アルベルトの冒険~④
「う~ん宝箱とかは無いんだね」
「ああ、若い迷宮だからしょうがねぇだろうな」
順調に探検を続けているアルベルト達は既に四階層をクリアして五階層へと降りたところだった。 アルベルトが言う様に此処までの間に宝箱等のご褒美アイテムと言うべきものは存在していない。 冒険者たちが迷宮に籠る理由の一つである宝箱が出ていないのがアルベルトには残念なようだ
とはいえバイマトの言う様に出来てから時間のたっていない迷宮では宝箱の出現率は高くなく、仮にあっても中身はお粗末な事が多い。
何故、若い迷宮では宝箱が出ないのかは諸説あって詳しい事は判っていない。 一応は二つの説が有力視されており、一つは宝箱自体が侵入者を誘い出す為の餌で彼等が迷宮内で倒される事で迷宮の強化に繋がり、宝箱の中身が強化されるという説。 もう一つが宝箱は迷宮内の余剰魔力の産物であり若い迷宮は迷宮の成長に魔力を使っているので宝箱自体が少ないという説だ
しかし、前者は餌であるならば初めに魅力的な物を用意した方が良いと言う反論が、後者はどうして余剰魔力が人にとって有益な物に変わるのかという反論があり、学者たちの間でも色々議論が有るようだ
この議論の不毛な処は実際に迷宮に潜る冒険者たちにとって何の益も無い話で、彼等にとってみれば理由よりも稼ぎになるかならないかが重要なのであって学者たちの喧々諤々の議論など気にも留めて貰えてない事
更に、迷宮から魔物や魔獣が溢れだす事や冒険者たちの身の安全などの危機管理を担う冒険者ギルドや各国にしてみれば宝箱やドロップアイテムなどは副産物以外の何物でも無い。 なのでそんな議論をしている暇が有ったらもっと有益な議論をしろと言いたい訳で、研究している学者以外に誰にも必要とされていないというネタ的な物になっているのだった
「宝箱は無いけど結構良い物を落としてくれたわよ」
「そうね。雑魚ばっかりの割にはドロップアイテムは充実してるわね」
「ん・・・アルのお蔭」
魔物や魔獣を倒した時に稀に出るドロップアイテム。 迷宮内では魔物達の死体は消えてしまうが稀に魔石の他にアイテムを残していく事が有る。 これらをドロップアイテムと言うのだが、実はこれも宝箱と並んで学者たちを悩ませるネタである。 迷宮以外で生息する魔獣や魔物達では起きない現象であり謎ではあるのだが同じように不毛な議論になってしまっているのは変わらない
しかし冒険者たちの中ではステータスのLUKの値が関係している事は経験則で知られており、ヴィクトリアがアルベルトのお蔭と言ったのはその為であった。 尤も所詮は五階層と言う低レベルに分類される階層である為、高価なアイテムは出てきておらず俗にいうレアドロップ等はまだお目に掛かっていない、あくまでも出現率が高いと言うだけの話であった
「殿下ここからは魔物達の強さも変わります。油断無きようお願いします」
「うん、大丈夫だよサーム。でもありがとう」
苦労人のサームが言う様に五階層と言うのは一つの節目と言われている。 何処の迷宮もこの辺りで出てくる魔物達が一段階強くなる上に次の階層に行く前には中ボスともいえる守護者がいる事が知られている。その為心配性のサームはアルベルトに注意を促したという訳だが・・・
「ん・・・心配し過ぎ」
「そうね。この程度なら気にしなくていいんじゃない?」
確かに五階層に入ってから現れる魔物の強さも数も増えているが相変わらずアルベルトに一刀で斬り倒されておりオーバーキル状態なのは変わっていない。 その為他のメンバーは未だにまともな戦闘という物をしていないのだ
「まぁ色々溜まってたんだろうな」
「ちょっと書類も多かったからね~」
年長組がのほほ~んとアルベルトの活躍を見ながら頷き合う。 アルベルトの溜まった鬱憤を晴らすのに丁度いいと考えている様だった
実際、迷宮内に現れる魔物と言うのは他の場所と違って感情という物が無い。 基本的に侵入者を見つければ襲い掛かってくるだけのもので、恐怖や怒りを表す事も無いし集落の様な生活の痕跡と言った物は無い
ゴブリンやオークなどの人里に出てくる事で害を為す魔物達を討伐すると新兵の中にはトラウマが残ってしまう者もいるのだが、迷宮内ではそのような事が起きる事はほぼ無い。 確かに個人の倫理観によっては人型の魔物と言うのはやはり罪悪感を感じやすい物だ
しかし迷宮内に現れる魔物達はそういった感情を起こし難いと言う特徴が有った。 ゴーレム達を斃す感覚に似ているだろうか、あくまでも障害物として排除していると殆どの人間が思えるのだ
その為、普段なら多少なりとも罪悪感を感じるアルベルトも心置きなくストレスを発散できているのだ。 それを知っている年長組だからこそのほほ~んと見ている事が出来るのである
「バイマト~何か部屋みたいな所見つけたよ」
「おっ!そりゃボス部屋だ。ちょっとまて、一応みんなで入った方が良い」
先頭を走っていたアルベルトがバイマトに確認するように部屋の前で手を振っている。 ドロップアイテムと魔石を拾っていたヴィクトリアとエリザベスを促すように声を掛けてバイマト達がアルベルトに追いつく
「ん・・・如何にも」
「そうね。正しくって感じね」
「まぁ所詮は初めの中ボスだ。油断さえしなければなんてことはねぇさ」
入口と思われる扉の前で二人が感想を述べているが、何度も経験しているバイマトにとっては慣れた物で気負う必要も無い様だ。
「多分、ちょっと強めの魔物と取り巻き達がいる筈よ。五階層だから大した事は無いと思うけど、集中攻撃には注意して。エリザベス、私達は攻撃と補助を臨機応変にね」
「判ってるわ。そんなに信用ないかしら?」
「ん・・・無自覚怖い」
普段の魔術師にしては危なげな猪突猛進ぶりを思い出しながらエリザベスに注意を与えるカイヤ。 しかしイマイチ自覚の無い本人は何故そんな事を言われるのかと心外そうに答えるのだが、他のメンバーを代表したヴィクトリアの突っ込みを受けてしまう
「無自覚ってどういう・・・」
「ほら中に入るぞ!」
言い返そうとするエリザベスを遮る様に扉に手を掛けたバイマトが急かすように告げる。 ギギギィと錆びついた様な音を立てながら開いて行く扉の先は円形の広めの空間が広がっていた
「面白そうな奴がいるな左の奴は俺の獲物だ」
「ん・・・じゃあ私は右」
バイマトとヴィクトリアが取り巻きの中でも強そうなのをロックオン宣言する。 真ん中には守護者であるオーガと思わしき魔物が太い鉄製の棍棒を構えているので、それが必然的にアルベルトの獲物になる
「エリザベス!行くわよ」
「はい!」
魔法使い二人がそれぞれ違う魔法で雑魚達を一挙に駆逐する。 炎を巻き込んだ風が左側のゴブリン達を焼きつくし、氷の礫が右側のオーク達を凍りつかせる
バイマトがロックオンしたリビングアーマーが大剣を構えて待ち構え、ヴィクトリアの目の前にはリザードマン達が待ち構える。
「おらぁ!」
上段から振り下ろしたバイマトの大剣を下からかち上がるように斬り上げるリビングアーマの大剣がぶつかり合う。 そのまま二人とも体勢を入れ替え流れるように次の攻撃を叩きこむ。 弾かれた勢いをそのまま横の動きに変えたバイマトの大剣がリビングアーマーの首に迫るがそれを屈んで躱し、体当たりするように身体ごと前に突き進んでくる
重量級の魔物とは思えない動きの速さ、そして予想される衝撃。 しかしそれはバイマトが繰り出した膝蹴りであっさりと止められる。 再び距離を取りながら何処か楽しそうな雰囲気を醸し出しながら間合いを詰めてお互いの大剣を打ち付けあう。
今度は弾かれずそのまま鍔迫り合いに移行し力比べの様相に入る
「へっ!案外楽しませてくれるな」
「・・・」
物言わぬ鎧の奥の瞳が何故か同意するように怪しく光る。 しかしバイマトの表情にはまだ余裕が見えるのに対しリビングアーマーの身体はプルプルと震えているので力比べはバイマトの方が一枚上手の様だ
対してリザードマンの集団に単身突っ込んで行ったヴィクトリア。 彼女は以外にも近接戦闘を得意としていた。 種族的に高い魔力と闇属性の魔法に長けているが、それ以上に強靭な肉体を使った体術で、リザードマンの集団を殴り飛ばしている
身に着けた武器はナックルガードのみと言うシンプルな武装。 しかしその強靭な肉体と一挙に間合いを詰めるスピードを以って、どちらかと言えばタフな部類に入るリザードマンたちを一撃で葬っていく
彼等が使う長槍ではヴィクトリアに間合いを詰められてしまうと取り回しが効かない為不利になるとはいえ、掠らせもしない体術で死角からの攻撃をブチ込んでいく。 一応普段は良いトコのお嬢様チックな身なりをしているのだが、その戦いぶりにお嬢様要素は欠片も無い
「・・・集団の癖に長槍なんて使うのが悪い」
と、ヴィクトリアにしてみると自分では無くリザードマンが悪いという事らしいのだが、その動きは始祖の一族だけあって流石と言えるものであった
「グルルルルゥ」
そんな左右の戦いに興奮したのか唸り声を上げながらアルベルトを威嚇するオーガ。 大鬼族とも言われる彼等の種族は元々戦闘的で圧倒的な膂力から繰り出される一撃が恐ろしい魔物だ。 しかし本来のオーガは理性的な面も持ち合わせており、交渉で戦闘を避ける事すら出来る種族ではある
しかし目の前のオーガにはそのような知性は欠片も見えず、しかも普通のオーガより二回りは身体も大きい。 腕の太さなどはアルベルトの腰回りほどあるのだから、いくらアルベルトの線が細いと言っても異常な体格だ
「う~ん上位種?それとも変異種なのかな?」
「グルゥ?」
そんな異常なオーガを目の前にしても普段通りのにこやかな笑顔のままのアルベルトは剣を抜いてはいるものの下げたままスタスタと無警戒に近づいて行く。 その様子に威嚇していたオーガさえも疑問形の唸り声を上げてしまう程のアルベルトの動き・・・
「キンッ!」
「あはは、凄い!防がれるとは思って無かった」
無警戒の動きから一挙に速度を上げて、正しくその場から消えた様にしか見えない程の動きで斬り掛ったアルベルトの一撃は、しかし鉄の棍棒に弾かれてオーガの身に傷一つ付ける事が出来ない。
とは言え、流石に肝が冷えたのか先程の様に威嚇するのではなく両手で棍棒を構えるオーガ。 この種の魔物が構えて守勢に入るのは珍しいのだが、それアルベルトの動きを警戒しているのだろう
「・・・なんか影が薄い!?」
一応は後衛陣の護衛と言った役割のサームなのだがイマイチ活躍な場が無い。そんな彼の独り言は三人の前衛たちの戦いの音に紛れて消えていくのだった
ちょっと中途半端・・・
でも文字数が・・・




