2-4
「マーリンこんな感じで良いの?」
『うむ、なかなかいい具合じゃの』
「ん・・・ちょっと歪?」
マーリンに教わりながら何とか畑の周りを結界で包み込むアルベルト。 今日は私兵達を連れてきてはいないのでヴィクトリアとマーリンの三人で畑に来ている
『ほっほっほ。ヴィクトリアよ、初めて結界を組んでこれなら十分に合格じゃよ』
「ん・・・そうなの?」
「って、これ結構キツイよ。早く先に進もうよ」
通常の結界は魔力若しくは物理のどちらかに対しての物ではあるが、マーリンが指導してアルベルトが作り上げている結界は応用編として物理と魔力の両方を外部と内部で隔絶するタイプの物だ
『先に進むのはそれを最低でも10分は維持できるようになってからじゃな』
「いきなりでそんなの無茶だよ・・・」
基礎をすっ飛ばしていきなり応用編に入るマーリンに不満を述べるアルベルトだが、多少歪になりながらでもやれてしまっているので文句を言いつつも頑張るアルベルト
「ん・・・なんで応用?」
『ふむ、魔法を防いでも火の付いた枯草が飛んだら危ないからの』
一面の枯草を焼き払うのに魔法を使った場合、炎を制御できたとしても火の付いた枯草は魔法と直接関係の無いので延焼の原因になってしまう。 その為物理的にも隔絶した空間を造り出す必要が有ると言うのがマーリンの言い分だった。
尤も、通常は放った魔法を制御する事も広い空間を結界で物理と魔力の両方を隔絶させるのも不可能とされているのでマーリンが行おうとしている事自体が普通では無かったのだが、抑々マーリンならば延焼自体を制御してしまうのだ。 それに比べれば今のアルベルトに出来る範囲を見極めているとも言えたのだが、どちらにせよやり過ぎなのは否めない
「もう諦めて地道に草刈りしようよ」
『それはそれで大変じゃがの~。それにこれが出来る様になると便利じゃぞ?」
「え~例えば?」
『ふむ、そうじゃの・・・風呂の湯が冷めにくくなる』
「そんなのお風呂場の隙間を無くせばいいじゃない!!」
『ほっほっほ、例えばじゃよ。これを極めると完全防御も夢じゃないぞ?』
「完全防御?ナニそれ??美味しいの?」
『物理、魔法の全てを防ぐ事が出来る結界じゃ。理論的には一切の攻撃を受け付けなくなる・・・筈じゃ』
「こんだけ頑張って、筈なの?実際に使った事無いの!?」
「ん・・・凄い?」
『残念ながら此方の攻撃も無効化されるからの~』
「駄目じゃん!!」
『まぁ、出来るに越した事はあるまいて。ほれ段々歪んで来とるぞ?』
キツイと言いながらもマーリンのおふざけに付き合えるのだからアルベルトも規格外なのだが、賢者式幼児教育法で育てられた彼にその自覚は無かった
「大体、物理用と魔力用の二つ結界を造るんじゃ駄目なの、コレ?」
『それでも構わんが・・・二つも造るのは面倒じゃろう?』
「いや、そんな事無いって!・・・あぁ」
「ん・・・解けた」
『今日はこの辺が限界じゃの』
マーリンの精神攻撃?に集中を途切れさせてしまったアルベルトは結界を維持できなくなり、あともう少しで10分といった処で結界は霧散してしまう
『ほっほっほ。まだ少し時間もあるし山側も見ておくかの』
「え~少し休もうよ」
『何事も修行じゃよ。キツイ時こそ動くべきじゃ』
「ん・・・アルと散歩♪」
結界の維持に魔力を使い尽くしてへたり込んでいたアルベルトは身体の怠さを感じていたがヴィクトリアの嬉しそうな顔には勝てないのか、ヨロヨロしながらも立ち上がるとヴィクトリアに手を差し出す
「ん・・・」
『ほっほっほ。日当たりの良い斜面があればいいのじゃがの』
「アプルもあるかな?」
『どうかの~有るといいの』
「うん!」
先程までの疲れもなんのその、ヴィクトリアと手を繋ぎ山の方へと歩き出すアルベルト。 その笑顔は五歳児に見合う無邪気な物だった。
「ハァハァ・・・ねぇマーリン。 なんか身体が重いんだけど」
『ほっほっほ、そうじゃろうな。じゃがアプルの木は見つかっておらんぞ?』
「いや、それ処じゃないんだけど」
『日頃の訓練で無意識に魔力で身体強化を使っておるからの。魔力が尽きた今が身体を鍛えるのには丁度いいんじゃよ』
賢者式幼児教育の結果、生後間もなくから身体強化を行っているアルベルトにとって、それは既に無意識で行う物になっており、相当な負荷を掛けなければ身体の強化に繋がらなくなっていた
その為にマーリンは通常より負荷のかかる結界を張らせる事で魔力の消費を促し、こうして山登りをする事でアルベルトの身体を鍛える事にしたのだった
「そ、それにしたって魔力だって回復している筈なのに・・・」
『ほっほっほ、回復する傍からヴィクトリアに吸われとるからの』
「そうなの!?ヴィク?」
「ん・・・ご馳走さま?」
「いや、ご馳走さまじゃなくて!!」
『さぁもう少しじゃ。此処からはヴィクトリアも遠慮する事無いぞ』
「ん・・・」
「ヴィク!? なんで背中に・・・って、マーリンの声聞こえてるの!?」
マーリンの声を聞けるのはアルベルトだけの筈なのに、マーリンの声に反応したかのようにイソイソとアルベルトの背中にしがみ付くヴィクトリア。 アルベルトと契約を結んでいる彼女はその代償としてアルベルトの魔力を貰っている。 彼女がアルベルトに引っ付いているのはその手から魔力を吸い上げる為なのだ
「ちょっ!ヴィク!?少しは加減して!ち、力が抜けてく~」
「ん・・・美味」
『ほっほっほ。さて山頂までもうひと踏ん張りじゃ』
「クッ!ヴィクがこんなに重かったなんて・・・」
「ん・・・重くない!」
「わわ、ご、ごめん。嘘、嘘だからもう少し手加減して~」
アルベルトの余計なひと言で背中のヴィクトリアが自重無しでアルベルトの魔力の残りと回復分を容赦なく吸い取る。 傍目にはイチャついてるだけにしか見えないのだがアルベルトの喪失感はかなりの物なのか本気で謝っていた
『ふむ、仲良き事は善き哉善き哉』
「マーリン!本当に大変なんだって!!」
それでも一歩、また一歩とヴィクトリアを背負ったまま足を進めるアルベルト。 何だかんだで素直な性格の彼はマーリンが発案する賢者式幼児教育を拒むことは無い
『ほっほっほ。山頂まで到達するのはまだまだ掛かりそうじゃの』
自分の理論を実践する機会に巡り合った幸せを噛み締めながらもアルベルトの成長に目を細める伝説の賢者
抑々こんな教育法の実践に付いて行けるアルベルトが異常なのだがマーリンにとっては関係ないらしく限度という物を考えていない。 その頭の中では次の試練を考えるのに夢中なのだ
「も、もう駄目・・・きゅう~」
「ん・・・限界」
『おお、気付かんかった。今日は此処までじゃのう』
遂に限界を迎えたのか、一言残すとバタンと倒れるアルベルト。 正しくバタンキュ~状態であった
「ん・・・帰りは私が」
『ああ、その抱き方は・・・まぁ良いか、魔力は吸わん様にな』
「ん・・・判ってる」
気絶したアルベルトを軽々持ち上げるとお姫様抱っこ状態で運ぶヴィクトリア。 どうやらマーリンと会話が出来るのはまだ内緒の様だがアルベルトが気絶している今ならば問題無い様で普通に会話を交わす
『明日はまた違う事を考えねばの』
「ん・・・」
日の暮れはじめた山道を眩しい夕日が照らす。 無邪気な寝顔で眠るアルベルトを見つめるヴィクトリアは心底愛おしい表情で見つめていた。 その顔は十分に魔力を貰ったお蔭で艶々と輝いていたのだった・・・




