12 闇の中
地下室は暗闇に包まれていた。
「なに!? なんなの?」
「何も見えない……」
生徒たちは怯えて震えているようだった。
祭壇のほうを見ると赤眼の何者かは動いていなかった。
「とにかく、みんな固まろう」
誰かの呼びかけで私たちは集まった。
「バジット、とりあえず模擬試合は終わりということで」
「ちっ、くそっ」
私の言葉に、彼は舌打ちで返した。
まだ暗闇に目が慣れていなかった。
声を頼りにティアとノルちゃんを探す。
ティアはすぐに見つかった。
「フィーちゃん、私、怖い……」
彼女は少し震えていた。
「大丈夫。とにかくここから出よう」
「ねえ、ノルちゃんは?」
「いないの? ティアと一緒じゃないの?」
どうやらノルちゃんとは逸れてしまったようだ。
「気がついたら、いなかったの……」
「扉に何人かが向かったようだけど、そっちへ行ったのかな?」
誰かが移動することを提案する。
「このまま手探りで出口へ向かおう」
その言葉に従って壁づたいに扉を目指した。
扉へたどり着くと一悶着しているところだった。
「魔法でぶち壊せ!」
「何度もやっている!」
「どうして破れないんだ! 威力が弱すぎるのか?」
「違う! 魔法が発動しないんだ!」
少し目が慣れてきたので、なんとか近くにいる人を識別できるようになった。
「ノルちゃんはいる?」
「ノルちゃん、どこ?」
私やティアの問いかけに返事はない。
「とりあえず明かりを確保したいよね」
私の言葉は誰かに否定されてしまう。
「魔法が使えないんだ。どうやっても発動しない」
それでも方法は必ずあるはずだ。
こうした場合、お兄ちゃんならどうするだろうか?
魔法が使えないなかで光を得るには……。
私はみんなに問いかける。
「誰か、スクロールを持っていないの?」
「こんなところにスクロールなんて持ってくるやつはいない。そもそも魔法が発動しないんだ。あっても意味がない」
「バジットは? 持っていないの?」
「持ってるけどよ……」
出し渋るような声だった。
「そもそも明かりになるような魔法なのかよ?」
誰かの言葉にバジットの歯切れは悪い。
「まあ、明かりになることにはなるが、発動はしなかった」
「あるのかよ! 何の魔法だ?」
「いいだろ……」
バジットは言葉を濁す。
「もう一度使ってみろよ。発動するかもしれないだろ」
「しょうがねえな……。――手榴閃光弾……。ほら、発動しねえ」
「目潰し用かよ。とことん小狡いな……お前……」
「いや、使うつもりなんてなかったって……」
使ってもいない魔法で卑怯呼ばわりされるのが嫌だったらしい。
私は彼に声をかける。
「バジット、それをもらってもいい?」
「お前、魔法が使えないって言ってなかったか? スクロールだって使えないんだぞ」
「とりあえず、明かりが欲しいんだよね。それと、できたら杖も借りたい」
「……あとで返せよな……。でも魔法は発動しないんだぞ。どうしようというんだ?」
バジットはスクロールと杖を貸してくれた。
「じゃあ借りるね。スクロールはあとで弁償するから」
私は杖にスクロールを巻きつける。スクロールは紙製だ。きっとよく燃える。
石壁に短剣を叩きつけた。そこに杖の先端を押し付け、軽く息を吹きかける。何度か繰り返すと火花はスクロールに燃え移った。
「うん。予想通りに、よく燃える」
「お前! 俺の杖をたいまつにしやがった!」
私は即席のたいまつを頭上に掲げた。
ぼんやりとだが、地下室全体が見えるようになった。
扉の近くにほとんどの生徒が集まっているようだ。
ざっと数を数えるが、一人足りないように思えた。
祭壇に視線を向ける。
人間の背丈ほどの存在がいる。全身は真っ黒で、体は大きく膨らんでいた。
手も足もぱんぱんに膨れている。
あれが赤眼の正体だ。
動く様子はない。すぐに私たちを襲ってくるわけではなさそうだ。
しかし、警戒は必要だった。
周囲が薄ぼんやりと見えてきたことで、生徒たちは落ち着きを取り戻しつつあった。
各々この状況を把握し、なんとか抜け出す算段をしているようだ。
「他に出口は?」
「この扉しかない」
「あの鉄格子の向こうは?」
「どう考えても出口なんてないだろう」
不測の事態に備えようとする生徒もいた。
「それにしても、なんだ? あれは?」
「鉄格子の中から出てきたんだ」
「ゴーレム……なのか?」
「あのゴーレムみたいなのを排除するべきか!?」
「いや、様子をみるべきだ。だが、いつでも対処できるようにしておきたい」
「おい、武器を持っているやつはいないのか?」
「小型ナイフくらいしかないぞ」
「あとは杖くらいか……」
私はたいまつを左右に振る。大勢の生徒の中からノルちゃんを探した。
「ノルちゃんはどこに……」
部屋の中央ほどに人影があった。赤眼のほうへと歩いている。
まさか……あれは……。
即席のたいまつでは光量が少なくてよく見えない。
あれは、ノルちゃんか?
たいまつをティアに渡す。
小走りで駆け寄ると確かにノルちゃんだった。
部屋の中央に立ち止まって、なにか赤眼に話しかけていたようだった。
赤眼が動いた。腕を左右に振っている。
私には、こちらに来るなと言っているように思えた。
「ノルちゃん、近づいちゃだめ……」
すぐに追いついて彼女の手を取る。
しかし、振り払われてしまった。
ノルちゃんはなおも赤眼に話しかける。
「やっぱり生きていたんだ……。こんなところにいたんだ……」
「グウウウウ……」
赤眼は唸り声を上げてノルちゃんを睨みつける。
「私が……、私が、助けてあげるからね……」
ノルちゃんは赤眼の正体を知っているようだった。
近づこうとするノルちゃんを威嚇するように、赤眼は太い足を持ち上げ、床に激しく叩きつけた。
激しい振動と揺れで、私もノルちゃんも立っていられなかった。
「オマエニ……、ナニガ、デキル……。ヒトリデハ、ナニモデキナイクセニ……」
低く、怨嗟に満ちた声だった。




