28 模擬戦
「お兄ちゃん、どう?」
病室の壁に背をもたれ、情報をまとめてくれているお兄ちゃんに声を掛ける。
今は日本全域の領域確保が終わって、リダからの接触もなく、出来る事が少ない状態。
海外は蓮弥君がアーサー君と飛び回ってて、あっちはかなり多忙らしいけど、私と鈴ちゃんはお留守番になってしまった。
ただ待つだけは時間が勿体無いと言うことで、色々考えた結果、なるべく多くの人に精神的なシールドを貼ることにした。
意味があるかはわからないけど、リダの話にあった『周りの人がおかしくなった』が精神干渉の類かもしれないから。
私は今まで私以外に精神干渉が出来る人に会った事はないけど、私が持ってて他に誰も持ってないと考えるのはおかしいよね。
別世界まであるらしいし。
シールドを貼るには実際に会うしかないから、知名度を生かして人を集めているわけだ。
「結構順調だけど、魔華は大丈夫? 結構辛いんだろ?」
協力をお願いするにあたって、お兄ちゃんにはこの力を説明した。
怖がられるかと思ったけど、思ったよりもあっさり受け入れられて寧ろ驚いたよ。
……こんな事なら、もっと早く伝えれば良かったね。
そして、精神干渉は私にわりと負担がかかるけど、あの試練でかなり慣れた、と言うか上達した。
干渉するだけなら、大人数でもそこまで問題はない。
「大丈夫、無理はしないよ」
「……まぁ、それならいい。問題があるとすれば、思った以上に参加者が多くて入り切るかわからないところかな。回数増やさないとダメそう」
一応、飛び回る間に会った人には全員付けてきたから、その人達は来ないけど。
それでも、思った以上に最初から来てくれる予定の人が多い。
「んー……抽選とかにする?」
「回数増やすと鈴音さん達に負担かかるんだよな……」
「……まぁ、そこは相談していくしかないよねー」
あー、この後は首脳陣と会談でしょ?
お父さんとお母さん、あんまり役に立たないんだよなー……。
憂鬱な気分になりつつ、一応協力してもらっているわけだから無下にするわけにもいかず。
雲の上の人に対面すると、いつも置物になる両親に少し酷いことを思いつつ。
ため息を吐いて、準備をする。
「じゃあ、そろそろ言ってくる」
「俺も本当はついていきたいところなんだけど、ごめんな」
「ううん。お兄ちゃんは頑張ってくれてるのわかるから」
*
「あ、せんぱい! こっちです!」
鈴ちゃんに呼ばれ、受付に移動する。
今日は見物会初日。
場所は東京ドーム。
凄くどうでもいいけど、東京ドーム何個分って言われても別にパッとこのくらいの大きさだってならないよね。
結局抽選形式にして、連日開催になった。
屋台とかも出てたりして、ほとんどお祭りのようなものになっている。
受付の椅子に鈴ちゃんと座り、笑顔を作る。
勿論、受付にいるのは私と鈴ちゃんだけじゃない。
私の仕事は受付で人と会うことくらいだけど、鈴ちゃんはこの後に演武も待っているわけで。
人材不足である。
目的を達するだけなら別に私だけでも良かったんだけど、東京ドームを借りる条件の一つで鈴ちゃんが承諾したからこうなった。
ちなみに蓮弥君は演武の始まるギリギリに到着予定。
……あぁ、そろそろかぁ。
時計を見て、立ち上がる。
そのまま長い列の前に立って、ルイナに浮かせて貰う。
列からは「おぉ」や「すげぇ」と言った声が聞こえてきた。
……上から見ると、壮観だね。
ざわめきが収まったことを確認してから、大きく息を吸う。
ルイナが風魔法で補助してくれるから、そこまで大きな声は出さなくても問題はないんだけど。
「……皆さま、この度はお忙しい中お越しいただき、ありがとうございます。只今より受付を開始いたしますので、焦らずゆっくりと移動してください。騒ぎや問題は起こさないようにお願いします!」
出来るだけ声を張って、しかし聞き取りにくくないように話す。
……全員に聞こえたかな。
最後に頭を下げて、おろしてもらう。
さて、頑張ろ。
「皆さん、大変お待たせいたしました! これより、模擬戦を始めます!」
受付の仕事は一言二言交わすだけで、案内とかは他の人に任せてたから問題はなかった。
無理に会話しようとしてくる人もいたけど、私がさせるはずないし。
全員入れ終わったから、私も観戦する。
「やぁ」
私が椅子に座ると、隣にリダが現れる。
音沙汰無しだった癖に……。
「……何しに来たの?」
「君たちのおかげで早めに解放されたから、せっかくだし見ていこうかなって」
そう言って、中央に目を向ける。
……まぁいいや。
私も試合に集中しようっと。
中央では、既に二人ともそれぞれ血雷と魔鉄斧を構えている。
ルールとして、相手を殺しかねない制御不能の攻撃は使用不可。
例えば、鈴ちゃんの神の制裁とか。
その代わり、護符は使用不可。
「今や人類最強とも言われている兄妹の戦い! 目が離せません! お二方、準備はよろしいですね?」
その言葉に、二人が頷く。
「……それでは、レディー、ファイ!」
「〈雷走〉」
「〈狂化〉」
掛け声と共に、二人が強化スキルを使う。
両者共に接近戦を選んだようで、みるみるうちに距離が詰まっていく。
「っ!」
「〈交換〉」
鈴ちゃんが血雷を横なぎに振るった瞬間、位置が入れ替わる。
なんとか振り返り様攻撃を入れようとした鈴ちゃんに対し、蓮弥君は足払いを選択。
身を屈めて避けつつ、鈴ちゃんの体勢を崩しにかかった。
跳ぶことで避けようとしたけど、流石に避けきれずに体勢を少し崩される。
蓮弥君はすかさず持ち手を狙って斧を振った。
「〈雷撃波〉!」
「〈交換〉」
鈴ちゃんが至近距離で放った雷撃波を、蓮弥君は位置交換で躱す。
しかし、それを予想していたのか鈴ちゃんはそのまま飛び退いて距離を取った。
仕切り直しかな。
蓮弥君は鈴ちゃんを視界から逃さないように動いているし、鈴ちゃんは元のスペックが勝ってるからなんとか食らいついてる。
「〈雷撃波〉!」
鈴ちゃんは一瞬で詰められる程度の距離を取りつつ、雷撃波で蓮弥君の交換を誘う。
一応、交換直後は隙が生じるし、そこを狙うつもりなんだろうね。
蓮弥君もそれはわかっているのか、回避に専念してなかなか交換を使いたがらない。
……でも、このままだと蓮弥君の体力が尽きるのが先じゃないかな。
鈴ちゃんのMPが尽きさせるのは、相当時間をかけないとダメだから。
「〈雷撃波〉!」
「交換」
蓮弥君の言葉に、鈴ちゃんが振り向く。
でも、位置は変わってない。
その隙を突いて、蓮弥君が接近。
鈴ちゃんの死角から斧を振り上げる。
「〈落雷〉!」
「〈怠惰領域〉」
鈴ちゃんの手から放たれた雷は、雲を突き破って天へと昇り、蓮弥君に突き刺さる。
……前に、掻き消えた。
怠惰領域。
それはシステム内攻撃を、敵味方関係なく完全に封じる領域。
鈴ちゃんの首元に、蓮弥君が斧を当てる。
「そこまで! 勝者蓮弥!」
審判の声とともに、蓮弥君は斧をおろす。
一呼吸おいて、ドーム内に歓声や拍手が響き渡った。
私も拍手を送りつつ、考える。
元々このルールは鈴ちゃんに不利なルールだったし、これで鈴ちゃんの方が弱いとは思わない。
ブラフに引っ掛からなければ鈴ちゃんが勝ってたような気もするし、これから何勝何敗になるか楽しみだね。
「うん、良いものを見せてもらったし、ボクはそろそろ帰るよ」
そう言って、リダが立ち上がる。
「待って」
腕を掴んで止める。
リダに、聞かなきゃいけないことがあるんだから。




