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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
第二章 幼年編~②
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2-18

「うわ~綺麗なお城なんだね」


「ええ、見た目の美しさも相当の物よ」



 書物に描かれている紅の宮殿の美しさに感心するアルベルト。 どうやら実物を見た事のあるカイヤが肯定しているので書物に誇張などは無い様だった



「この本は当時行なわれた各国での合同調査団が書き記したとされている物で書物自体の古さと相まって、とても貴重なんですよ」


「そんなもん持ち歩くなよ・・・」


 ドヤ顔で自慢するウマルであったが、カモーラの街からセイレケ砦の間は比較的安全と言っても一応は魔物や魔獣だっているのだ。 ウマルの言う様にそれ程の貴重な物であるならば気軽に持ち歩いて良いものではないのでバイマトの指摘は間違っていない



「書物は読んでこそ価値が出るのです。書棚に入れっぱなしでは意味が無いのですよ」


「お蔭でこうやって役に立ってるのも確かだしね」



 ウマルの行いの是非はともかく、カモーラの私室に置いて有ったのならばこうしてみる事が出来なかったのも事実だった



「でも、どうしてこのお城が理想的って言われてるの?」


「実はですね、この城は建築工事に初めて魔法が使われたと伝わっているんですよ。その為、コストも工期も半分で済んだ上にそれまでとは比べ物になら無いくらい丈夫だと言われていますね」


「初めてって、記録でもあったの?」


「いえ調査の結果で判った事なんですが、この城よりも古い時代と比べると明らかに違うか所が見受けられらしいです」


「それだけで魔法を使ったって判るのか?」


「城壁を構成している石材が全くの同一形状だったり、近くから産出しない素材が混じっていたりと魔法を使ったと考える方が考えやすいのですよ」



 もはや遺跡とも言える状態になってしまっているが他の城壁跡にも緻密な加工を施された石材は観られる。 しかし紅の宮殿では寸分違わない同一形状の石材で構成されており、見た目の美しさも際立つがその強度は頭一つ抜けていた


 更に紅の宮殿と言われる様に特徴的な紅の城壁。 そんな色の石材が都合よく揃っている事もそうであったが、所々にアクセントで入れられている金や黒の御影石はその地方では産出されない物だった



「なら、全部魔法で造ったんじゃねぇのか?」


「それが城壁の一部を取り壊した処、他の城と同じ土台の造り方だったようですね。尤もその一部を壊すのでもかなり苦労したようですが」



 その辺りの事も本に詳しく記載されているが、殆ど愚痴に近い内容も多く苦労した様子が見て取れる。 予算のかなりの部分を費やしたお蔭で何とか拳大ほどの穴を開ける事に成功したものの、結果としてその事が調査の内容を圧迫したのも事実だったようで、予定していた他の調査を断念した事を悔しがる研究者の言が載っていた


 しかし、そうは言っても得られた情報だけでもかなり有益なものも多く今後の城造りの参考に成る筈であったのだが、今に至っても調査内容が役に立ったという事は無かった



「まぁ別名が愚者の城ですから・・・」


「愚者の城?何だってそんな渾名が付いてんだ?」



 現在の小国群の北方に位置する紅の宮殿。 昔から争いの絶えなかったこの地方で現存している事からも城の頑強さが判る。 だがその立派さに見合わない渾名にはそれなりの理由があった



「この城の主の事は記録に残っているのですよ」


「それって、ひょっとしてあの王様の話?」


「ええ、実はあのお伽話は実話が元になっていると言われてますからね」



 ウマルの言う記録とはお伽話では無く紅の宮殿の主と争った相手国側に残る記録の事できちんとした文章で残っている。 しかし当時でも余程、民衆の印象が深かったのかお伽話という形で伝わっているという訳だった



「ケチな王様が立派で丈夫な宮殿を立てたけど、自分しか護らなかったから誰もいなくなってしまって、結局は民衆に謝ったって話しよね」


「まぁ、かなり優しく描いてますがね」



 お伽話は自分勝手な王様がみんなに謝って、めでたしめでたしで終わっているが元になった愚かな王の最後は悲惨な物だった 


 敵国の侵攻にサッサと民衆を見捨ててご自慢の城に籠城した国王。 確かに自慢するだけの強度を持つ城に攻め寄せた敵軍は攻めあぐね、戦いはこう着状態になる


 しかし攻城戦、しかも国王のいる首都の城ともなれば話は変わってくるのだ。援軍の見込みもないまま取り囲まれた国王は結局そのまま飢え死にしたと記載されており謝る機会など与えられなかったのだ



「要は無駄な金を掛けて城壁を立派にしても結局は意味が無いという教訓でして・・・」


「一点豪華主義じゃ駄目って事か」


「そう言う事です。せめて街を囲む様に造っていれば良かったのですが自分の事しか考えていなかった様ですね」


『始めは城を造る話じゃったのが、やれ値段が高過ぎるだの、あれは省けだのと言って結局は宮殿だけになったのじゃよ。まぁ抑々ケチな奴で国王の器では無かったのじゃ』


「マーリン!やっぱり何か知ってるんでしょう!!」


『ほっほっほ、これは失敗じゃった。まぁそんな事より国王の事は別にして参考になる事を学ばねばならんぞ?』


「む~後で絶対教えてよ」


『ほっほっほ。機会があればの』



 何か知っている、というより確実に宮殿の建築に係っているであろうマーリンであったがそれを語るつもりは無い様でアルベルトに書物の先を促す



「う~ん。城壁の表面部分は魔法で生み出したんだよね?」


「そうみたいですね」


「この土台部分はどうやってたんだろう?」


「そこは別の資料に載ってますけど普通に土盛りしてますね。」


「そっか・・・内部は柔らかく外側は堅くってこういう事か」


『まぁ、そこまでは簡単じゃの』



 アルベルトが剣で例えたように衝撃を吸収するのには単一で硬いだけでは保たない。 その為に内部は硬化させずに土盛りで造り上げているようであったがマーリンはそれだけでは不十分だと言う



「そうなると・・・やっぱりこの形に秘密があるんだね」


「形?城壁の石材の事?」


「ん・・・今度は大丈夫?」


「だ、大丈夫よ。・・・たぶん」



 お仕置きの恥ずかしさより退屈さが勝ったエリザベス王女が遂に会話に加わる。 彼女とて優秀な魔法使いであるのだから知識は豊富なのだ



「そう言われると不思議な形よね」


「うん、石材の形が六角形と五角形で構成されてるんだよね」


『そこに気が付ければ大したものじゃがまだ足りんぞ?』 


「当時の学者たちもその事は直ぐに気が付いた様で小さな穴を開ければそこから壊せるのではないかと考えたようです」


「その言い方だと、無理だったって訳だな」



 バイマトの言葉に黙って頷くウマル。 多角形で構成された壁面は上部からの重さもあって非常に頑丈な構造物になる事は容易に想像できる。 しかし、面同士が触れ合っているからこその事なのだから接触面に穴を開ける事で容易に崩せると考えていたのだが・・・



「何処まで行っても接触面の境が出なかったそうです」


「境が出ない?なんだそりゃ??」


「そうか!六角()じゃないって事か!!」


「こんだけの事でアルは判るのか?俺にゃあ無理だぞ」


「当たり前じゃない、アンタとアルを一緒にしないで頂戴」


「じゃあお前は判ったのかよ!」


「うっ!そ、それは・・・アル、早く説明して頂戴!」



 独り納得顔のアルベルトだったがマーリンを除いた一同にはサッパリ判らない無い様で詳しい説明を求める



「ほら、魔法障壁を張る時に六角形をイメージするじゃない?」


「ナニそれ?そんな事しないわよ?」


「え!?しないの?」


「なんで?、みたいな顔されても私だってそんな話し聞いた事ないわよ?」



 説明のさわりの部分から二人の優秀な魔法使いに否定されて戸惑うアルベルトがマーリンを見る



『ほっほっほ。確かに一般的ではないかもしれんな』


「そうなんだ・・・え~とじゃあどう説明しよう・・・」



 自分が知っている知識が当たり前では無い事に気が付かされたアルベルト。 今迄、常識だと思っていた事から説明しなければならない事に困惑する



「ま、まぁともかく六角形で構成すると丈夫になるのね・・・出来る気はしないけど」


「うん、カイヤの言う通り六角形で構成した障壁は普通よりも丈夫になるんだけど、一か所が割れると急に全体の強度が弱くなるんだ」


『構成する辺同士が衝撃を分散させるからの』



 マーリンの教えた障壁では受けた一個の六角形が受けた衝撃を隣り合う六個に分散する事で強度を増すという物だった。 しかし指向性の高い魔法などで六角形を破壊されてしまうと全体が崩壊してしまうと言う欠点があった



『全体が支え合っている荷重が抜けた穴に集中するから、どうしても壊れやすくなるのじゃよ』


「紅の宮殿の場合も同じで単純な六角形で構成してたら一部を壊した事で全体が壊れる筈なんだけど・・・」


「そうはならなかったって事よね」



 城壁の場合、常に上からの荷重が掛かっている為に一か所の石材が壊されればその重みで勝手に自壊してしまう。 しかし調査団は拳大とはいえ土台まで届く穴を開ける事に成功しているのだから単純な六角形で構成されている訳では無いと推測できるとアルベルトは説明する



「つまり・・・どういう事だ?」


「私に聞かないでよ!」


「聞かれる前に言っておきますけど、私も判らないですからね」



 本来アルベルトに教える立場の筈の家庭教師組は三人共説明を聞いてもサッパリな様子だ



「平面で考えちゃ駄目なんだ。石材なんだから立体的に考えれば・・・八面、いや違うなもっと多い筈。うん、十二面体と十四面体で構成されている、違う?」


『正解じゃ。六角()では横の接触面しか無い。じゃが十二面体と十四面体ならば縦横、前後左右全てが接触しているからの』



 魔法障壁の様に薄い物で考えてしてしまうと、見える表面が六角形であれば柱の様な形を想像してしまいがちになる。 しかし城壁の場合は堅さだけでなく強度も必要になる以上は当然厚みも大事になってくるのだ



『平面充填形の中では正六角形が最小の表面積になるが、三次元空間充填で表面積が最も狭いのは十二面体と十四面体の組み合わせが今のところ(・・・・・)は最小じゃよ』


「そっか、なるべく小さい単位で集まった方が丈夫なんだ」


『空間に隙間を無くし、且つ多少の自由度を与える事が構造体の強度を上げる秘訣なのじゃよ』



 伝説の賢者の知識を理解して嬉しそうなアルベルト。 興奮のあまりマーリンの言葉を通訳するのが疎かになっているので周りのメンバーにはサッパリ理解できない



「で、理解得来たのかしら?」


「ああ、ごめん。 えっと・・・」


「ああ、言わんでいいぞ。どうせ聞いてもサッパリ判らねぇだろうからな」


「いや、私は説明して貰いたいですが・・・」


「それは後で個人的に聞け。俺にはもうチンプンカンプンだ」


「簡単に言うと、石材の強度だけじゃなくて形と組み合わせが大事だから、そこは魔法でやっちゃおうって事だよ」


 知識欲の高いウマルに比べて諦めの速いバイマトに苦笑いのアルベルト。 バイマトの言う通りウマルには後で教える事にしても取敢えずの見通しだけは示さなければ話しが進まないので掻い摘んで説明をする



「土台は土木工事でやるの?」


「そこはエリザベス王女が出来ると思うよ」


「ふふ~ん、任せなさい!」


「まぁ、単純な部分だからな」


「ちょっと!なんか言った!!」


「い、いや、ほら・・・その、そうだ!王女さまくらい沢山の魔力量が無いと出来ない事だよ?・・・たぶん!?」


「ん・・・疑問形」


「なんでぇ、つまりは質より量って事か?」


「そうなの!?私の魔力量だけが目当てだっの?アルベルト様酷い!!」


「なんで僕が悪い流れになってるの!?」


『ふむ、アルには女難の相があるのかもしれんの?』



 五歳にしてジゴロの様に攻められるアルベルトを見ながら先行きを心配するマーリンであった・・・


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