36 ボルザとエミルを探しに
絶命したドッペルゲンガーが黒い霧となってかき消えた。
七級だってすぐに見分けがついた。
山育ちを馬鹿にするなよ。
こんなのは私の敵じゃない。
「じゃあ、約束通り、ボルザとエミルを助けに……」
ところが男たちの反応は、私の予想と違った。
「いやいや、ちょっと待て。こんなに弱い魔物だったのか?」
「くそったれが。どいつが魔物かわかっちまえば七級でも倒せるってか」
恐怖に混乱していたはずの彼らだったが、私があっさりとドッペルゲンガーを倒したのを見て手のひらを返し始めた。
なんだか、嫌な予感がしてきた。
「ボルザとエミルを助けに行きたいのですけど」
私の頼みに、冒険者たちは好き勝手にわめく。
「ふざけんな。サポーターのことなんか知るか」
「助けに行きたいなら金を出しな。大金貨で十枚、いや二十枚払えば行ってやるぜ」
どうしよう。金貨を取り出して彼らに渡すか……。
「まあ、七級がそんな大金を持ってやいないだろうがな」
ぎりぎり二十枚ならあるけど。
「たくっ。貧相な装備しやがって。袖も破れてるしよ。鎧くれえ買えねえのか」
金持ちが貧乏人を馬鹿にするかのように見下してくる。
ものすごく感じが悪い。
冒険者ってみんながこんななのか?
こんなやつらに金貨なんて払いたくない。
私は彼らの痛いところをつく。
「でも、あなたたちにさっきの魔物が見分けられますか?」
男たちは黙り込んだ。
ドッペルゲンガーと人間との違い。
パーティに紛れ込んで、他のメンバーをこっそり殺すわけだが、その高い身体能力が特徴だ。
たとえば私が地面をこつんと靴で叩く。
微振動が相手に伝わる。
フレア様やライラさんは血の匂いやわずかな振動に気がつかなかった。
きっと都会育ちなのだろう。
山育ちの私は非常に敏感なのだ。
そしてドッペルゲンガーも同じく、危険を察知して無意識に自分の身を守る行動をとってしまう。
瞳孔の動き、筋肉のこわばり、体温の上昇、発汗、息の乱れ。
ドッペルゲンガーが見せた警戒行動を見逃さなかったというわけだ。
「ちっ。くそが! 仕方ない。パーティに入れてやる」
「七級といっしょかよ。俺たちも落ちぶれたもんだ」
「いらなくなったら追い出せばいい」
「使えないとわかったら、すぐに追放してやるからな」
私が同意もしていないのに、勝手にパーティに組み込まれた。
「じゃあ、上へ行くぞ。はやくここから出るんだ」
「ちょっと待ってください。本当に仲間を助けに戻らないのですか?」
第一階層にはフレア様がいる。無事でいてくれたら下へ降りてきているかもしれない。
上へ登ってフレア様と合流するということも考えられるが、この男たちは逃げ出すことしか考えないだろう。
私は下へ行きたい。
「お前はあの惨状を目にしていないから、そんなことを言えるんだ」
「いったい何があったのですか?」
もともとは二十五人もの大所帯だったらしい。そこから一部が逃げ出し、六人になった。うち一人はドッペルゲンガーだったわけで、五人となってしまったのだが。
しかし、問題はドッペルゲンガーだけではない。
別の親玉らしい魔物がいた。
戦闘になったが、とても歯が立たなかったそうだ。
彼ら一人ひとりを捕らえ、天井に吊るし始めた。
無抵抗の人間の首を斬り、腕を斬り、足を斬り……。
まるで、もてあそばれているようだったと彼らは話す。
なんとかこの六人だけが隙を見て逃げ出したらしい。
ボルザとエミルは大丈夫だろうか。
急がないと。
「ドッペルゲンガーをこちらによこしたということは、あなたたちを一人ずつ殺し、最終的には皆殺しにするつもりだったのではないですか?」
「そうかもな」
「もしドッペルゲンガーが死んだとわかれば、その親玉らしいやつがやってくるとは考えられませんか?」
「だったら、どうしろと!」
「七級が指図なんてするな!」
「わかりました。では、ここで別れましょう。私は一人で下へ行きます」
「そんなことが許されるわけないだろう。命令に従え!」
なんだこの偉そうな態度は。
ぶんなぐってやりたい。
でも、七級の私が敵うわけもなく。
ちょうど大金貨なら二十枚持っているので、それを払うしかないのか、と考えた時。
いい案が浮かんだ。
フレア様の立場を利用することにした。
「実は、私はフレア様といっしょにこのダンジョンに入ったのです」
「誰だ? そのフレア様というのは」
「特級冒険者です」
「と、特級……」
パーティのメンバーはざわつく。
首元のチョーカーを見るに、彼らは全員二級冒険者だ。
「お、おい。そのフレア様ってのはいったいどこに……」
私は無視をして、質問をする。
「あなたたちはどこでサポーターとはぐれましたか?」
「おい、先に俺の質問に答えろ!」
「いえ、大事なことなんです」
「この先の階段を下に行ったところだ」
「ああ、偶然です。まさに、私がフレア様とはぐれてしまったすぐそばじゃないですか! 驚きです。こんな偶然がありますでしょうか!」
男たちはじとりとした目でこちらを睨む。
疑っているように見える。
私の嘘がばれてしまったのだろうか……。
「ほんと……なのか……?」
「特級冒険者なら……」
何人かが私の話を信じ始めた。
「そうです。フレア様と合流すれば、安全にダンジョンから出られると思います。なにせ、七級の私ですら、何事もなくここまで来れたのですから」
実際は全然平気ではなかった。死にかけたのだから。
「特級冒険者のフレア様ならきっとここから救い出してくださることでしょう」
男たちは私の話に耳を傾ける。
「そういえば、すぐ上の階層にはとても恐ろしい魔物がいましたね。私はフレア様がいましたから平気でしたけど」
私は嘘に嘘を重ねる。
「不思議です。一級冒険者をあっさりと殺してしまいそうな、怖い魔物がすぐ上の階層にいたんです。ああ、とても不思議です。きっと敵の親玉が私達を逃さないために配置したのではないでしょうか。フレア様がいなければ絶対に外へ出られませんね。どうしましょう」
平常時なら簡単にバレていた嘘だ。だが、非常時には冷静な判断ができないものだ。
「きっとみんな死んでしまいます。ああ、特級冒険者のフレア様がいてくだされば……」
これがダメ押しになった。
「くそっ。メンバーで決を採る。七級を除いてだ!」
すぐに結果は出た。
「なんとしても、その特級冒険者と合流する」
扱いやすい人たちだと思った。
最初に大金貨を払えば行くと言っていたので、袋から取り出す用意をしていた。
払わずに済んで金貨が浮いた。
こんなやつらには銅貨一枚たりとも払いたくはない。




