27 世界の話
急いで書いたので(ry
「さて、ここにいる人は皆聞く気があるって事でいいのかな」
5分くらい待って、リダがそう言い放った。
残ったのは、私、蓮弥君、鈴ちゃん、愛結ちゃん、アーサー君だけ。
ルイナと白愛結、レッジさんとシャテラちゃんは帰った。
レッジさんは多分、上に呼ばれたんだろうけど。
「……それじゃあ、最初から話すよ」
私たちが頷いたことを確認して、リダは小さく、ゆっくりと話し出す。
「……こことは違う世界に、こことほとんど変わらない、平和な世界がありました」
多分、リダと白愛結が元々いた世界のこと。
「平和と言っても、問題がなかったわけでもなく、諍いがなかったわけでもないけどね」
それでも、平和だったんだよ、と付け足す。
「ある日、世界から人同士の争いがなくなりました。理由は簡単、争えるだけの余裕がなくなったからです」
酷く平坦で、感情のこもっていない声だった。
「真っ先に気が付いたのは、一人の少女でした。周りの人間が、おかしい。その少女は、おかしいことに気付いたことを気付かれ、親しい人間の見た目をした何かに襲われました。家族や友人、親戚なんかにね」
……。
「少女はおかしくない人を探しました。結果、見つかったのはたった8人。そして、明らかな異常事態であったのにも関わらず、表面上はいつも通りの日常でした」
一呼吸おいて、話を続ける。
「そんな日常は、簡単に崩れ去りました。空に、海に、地面に……穴が空いたからです。その穴からは、空想上の生物、龍や吸血鬼、悪魔、鬼など、様々な生物が流れ込んできました」
吸血鬼。
「おかしくなかった8人のうち、5人が殺されました」
そう言ったリダの表情は微笑んでいたが、声が泣いていた。
……残った3人のうち、一人がリダ。
もう一人が白愛結……かな。
「彼女は悲しみました。……それこそ、壊れるくらいに。そんな時、ある一人の同族に襲われている吸血鬼と出会い、その吸血鬼を助けました。その吸血鬼から、色々なことを聞くことが出来ました」
……ルイナ、なのかな。
「例えば、世界は一つではない、だとか。例えば、この世界は侵略されてる、だとか。例えば、神は実在する、だとか。信じたくはないことや、不確定要素が強いけど希望になり得る情報を、色々」
確かに、本来であれば信じられないだろうと思う。
実際に、見たあとじゃなければ。
「……知ったところで、残った人間が何か出来るわけでもなかったんだけどね。……普通なら」
仲間の死を悼むように、目を伏せる。
「神様に会う方法として提示されたのは、誰か一人の命を生贄にすること。そうすることで、一人だけ会うことができる、と言われた」
こうやって話すってことは、多分実行されたんだろうと思う。
……状況から考えて、生贄になったのは少女か後一人のどちらか。
「少女の兄が、生贄を申し出た。その時はひどい荒れ様だったんだけど、今は割愛するね。……そして、少女が神様に会いにいって、翌日、帰ってきました」
一呼吸置いて。
「神になって。僕らも驚いたよ? それは僕らにとって、とてつもない朗報だった。みんなを救えるかもしれないって。……でも、神様って言うのは僕らが思っていたほど万能じゃなかった。なったばかりの新米じゃ、できることなんてほぼ無いんだってさ」
……。
「神様でも、失ったものを取り戻すことはできない。……でも、まだ失ってないものを守ることはできるって言ったんだ。それで、僕らの世界を奪った奴らが次に狙ったここを。ほとんど変わらない、双子のようなこの世界を守る事にした。…………ここまでが、僕らの世界の話」
そこまで話すと、リダは悲しむように伏せていた顔を上げ、微笑む。
神へと至る……か。
「ここからが、ダンジョンについての話をしていくね。まず、ダンジョンを作ったのは『元からいた神様』と『神になった少女』の二人。その機能は二つ。一つが、僕らの世界に侵略してきた奴ら……侵略者って呼ぶね。侵略者の力を薄めて切り取ったものを殺させて、この世界の生物を強くさせること。これは言ったよね」
強くするため、の詳しい説明。
「もう一つが、侵略者の力を削って弱体化させること。ここに侵略してくる前に、相手を弱らせておきたかったんだよね」
わからなくも無いけど、それは説明すれば良くない?
別に、態々隠す必要も感じない。
「……言わなかった理由って、あるのでしょうか?」
アーサー君も同じことを思ったのか、おどおどしながら手を上げる。
「……やっぱり気になるよね。……まぁ、そろそろ話してもいいか。僕が急にいなくなったら帰っていいから」
そう前置きして、リダは話し始める。
「『元からいた神様』は協力してくれてるんだけど、何というか……愉快犯、って言えばいいのかな。面白いことをさせることが目的だから、つまらなくなりそうな事をすると……うん」
苦笑いを浮かべながら、そう言った。
……何というか。
東京ダンジョンで言ってた『全部教えたら勿体無い』とかはリダじゃなくて、その神様の言葉なんだろうなぁ。
リダの苦労が伝わってくる。
要は、リダたちにも制限が掛かっていて、出来る事が限られてるんだろうね。
「で、先駆者の選出に関してはほとんどランダム。一部を除いて、だけど。……喋り過ぎると強制的に切り上げさせられそうだからどんどんいくね。領域支配をすると、魔物が出てこないみたいに侵略者もそこに入れなくなるんだ。だから、全域支配すればこの星を守れる」
そこまで言い切ると、リダの立っている地面に魔法陣のようなものが浮かび。
「……あ」
リダを飲み込んだ。
……。
「なんて言うか……リダも、苦労してるんだね」
「……親近感湧いたよ」
蓮弥君と顔を見合わせ、苦笑する。
聞きたい事があったけど、またあった時でいいか。
取り敢えず、日本中飛び回らないとなぁ……。