『……え? あ、え?』
『おやすみ。〈微睡の風〉』
優しい声色で、頭を撫でる。
わかりやすく混乱しているレアは、一撫でされる毎に瞼が落ちていき、すぐに眠りについた。
ゆっくりと床に寝かせて、先に進む。
幸い、レアは仲間を呼ばなかった。
だから、比較的簡単に侵入できる。
(多分、そこから南西方向)
(ありがとう)
強さから考えて、女王の位置を教える。
相手はまだこっちに気が付いていないから、待ち伏せもない。
たまに見かける同族達を見て、ルイナは顔を歪める。
懐かしさとか、あとは逃げた時に受けた苦しみとかを思い返してるんだろうね。
『……いた』
160cm程の、妙齢に見える女性。
銀髪なのは変わらずだけど、腰あたりまでまっすぐ伸ばしてる。
服も露出の激しいドレスで、大人な印象。
ルイナは女王を見つけると、隠れるのをやめて堂々と姿を現す。
『あら? 誰かと思えば異端者の裏切り者じゃない。どうしたの? 諦めて泣きつきに来たのかしら』
ルイナが元のままの力しか持っていないと決めつけ、嘲笑を込めて話しかけてくる。
決めつけの理由は、女王の力が全く成長してないからかな。
『いえ、女王……あなたを倒しに来ました。慣例に倣って一対一の決闘をしましょう』
『っ、ふ、ふん! 小娘風情が思い上がったものね!』
ルイナの目を見て一瞬たじろいだものの、すぐに持ち直す。
それだけ、借りた力に自信があるんだろうね。
『いいわ! 叩き潰してあげる』
『さっさと始めましょう』
そう言って、血色の剣を構える。
女王は指を鳴らすと、大勢の吸血鬼達が集まってきた。
『これから、決闘を始めるわ! 手出し無用、一対一の神聖な勝負よ!』
……実際は、私と向こうの神の代理戦争みたいなものだけど。
双方、純粋な自分の力ではないからね。
力を借りるつても個人の力と言えなくもないから、間違っているわけでもないか。
『勝負、開始!』
『さぁ、かかって——』
『〈神の息吹〉〈風刃〉〈暴風〉』
無駄口を叩き始めた女王に対して、ルイナは全力をぶつける。
出し惜しみなく、かける時間がもったいないとばかりに。
『っ!』
女王は顔を歪めながらもすぐさま構え、血を操って応戦する。
四方八方から向かってくる血の刃に対して、冷静に躱しつつ遠距離から攻撃するルイナ。
『〈天風裂下〉』
突如吹き出した下からの突風に、対応が間に合わず巻き上げられる。
その下には、巻き上げたものを切り刻むための風の刃。
『くっ!』
体勢が崩れつつも、女王は急所を避けて攻撃を受け、着地する。
全身に切り傷が出来、血が見える。
……硬いな。
身体能力の向上も、もらった力に入っていそう。
『何よそれ! あなたの力じゃないわね!? この神聖な決闘に、他者から借りた力を使うだなんて豪語道断! 皆、かかりなさい!』
女王はこのままだと勝てないことを悟ったのか、自分のことを棚に上げて喚き始める。
でも、周りの吸血鬼達に加勢する様子はない。
それどころか、女王に対して不信感を持ち、ルイナを邪魔させないように牽制している者までいた。
『……確かに、これは借り物の力かもしれない。私自身の力じゃないかもしれない。でも、それはあなたも同じなのだから。ただの、力不足、判断不足よ』
そのまま流れるように接近したルイナの剣が、女王の腹部を貫く。
剣を引き抜くと、女王は血を流しながら床に崩れ落ちた。
ルイナの圧勝。
無傷で、前女王を打ち破った。
——静寂。
『私が次の女王よ。全員、私に従いなさい!』
力強く、そう言い放つ。
一呼吸おいて。
歓声が溢れ、吸血鬼達の拍手が鳴り響いた。




