16 観光
「本当に、本当にありがとうございました……っ!」
そう涙ながらに言っているのは、先行攻略者の一人だった小学生の女の子のお母さん。
長野ダンジョンから脱出してすぐ、長野ダンジョンの先行攻略者たちが目を覚ましたようで、その両親や友人たちから感謝された。
お礼としてみすゞ飴とかのお土産とかもらったりしたけど、これどうしよう?
「あはは、お礼なら柊さんに。彼女がいなければ攻略できなかったでしょうから」
悩んでいると、蓮弥君に相手を押し付けられていた。
私、ほぼ見てるだけだったんだけどな?
「感謝してもしきれません……! 娘が帰ってこなかったらと考えると……!」
「大丈夫ですよ、お母さん。それより、娘さんのそばにいてあげてください。きっと怖い思いをしてると思いますし、お母さんが支えてあげないと」
「はいっ……! はいっ……!」
……あと、どのくらいいるんだろ?
早く終わるといいなぁ……。
夜、宿泊先のホテルで、蓮弥君に確認を取る。
ホテルは結構お高めなところで、綺麗なのは勿論、落ち着いた雰囲気の、白を基調とした部屋。
「蓮弥君、寿命の方はどのくらい?」
「えっと……半年弱、ってとこだね」
……日本だけで全部取り返すの、足りなさそう。
一応ダンジョンの数が更に増える可能性もなくはないけど、そこはわからないし期待しない方が良さそうだね。
「せんぱいっ! 観光しましょう!」
鈴ちゃんがテンション高めで腕に抱きついてきた。
……確かに、ダンジョン攻略が早く終わったから、明日は時間あるけどさ。
ちなみに、かかった時間は約16時間。
東京ダンジョンに比べれば、だいぶ早かった。
急いでたのが大きいけどね。
「とりあえず、今日はもう遅いし寝よう? 観光は明日ね?」
「はーい」
別に今すぐ行きたかったわけでもないようで、聞き分けよく寝る準備を始める。
私も寝る準備を済ませ、ふかふかのベッドに潜り込む。
蓮弥君も同室だけど、蓮弥君以外からは否定的な意見が出なかったから同じ部屋になった。
蓮弥君が何かするつもりがないのはわかるし、断る理由がないんだよね。
着替え? 蓮弥君がいつの間にか退室してるよ。
「あ、清水さんから連絡来てる」
スマホを見ると、お祝いと労いの言葉が送られてきていた。
……流石に今日の私は自分で振り返っても結構やばかった気がするし、情報収集でもしておかないとね。
「せんぱい、どこ行きましょう?」
「決めてなかったの?」
「私はせんぱいと観光したかっただけでどこかに行きたかったわけじゃないですし」
街に出たのはいいものの、目的地がなかった。
ちなみに、今いるのは私、鈴ちゃん、私服警官の人たち数人……で、蓮弥君は用事があるらしく別行動。
結構ちゃんと溶け込んでるんだけど、バレバレなんだよね……。
鈴ちゃんには気付かれてなさそうだから、別にいっか。
「んー……、長野といえば諏訪大社とか?」
「松本城公園も結構有名な気がします」
聞いたことはある気がする。
「白糸の滝も長野だっけ」
「白糸の滝は静岡と長野にあったような」
スマホで位置を調べてみる。
「微妙に遠いね。松本城公園から諏訪湖でも行く?」
「それで行きましょう!」
「すみません、ちょっと飲み物買ってきます!」
松本城公園を回りきって、移動を始めたくらい。
鈴ちゃんがそう言って、自販機の方に駆けていく。
松本城は昔の人はこんなものを作って凄いなーとは思ったけど、実はそこまで興味もなかったから深い感想はない。
強いて言うなら、桜がもう咲いてなかったのが残念だな、とは思った。
私も喉乾いてきたし、何か買おうかな。
……ん?
私の横を、ナンバープレートが潰された車が走って行った。
嫌な予感がする。
鈴ちゃんが向かった自販機に走る。
「鈴ちゃんいる!?」
……いない。
あるのは、買われて取り出されていないお茶と、落ちている鈴ちゃんの財布。
怒りが湧いてくる。
自分に。
誘拐犯に。
油断した。
気を抜き過ぎた。
蓮弥君、清水さん、お兄ちゃん、お父さん、お母さんに連絡を入れ、清水さんに迎えにきてもらうようお願いする。
私が走ったところで、追いつけるわけもないから。
車のナンバープレートが潰されていたのを考えるに、私の〈記憶〉スキルを警戒しているような気がする。
鈴ちゃんは強いけど、蓮弥君とは違って人を傷付けるのに躊躇いがある。
躊躇いというか、トラウマ。
だから、強行突破することはないんじゃないかな。
さらった相手の目的はわからないけど、すぐに殺されることはないはず。
〈召喚〉は相手が自分の意思で動ける時じゃないと呼び出せないから、多分無理。
「〈召喚〉」
……やっぱ、だめだね。
縛られてたりするか、意識がない。
私の目の前に、パトカーが止まる。
「魔華ちゃん乗って!」
清水さんに頷いて、助手席に乗る。
シートベルトをしつつ、鈴ちゃんの大体の位置を確認する。
「北、北北東に向かってます」
「了解!」
私の油断で引き起こしてしまったこの誘拐。
絶対に助けるから。