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14 蒼の放浪者 6


 『彼、彼女』は、ものの数秒足らずで遥か頭上に発生し渦巻き始めた黒雲を、静かに穏やかな心持で見つめていた。


「これで――終わりでは無いのでしょう?」


 自らの死を告げるおぞましい怪音が、黒雲に空いた小さな穴から、この上なく嬉し気な声を上げ迫りくるのと言うのに『彼、彼女』が動じることは無い。

 むしろ、次々と繰り出される手品に見とれる楽しみに待つ子供の様な心持で、小さき者達の次の一手を見守っている。

 星明りを覆い隠す黒い積乱雲の所々には、青い稲妻が幾重にも走り、雲の密度を窺わせる。

 ただ、それは常人の瞳に映る光景であり、景色だ。

 故に『彼、彼女』の常在ならざる魔の瞳に映る景色は、常人とは異なる。

 無数、それも数十ではなく、数百にも及ぶであろう魔力の線が渦巻く様を『彼、彼女』の瞳は、手に取る様に見て取っている。魔力線に内包される術式までは見て取ることは出来ないが、色、大きさ、そして長さ、までも『彼、彼女』は、雲の厚みを無視して見通している。

 色とりどりに輝く魔力の線は、オーロラにも似た不確かな儚い光を纏い、積乱雲の如き黒雲に空いた小さな径より、迫りくる死を意味する怪音に先んじて雲を形成する数百の魔力線より分かたれた数十の魔力線が、その直下の地面に埋まる己が身へと降り立ち、周囲を取り巻く様に渦巻いている光景に、『彼、彼女』は、見惚れていた。


(――あぁ、やはり何時見ても美しいですね。魔術の織り成す光景と言うのは……おかしな魔道具に頼っているとは言え、それでも三分の一は、実力。……見事です。

 その程度の冠位魔力しか持たぬ身で――本当に見事です)


 巨大な深紅の双眸を閉じることなく、この最後となるであろう光景を記憶に収めようと、脳裏に焼き付けようと、溢れ出る大粒の涙にも構わず『彼、彼女』は、幾度となく閉じかかった目蓋に活を入れ、静かに胸中で――賛美を送る。


 詰まる所、『彼、彼女』が見ている光景は、魔力の放つ通常の物理における光の波長とは異なる働きの、魔導学における光の働きだ。

 どちらも純粋性物理学や魔導学と言って、便宜上分けられているが、実際には、どちらも物理現象に過ぎない。

 ただ、魔力という物質と通常物質の結合密度と量による有無の差に過ぎず。

 故に、魔術とは超常でもなく、必ず原因と結果。そして課程が存在する、すべて説明可能な物理現象という事であり、すなわち――《法則》そのもので、《原理》そのものだ。


(あぁ、そういえば『あの人』も言っていましたね。「同じ死であるなら、散るなら……桜のようにパッと散ろうではないか」と)


 万を超える正真正銘の化け物の群を前にして、あっけらかんと、そう笑う『友』の霞の掛かった姿を『彼、彼女』は、思い出す。


(あの時、私は、「死んでどうするのです」とたしなめる様に言ったが、今にして思えば、あれは……見当違いの返答だったのでしょう)


 『友』の浮かべた苦笑いを『彼、彼女』は、今になって思い出し、振り返り、答えを見出した――数百年越しの、答えを。

 そんな『彼、彼女』に、古い『彼、彼女』の記憶は、意思を持つかのように、次の記憶を脳裏に映す。


「いつか分かるさ。まぁ、今は、コレを生き抜いてからだな」タワーシールドのように大きな笹の葉の様な形状の楯をを構え、少し変わった両刃の大剣を抜き放つ『友』は、私に……確か……。


 『彼、彼女』の焦点の定まった瞳は真っ直ぐに正面に立ち塞がる大楯を構えたマーカスを視界に納めるも、最早、『彼、彼女』瞳には、何も映っていない。ただ、頭の中を走馬燈が駆け巡るだけだ。

 静かに介錯を待つ罪人のように佇む『彼、彼女』の首に振り下ろされた刃は、柱であった。

 断頭斧の役目を果たす柱の径は、光線渦巻く幻想的な積乱雲に空いた径と同じであり、地上より雲までを一直線に貫いた。

 柱自体は色を持たないのか、星明りと闇夜の黒を混ぜ合わせたような湾曲した色の揺らめきを纏っている。

 たった、四メートルの穴から伸びた揺らめく柱は、『彼、彼女』に到達するや否や、ふさふさとした長い群青色の毛にミステリーサークルにも似た円を作った。

 長い毛は時折はためくも基本的には四方八方へと真っ直ぐに伸び、揺らめく柱の勢いを物語る。

 巨大なオオカミの背へと柱が達すると同時に、爆風の如き強風が円状に吹きすさび、固定の甘いものは重さを感じさせる事無く空へと舞い上げ、建造物は飛ぶことは無いが、ドミノのように押し潰された。後に残る光景は、さながら爆心地の様相を呈していた。

 だが、巨大なオオカミを中心とした轟く風は、瞬間的なものではなく、連続的に吹きすさび、荒れ狂う。

 その様な竜巻の外周ような中にあって、不動の影が三つ。

 どういう訳が、祈るような姿勢で地に膝を着くリーリエは身に纏う鎧とローブ、そして髪を激しくはためかせるも、彼女自身、動く気配はない。

 面積上、最も多くの風を受けて然るべき大楯を構えたマーカスも、身に着けた鎧や衣服は激しくはためくが、本人は動かない。動くのは短く切り揃えた髪だけだ。

 ゼシキに至っては、柱が降り立ち突風が吹き荒れた始めの一、二秒だけ不動を貫くも、すぐに動き出し、今や再びマーカスを楯に地面にめり込むよう突き立てたプレート型矢筒から飛び出した攻城弩弓に使用される矢よりも、少し小振りな太さの矢を右手の指の間に四本挟み込み、アンダースローに構えた投擲姿勢を取っていた。


「ふゥゥゥゥううウウウッ!!」


 鋭く息を吐きながら、ゼシキはその場で素早く一回転、半回転し、直上へと投擲する。

 瞬間風速は降り立った当初よりも、多少は落ち着きを見せるも、それでも瞬間風速百メートルを優に超える連続した風の海の中、手突矢(てとつや)の如く、直上へと投擲する。

 そこに何かを狙うという意図は感じられず、ただ上へと投げれは問題ない、そう言わんばかりにゼシキは、一回転半後の体側の反対へ伸びた手で、既に再形成された四色の矢を掴み、今度は逆袈裟切りの要領で腕を構え、逆回転で――投擲する。

 左回転、右回転、左回転、右回転と一秒間にに左右に四回転半、動く。

 少しでも再投擲時間を短縮しようと、同方向への回転ではなく、逆回転という選択を取るゼシキが反転に際し踏みしめる地面は、回転のたびに足形にあった小さなクレーターを作る。

 投擲された矢は、大弓で射られた矢と同様、赤色、青色、黄色、茶色の矢だ。だが、矢の長さはさらに長く、太さに至っては大弓で射っていた矢を四本合わせたような太さだ。 そして、地面に固定されたプレート型矢筒からは、矢が抜かれるたびに瞬時に新たな矢が形成し直されるが、その数は、先程大弓て言っていた時とは異なり、プレート一枚につき一本のみだ。


「チッ!」軽くゼシキは舌打ちをした。


 次の投射動作に入っていたゼシキの指は空を切り、プレート型矢筒は新たな矢の形成を止め、打ち止めを告げる。

 ゼシキが投擲した矢の総数は、二十四本。たったの二十四本だが、それら全てを投擲するのにかかった時間は三秒弱。 だが、投擲された矢は、内包された術式は大弓時と同じ、されどゼシキは矢に込められた術式に期待していない。期待するのは、重さと強度だ。

 投擲された矢は、一本当たり一キロ弱はくだらない重さを持ち、強度、靭性は四本分の矢を形成構築する魔力を一本に集中させただけはあり、総合的な耐久力については当然の事ながら四本より一本にまとめた方が強力だ。

 つまり、ゼシキは右手の指と指の間に、一キロ、一・二メートル前後の重さが分散した不安定な重量物を挟み込み、それを直上とは言え、投擲後十メートル程の地点で円錐状の衝撃波を発生させるほどの威力で投擲したのだ。

 新たな矢が飛び出すことの無いプレート型の矢筒の口からは、微かに細かな結晶の粉末が排出されている。その隣には、息を切らし肩を大きく上下に揺らすゼシキの姿があった。

 いくら魔力の作用の助けがあったとはいえ、人力でマッハコーンを発生させるほどの投擲は、かなりの負荷が掛かるのだろう。

 投擲された矢は、荒れ狂う風の中を真っ直ぐに上昇し、数百メートル上空の雲の真下まで、到達した。だが、そこまでだった。そこで矢は勢いを完全に失った。

 揺らめく柱は副次効果として暴風を発生させた。だが、発生した風が猛威を振るえるのは地上付近のみ。正確に言うならば、汚染された巨大なオオカミの直上五十メートルより下の範囲のみだ。

 それより上に上昇するにつれ、風は穏やかになり、地表より上空四百メートル地点ともなると、嘘のように風は凪いでいる。すぐ上には、積乱雲と同様の構造の雲があるにもかかわらず……風は何処までも穏やかだ。

 たった、五十メートルとは言え、嵐の如く荒れた大気の中を通過するのは厳しかったのか、力尽きた四色二十四本の矢は、黒雲の真下で自由落下に入る。が、落ちる矢の軌道は何かに導かれるかのように、揺らめく柱へと近付き、接触する。

 揺らめく柱と矢じりが触れ合うと、矢じりを中心に矢は回転を始め、矢羽根が大きな円を描く様は、まるで円錐形のドリルのようだ。

 二十四本の矢は、目に見えない透明な壁に守られた揺らめく柱に穴をあけようとしているようにも、見て取れる。

 ほんの僅かな時間の僅かな回転ではあるが、一秒と掛からず、四色二十四本の矢は、百メートル近い距離を揺らめく柱を中心に高速で回転しながら渦を巻いて螺旋を描きながら落下し、柱の中に吸い込まれた。

 それらは何故か、柱に接触したタイミングも接触し続けた時間も異なると言うのに、一斉に吸い込まれたのだ。


 星の輝く夜空の光を歪めて移す色を持たない柱に吸い込まれた矢は、次の瞬間には、それぞれの持つ色を無視し、ただ単純に眩い流星の如き輝きを放ち、お行儀よく一列等間隔に並びながら――落下した。

 二十四の青白く発光する矢は、光の粒となり、揺らめく柱が叫ぶ歓喜とも悲鳴ともとれる相反するも似通った音階を持つ怪音の全てを打ち消した。

 先程まで耳鳴りの如く鳴り響いていた人を不安にさせる不快な怪音が唐突に聞こえなくなったことに、一抹の不安を抱くも、代わりと言わんばかりに頬を叩く様に吹き付けてくる風が、長い髪も短い髪も関係無いと言わんばかりに頭皮ごと引っ張る痛みに、気を取られ、不安どころではなくなる。

 怪音が消えたことで、吹き荒れ幾重にも重なりあう風音が一つ、二つとハッキリと聞き分けられるようになり、深い集中状態に入った時の様な、ある種の全能感に包まれる。が、あながち間違いではない。

 耳が拾う風音も、吹き付ける風が波立たせる尺取り虫にも似た皮膚の蠕動(ぜんどう)も、何処までもゆっくりであり、流れ落ちる水あめの如く、スローだ。

 まるで、時間の進む速さの異なる世界に足を踏み入れたかのように、あらゆる動きが遅く見える。

 ゆったりとした時の中、彗星の如く煌めく二十四本の矢だけが、遅くなった時の流れをコマ割りの少ない映写機のような速さで――進む。

 常人の瞳には、数珠つなぎに落下する二十四の矢が放つ、純粋性物理学と魔導学の法則が織りなす苛烈な閃光は、黒雲と地上とを繋ぐ、一筋の光の柱にしか映らないであろう。

 鋭い光を放つ光柱は、現れてすぐに蛇口を閉められた水のように黒雲との繋がりを絶ち、吸い込まれるように地表へと消える。

 後に残るのは、閉じた目蓋の上からでも容赦なく、自らの光量と存在を激しく伝える光の陰影だ。

 現れてから消え去るまで、あまりにも短い寿命で、消失した光柱の消えゆく様は、放った苛烈さとは程遠い静かのものだった。

 大気圏にラブコールを拒否された流れ星の様に、さらなる激しい閃光の、最後の光を放つ事も無く、ロウソクに灯る明かりが芯を燃やす最後の強い炎の揺らめく光を放つでもなく、本当に静かな何も濁さない、退場だった。

 二十四の光の粒が織りなす一筋の光の柱は、本当に何も残さなかったのだ。

 既に消え去った相反する二つの感情を混ぜたような不快な怪音はおろか、水中にいるかのような強い風圧も、退場させたのだ。当然、風圧が消えたという事は、発電機の駆動音にも似た無数の風切り音も、退場だ。後に残ったのは――。


 ――完全なる静寂。


 ――完全なる無音。


 などと大仰に言ったが、事実、先程のまでの高緯度に近い日本海の荒波に木造の小舟で放り込まれたかのような荒れ狂う大気下の現象は、身の一切を潜めた。

 その在りようは、音や風を発生させ伝える純粋性物理気体の分子の引き起こす現象も、魔力の働きをも伝えることの無い、特殊条件下真空――通常の真空。例え、気体の分子が一つも存在しない極高真空下においても、一定以上の密度を持つ魔力分子は存在する。が、特殊条件下真空は低真空状態でも一定密度以下の魔力分子は存在しない。――の範囲内に包み込まれたかのような、静けさに包まれた。

 先程まで激しく鼓膜を揺らしていた音と、肌を揺らし髪を引っ張っていた風がピタリと止むという急激な環境の変化に、常人ならば強烈な不安を覚え、脳は外部の情報の急激な変化に混乱し、神経系のショック症状にも似た状態になっただろう。下手をすれば、心停止になった可能性もある程の強烈なショックだ。

 だが、此処に常人はおろか凡人は居ない。居るのは、最高位冒険者次席たるクラス・ペタニウムの蒼の放浪者と、ロート村冒険者ギルド・出張所・所長エルザだけだ。

 懸念としては、武力、生物的強度で劣るであろうエルザだが、ギルド支給の高額装備に身を包んでいる以上、問題はない――だろう。

 故に、誰一人として打ち付けるような風圧の変化も、大型旅客機のジェットエンジンの騒音以上の風音も、意に返す事は無い。舞い散るだけの土埃すら綺麗に吹き飛ばされたのか良好視界、無風静寂の中、皆、次の現象に備えた――魔力エネルギーと純粋性物理・運動エネルギーの変換は、まだなのだから……。


 ――が、彼らはやはりどこか抜けているのだろう。これら一連の戦術自体は、それなりに馴染んだ類だ。

 だが、短くも濃密な時間の中、ギガ・クラスの魔力充填地を全て、試作型一テラのプレート型魔力バッテリーを複数。そして自前の魔力を総動員。

 明らかな、過剰魔力の運用で現状を把握しきれていない。より正確に言うなら、馴染んでいる術式と戦術の運用であるが故に、通常以上の魔力を込めた”結果”を予測し忘れている。彼らを擁護するならば、此度の依頼は例えると、備えに備えた地震対策に対して、空から隕石が降ってきたようなものだ。どうしようもない。が、彼らは間が抜けていてもそこは、ペタニウム級冒険者だ。

 それに彼らは、魔動機(誰でも使える道具)に頼る現代冒険者の中でも、どちらかと言えば、魔動具(個人の能力に頼る道具)を主体に使用してきた冒険者であり、かつ完全自己完結技術保有能力者でもある。

 だからこそ、失敗を取り返すことは出来なくても、失敗の最中に、失敗自体を軽減する判断による割り込みを掛ける事は、可能だ。

 少し離れた位置からある程度、全体像を把握するリーリナは、一秒に満たない時間の中、――魔力を巡らすことの無い純粋な日常生活の身体状態――四度の深い思考を巡らし、手足の僅かな挙動は外部反射ではなく思考の判断による迷い(電気信号)だと、身体反応を示す。

 一秒に四度の思考と身体反応――最早それは、人の領域ではなく、マモノの領域だ。


(!! しまった……かな。このままだと、エルザさんを――)


 何時の頃からか、この様な変わった語尾を使い始めたのか、リーリナはよく覚えていない。が、物心の付いた頃には、使っていた語尾だ。語尾に「かな」と付ける事で、少しやわらかい感じの話し方になる、この語尾と他の人が話す言葉使いに違和感を感じたのは……十を過ぎた年の頃だ。

 だが、村人はおろか兄弟姉妹たちもリーリナのこの言葉使いに、特に注意を払うことは無かった。

 もしかしたら、ある程度違和感を感じていたのかもしれないが、単純接触効果の影響か、はたまた気にするほどの事でも無かったのか、誰に何を言われる事も無く今日まで使い続けてきてしまった強い語気や速い言葉使いには適さない口調を心の中で荒げ、気の利かなさに恨む。


「――エルザさんッ!!」言葉が口を着く前に体が、自然と恩人へと向き「っあ……」


 鋭い焦りを十分に含んだ叫びにも似た声は、途中で驚きに変わる。


「リーリナ。ありがとうございます。ですが、私はギルドの正規職員ですよ。自身の身を守るだけのマジックアイテムは――」リーリナにアイスホッケーのパックに似た物体を投げ渡し、自らも同じものを足元に投げ――踏みつけた。

 アイスホッケーのパックに似た、または、大判焼きに似た麻布のような荒い質感の平たい円柱状の物体は、白く、表面に青く光る凸型レンズの様な結晶が埋め込まれている。

 平たい円柱状の物体は角度関係なく、踏まれた衝撃によって起動し、直径三メートル程の薄く青い水の膜に似た球状結界を展開した。「――もってますよ。あなたも使ってください。それと、自前の魔力を使い過ぎていますよ。未熟です」


(!? ……魔力量が見えている!? ……いえ、違う……かな。これは、たぶんエルザさんの観察能力が優れているから……かな? あぁ、もうっ! 本当に昔から、エルザさんはッ!)


「ありがとうございます!」大声で少し離れた場所にいるエルザにお礼を言いつつも、ある事実に気が付き即座に、冒険者ギルドに所属した時に教わったバンドシグナルで、感謝を伝える。

 リーリナは、見たことの無い、おそらく最新型の魔動機と思われる魔動機を(魔動式地雷みたい……)と心の中で不安を滲ませながら、踏みつける。


(あぁ、やっぱり、この結界。純粋性物理遮断のふり幅が少ないかな。中の音も外の音も、断っちゃってる……)


 エルザとリーリナが結界を展開した次の瞬間、地面が爆ぜた。

 比喩でもなんでもなく、文字通り、地面が爆ぜたのだ。

 一辺が数メートルはくだらない大きさの、岩石と見まごう土くれが隆起したのだ。勿論、ただの土くれなら、岩石という表現は大げさだ。

 だが、隆起した土くれの塊は、間違いなく岩石と表現するにふさわしい大きさと硬度を備えていた。ならば何故、ただの村の広場の地面が、その様な硬度を備えるに至ったのかという疑問が残る。が、答えは簡単だ。リーリエだ。彼女が汚染された巨大なオオカミの動きを阻害するために、オオカミの足元の土の密度を変えたのだ。

 土の密度を緩め、汚染体を地面に沈め、再び固めた。圧倒的な圧力を持って……。

 ならばこその硬度という訳だ。


 数トンは軽く超える大きさの土の塊が、土埃の様な軽々しさで宙を舞い、地殻変動の如き破壊をロート村・石の剣広場を中心とし、約百メートルの直径に亘って円状に、引き起こした。

 足元から崩壊する破壊の波の前には、石剣の刺さった台座とその周りを囲む噴水の広場を中心に、円状に建ち並ぶ今までの破壊にかろうじて原形を留めていた建物も、根こそぎ倒壊した。例え、建築当初の耐久力があっても、足元から崩れたのではどうしようもない。その上、空からは軽石であるかのように圧縮された重く、硬い、土くれが火砕流よろしくと、局所的集中豪雨の如く――降り注ぐ。


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