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『ここらで良いかの』
「それは良いんだだけど、マーリンこの格好は・・・」
畑造りの候補地を見に行くといったマーリンはアルベルト達を伴って砦の外へと来ていた。 伴ってとは言ってもマーリンが独りで行動出来る訳では無いので実際にはアルベルトに憑いてフヨフヨ浮いているだけだ
そしてそのアルベルトはマーリンの指示通り完全武装で特注の剣を腰に佩き、同じく特注の鎧を身に着けていた。 一応は砦の外に出るのだから武装は必要かもしれないが、街道沿いという事もあり危険な魔物などが出る様な場所では無い
『さて、先ずはここらの草を刈ってしまおうか』
「うん?僕達道具なんて持ってきてないよ」
「ん・・・素手」
武装しているとはいえ、草を刈るのに適している訳では無いし、一緒に来ているヴィクトリアは軽装で素手のままだ。 第一、草刈りをするのなら三人でなくもっと大人数の方が早く終わるだろうに・・・
『ほっほっほ。アルは剣閃を飛ばす事は出来るじゃろ?』
「それは出来るけど・・・って、まさかそれで草を刈れって言うの?」
「ん・・・無意味」
秋も終わりに近いので雑草と言えども枯れかけている時期だ。 剣閃だけでも草は枯れるだろうが、根は残るし種子も飛び散ってしまうだろう。 そうなれば来年も雑草が生えてきて畑造りは雑草との戦いになってしまう
『まぁそこは別の方法を考えておる。 先ずはやってみてくれんか?』
「マーリンがそう言うなら・・・てやっ!」
掛け声と共に飛ばされた不可視の刃が枯れかけの雑草を斬り裂きそれらを宙に舞い上げる。 それは10m程の間の雑草を蹂躙して掻き消えると、後に残ったのは途中から寸断された茎だけであった
「ん・・・お見事」
『ほっほっほ。まだまだじゃが、今はこんなもんじゃろ』
ヴィクトリアは手放しで褒めてくれるが、マーリンは合格点を出してくれたとは言え、まだまだと言った感じである。 それは当然アルベルトも感じている様であまり満足そうな表情では無い
「本当はもう少し距離を出したいんだよ。バイマトがやると倍くらい行くんだよね」
『まぁ、そこはこれからじゃよ。ほれ、今度はコッチに向かって放ってくれんかの』
剣を振るう事で不可視の刃を10mも飛ばせれば十分に感じるかも知れないが、アルベルトやバイマトの身体能力ならばそれ位の距離は一瞬で詰める事が出来る。 流石に一足の間合いとまではいかないが実戦で遠距離からの攻撃に使いたければもう少し飛距離が欲しい処であった
しかし、マーリンは今のアルベルトの実力を測るのではなく、別の目的で刃を飛ばさせたようで今度は別の方向へと刃を飛ばさせる
『よしよし、同じ距離じゃの。これを基準にしてっと・・・』
「基準?どういう事??」
『ふむ、収穫量の予測を立てるのには耕作面積を把握しておく必要が有るのじゃ。まぁ日当たりとか色々条件はあるが広さを統一しておくことは結構重要なんじゃよ』
「それじゃあ、今のは・・・」
『ふむ、アルが不可視の刃を飛ばせる長さを一辺にした正四角形の畑の広さを、そうじゃな1アールとして決めようかの』
「ん・・・安易」
『ほっほっほ、そう言うでない。言い易さと親しみ易さを兼ねた良い名前じゃよ』
「う~ん、それってどうなの?」
サウスバーグ領におけるアルベルトの人気を考えれば由来が彼だと言うのは中々に有効なのは事実だろう。 しかし本人にしてみれば聊か・・・と言う感じではあるようだ
『ここは土地が広いからその100倍を示すhをつけて1ヘクタールになるかの』
「う~ん、マーリンが言うなら・・・」
『そうと決まれば早速、区割りを始めるのじゃ』
「ええ!今から!?」
「ほっほっほ。修行にもなって一石二鳥じゃよ。ほれドンドン行こうか』
街道沿いに広がる膨大な枯草を刃を飛ばしてひたすら刈って行く作業を命じられたアルベルト。一度の動作で10m飛ばせても、1ヘクタール分となれば回数は10m×10回で四方を刈るのだから一つの畑を区分けするのに四十回も刃を飛ばさねばならないのだ
『ほれアルよ。威力が落ちてきてるぞ』
「ん・・・頑張れ」
結局、街道沿いの草むらを区分けするのに一日がかりで剣を振るう事になったアルベルトは砦に帰る頃にはクタクタになってしまったのであった・・・
☆△☆△
「はぁ~これはまた見事ですね」
「・・・本当に大変だったんだよ」
翌朝、アルベルトとヴィクトリアは区分けの終わった予定地に私兵隊を連れてやって来ていた。 流石に砦の兵士達を使って畑仕事をさせるのは気が引けたのと、まだ少数の私兵隊ならば業務に差障りが無いという事で残りの作業を手伝ってもらう事にしたのだ
「えっと、こうやって四方を縄で計って・・・そうそう、それでそっちの端に杭を刺して・・・」
「こうですね。なるほど・・・これなら同じ大きさの畑になりますね」
『作業用の荷馬車の道も忘れずにな』
「うん、後は畑と畑の間に作業用の道路も忘れないでね」
アルベルトがマーリンの助言を受けつつ私兵隊に作業を指示していく。 昨日アルベルトが区分けした畑に沿ってなので私兵隊の作業も随分とやり易そうであった
「しかし、これにどんな意味があるんだ?」
「何言ってんだハサン。これがどれだけ大事か判らないのか?」
「う、うむ、すまん。農作業は門外漢だ」
「そっか、お前は騎士の家の出だったか。俺みたいに農家の次男坊とは育ちが違うか」
「貧乏騎士の三男坊じゃ育ちなんかは変わらん。だが、流石に畑を一から造るとなると・・・」
私兵隊の兵士達は元帝国軍の軍人ではあったが、基本は平民出身の者が多く畑仕事などは慣れた物であった。 騎士爵を持つハサンの実家も平民と変わらない生活ではあったので畑を耕す事はあったが流石に開墾の経験までは無かったようだ
しかし平民出身の私兵が言う様に開墾での区割りは後々にまで影響の出る事なので初めにシッカリやっておくのは重要な事だ。 歪では無い四角形の農地は種まきも収穫も作業が捗るし、なにより土地を無駄にしなくて済む
また、各畑で作付面積が同じになるので収穫量の予想も容易になるのし、必要となる種籾や肥料の数も無駄がなくなるのだ
『ほっほっほ。良し、此処に畦道を造って、そうじゃその位で良いだろう』
「ここにこの幅で道を造るからね~」
「殿下、了解しました!」
『こっちには暗渠を通すかの・・・湧水は・・・ええい面倒じゃ。魔法でチャッチャっと創ってしまうか』
「こっちには水路を造るから予定に入れといてね」
「はい!・・・おい!旗を立てておくぞ」
マーリンが指示を出すと、それを私兵隊の面々に伝えていくアルベルト。 その指示に従ってテキパキと作業する彼等にはマーリンの姿も見えていないし声も聞こえない。 なのであくまでもアルベルトが指示を出している様にしか見えず、僅か五歳の彼に何故ここまでの知識があるのかと、感心しながらの作業になる
『よしよし。そうじゃの残りは焼き払うか!?』
「えっと残りは焼き払うから・・・って、焼き払うの?」
「は!?・・・殿下?」
「ああ、ごめん。ちょっと考え事しちゃって。あはははは」
何も無い空間に向かって驚いた様にしか見えない行動に訝しむ私兵隊の問いに引き攣った笑いを浮かべるアルベルト。 これだけの広大な土地を全て焼き払うと言うマーリンの言葉に驚いたからだとは言える訳が無い
『そうじゃ、延焼せんようにしっかりと魔力を操作すれば大丈夫じゃよ』
「そんな事・・・」
本来、魔法と言うのは放ってしまえばその後は一切操作の利かない物とされている。 使う魔法と込めた魔力によって結果が生まれるというのがアルベルトの知る魔法の常識であったし、カイヤからもそう教わって来た
『自身の魔力だけを操作するからそうなるのじゃ。 良いかの、空間にある魔力を操作する事が出来れば消費魔力も少なくて済むし、放った魔法に干渉して操作する事も可能になるのじゃよ』
「そんな秘訣が・・・それって僕でも出来るの?」
『勿論じゃよ。儂が教えるのじゃ出来ん方がおかしいわい』
「そっか。ならやってみるよ」
『ほっほっほ。焦るでない、先ずは結界の張り方からじゃ』
何も無い空間に向かってブツブツ呟くアルベルトを不思議に思いながらも、自分達を救ってくれた主を全面的に信用している私兵隊達は黙って作業を続ける
マーリンはただセイレケ砦の改修をするのではなくアルベルトの修行も兼ねるつもりだったのだ
こうして畑造り兼アルベルトの修行と言った感じで作業は進んで行くのであった・・・




