35 神化
私は長い間、黒い海に漂っていた。
試練はたった三つ。
一つが戦い方を身につけること。
これがMPの操作。
一つが心を強くすること。
これがお兄ちゃんに助けられた、ルイナの魅了に似た感覚のもの。
もう一つが、リダに課されたものとほとんど変わらない、覚悟を確かめる試練。
元々、9割クリアしているようなもので、これ自体はそこまで苦じゃなかった。
神の戦い方は、基本システムがMPと言っていた力を使うけど、これは神同士の戦いではほとんど意味をなさない。
神の強さは、精神、魂の強さで変わる。
最後は、魂で殴り合うわけだね。
負けた方は消滅する。
今は、私の魂が変容している状態で、何も出来ることがない。
あと、どのくらいだろう。
そう言えば、あの神が言ってた「私に精神干渉は使わない方がいい」だけど、本当に使わなくてよかった。
使ってたら、多分良くて精神崩壊。
普通に死んでた。
一応、0.0000000000000001%くらいで生き残れた可能性もあるけど。
皆、無事かなぁ。
早く、行かないと。
その瞬間、世界が割れる。
「っ、眩し」
「ふふ、おはよう」
目を開くと、試練を受けた場所にいた。
目の前には神もいて、にこにこと笑いかけている。
「……どのくらい経ちましたか?」
「うーん、向こうの世界なら一ヶ月ってところじゃないかな?」
「っ!」
そんなに。
それだと、既に侵攻が始まっているかもしれない。
早く行かないと。
「行ってらっしゃい」
そんな声を背中で聞きながら、走る。
外に出た途端、スマホに大量のメッセージが届いた。
「……東京ドームにいるのね」
居場所を送ってくれていた蓮弥君には感謝しかない。
東京ドームの近くまで来ると、ぼろぼろの蓮弥君達が見えた。
周囲にはざっと100を越える怪物の死体と、60弱の動いている怪物達。
「許さない」
怪物達の精神を砕いて、握り潰す。
所詮、強いだけで人と変わらない程度の怪物。
魂の自衛手段も持ってない。
……今なら、私の方が怪物かな。
亀裂の先にいる怪物達も捩じ伏せて、魂を破壊する。
ついでに、邪魔にならないように圧縮。
亀裂の修復はリダに任せて、東京ドームの中央に降り立つ。
よかった。
「まに、あった!」
皆を見て、状況を確認する。
一番やばいのは、ルイナか。
意識が朦朧としているルイナに近寄って、優しく口の中に指を入れる。
ルイナは吸血鬼。
回復効率はMPを使った回復魔法より血を飲む方がいいし、そもそも長期間血を飲まないと死ぬ。
伸びた犬歯で、指の皮を突き破る。
「ん……」
「ありがとう、皆を守ってくれて」
ゆっくりと飲み始め、傷が塞がれていくことを確認してから、他の全員に回復魔法をかける。
愛結ちゃんは魔力切れで寝てて、鈴ちゃんも限界かな。
蓮弥君も傷が残ってたし、お兄ちゃんもぼろぼろ。
「皆、お疲れ様。遅くなってごめんね」
傷が完治したことを確認して、名残惜しそうにするルイナの口から指を抜く。
早いところ、移動させて皆を休ませないと。
……いや。
「ゆっくり休んで。〈楽園〉」
その場にいた私以外を全員送って、休んでもらう。
私以外は問題なく回復するし、ベッドとかも用意した。
……さて。
「あはは、かなり助かったよ。後少しで完全に突破されるところだった」
降りてきた血だらけのリダにも、回復魔法をかける。
効果は薄いけど。
「こちらこそ。蓮弥君の協力がなければ、こっちの世界も支配されてたかもしれない」
そうじゃなくても、お兄ちゃんやこっちの蓮弥君は死んでたと思う。
「……さて、柊さんがいればこの世界は安泰だろうし。これでハッピーエンドだね」
そう言って、空を見上げる。
……あれ。
……そっか。
向こうの私、蓮弥君達に本当の目的を伝えてないんだ。
「違うよ?」
「……え?」
今のままだと、私たちだけなら安全に、幸せに過ごせるかもしれない。
でも、私は知り合い全員が幸せに終わる。そんな大団円がいいから。
「まだ、そっちの世界を救ってないでしょ? これから、反撃開始だよ」
確かに、一対一じゃ勝てないかもしれない。
でも今は、向こうの私だけじゃないから。
最初は巻き込まれただけかもしれないけど。
それでも。
全部、救ってみせる。




