2-27
「あれ!?なんで私・・・」
「大丈夫?回復魔法は掛けたからもう安心よ」
「そうだ!アルベルト様!!」
グレーターデーモンの攻撃を受け止めて重傷を負っていたエリザベス。 しかし今、彼女の傍らには薄緑の髪をしたエルフがその背中を支えていた。
「もう大丈夫よ、頑張ったわね。バイマトも居るからアルの事は心配いらないわ」
「カイヤさん?」
「つっても、俺の力なんざ必要無さそうだけどな」
「ん・・・無敵♡」
掛けられた言葉に自身を支えているのがカイヤである事を悟ったエリザベス。 まだボンヤリする頭ではあったが、スッカリ聞き慣れた声に仲間たちが来てくれた事を理解する
だが、未だ戦いの音は収まっておらず何故仲間たちがアルベルトの加勢に廻らないのかを疑問に思う前に、繰り広げられる戦いの様子が目に入る
「何アレ?アルベルト様・・・光ってる?」
「ああ、って、見たまんまだな」
苦笑交じりのバイマトの声。本来ならば彼こそが真っ先にアルベルトに加勢している筈なのだが、背中に背負った大剣は鞘に納められており其処に加わる様子は無い
「一体全体どうなってるの?」
「それは私達も聞きたいけど・・・」
「俺達が来た時にはもうアルがブチ切れてたからな」
カリュアーと別れて魔力の中心へと森を抜けて来たバイマト達が目にしたのは金色に輝く闘気を纏い、グレーターデーモンを圧倒するアルベルトの姿だった。 傍で血を流すエリザベスの姿を見つけて事情は何と無く把握できたものの、詳しい状況は彼等にも判っていなかった
「ん・・・凄い」
「ああ、アレは流石に俺でも苦労しそうだ」
グレーターデーモンを圧倒するアルベルトの姿に素直に驚嘆するヴィクトリア。 バイマトが苦労すると言ったのは果たしてアルベルトに対してなのかグレーターデーモンに対してなのだろうか。
「クッ!これなら・・・どうだ!!」
「遅い!」
グレータデーモンが繰り出す魔方陣から放たれる黒い光がアルベルトを襲う。 もう何度も繰り返された魔法をステップだけで躱すアルベルト。 だが、グレーターデーモンは躱される事も織り込み済みだったのだろう、躱した先のアルベルトに対して握りしめた大剣を振り下ろす
大剣は先程までとは違い禍々しいドス黒いオーラに包まれており剣で受ける事さえ憚れるものになっていた。 しかしアルベルトのショートソードは軽々とそれを弾き返す。
上がっているのは膂力と速度だけでは無い。 グレーターデーモンの漆黒の大剣に呼応するようにアルベルトのショートソードも彼が身に纏う金色のオーラと同じく光り輝いており、それが刀身を伸ばすようにして黒いオーラを弾き飛ばす
「はあっ!」
「ぐぅっ!」
弾き飛ばされた勢いで持ち上げられた大剣。 がら空きとなった胴を狙ったアルベルトの光の剣。 だが、グレーターデーモンは空いた左手を犠牲にしてそれを防ぐ
「ガァアア!」
「チッ!」
更に追撃を加えようと間合いを詰めるアルベルトにグレーターデーモンは苦悶の叫びを上げながら失った左手を触媒に魔方陣を生み出し、そこから繰り出された何本もの鎖がアルベルトを襲う。
ギンッギンと金属同士がぶつかり合う音が響きアルベルトが自身に迫る鎖を叩き落とすが、光を纏ったアルベルトの剣でもその鎖を断ち切れない。 左手を触媒にした魔法は今のアルベルトの攻撃ですら耐え忍ぶ程の強度を持ち敵を絡め取ろうと伸びてくる
更には体勢を戻し振り上げる大剣が鎖の間を縫って振るわれ、背後に現れた魔方陣からは黒い光がアルベルトの身体を貫こうと伸びてくる
だが、それは届かない。 アルベルトが振るう剣線は光の軌道となってグレーターデーモンが放つ黒い軌跡を叩き落とす。 輝く光と黒い光が触れ合う度にその軌跡は消滅する、しかし後から後から生み出される二つの光は相手を飲み込もうと、蹂躙しようとお互いの軌跡を潰しあう
「へ~結構やるんじゃねぇか。案外、歳経た悪魔なんじゃねぇか?」
「ん・・・歳経た?」
別世界で生きる精神生命体である悪魔たちは、この世界で生きる者達の様な死という物がない。 受肉した肉体を破壊されようとも、魂さえ無事であれば元の世界で復活するだけだ。 戦いに負ければ魂が摩耗する事で幾何かの能力は低下するだろうが消滅する訳ではない
それが彼等の強みでもあり、例え敗戦を繰り返そうとも戦いの経験値は上がり、それが多彩な攻撃方法を生み出すのだ。 致命的な攻撃を左手を犠牲にして防ぎ、更にそれを利用して手数を増やす等と言った事は経験が豊富でなければ思い付かない事だった
「なにを呑気に言ってるのよ!それだけアルベルト様が危ないって事じゃない!!」
「まぁな。でも、姫さんよ~、よく見てれば判るだろ?」
バイマトが言う通りお互いを飲み込もうとする輝く光と黒い光は、徐々に輝く光が相手を飲み込み始めその領土を広げていく。
アルベルトの放つ剣閃がグレーターデーモンの身体を傷つけ、鎖を先から消滅させていく。 魔方陣から放たれる黒い光はアルベルトを貫く事無く彼の纏う金色のオーラに僅かなシミを作るだけだった
「シャイニングレイ!!」
「グ八ッ!」
鎖を打消し余裕の出来たアルベルトが宙に手を翳すと光が天から槍の様にグレーターデーモンに降り注ぐ。 四肢をそれらに貫かれた悪魔は遂に力無く大地にひれ伏したのだった。 その様は神殿の壁画に描かれる神に屈する悪魔のそれと同じ格好だ
「クハハハ!見事だ。しかし次も上手く行くと思うなよ?復活した暁には今度こそその身体を引き裂いてやる」
「次?お前に次なんて無い!!」
四肢を貫かれ、自身がアルベルトに適わない事を悟ったのか顔を地に着けながらも睨み付ける様に笑うグレーターデーモン。 しかし仮初めの肉体を失おうともその存在が消える訳では無い悪魔にはまだ余裕が有った
「ふん、魔界に帰ろうとも我はいずれもう一度・・・な、なんだその剣は!!」
「次は無いって言ったろ!お前は絶対に許さない!!」
アルベルトが剣を八双に構える。その光り輝く刀身はアルベルトの背丈を越えているが、しかしそれだけでは無かった、剣が放つ光の中に精霊達が放つ様々な光が乱舞し遂には直視できない程の輝きを放つ。
「ま、待て!わ、判った。望みを、望みをぉぉぉ・・・」
「聖光真剣!!」
「ギャアアアアア」
アルベルト自身の金色のオーラと精霊達の光が織りなす圧倒的な光が僅かに残った暗闇を照らしだす。 それは最後まで足掻いたグレーターデーモンの叫びと共にその存在を打ち消す一撃であった
「ふぅ・・・っと」
「アルベルト様!!」
「エリザベス王女!無事だったんだね!!」
「そんな他人行儀に・・・さっき見たくエリザベスと呼んでください」
「い、いや、その・・あれは何と言うか緊急事態だったから・・・」
振り下ろした剣に全てを込めたアルベルトは大きく息を吐き出し安堵と共に軽くない倦怠感を感じていた。 そこに後ろから飛び付いて来たエリザベスをなんとか支えきった彼はその姿に更に安堵を深めるが、頬を染めながらモジモジと言うエリザベスに狼狽える
「はっはっは、なんだよアル?愛の言葉でも叫んだのか?」
「ん・・・聞き流せない!」
「そんなんじゃないよ!!」
「そんな!?・・・あれ程熱いパッションを感じたのは初めてでしたのに!」
「いや、名前呼んだだけだからね!!」
「ん・・・正座!!」
「ヴィク!?」
魔境の中心に居たグレーターデーモンを倒し、更には澱んだ魔力も自身に取り込み浄化したアルベルトは間違いなく今回の一番の功労者であった。
グレーターデーモンの転移魔法に巻き込まれながらも見事に王女も護り切り森を正常化したのに何故か説教モードに突入したヴィクトリアに詰め寄られる事態にその表情は「解せぬ」と語っていた
「ふん、遂にアルベルト様が愛に目覚めただけよ!引っ付き蟲は黙ってなさい」
「ん・・・宣戦布告!」
「うう・・・なんでこんな目に」
「アル!?ちょっとアンタたちいい加減にしなさい!!」
背後から抱きついたままヴィクトリアを煽るエリザベスに闘気を高めながら迫るヴィクトリア。 間に挟まれたアルベルトは戦いの疲労もあって足元も覚束なくなってくる
それを見咎めたカイヤが二人を引き剥がそうと仲介に入るが・・・
『納得いかん!!覚醒じゃか限界突破じゃか知らんがどういう事じゃ!!』
「マ、マーリン!?」
『あんな小物に、しかも天元突破までして苦労するとは・・・そんな育て方をした覚えは無い!!』
「天元突破!?ナニそれ???」
伝説の賢者がご立腹の様子でアルベルトの頭上で叫ぶ。 アルベルトの慌てた様な言葉を聞いて二人を引き剥がしていたカイヤと、それに抵抗してジタバタと踠いていた二人が動きを止める
『こうなっては賢者式幼児教育を見直さねばならん!アル、早速修行に向かうぞ!!!』
「こ、これから!?もう、僕限界なんだけど・・・」
『限界の先にこそ成長が有るのじゃ!』
「か、勘弁してよ・・・ああ、なんか暗くなって・・・きゅう~」
肉体的な疲労だけでなく精神的にも堪えたのか。 いや、寧ろソレがトドメを指したのだろう、遂に意識を失うアルベルトであった・・・
次がこの章のエピローグに成ります
その後閑話を挟んで次章に・・・と言うか次章は出来てますので矛盾点を探して改稿していきます
その後に通常の連載に戻りたいと思っていますのでよろしくお願いします




