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1 馬車に乗ってエルムンタルへ

新章が始まりました。よろしくお願いします。

 リドルタからエルムンタルへは馬車が通っている。乗合賃は銀貨一枚だ。


 幌付きの馬車に乗り込むと、十二人乗りの馬車には八人が乗っていた。


 初老の男性や女性、身重の女性、私よりも小さそうな少年が目に入る。


 他にも商人らしき人の姿があった。


 走り出すと振動が多くて乗り心地がいいとは言えないが、歩かなくてもいいのは楽だと思った。


 馬車の揺れにも慣れ、心地よくてうつらうつらとしていた時だった。


 馬のいななきで眠りから覚めた。


 直後、馬車がいきなり急停車した。


 勢いよく停車したものだから、隣にいた少年を強く押してしまった。


「ごめん!」


 慌てて謝る。


「いえ、大丈夫です」


 謝られた少年の方が恐縮そうにしていた。


 彼は眼鏡をかけており、華奢な体をしている。年齢は十歳くらいだろうか。


 手には枯れ枝のような細い杖を持っていた。魔法士が使う杖のようだ。


 少年に声をかける。


「もう到着したのかな?」


 私の言葉に、軽く首をふる。


「ちょっと早いように思いますね」


 私は彼の持つ杖に視線を向ける。魔法が使えるのかと思って、彼に興味をもった。


「私はフィル。あなたは?」


「ええと、ユニスと申します」


 ユニスは敬語で話してくる。礼儀正しい印象だった。


「私は十四歳だけど、年下かな?」


「僕は十二です」


「どこへ行くところなの?」


「えっと、僕は冒険者育成学園へ……」


「ほんとに! 私もそこへ行くところ!」


「フィルさんも学園の生徒なのですか?」


「ううん、生徒じゃなくて、私は研修に行くところ」


「そうなのですか、僕は祖父が亡くなったので葬儀に参列して、学園に戻るところです」


 ユニスと会話をしていると、御者台から男の声が聞こえた。


「あ……、あの……。みなさん……。外に出ていただけますでしょうか?」


 誰かが幌をめくったので外が見えた。


 馬車は大勢の男たちに囲まれていた。


 髭面の男が多く、頭は坊主だったり、髪が乱れたりしている。全員に共通しているのは目つきが悪いことだ。


 手には武器を持っていた。統一性がなく、長剣に短剣、棍棒とさまざまだ。


「まずい、囲まれている……」


 誰かが小さく声を出すと、外から怒鳴り声が聞こえてきた。


「早く出て来い!」


 私たちが外へ出ると、男たちが指図してきた。


「そこへ並べ!」


「有り金と貴重品を全部出せ!」


 一緒に馬車に乗っていた乗客八人は一列に並ばされた。


 老夫婦はがたがたと震えている。


 ユニスも私の横で緊張しているようだった。


 私はといえば、いったい何が起こっているのかわからなかった。


 男たちは私たちからお金の入った袋を集めている。


 私も言われた通りに持っている金貨が入った袋を差し出した。


 差し出す時に男に向かって尋ねる。


「あのー。私は馬車に乗るときに、銀貨を一枚払ったのですが足りなかったのでしょうか。またお金を集めるのですか?」


「ああん?」


 男は目を細め、威嚇するような声を出してきた。


 私の言ったことが分からなかったのだろうか?


「乗合賃は払ったのですが、足りなかったのでしょうか?」


「何言ってんだ、お前?」


 吐き捨てるように言い、侮蔑するような目で睨んできた。


 そのまま私の質問には答えなかった。


 乗客から集めた袋を覗いていた男たちが叫んだ。


「おい! これを見ろ!」


「聖金貨だ! 聖金貨!!」


「誰だ! これを持っていた奴!」


「誰だ! 手を挙げろ!」


 男たちは怒鳴り散らしている。


 彼らが抱える袋が私のものかどうか、ここからはよくわからなかった。


 私以外にも聖金貨を持っていた人がいたのかもしれないと思って横を確認する。


 誰も手を挙げようとしなかったので、私のものだと思って手を挙げようとしたときだった。


「ぼ、僕です……」


 ユニスが手を挙げていた。


「小僧! こっちに来い!」


 男は乱暴に腕を引っ張って、引きずるようにユニスを連れて行った。


「いい獲物が手に入った。お前らはもう用済みだ。さっさと消えろ。命があるだけ感謝するんだな」


 そう言ってユニスを連れて立ち去ってしまった。


「あれ? 私のお金はどうなった?」


 思わず声が漏れていた。


 それに、みんなのお金は?


 あいつらは、みんなのお金を全部、持っていってしまったのではないだろうか。


 それにユニスはなぜ連れていかれたのだろう? 大丈夫だろうか。


「いったい、なんなんでしょうね?」


 私は隣の老婦人に声をかける。婦人はがたがたと震えながら答えてくれた。


「ご、ご、強盗よ……」


「強盗?」


 私が問いかけると、商人らしき男が応えた。


「あの少年は貴族の息子か何かだろう」


「きっと、家を脅迫して身代金を要求する気なんだ」


「とりあえず、わしらは助かった。早くこの場から逃げよう。エルムンタルの警備兵に通報しなければ」


 再び馬車に乗り込んでいく。


「ああ、こんなことなら冒険者の護衛がある馬車にするんだった」


 誰かが嘆いた。


 確かに、冒険者が護衛するという馬車も選択肢にあった。


 でも、私は自分自身が冒険者だし、安いこの馬車を選んでいた。


「あの、もしかしてさっきの人たちって悪い人ですか?」


「君、何を言っているんだ」


「強盗なんですか?」


「決まっているだろう」


 決まっていることなのだろうか。


 私は初めて強盗に出会ったのだ。


「私、ここで降ります」


「こんなところで!?」


 走り出した馬車から飛び降りる。


 私はチョーカーを手首に巻いていた。


 生徒の中には冒険者がいないそうだから、首から外していたのだ。


 馬車の乗客は誰も私のことを冒険者だとは知らない。


 私は恥ずかしくなった。


 冒険者であれば、強盗から馬車を守ることは当然の義務なはずだ。


 いったいお兄ちゃんに何を教わってきたのだろう。


 急いで駆け出す。


 彼らはまだ視界に入っていた。間に合うはずだ。



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