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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
第二章 幼年編~②
51/179

2-26

大分長いです!

普段の倍の長さですのでご注意を!

「値引きだと!?対価を値引こうと言うのか!!」


「ディスカウント、プリーズ!!」


「貴様・・・ふざけおってからに!大体何故我らの言語を知っている?」


「ディスカウント!!」



 アルベルトの予想外の態度に狼狽えるグレーターデーモン。言っているアルベルトもマーリンの言う通りにしているだけなので、それが悪魔たちが使う言語だという事など知っていた訳では無い



『ほっほっほ、良いぞアル。このまま押し切るのじゃ』


「ディスカウント、プリーズ!!」


「グヌヌ!」



 マーリンは何故それを知っていたのかを語るのを後回しにしてアルベルトにゴリ押しを指示する。 



「ならば望みを先に「ディスカウント!!」・・・」


「内容も判らんでは値引きのしようも「ディスカウント!!」・・・」


「アルベルト様・・・楽しんでるでしょ?」



 漆黒の巨体を誇るグレーターデーモンが僅か五歳のアルベルトに手玉に取られているのだ。 先程まで感じていた威圧感のある相手が自分の言葉にグゥの音も出ない様子に楽しくなってきたアルベルトは言葉を被せる様にして一方的に値引きを迫る



「ええい、やっていられるか!!もう【契約】など如何でも良い、縊り殺してその魂を貪り食ってやる!」


『ほっほっほ、狙い通りじゃ。』


「そうなの!?でも怒っちゃったよ?」


『悪魔の厄介な点は、素の強さよりも契約スキルによる力の制限じゃ。奴等と戦うのならばそれを防ぐことが肝要なのじゃ』



 悪魔は人の欲望を利用して契約という形で望みを叶える代わりに対価を得る。 多くは死後の魂を喰らう事を目的とするが稀に身代わりの生贄を要求したりと、より絶望が増す事を目的にした対価を要求してくる


 彼等にとって契約者の絶望が深ければ深いほど魂の味わいが甘露になると言われており、弑逆的な性格もあって彼等に望みを伝えた者達の末路は碌な事に成らなかった


 だが、中には悪魔を打倒し自身の望みだけを叶えようとする者も当然いる。 彼等を打倒するだけの力を持つ者は寧ろ進んで悪魔を利用しようとするが、それを為し得た者達は少ない


 彼等の固有スキルである【契約】がそれを許さないのだ。 このスキルは先に欲望を叶える事で対価を貰うまでは自身に対して力を制限させる効果を持つ。 ただでさえ強靭な肉体と高い魔法抵抗力を持つ彼等に【契約】スキルによるハンデまで負ってしまっては不利どころの話では無くなるのだ



『スキルの力は無くとも奴等の力は強大じゃぞ。生半可な魔法は通じんと思え』


「魔法主体じゃ倒せないって事?」


「そんなのやってみないと判らないじゃない!」


『過去に倒された者達の中にお主よりも強力な魔法使いもおる。魔法だけでは無理じゃろうな』


「だけでは、って事は効かない訳じゃないって事?」


『かなり強力な魔法・・・奴の魔法抵抗力を越える威力ならば問題ないじゃろうの』


「つまりそれを放てるだけの隙を作れって事だね」


『そう言う事じゃ』



 アルベルトの答えはマーリンを満足させるものであったが実現が容易かは別問題であった。 強力な魔法はそれだけ魔力を練り上げねばならず例え無詠唱で放てたとしてもその時間は省略できない


 身体能力で人を遥かに上回るグレーターデーモンを相手取り、その時間を作るのはかなりの難易度だ。 



「エリザベス王女、お願いできる?」


「いいわ。どうせそれしか出来ないんだから・・・」


「じゃあ・・・行くよ?」



 魔法神の加護を受けて魔法使いとしては非凡な才能を誇るエリザベス王女であったが魔法使いである彼女が近接戦闘を熟せるはずもない。 悔しさを滲ませながら秘蔵のミスリルの杖を構えて集中し始める


 一方のアルベルトもマーリンの賢者式幼児教育で王女に負けず劣らずとは言え、流石にグレーターデーモンと近接戦闘をしながら魔力を練り上げるのは不可能であった


 バイマトと変わらぬステータスを持ち、上級剣術のスキルを持っていようとも実戦経験の少ない彼一人では悪魔を斃し切る事は不可能だ。精々が時間を稼ぐのが精一杯だろう 


 マーリンの言葉が真実ならば、彼が時間を稼げばエリザベス王女の魔法が¥でグレーターデーモンを斃す事が出来る筈であった


 スラリと腰のショートソードを抜いたアルベルトは時間を稼ぐべく油断なく間合いを詰める。 特注で造られたそれは、並みのショートソードとは比べ物にならない切れ味を誇る


 しかし所詮はショートソードだ、バイマトが持つ大剣と比べるには余りに低い攻撃力しかない。 だが代わりに取り回しの良さと素早い攻撃を可能とする



「ハッ!」


「フン!軽いわ!!」



 ユックリと間合いを詰めていた動きが、一足の間合いを越えた処で急に加速する。 自身が持つ素早さを武器に左右に軌道を変えながら飛び込んだアルベルトの一撃は、しかし軽く弾かれる。 だがそんな事は予想済みのアルベルトは弾かれた勢いのまま距離を取ると今度は廻りこむ様に突っ込む


 迎え撃つアークデーモンの右手には身体と同じ漆黒の大剣が握られており有り余る膂力に任せて振るわれる。 生み出した風だけで獲物を斬り裂きそうなその斬撃をヒラリと躱して懐へと入り込むアルベルトを迎え撃つのは煌めく光を放つ魔方陣。 人とは違う方式で構築された悪魔の魔法は人のソレとは比べ物にならない速さで効果を発揮し魔方陣の光とは正反対の黒い光が幾筋も広がりアルベルトの侵入を拒む



「今のは、ちょっと危なかった」


『フム、障壁の発動は問題ないようじゃの』



 マーリンに教えられた結界の応用で生み出されるアルベルトの魔法障壁は、魔方陣から放たれた魔法を見事に防ぎ切り、その結果に満足そうなマーリンはフヨフヨ浮きながら観戦モードのままだ



『危なくなったら力を貸すが、この程度の相手は何とかして欲しい処じゃの』


「う~、いい加減教育方針を変えようよ・・・」



 悪魔たちの言語すら知っているマーリンだ。 当然その生態も詳しいだろうし研究の過程で彼等との戦いを経験しているのは間違いない。 しかもグレーターデーモンが現れた時ですら余裕を見せていたのだから、より上位の悪魔とも戦っているに違いない



『ほっほっほ、そうコロコロと方針を変えてはいかんじゃろうて・・・ほれ来るぞ?』


「判ってるよ!」



 迎え撃つ姿勢を貫いていたグレーターデーモンが翼を広げて低空を飛行しながらアルベルトに迫る。 言葉の勢いも乗せたアルベルトの一撃は当然の如く弾かれ、そのまま防戦一方へと追い込まれる



「さっきまでの威勢はどうした!」


「ディスカウント、プリーズ!!」


「ヌゥ、小癪な小僧が!!」



 連続で繰り出されるグレーターデーモンの攻撃。 バイマトが持つ大剣よりも大きなソレを軽々と片手で振るう膂力は確かに恐ろしかったが、バイマトに比べれば稚拙な剣術は彼の動きに慣れているアルベルトにとって防ぐのに集中するのならば然程の問題も無かった



『そこで剣を捻るのじゃ』


「こうだね?」


「ヌゥオッ!」



 アルベルトを縦に両断しようと振り下ろされた剣を、マーリンの指示通りに受け流すアルベルト。 グレーターデーモンの攻撃は確かに強力な一撃であったが、力が込められているだけに受け流されると途端に体勢を崩す



「そりゃあ!」


「フン!」


「ったぁ~・・・硬すぎる」



 刃筋を通して、なおアルベルトの腕を痺れさせるグレーターデーモンの肉体。 ショートソードとは言え完全に泳いだ身体の急所を狙った攻撃で傷一つ付かないのはアルベルトにしてみてもショックであった



「ふん、無駄よ無駄!矮小な人如きが我らに傷など付けれると思うな!」


「やってみないと判んないでしょ」


「無駄無駄無駄無駄無駄!!!!!」


『ふむ、此処はやはり・・・オラオラオラオラ!!!で返すべきかの?』


「マーリン!?」



 どこぞの世界で繰り広げられた戦いを思い出したマーリンのセリフは、しかしアルベルトには伝わらなかった様で只彼を困惑させただけだった



『なに、こちらの話しじゃ。それより流石にこのままというのはちと拙いの』


「手を貸してくれるの?」


『いや、先ずはアドバイスじゃ』



 マーリンが本気を出せば、エリザベス王女よりも確実な魔法を放てる筈だ。 しかし、相変わらずの彼はグレーターデーモンでさえも修行の相手としか見ていない



『前に模擬戦でバイマトの剣を燃やしたじゃろう?』


「うん、でもグレーターデーモンの剣は燃えそうにないよ!?」


『そうでは無い。 自身の剣を燃やすのじゃ』


「僕の剣を?そんなことしたら熱くて持てなくなるじゃない」


「何を一人でゴチャゴチャと!!!」



 マーリンがアルベルトにアドバイスを送っている最中もグレーターデーモンは攻撃の手を休めない。 力任せの攻撃で躱すのも受けるのも難しくは無いとはいえ、致死の威力を持つソレは一撃でアルベルトを葬るのだ


 しかも、アルベルトの攻撃が自身に通じない事を悟ったグレーターデーモンは有り余る体力に任せてアルベルトを追い込んでくる。 



「うみゅ~。なにか良い考えが有るんなら早く教えてよ!」


『ほっほっほ。燃やすのではなく纏わせるのじゃよ』


「纏わせる?燃やすんじゃなく纏わせる・・・」



 呑気なマーリンで有ったが流石のアルベルトも段々と余裕が無くなってくる。 後ろで魔力を練っている最中の王女を庇う為には下がり続ける訳にもいかず、更には幾ら開けた場所と言っても森の中なのだから足場も良くは無いのだ


素早さを活かした戦いを身上としているアルベルトにとって防戦一方という状況は好ましい物では無かった



「ええっと・・・ファイア!」


「何!?」



 轟と言う音と共にアルベルトのショートソードから炎が吹き上がり、グレーターデーモンの攻撃を受け止める。 魔法抵抗力が高いとはいえ剣が発する熱には効果が弱いのか顔を顰めて距離を取るグレーターデーモン



『今じゃ!追撃しろ!!」


「って、これ駄目だよ。僕も熱い!」



 余りにも勢いよく炎が噴き出したためアルベルト自身にもその余波が襲い掛かる。 ショートソードという事もあってその炎は彼のすぐ傍で吹き上がっているのだから無理は無い



『む!?そうなのか?』


「って、知らないで言ってたの!?」


『しかしあ奴は事も無げに使っておったが・・・』



 どうやら剣に炎を纏わせていたのは生前に共に旅した仲間の技であった様でマーリン自身が実際に使っていた訳では無かった様であった。



「その誰かさんはどうやって防いでいたの?」


『フム・・・我慢強い奴じゃったからのぉ』


「まさかの我慢!?もう少しマシな方法を教えてよ!!」



 距離が取れた事で余裕が出たのかマーリンに突っ込みを入れるアルベルト。



『一応は魔法剣という高度な技なのじゃが・・・』


「フン!こけおどしだけの攻撃か!!次は通用せんぞ!!!」


「魔法剣?なら炎じゃなくても良いの?」


『まぁそうじゃの。じゃがやはり炎は漢のロマンじゃし・・・』


「この際ロマンは置いておこうよ・・・」


「これでも喰らえ!」



 炎を纏った剣を恐れて下がった自分が許せなかったのか、本気になったグレーターデーモンは魔法と剣の同時攻撃を繰り出す。 先程アルベルトの侵入を防いだ黒い光を生み出す魔方陣を複数生み出しながら剣を片手に間合いを詰めてくる


 魔法の軌道を確かめてからでは到底避けられないだけの数を生み出し、更には先程までの大振りの攻撃では無く手数でアルベルトを追い込む様に迫る


 黒い光を勘と障壁を頼りに躱しながら迫る剣を打ち落とすアルベルト。 マーリンのせいでスッカリ防戦に回ってしまった彼は得意の速度を活かすチャンスすら得られず窮地に立たされる



「アルベルト様!!」


「もう一回!ファイア!!」



 それまで黙って魔力を練っていたエリザベス王女の声に準備が整った事を悟ったアルベルトは自身が火傷する事も厭わずに先程よりも大きな炎を剣から吹き出しグレーターデーモンを押し返す



「これで終りよ!サンダーストーム!!!」


「おお!凄い!!!」



 エリザベス王女の繰り出した魔法は正に雷の嵐と言える物だった。 複数の雷が天から地に降り注ぎ、風が刃の渦となって魔法の中心に捉えたグレーターデーモンに集中する。 雷の閃光と轟音、それに巻き上げられた風の余波でアルベルトも顔を手で隠しながら、しかし油断なくその中心に居たであろう敵の姿を探す


 エリザベス王女の選択した魔法は自然現象の再現だ。 高い魔法抵抗力を持つ相手に有効とされる魔法をこの威力で放てばグレーターデーモンでも防ぎきれないだろう



「ふふ~ん、どうよ、私の魔法は!」


「危ない!!!」



 ドヤ顔で決めポーズを取るエリザベス王女に漆黒の影が迫る。 先程より劣っているがそれでもエリザベス王女が反応できる速さでは無かった。 油断なくグレーターデーモンの気配を探っていたアルベルトが悲痛な声を上げる



「魔法使いなどと侮ったのが間違いだったか。まさか本命の攻撃は此方だったとはな」


「そんな・・・あれでも倒せないの?」


「王女様、逃げて!!」



 グレーターデーモンの身体には無数の傷跡と染みの様に焦げた跡が無数にあった。 特にボロボロに今にも落ちそうな様子の翼にそれは集中していた


 おそらく、咄嗟に身体を翼で包み込む様にして魔法を防いだのだろう。 最早片翼となったそれで飛ぶ事は出来ないだろう。 しかし満身創痍となった身体は未だに人の動きを凌駕していた



 ガキンッ!!



 硬い金属同士がぶつかり合う音が響く



「アルベルト様!!」


「ぐっ!下がって!!」



 何とか間に合ったアルベルトがエリザベス王女を突きとばし、剣を受け止める。 しかし受け流す余裕など無かった彼は振り下ろされた剣をまともに受け止めてしまう形になっていた



「フハハハ!馬鹿め人の身体で受け止め切れる訳が無かろう」



 確かにアルベルトの剣は何とかその一撃を受け止めた。 グレーターデーモンが満身創痍だった事に助けられたのだろう、しかし満身創痍と言っても相手は人を遥かに上回る身体能力を持つのだ。 振り下ろされた一撃の真下に入ったアルベルトは逃げ場のない状態で衝撃をまともに喰らってしまい片膝を着いた状態から立ち上がれない



『アル!』


「アルベルト様!!きゃあ!!」


「エリザベス!!」



 守護霊であるマーリンですら咄嗟に動けない状態で、何の訓練も受けていないエリザベス王女の捨身の行動はミスリルの杖を代償に何とかアルベルトを護り切る。 しかし当然彼女も無事で済む筈も無く血を流しながら横たわったまま動かない



「ハハハ、美しい行動だな」


「クソッ!よくもエリザベスを!!」


「どちらにせよ結果は変わらないがな。魂を絶望に染めるのはどちらを先に殺すのが良いかな?」


「マーリン!」


『任せておけ』



 勝利を確信し湯悦に浸るグレーターデーモン。しかし彼が気が付いていない切り札がアルベルトには存在する


 アルベルトの声に魔力を練り上げ始めるマーリン。 伝説の賢者の魔法ならば満身創痍のグレーターデーモンを消し去るに十分であろう。 しかし・・・



「違う!エリザベスを護ってあげて。このクズは僕が倒す!!」


『しかし、アル・・・善かろう』



 怒気を孕んだアルベルトの表情にマーリンは言い掛けた言葉を飲み込みエリザベスを結界で包み込む



「お前は絶対許さない!!」



 城壁を作った時の様に可視化された魔力がアルベルトの髪を逆立たせる。 周囲に澱む魔力すら吸収しその身に宿すアルベルトの姿は怒気を孕んだその表情とは裏腹に気高く金色に光り輝くのだった・・・


ネタをブッ込んでたらドンドン長くなってしまった


始めのプロットではとっくに終わってる筈なのに6000文字書いても終わらないと言う・・・


もう、プロットクラッシャーを名乗ろうかと思います

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