2-19
やっと投稿できた・・・
「それじゃあカイヤは基礎の部分をお願いね」
「土魔法は得意じゃないんだけど、なんとかやってみるわ」
「その後、私が土台を造れば良いのね」
「うん、城壁は僕がやるよ」
『修行的にはあまり良くないが、あまり迷惑を掛けるのも良くないからの』
ウマルの持っていた書物で城壁造りの秘訣を学んだアルベルト達。 マーリンとしてはアルベルト一人で、精々譲ってもエリザベス王女との共同で造り上げる事で修行としたかったのだが、通行止めの解除を求める商人たちの声に押される格好でカイヤの参加も認めざるを得なかった
「大体、マーリンがムキになって隕石なんて使うから悪いんじゃない」
『ふむ、それを言われると弱いの』
「ん・・・自業自得?」
収穫の終わったこの時期は商人達にとっては大事な時期だ。 もうすぐやってくる冬が来る前に積極的に移動する彼等にとって街道が通行止めになる事は例え数日でも損失の大きなことだった
「まずは解体ね、解体」
「私も負けていられないわね。掘削」
魔法神の加護を受けるエリザベス王女の魔法に負けていられないと張り切るカイヤ。 彼女とて魔法に長けたエルフというだけでは無く、高名な冒険者なのだからプライドがあるだろう
更に森の大精霊であるカリュアーから貰った指輪の効果もあり精霊の後押しを受けた土系魔法が大地に巨大な穴を穿つ
「この柱は硬化をするんでしょ?」
『そうじゃ、その方が只の土盛りより強度が増すのじゃよ』
「それじゃあ私が格子を造るわね」
エリザベス王女がカイヤの穿った穴に解体した瓦礫を再構築した柱を次々に建てて行く。 そこから更にカイヤが柱を繋ぐ様な形で硬化した枠組みを創り上げ、柱と柱を繋ぐ格子状の枠組みが出来上がる
『後は土台を盛り上げて圧縮を掛けるのじゃ』
「ん・・・やり過ぎ注意」
「言われなくても判ってるわよ。 硬くするんじゃなくて圧縮で良いんでしょ、簡単よ」
ヴィクトリアに指摘されて不満顔のエリザベス王女であったが、魔法に関しては流石に一流であり解体した瓦礫を再び土に戻しながら格子に纏わりつかせる様に盛り上げていく。
更にそれに圧力を掛けて固めるといった作業を同時進行で進めて然も当然とした顔をしている
「エリザベス王女、魔力は大丈夫なの?」
「減った感じはあるけどまだ大丈夫よ」
「やっぱり魔法神の加護って規格外ね」
問うたカイヤも枯渇とはいかないまでもかなり魔力の減った実感はあり、だからこそ王女の魔力量を心配したのだろう。 だが涼しい顔で答えるエリザベス王女に少し悔しい表情を滲ませる
「確かに体内の魔力は多いけど、カイヤさんみたいに空気中の魔力を上手く吸収できないわ」
「まぁそれだけ魔力量があればそうなるわよね」
魔法を行使するに当たっては自身の魔力を使うのが一番簡単だ。 空気中の魔力を吸収した場合は自身に馴染ませる必要があり、どうしても一手間掛かる事になるので慣れない者は魔法の構築中に必要な魔力を確保出来ず発動に失敗する事があるのだ
しかし抑々が膨大な魔力量を持つエリザベス王女は外気の魔力を使った事が無いのだから、その技術も未熟なままだった
優秀な魔術師として先輩にあたるカイヤに気を使った言葉だったのだろうが、それはあまり効果を表すことなく、却ってカイヤを呆れさせる結果にしかならなかった
『いよいよアルの出番じゃぞ』
「うん、イメージは出来てるから大丈夫」
「ん・・・紅?」
『いや、アルの魔力の色に染まるじゃろうから意識しなければ別の色になるじゃろうな』
「ん・・・良かった」
「そうね、王国の玄関口があの色じゃ派手すぎて下品だもんね」
『げ、下品!?儂の一番好きな色に染め上げた城壁が下品じゃと・・・』
「い、いや、その・・・そうだ!ほら今回は玄関口だからってことだからね、宮殿なら丁度良いと思うよ?」
『下品・・・』
思いもよらなかったエリザベス王女の評価に、自分が紅の宮殿を創り上げた事をアッサリと白状している事に気が付かないマーリン。 その狼狽えようにその事に突っ込む事も忘れてイマイチなフォローをするアルベルト
当然、そんなフォローが役に立つはずも無く落ち込むマーリン。 下品と称された鮮やかな紅色は彼の一番好きな色であり、好む魔法もその色を象徴するような炎系の魔法だったが、アルベルトが知るマーリンと伝説上の彼との姿には結構な差が有る為エリザベス王女も悪気があった訳では無い
実際、伝説に描かれる賢者の姿は地味なローブを着こみ人の来ない辺境で研究一筋の隠遁生活を送っているとされていた。 しかし実際の本人は好奇心の塊の様な人物で、興味のある物を見つけると飛び付く様な性格をしていて隠遁生活を送る様な人物では無い。
その上、着込んでいるローブも決して地味な物では無く案外派手好きな性格をしているのだが、その姿を見る事が出来るのはアルベルトだけなので周りの者が伝説上とのギャップに気付くことは無かった
「それよりもマーリン!ほら今から城壁を造るんだから、ちゃんと見ててよ!?」
『うむ、判っておる。しかしそんなに下品か?』
如何にも引き摺る様子のマーリンを放っておいてアルベルトが魔力を練り始める。 体内の魔力だけでは無く空気中の魔力すらその身に取り込み、膨大な魔力を使って城壁を構築する石材を創り出していく
「まずは下の方に置く大きな奴からいくよ」
「ちょっと・・・魔力が可視化してるの?」
「こんなの聞いた事ないわよ!?」
カイヤが驚くのも無理は無かった。 空気中の魔力は無色透明であり魔法使いや魔術士だけがその存在を感じるだけの物だった。 しかしアルベルトが集めて操っているそれは渦を巻く様に彼を中心としてハッキリと目に見えておりエリザベス王女も初めての事に固まっていた
『ほっほっほ、魔力の具現化とはの。久方ぶりに見るわい』
「ん・・・凄い」
マーリンですら驚くほどの事をしているのだが集中しているアルベルトはその事に気が付かない。 魔力を操り石材を生み出し形状を整える。 同時に硬化した石材を等間隔でエリザベス王女の造った土台に埋め込んで行く
大地が微妙に振るえるほどの大きさの石材を配置し終わると、今度は少し小さい石材を創り出し面が合うように配置する。 そして隙間を埋める様に更に小さい石材を配置して、正しく鋭利な刃物ですら入ら無い城壁を組み上げていく
『ほっほっほ。久しぶりに見た魔力の具現化のご褒美に少し手伝うかの』
「ん・・・私も」
『では魔力を貸してもらうかの』
アルベルト達だけで城壁を造らせるつもりであったマーリンだったが、アルベルトが魔力の具現化にまで至ったのが余程嬉しかったのか手伝う気になった様だった
ヴィクトリアがマーリンの方へと伸ばした手を握るマーリン。 守護霊である彼が触れる事の出来るのはアルベルトだけの筈だが確かに彼女からの魔力はマーリンへと譲渡される
『アル、これを組み込むがいい』
「うん、判ったよ」
丁度城門になる辺りにそれを配置していくアルベルト。 彼が造り出した石材は透き通るような青みががった白で構成されているのに対し、ヴィクトリアの魔力を使ってマーリンが造り出した石材は彼女の魔力の色を反映してか漆黒の石材であった
「狡いわ!私の色も混ぜたい!!」
「えっと、じゃあ城壁の端の方に・・・マーリンお願い」
「へへへ、私の魔力の色は何色なのかしら」
先程のヴィクトリアと同じように魔力を譲り受けたマーリンが石材を生み出しそれを城壁の端の柱へとアルベルトが組み込んでいく。 彼女の魔力を反映したそれは眩く光る金色で派手では有ったのだが指色として丁度良いアクセントになっていた
「ふふふ、それじゃあお姉さんも頑張っちゃおうかな」
「ん・・・」
「何か言いたそうね?」
「ん・・・何も言ってない」
バイマトが居ればお姉さんという言葉に反応したかもしれないが、賢明なヴィクトリアは寸前で言葉を飲み込み、カイヤのジト目から視線を逸らす
「でも城壁は殆ど出来てますよ?」
「城門は木で作るんでしょ?それなら私も得意だし丁度良いじゃない」
『此処までの物を創ったのじゃから城門も一手間掛けようかの』
「カイヤ、マーリンに考えがあるみたいだよ」
「あら、そうなの?」
『ちょうど畑用に作った水源が豊かでのう、堀を造って跳ね上げ式にするつもりなのじゃ』
「そ、そこまでするのね・・・」
跳ね上げ式の城門はコストの高さと複雑な機構の為、あまり実用化されていないのが現状だった。 正直アルベルトが創り上げた城壁の強度を考えれば、そこまでする必要性があるのか大いに疑問であった。
「跳ね上げ式の城門って降ろす時は楽だけど上げる時は大変よ」
「ん・・・知ってるの?」
「王宮の城門がそうだもの。あれって衛兵が交代で上げるんだけどかなり時間が掛かるわよ」
橋としての役割を持つため、跳ね上げ式の城門は大きさと強度を求められるため非常に重い。 それを滑車を使って人力で巻き上げるのだから、その労力は相当な物になり緊急時に対応できないという欠点があるのだ
魔法を使って製作する分にはコストの問題はクリアできるだろうが実際の運用時を考えると前線の砦に使う様な仕掛けでは無いのだ
『まぁそこは水車を使うとか方法は有るが、今回はそこも魔力を使ってチョチョイのチョイとな』
「まぁ私の魔法兵団もいるから大丈夫だとは思うけど・・・」
「そうね、魔力で動かす仕組みから考えないといけないわね」
『ふむ、まぁそこは儂が何とかするから心配はいらんぞ』
「でも、時間が掛からない?」
跳ね上げ式の城門自体が少ない事もあり、それの運用方法などはあまり開発されていない。 そのため魔力で動かすという機工を一から創り出す必要があった
伝説の賢者とはいえ、要とも言える城門に必須の機構を創り出すとなれば実用試験なども含めれば時間が掛かる可能性があるのだから通常の城門で構わないのだ。 しかしマーリンは跳ね上げ式の城門の採用を譲るつもりは無い様だった
「今すぐ帝国が攻めてくる訳じゃないし慌てなくても大丈夫じゃないかな」
『そう言う事じゃ。先ずは商人達の通行を確保せねばの』
「まぁ、そうね。いざとなれば城門くらいは直ぐに創り出せるし」
『そう言う事じゃ。それよりも今はこの美しさを楽しもうではないか』
マーリンが言う様に透き通る様な薄く青みがかった白亜の城壁の美しさは全員の眼を引き付けてやまなかった。 それは城門をどうしようか議論を重ねている間も全員が出来上がった城壁から目が離せない程であり、日の光を反射してキラキラと輝く城壁は幻想的な雰囲気さえも漂わせていたのだ
「ふふ~ん。やっぱり両端の柱のアクセントが効果的ね」
「ん・・・城門の枠組みの色の方が良い」
「なによ!」
「ん・・・!」
『ここはやはり鮮やかな赤色も混ぜた方が・・・』
「マーリン!?」
問題を後回しにした事で自身の魔力の色を自画自賛し始めるエリザベス王女とヴィクトリアに負けじと参戦しようとするマーリン。 一度却下されても諦めていない自身の守護霊にアルベルトも困惑気味だ
「殿下!大変ですぞ!!」
「あら、カルルク将軍じゃない?」
未完成の城門を潜り抜けて駆けてくるのはセイレケ砦の主将であるカルルク将軍であった。 ドスドスと音を響かせながら立派な体格を揺らして走る姿には慌てふためく様子が滲み出ていた
「おお、なんと立派な・・・」
「まだ城門が出来てないけどね」
「いやいや長生きはするものですな」
「将軍、それよりも・・・」
「そうじゃ、それどころでは無かった。大変な事が起きたのですぞ、殿下」
出来上がったばかりの城壁に目を奪われ先程までの慌てた様子が消え去っていたが、サニラの言葉に我に返るカルルク将軍。 しかし大変さを強調する割には慌てているのか何が起きたのかをまるで話さない
「折角作った畑に突然迷宮が出現しました」
「迷宮?なんでそんな物が・・・」
「それがサッパリなのじゃが、このままでは畑が飲み込まれてしまうかもしれん」
将軍に変わって端的に事態を説明するサニラの言葉にカイヤが驚くのも無理は無かった。 迷宮の成り立ちは推論は様々有るものの詳しい事は判っていない。 しかし通常は魔物の出現が増えたり魔力の流れが滞り淀みが出来るなど前兆が観られる筈であった
今回の様に駐屯する軍が側にいるのに前兆が発見される事なく突然それが現れる事など考えられない事だ
「ともかく何らかの手を打ちませんと、商人達の移動にも差障りが出ます」
『魔物が溢れてるのはまだ先にしても放っておく訳にはいかんの』
城壁の完成に冷や水を浴びせられる様な格好になったアルベルト達だが放っておいて良い問題では無かった
「取敢えず案内してくれるかな?」
「はい、こちらです」
サニラに導かれて畑へと急ぐアルベルト達であった・・・




