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29 特S指定

「ささ、特Aに指定される前に急いで依頼を受けましょう。三人で」


 機嫌よくフレア様が話す。

 仕方ないといった感じでメルダさんが書類の準備をする。


 ところが、私は冒険者組合の中に誰もいないことに気がついた。

 広い組合の中にこの四人しかいないのだ。


 入り口に目を向けたときだった。勢いよく扉が開かれた。


 男が大きな声を上げながら近づいてきた。


「メルビスの壊滅は特Aではない。特S指定の依頼となる」


 ずかずかと乱暴な足取りで一人の男が入ってきた。冒険者としての装備ではなく、全身は黒い服を身につけている。上着は金ボタンで留められ、首には襟章が光る。


 開かれた扉からは外の様子が見えた。


 何匹もの騎獣と魔獣が入り口の前で陣取っている。そばには黒い服の男や鎧の男が何人もいて、入り口を封鎖していた。


 王国騎士団の下部組織は馬に騎乗しているが、兄が率いている上部組織はあのような騎獣や魔獣を操っている。兄も家に帰ってくる時は乗っていたから見たことがあった。


 その向こう側には、入るに入れないでいる大勢の冒険者たちの姿が見えた。


「私は王国警ら隊、第二師団長のユニシールだ。今からこの組合は王国警ら隊および王国騎士団の管理下に置かれる」


 遅れて組合に入ってきたのは、全身を鎧で包んだ男だ。がしゃがしゃと金属音を鳴らしながら歩いてくる。


「我は王国騎士団、第三部隊長ダイモス。お前たちはいったんここから出ろ。今からは我らの命令に従ってもらう」


 強い命令口調で私達に詰め寄った。


 そんな彼らに物怖じせずにフレア様が前に出る。


「まずはご説明願えるかしら」


 ダイモスはフレア様の首元を見た。首元に光るのは七つ宝石のチョーカー。特級冒険者の証だ。


 慌ててダイモスは頭を下げた。


「おお、フレア様ですね。これは大変失礼いたしました。あなた様の姉であるフレイル様の命令で我々はここに来ました」


「そうなの。どういうことかしら?」


「フレイル様からの伝言でございます。リドルタまで足を運ばせて申し訳ないが、即刻この件から手を引くように、とのことです」


 明らかに説明が足りない。どういうことだろうか。


 フレア様は眉をひそめながら返す。


「姉は来ないのですね」


「はい。フレイル様は現在、王都に入られております。代わりに序列第二位の御方がまもなく到着されます」


「序列第二位ですって!? 姉より二つ上もではないですか!?」


 どうやら、この国で二番目に強い人が来るそうだ。


 その人の二つ下ということは、フレイルお姉ちゃんはこの国で四番目に強いということになる。


 私はそんな人に遊んでもらっていたなんて驚きだ。


「フレア様ならおわかりかと思われます。二位ということは、この国における最強の冒険者が動くのです」


「ええ、第一位のあの御方が動くわけにはいきませんしね。いったいどうしてそんなことに……」


「今回の件はそれだけの大事になってしまったということです。今からご説明いたします」


 ダイモスの言葉が終わると同時に、師団長ユニシールが私達に向けて威圧的な声を出す。


「では、他の者はすぐに出ていってもらおう」


 ライラさんが一歩前に踏みでた。


「私は一級冒険者のライラ。話を聞かせてもらうわけにはいくまいか」


「わたくしからもお願いします」


 フレア様が頭を下げる。


「ふむ、まあ、フレア様がおっしゃるなら……。かまわないでしょう。ではそこの受付の女と小娘、お前らは関係ない。さっさと出ていけ」


「フィルも残ってはだめかしら?」


 フレア様が哀願するような顔で、私の肩を抱く。


 部隊長ダイモスが私の顔を見つめてきた。何かを思い出すように強面の顔を和らげる。


「フィル? フィルとおっしゃられたか。もしやこれは……。もしやフィル様であられますか?」


 フレア様がにっこりと微笑む。


「ええ、あなたの上官、ルディアス様の妹です」


 慌ててダイモスが片膝を付いた。私に向けて頭を垂れる。


「ダイモスです。覚えておられませんか。ああ、無理もないですね。フィル様は小さくてあられた」


 ダイモスは床に顔を向けたままで恭しく語り始める。


「よくあなた様を抱かせていただいたのですよ。私めに微笑みかけてくださいました」


 話を聞くと、どうやら私が小さい頃にダイモスとは会っていたようだ。でも、私はまだ一歳だったらしく、記憶には残っていない。物心がついた時は山に住んでいたが、その前には時々王城にも行っていたらしい。


 結局、メルダさんだけがこの場を出ていくことになった。


 私とフレア様、ライラさん、そして部隊長ダイモスと師団長ユニシールが残されている。


 フレア様がダイモスに尋ねる。


「いったい何があったの? 地下組織メルビスの壊滅依頼が特S指定とはどういうこと?」


「フレア様なら、超絶級という階級をご存知ですよね? 国家直属の冒険者です」


 ダイモスが超絶級について解説を始めた。


 超絶級の存在は、そのまま国家間の勢力となっている。


 この国であるモルク王国には四人の超絶級冒険者がいるが、序列第一位は動くことができないために実質的には三人となる。


「超絶級冒険者が今回の件とどう関係が?」


「メルビスの背後で、他国の超絶級冒険者が糸を引いていることが判明しました。そやつがメルビスを利用していたのです」


 隣国であるドレイン共和国、ラインハルト帝国、ソヒィスト信仰共同体においては推定で二人から四人の超絶級冒険者がいるとダイモスは語る。そのうちの何者かが国内に潜伏していることが判明したらしい。


「それで姉が急いであなたがたをここによこしたのですね。リッチと魔物の大群もその超絶級冒険者の差し金ですか?」


「おそらくは」


「どうやら、わたくしたちの出る幕はなさそうね。それで、あなたがたは何を計画しているの?」


「我が国に潜入した超絶級の抹殺です。まだ相手には悟られていません。これは絶好の機会なのです」


 現在は国家間の戦力に大きな差はないと考えられているそうだ。


 だが、超絶級冒険者が一人失われるだけで、その国の戦力は著しく下がる。超絶級を一人殺せば、この国が優位に立つことができるということだった。


「潜伏しているのはリドルタ近郊の大規模ダンジョン地下十三階層。まさに袋の鼠といえます」


「それでわたくしたちの仕事は?」


「あなたがたにはユニシールの指示に従って、ダンジョンの封鎖をお手伝い願いたい」


 横で会話を聞いていたライラさんは頭をぼりぼりとかく。


「まいったな。あそこにはボルザたちが」


 ライラさんの言葉に、私が尋ねる。


「どういうことですか?」


「今日の午前中にさ、ボルザとエミルを送り出したんだよ。となり街の冒険者組合が一級と二級のパーティで十三階層を目指すことになったんだ。それで、この組合からサポーターを出して欲しいと依頼があった」


 大規模ダンジョンはリドルタで専有しているものではない。しかし、近隣の冒険者組合が中に入る場合はこうしてリドルタ側からサポーターを出すことが慣例としてあるそうだ。


 私は二人を心配する。


「すでにダンジョンの中に入ってしまったでしょうか」


「おそらくな。でもまあ、大丈夫だろう。まだ今からなら追いつけるさ。せいぜい一階層か二階層だろうから」


 その時、突然に部屋の中央から声が響いた。


「ならぬ!」


 いつのまにか黒ずくめの男性がいた。ここにいる誰もが彼の存在に気がつけなかった。


 大柄の全身を漆黒の鎧で包んでいる。全身からはどす黒い不気味なオーラが放たれているようだった。頭を覆う兜からは目だけが覗いている。鋭い眼光は私達を威圧していた。


「そのままにしておくのだ。いい餌となる」


 悪意に満ちたような、低く恐ろしい声だった。彼がしゃべると、部屋全体が震えているように錯覚する。


「ネガルタ様、お早い到着で」


 ダイモスとユニシールが頭を下げる。


 二人は慌てる様子もなかった。彼の出現を予想していたからだろう。


 おそらくこの黒ずくめの男が序列第二位なのだ。


「余計なことはするな。取り逃がすことになる」


 私達がダンジョンに入らないよう、釘を差してきた。


 その言葉には強制力を感じた。


 ネガルタは師団長のユニシールに耳打ちし、ネガルタの代わりに説明する。


「いきなり冒険者が理由もなく帰ったら怪しまれてしまいます。しかも目的地は十三階層と非常に都合がいい。向こうは弱い冒険者がやってきたと思って油断するでしょう。ネガルタ様は餌に食いついてきたところを急襲するおつもりです」


 どうやらボルザたちのパーティをわざと襲わせるようだ。


 ボルザとエミルは大丈夫だろうか。


 嫌な予感が胸をよぎった。



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