第二十二話 なんでこうなるの!?~②
仲間たちが揃っている客間は随分と広く調度品なども豪華すぎて、自分達が使うには贅沢過ぎるのでは?。五歳児には不釣り合いな考え方だが、アルベルトは独りそんな事を考えていた
父であるメネドールが上座に座りその正面にアルベルト。その隣でカイヤとバイマトが頭を悩ませており反対側ではヴィクトリアが優雅に紅茶を飲んでいた
自分を挟んだ左右で雰囲気がまるで違うのを楽しむ様にアルベルトの心情は不思議と解放された気分になっていた
「さて、どうしたものかな・・・」
メネドールの言葉に場の空気が引き締まる。辺境伯としての厳しさと子煩悩な父としての顔を出しながら彼は真剣に悩んでいる
事ここに至って隠してはおけないと、先程自身のステータスやマーリンの事をメネドールに話したアルベルト。それを聞いたメネドールは驚きを隠せないようだったが、息子であるアルベルトに対して良く話してくれたと礼を述べてくれており、隠し事を吐き出せたという思いがアルベルトの不思議な解放感を造り出してるのであろう
『まずは神殿対策じゃな。大聖堂がどれほど神に近いのか、司教の力がどれだけ神に近いかが鍵じゃな』
首都に有る大聖堂、それこそが大陸の端に在る神聖アデル王国が神聖と名乗る理由である
建国の英雄である初代国王、ヴィルヘルム・フォン・アデルはかつて無名の村であったこの地で神託を得て建国を志したとされる。その後、神託を得た場所に大神殿が建てられ同時に首都としてオーセントと名付けたとされる
所謂王権神授のお話しで王家の正当性を示す為の伝説やお伽話の類でどこの国にも存在する別段珍しい話では無い
だが、マーリンが警戒するようにこの国の創成記は少し事情が違う。実際この国の上層部の者達は本気で創成記を信じている。
単純な理由だ、要は百聞は一見にしかずという事で上位貴族達は叙爵の際に大神殿にて実際に神々の声を聴きその名前を神に呼ばれる
故にこの国は小国であっても貴族達が民たちを良く守り、他国へと侵略を行わない平和で豊かな国になっている。それが神の望みだと知っているからこそだ
「王家の要請とあらば儀式を執り行うのは大司教猊下であろうな。そして彼ならば確実に神へとその声を届けるだろう」
メネドールがマーリンの言葉を伝えたアルベルトに答える。実際にメネドールが辺境伯を継ぐときに神の声を届けたのが大司教であったので、その返事に迷いはない
「マーリンさんよ。前に言ってた偽装の魔法じゃ駄目なのかい?」
『そうよ。あの時言ってたわよね。な~んだ心配いらないんじゃない』
バイマトの言葉にメネドールの上でふよふよ浮いているライラが安心したように表情を緩める
『いや、そうもいかんのじゃ・・・偽装の魔法はそこまで万能では無い』
難しい顔をしながら答えるマーリンにライラは落胆の表情を浮かべアルベルトの通訳を聞いた皆が一拍遅れて同じ表情を浮かべる
一般的な神殿で執り行われる場合は神具でステータスを石板に映し出す。偽装の魔法はこのような道具類や魔法、【鑑定】のスキルならば誤魔化す事も可能だ。しかし相手が神々となると偽装の魔法を掛けている事がバレバレになってしまうと言うのだ
『偽装の魔法はあくまでも術者よりも格下の相手にしか効果は無い。いくら儂でも神々に直接観られたら効果はないじゃろうな』
「マーリン殿でも無理ですか・・・」
同じ魔法使いとして遥かな高みにいるであろうマーリンでも無理と聞いてカイヤは呻く様に言葉を漏らす
場に嫌な静寂が広がる中、アルベルトがあまり気にしていない様子で言葉を紡ぐ
「もうしょうがないよね。王様も僕の事をどうにかしようとはしないと思うから素直に儀式を受けるよ」
「アル・・・」
「僕は皆が好きだよ。例え他の人達が化け物扱いしても、こうやって皆が心配してくれるんだから気にしないよ?」
「ん・・・さすが主様。・・・大丈夫、主様を悪く言う奴は私が潰す」
「ちょっと待って、ヴィク!僕そんな事言ってないからね?」
今にも立ち上がりそうなヴィクトリアを慌てて止めるアルベルトの姿に皆の表情も緩む
「そうだな。どのようなステータスでもアルは儂の息子だ。王も正式に跡継ぎに認めると言った以上はどうこう出来まい」
言葉の割には相好を崩し目尻が下がりきったいつもの親バカ全開のメネドールの一言に皆が頷く。アルベルトの未来を考えての事であったが、考えてみればステータスが規格外であろうがアルベルトはアルベルトだ。あとは大人たちが彼を護ってやれば良いだけの話だと笑顔の奥で決意するのであった
☆△☆△
厳かな音楽が奏でられる中、大聖堂の祭壇に向かって正装のアルベルトが祭壇に向かってゆっくりと進んで行く。ステンドグラスに彩られた窓から射す光は祭壇の神秘性を高め、そこにある神々の神像を柔らかな光で照らしだす
急拵えの正装は少し大きかったが、それが却ってアルベルトの可愛らしさを演出しているとカイヤは思いながら祭壇へと進むアルベルトの姿を見送っている
バイマト、カイヤ、ヴィクトリアは近習という事でメネドールとは別の場所でその様子を見守っている。ヴァンパイアであるヴィクトリアは神殿の正常な空気を嫌う筈だが、平然とお澄まし顔でその場に控えている。まぁ伝説に伝わるヴァンパイアの弱点等は彼女にとっては意味の無い事らしい・・・
一方のメネドールは国王や宰相と同じ最前列に控え儀式の始まりを黙って見つめている。しかし公の場であると言うのに親バカ全開の表情は今にも泣きそうなほど嬉しそうだ
「それでは此れよりアルベルト・サウスバーグの五歳の儀式を始めます。皆さま頭を下げて神々の御言葉に耳を傾けて下さいますようお願いします」
アルベルトが祭壇の前までたどり着いた所で、脇に控える神官が儀式の始まりを宣言する。皆が頭を下げ片膝を付いた事を確認した大司教がアルベルトと祭壇の間に進み出てくると恭しく一礼した後に神への祈りを始める
「偉大なる神々よ、此処に無事五歳を迎えた事に感謝を捧げます。願わくばこの御子にその未来への道筋をお示しくださいますよう伏して願い奉ります」
教えられた通りの作法で祭壇に向かって最敬礼の姿勢を取っていたアルベルトはふと周りが明るくなった事を感じながらも、作法に反する事無く頭を下げたままであった
「アルベルトよ、頭を上げるが良い」
儀式の最中に声を掛けられる場面が有ったか?と訝し気に思いながらも姿勢を崩さないアルベルト。しかし一向に儀式が進まない様子に片目を開けてチラッと様子を窺う・・・
「ふぉわぁ~」
思わず零れたアルベルトの声。彼の眼に入ってきたのは白い床と抜けるような碧さの空だった
零れた感嘆の声に慌てて口を押えるも先程までとは打って変わった景色に驚き、視線はキョロキョロと周りを見渡す。そして頭上に目をやると同じように驚いているマーリンと眼が合う
「はっはは。驚いたか?まずは挨拶じゃな。初めまして儂はマルドゥックだ、ようこそ我らが愛おしき御子よ」
「マルドゥック様?・・・創造神!?じゃなかった創造神様?」
「よいよい、そう構えるな。賢者マーリンとは久しいの」
『チッ!くそ爺がなんの用だ』
「マリーン!?くそ爺って・・・」
「あら、私も忘れないで下さいね」
『ゲッ!お前もか!』
創造神に悪態をついたマーリンに驚きながら、更に現れた女神様とマーリンの様子に目を白黒させながら驚くアルベルト
『国王の守護霊が彼奴だった次点で嫌な予感がしておったのだ。まさか再び会うとは思わんかったがな!』
「まぁ良いではないか。過去の話は水に流して今世の事を考えようではないか」
どうやら過去のマーリンと何かしらの因縁があるようだが、創造神の方は気にした様子も無い。後から現れた女神様も澄ました顔で控えている
「さてアルベルトよ。お主にはある使命を果たして貰わねばならぬ。今はその内容を話す訳にはいかないが、良く励んで強くなるのじゃぞ」
「は、はい。って、使命ですか?」
「そうじゃな、色々頼みたい事も有る。しかし今は時期尚早だ。先ずは無事五歳を迎えた事を嬉しく思うぞ」
『何が無事五歳を向えた、じゃ。お主たちの加護が有れば当たり前じゃろうが!』
「これマーリン、少し控えなさい。貴方にも使命が有る筈ですよ」
後ろに控えていた女神さまがマーリンの言葉を咎める。それを受けて憮然とした表情を浮かべながらも黙り込むマーリン
「ユースティティアよ、そう怒るでない。久方ぶりに会ったのじゃから穏やかにな。それに我らが御子が驚いているではないか」
「あら、ごめんなさいね。アルベルトちゃんは悪くないのよ?」
「ちゃ、ちゃん!?」
いきなり女神さまから『ちゃん』付けで呼ばれて面を喰らうアルベルト。近所のお姉さんといった風情で女神さまから名前を呼ばれれば驚くのは当たり前だ
「さて本題に入ろう、アルベルトのステータスの事だ。正直五歳の時点で此処までになるとは思って無かったからな。流石にこのままだと問題が出そうだからな少しその桁違いのステータスを誤魔化さねばならんだろう」
『ふん。どうせまた良く考えていなかっただけだろう。このくそ爺!』
「ちと噂を流し過ぎた様じゃ。すまんすまん」
「噂?神さま達が何かしたって事?」
「はっはは。ちょっとこの世界の有力者にアルベルトの事をな」
「だからやり過ぎだと注意したのです」
『ヴィクトリアの事じゃ』
「???」
イマイチ判っていない様子のアルベルトにマーリンが補足で説明していく。ヴァンパイアの、しかも始祖の血族となれば神にも匹敵する力のある種族だ。それが待ち構えていた様にあの場面でアルベルトに出会う確率・・・
しかも会っていきなりアルベルトに対して行った儀式、その理由が運命だの決められた定めだの言い出したヴィクトリア
『お主ら、あと幾つの種族の伝承を弄った?』
「弄ったとは人聞きが悪い。ちょっと儂らの加護を与えただけだけだ。まぁ普段より多めに与えたのは確かだけどな」
『それが伝承に残ったと?』
「いや、こういう時に備えて予めちょっとな?」
『それが弄ったというのじゃ!』
珍しく突っ込み役になっているマーリン。普段は常識外れの事ばかり言って突っ込まれてばかりの彼だが、更に常識外れの相手には突っ込み役になってしまうらしい
「まぁそう厳しい事を言わないでくれよ。アルベルトの役に立つはずだからさ」
「マルドゥック様。そろそろ時間です」
「ありゃ、もうマーリンが騒ぐから全然話が出来なかったじゃないか。まあいいか、取敢えず桁違いのステータスは騒ぎにならない程度に誤魔化しておくよ」
「アルベルトちゃん、また大神殿に来てね。今度はゆっくりお話ししましょう」
『こりゃ!まだ話は終わっておらんぞ!!』
言いたい事をいって一方的に話を終わらせる神さま達にマーリンが叫ぶ。しかしアルベルト達を眩い光が包むと片膝を付いた状態で祭壇の前で畏まっている状態に戻ってしまう
「おお!神々よ。偉大なるその御力に感謝いたします」
何が何だか判らないままのアルベルトだが大神官の声が響くのを聞いて現実に戻って来たことを感じ取って大人しくそのままの姿勢を取り続ける
五歳児らしからぬ状況判断のお蔭で周りの人たちは異常に気が付く事は無かった筈だ
しかし、何故かどよめきが大聖堂に響き渡る・・・
「天才・・・いや神童じゃ!我が国に神童が現れたぞ」
国王の叫びに不安になりながらも状況がつかめないアルベルトだった・・・
第一章がなかなか終わらない・・・
もう開き直って書きたい事を書く事にします。あと二話くらいかかりそうです
読んで頂いて有難う御座います




