18 同期
「あれです」
清水さんの車で蓮弥君を回収し、鈴ちゃんのいる場所のすぐ近くまできた。
お兄ちゃんや過去に救った人たちの手を借りて、かなり早くこれた方だと思う。
本当に、感謝しかない。
……さっきの地震、嫌な予感がする。
ここは、町外れの廃ビル。
間違いなくこの先に居るはずなのに、人の気配がない。
そのことを伝え、警戒しつつも三人で進んでいくと、中はもぬけのから。
……代わりに、奥の部屋の中央に渦があった。
「……嫌な前例が出来ちゃったなぁ。魔華ちゃん、この先?」
「はい。間違い無いです」
清水さんの言葉に、そう答える。
ダンジョン。
「清水さんはここで待っていてください。僕と柊さんだけで行きます」
「うん。早く行こう」
「……柊さん、その前に一ついい?」
改まって、蓮弥君が聞いてくる。
「何?」
「僕の同期スキル、使っていいかな」
……蓮弥君は、使わないと思ってたんだけどな。
それだけ、私が信用されてるってことなのかな?
……。
本当は、嫌だ。
醜い心を見られたくないし、私を知られたくない。
でも。
「……いいよ」
鈴ちゃんの方が、大切。
「ありがとう。……〈同期〉」
蓮弥君がそう呟いた瞬間、何かが私の心に繋がった感覚がする。
異物がくっついたような、そんな感じ。
直後、蓮弥君の記憶、感情、痛み、苦しみ……全てが襲いかかってくる。
……これ、弱い人だと耐えられないかも。
「……ありがとう」
それは、何に対してか。
「……それより、早くいこ。鈴ちゃんが待ってる」
「うん」
手を繋いで、渦に触れる。
……意識が落ちる感覚がない?
視界がねじれ、うねり、崩れていく。
体が動かなくなり、何も感じなくなる。
気付けば、黒い、ただ黒い空間。
そこに、一人で立っていた。
血の池。
黒い糸。
赤い糸。
白い糸。
「この、人殺し!」
「あんたなんか消えちゃえばいいんだっ!」
「化け物が」
「消えろ」
「死ね」
私が干渉して来た精神たちが受けた、言葉。
目の前に、私が立っている。
——人殺しが、何を正義ヅラしてるの?
視界が曲がる。
混ざっていく。
少しずつ、正しくなっていく。
うねりがおさまり、揺れがおさまり。
鈴ちゃん達の姿が見えた。
「〈交換〉」
蓮弥君が、鈴ちゃんと石の位置を入れ替える。
「人の妹に、何してくれてんだ」
ほんの少しの、怒りを乗せて。
そう言い放った。
「お兄、ちゃん……」
——蓮弥君は、鈴ちゃんのことが嫌いだ。
自分にないものを持っていて、自分から色々なものを奪っていく鈴ちゃんのことが。
……でも、それはそれとして。
鈴ちゃんのことを妹として、確かに愛している。
「遅れてごめんね〈治癒〉」
「せんぱい……ありがとうございます」
鈴ちゃんの傷を治し、〈雷走〉でボロボロになった足も治療する。
……さて。
私も、怒ってるんだよね。
「鈴ちゃん、私が呼んだら深奥を私にかけて」
わざわざ相手の土俵で戦ってやるつもりはない。
「いいんですか? よく分からないスキルですけど……」
「うん。任せて」
「わかりました」
黒甲冑と蓮弥君を視界に入れる。
私は、見てるだけでいい。
だって、〈同期〉でこの視界が共有されてるから。
「〈狂化〉〈暗黒弾〉〈血色ノ華〉」
視界が赤く染まる。
心が、魂が、相手を殺せと囁いてくる。
……これを、蓮弥君は顔色ひとつ変えずに耐えてたんだよね。
血色ノ華は、新しく取った嫉妬スキルの力らしい。
大抵のものは触るだけで死ぬ、赤の華。
黒甲冑は最初槍で対応しようとしたけど、触れた部分が腐り落ちたのを見て、回避に専念し出した。
見た目とは裏腹に、軽やかな動きで蓮弥君の攻撃を避ける。
でも、今の蓮弥君は戦場全体を見ることが出来てるから。
「〈交換〉〈交換〉」
縦横無尽に動き回り、黒甲冑を追い詰める。
「〈暗黒斬〉!」
蓮弥君が黒甲冑に触れた、その瞬間。
「鈴ちゃん!」
「〈覚醒〉〈進化〉、〈解放〉!」
私の魂が震える。
心臓を砕かれたような激痛、内臓を混ぜ込むような不快感。
脳を割るような痛み。
全身を震わせる痺れ。
歯が削れるかと言うほど強く噛み、なんとか堪える。
全身が沸騰したように熱い。
「っ……〈傲慢、領域〉! 私が、ルールだ!」
私が叫んだ瞬間。
一度、全ての動きが止まる。
黒甲冑も、蓮弥君も、鈴ちゃんも、上で観戦している誘拐犯たちも。
「か、はっ」
血が漏れる。
……流石に、きついなぁ。
「人形を挟んで高みの見物? そんなの、許さないから」
私の大切なものに手を出した報い、きっちり受けてもらうよ。
ねぇ?
愛結。
——破魂。
魂を抉る。
でも、一度では倒さない。
もっと、もっと。
苦痛を与えてから。
——破魂。
簡単には壊れないように。
丁寧に。
少しずつ。
——破魂。
心を折るように。
魂を砕くように。
精神を崩すように。
——破魂。
——破魂。
——破魂。
何度も何度も痛めつける。
黒甲冑だけで終わらないように。
その奥まで。
「せんぱい」
前から、鈴ちゃんに抱きしめられる。
「もう、いいですから」
でも、まだ
「これ以上やったら、せんぱいが傷付いちゃいます」
五感を封じられて、魂を離してしまう。
フッと力が抜けて、鈴ちゃんに倒れ込む。
奥では、甲冑が倒れた音がした。
意識が朦朧としてくる。
視界がぼやけて、何も分からない。
これ……は、無理……。




