アルベルトの冒険~⑦
「アル!駄目よ!!」
「ん・・・逃げて!」
二人の恋人の声を背にトップスピードで暗黒竜王の居る台座に向かって間合いを詰めるアルベルト。 さっきまで室内に充満していた膨大な魔力が台座に向かって移動しているのが判る
竜種の最大の攻撃であるブレス。 自身が内包する魔力だけでは無く空間に漂う魔力すらも吸収して放つその威力はマーリンとアルベルトが共同で張った障壁であっても防げるものでは無い
暗黒竜王が普段から漏れ出している魔力が充満しているこの部屋の中ではその威力が増すことは有っても減じる要因は全く無い。 しかし仮にブレスを躱したとしても背後にいる恋人を含めた仲間たちは塵も残さず消えてしまう可能性が高い
なのでアルベルトは走る。 間合いを詰めてブレスを放つ事自体を防ぐことがこの場での最善手と判っているのだ
「俺らも間合いを詰めるぞ。部屋の隅に沿って散開しながら走れ!」
バイマトも即座にブレスに巻き込まれない様に散開を指示する。 通路を戻るかアルベルトの様に距離を詰めるか難しい判断だが、通路を戻った場合はそれこそ避ける場所すらなくなってしまう
ブレスが拡散する前に距離を詰める事でその軌道から逃れる事を選択、更に散開する事で全滅を避けるという、ある意味運任せな指示であるがこの場合は仕方がないだろう。 それだけ転生竜という存在は人智を超えた存在なのだ
『アル、判っているな』
「うん、一応は障壁をお願いできる?」
マーリンの曖昧な問いに障壁の展開だけ頼んだアルベルトは自身の魔力をありったけ自身の身体に纏い、その身体能力の底上げだけに全力を注ぐ。 巻き上げた砂埃がアルベルトの後方に渦を巻く様に舞い上がる。 ただひたすら早く、一秒でも早くそこに到達する為に剣すら抜かず暗黒竜王の元へと疾走する。 攻撃の手段など考えている場合では無い、先ずはかの竜の居る場所へと近づかなければブレスを防ぐ手段は無いのだ
思ったよりも高い位置にある台座、やっとその元へとアルベルトが到着したその時、暗黒竜王へと吸い込まれていた魔力の流れが止まる。 それはブレスを放つ準備が出来たという事であり竜種が誇る最大の攻撃が正にいま放たれようとしていた
『まだだ、まだ終わらんよ!』
金髪サングラスの人の様なセリフを吐きながら、マーリンが障壁を拡大するようにその形を変える。 防ぐのではなく受け流すように角度を調整してその衝撃に耐えようとする
此処まで近づいたアルベルトはブレスの被害を逃れる事が出来るかもしれない。 しかし後ろの仲間たちは散開したとはいえ安全とは言えない状態であった。 少しでも被害を押えるべく努力するマーリン。しかしそれを打ち砕く思念が頭の中に響き渡る
《ふはははは。その程度の障壁で受け流される物か試してみるがいい》
自身の攻撃に絶対の自信を持つ暗黒竜王が無慈悲な宣言をすると、眩い光が台座の上から漏れ出してくる。それが暗黒竜王の口、そこに込められたブレスの光だという事は確認するまでも無い
《ではさらばだ。小さき者達よ》
カッ!
暗黒竜王の思念と共にブレスの光が収束して閃光になる。 全員が死を予感しつつその無力さに打ちひしがれながらも、竜種の放つブレスを受ければそんな些細な事など関係ないと言うのに本能的に身構える
「・・・」
そよ~
来るはずの衝撃はいつまで経っても来ることは無く代わりに非常に爽やかな風がアルベルトの頬を撫でる
「えっ!?」
《な、何故じゃ。ブレスが発動せん!クッ、小僧!貴様何をした!!》
予想外の爽やかな風に驚いたアルベルトが恐る恐る片目を開けると、そこには同じように驚いている暗黒竜王がアルベルトに向かって憎悪とも驚愕とも知れない思念を飛ばしてくる
《チッ!妖し気な術を使いおって。ならば我が爪の餌食になるがいい!!》
バイマト達が何とか追いついた時には台座の上で暗黒竜王がアルベルトに向かってその爪を振り上げた処だったのだが・・・
「てい!」
ぺし!
「「「ぺし、って!」」」
アルベルトが転生竜に攻撃するには似つかわしくない軽~い掛け声と共に繰り出した平手でその頭を叩くとアッサリと地面に叩きつけられる転生竜・・・
《な、何をするのじゃ。高貴な妾に向かって酷いではないか!》
「「「しかも女の子!?」」」
高くなった台座に遮られ姿が見えなかった暗黒竜王。 しかし近づいてその姿を確認してみると圧倒的な魔力からは想像のつかない姿・・・何とも言い表し難いその姿は雛といって良いものだった
『ほっほっほ。よもや転生途中の転生竜がこんな姿とは思わんかった』
「マーリンも知らなかったの?」
『流石に儂も見た事は無かったし文献にも載っておらんでな』
賢者と呼ばれ世界の知識を極めたマーリンとて知らない事は知らないのだ。 と言うよりも転生竜の転生中の姿なぞ知っている者がいる訳が無いのだからしょうがないと思わなければいけないだろう
「で?、随分偉そうにしてくれたわよね」
「そうだな、不届者とか小さき者とか色々言ってくれたよな~?」
額に青筋を浮かべながら笑顔で迫るカイヤとバイマト。 しかも指をボキボキ鳴らしながら迫るバイマトはお説教モード(体罰ver)になっている
《ま、待て。話せば判るのじゃ。ほ、ほれ小僧、いやそこな高貴な少年よ助けてたもれ》
「ん~・・・駄目!」
《そ、そんな殺生な~!》
☆△☆△
キッチリとバイマトにお仕置きされた暗黒竜王。 しかし加減は弁えているバイマトが一応の手加減もしていたのでそこまで酷い状態にもなっていない
「んで?どうするんだコイツ」
《こいつとはなんじゃ!妾は誇り高き暗黒竜王ジョゼルだぞ》
「ああ~ん!?」
《な、なんでも無いのじゃ。許してたもれ》
凄むバイマトに思わず隠れるようにアルベルトの後ろに隠れるジョゼル。 その姿には威厳の欠片も有りはしない
「まぁまぁバイマト。反省してるみたいだし許してあげてよ」
「ん・・・甘やかし過ぎ」
「でも、コイツ成長したら厄介なんでしょ・・・だったら今のうちに、ねぇ?」
《な、なんじゃ。今のうちに何じゃと言うのじゃ!》
アルベルトがフォローするのだが、最愛の人を失うかもしれないとさえ思った二人の恋人は許すつもりも無いらしく結構過激な表情で追い打ちをかける
「まぁ今の内にってのは置いといて、現実問題として厄介なのは事実なのよね~」
『転生竜じゃからのう。仮にいま斃してもいつかは復活するだろう。その時に復讐とかされるのも困りもんじゃな』
一度転生竜にまで進化してしまえば、その生は尽きることは無い。 仮にいまその存在を消し去ってもそれは肉体的な意味だけで必ず復活はするのだ。 ここで恨みをかって子孫達に負の遺産を背負わせるのは忍びない
「そうだ!ねぇジョゼル。セイレケの街の守護竜になってみない?」
《何じゃと!妾に聖竜王の真似をしろと言うのか!》
アルベルトの提案に怒りの表情を滲ませてその提案を拒否するジョゼル。 因みに聖竜王とはアデル王国を守護すると言われている転生竜だ
建国王である初代の王との友誼、そして彼の子孫を護ると言う約束を守って今でも王国を護ってくれていると言う伝説の存在だが、ジョゼルの反応を見る限り伝説は本当らしい。
実際、伝説と言われるだけあって聖竜王の姿を見た物はおらず、よほどの事が無い限りはその力を振るう気が無いのは確かなのだろう。 サウスバーグ領が帝国の侵攻にあってもその姿を現していないのだからその基準はイマイチ判らない
「そう言う訳じゃないよ。ただ僕の街を護って欲しかっただけ。それにさ考えてみてよ、地理的に王国の玄関口ってセイレケの街になるんだよ?って事はセイレケの街を護るって事は王国を護るって事になるんだ」
《う、うむ。そうなるな》
「って事は聖竜王よりも先に王国の危機を救うって事だよね?」
《そうじゃな・・・》
「それって聖竜王よりも凄いって事じゃない?だって聖竜王が護れないのをジョゼルが護っちゃうんだよ!?」
《おお!そうじゃな。聖竜王よりも凄いか。という事は妾の方が彼奴よりも優秀という事じゃな!》
何とも簡単な転生竜であった。 詐欺の手口にもなっていない程度の簡単な三段論法、しかもちょっと考えれば判る詭弁にアッサリと勘違いしてしまうジョゼルに「大丈夫か!?コイツ・・・」という視線が集中する
しかし、「聖竜王よりも上」というポイントが気に入ったのか上機嫌のジョゼルはニヤニヤしながらご満悦だ
「それじゃあセイレケの街を護ってくれる?」
《良かろう!暗黒竜王ジョゼルがセイレケの街を護ってやろう。少年、名を教えろ!》
「アルベルトだよ」
《我、ジョゼルが名に掛けて誓う。アルベルトとの盟約によって永久にセイレケの街の守護を約束しよう》
ジョゼルが高らかに宣言するとアルベルトの左胸とジョゼルの左胸が光の鎖で結ばれる。伝説にある初代と聖竜王の盟約と同じ光景が繰り広げられる
《それではよろしく頼むぞ旦那様》
「ちょっと!聞き捨てならないわよ!!!」
「ん・・・馴れ馴れしい」
盟約の儀がなったとたん旦那様と呼びかけたジョゼルに抗議する恋人たち。 既に臨戦態勢に入った二人に負けずジョゼルも小さな身体で飛び上がりながら受けて立つ姿勢だ
「・・・これも女難って言うのでしょうか?」
「僕に聞かれても・・・」
思わず出たという感じのサームの言葉にアルベルトも困惑を隠せないのであった・・・
えっと・・・シリアスなバトルを期待していた方すいません。
ちょっと話が変わりますがお盆休み前の追い込みで投稿が不安定になるかも知れません。しかも部署替えの影響も徐々に出てきており、投稿のペースが突然変わる可能性が大きいです。
取敢えず日曜日の出勤は間違いなさそうなので、ひょっとしたら次の投稿は月曜になるかも・・・
何とか時間を作って可能な限り投稿していくつもりですのでご勘弁をm(__)m




