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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
第一章 幼年編
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第二十一話 なんでこうなるの!?

 なんでこうなるの!?。そう思う心の叫びを押し殺してアルベルトは片膝をついて頭を垂れる。教えられた作法を思い出しながら、斜め前で同じような姿勢を取るメネドールの姿をチラチラ見ながら自分の動作が間違っていない事を願っていた



「うむ、苦しゅうない。表を上げよ」



 国王の言葉にメネドールが立ち上がり、伏し目がちに王の次の言葉を待つ。同じように立ち上がったアルベルトだが初めて見る国王の姿に興味の方が勝ったのか、事前の説明を忘れてその顔をまじまじと見てしまう


 見事な金髪碧眼はこの国の王族の血筋である事を示し、年齢的な事から少し肉が付き始めているがそれでも鍛えていたであろう事が判る体躯をしていた。


 教わった礼儀よりも好奇心が勝ってしまったアルベルトは立派な顎髭が威厳を醸し出しているが下がった目尻がどことなく優しさをに染ませている国王の顔を奇妙な物でも見るようについつい見つめてしまっていた



「ウォッホン!」



 その様子に傍らに控える男性・・・先程アルベルトに注意事項を説明してくれた宰相のアクセル・オクセンシェルナが咳払いでアルベルトに注意を促す


 王族の方々の顔をまじまじと見つめるのは不敬に当たると言われていたのを思い出し、サッと視線をずらすアルベルトに国王ジオブリント・フォン・アデルが笑いながら声を掛ける



「良い良い。今日はこの国を救った小さな英雄の為の場じゃ。多少の事は大目に見てやれ」



 人の良い性格のままに笑顔を向けてくる国王に冷や汗が背中を流れるのを自覚しながら、アルベルトはなんでこうなるの!?と再び考え込むのであった



 ☆△☆△


 話しは少し前に(さかのぼ)る。


 カイヤの合図で砦に戻って来たアルベルト達は入り口で守備隊長のサニラに迎えられる



「アルベルト様。執務室でカイヤ様がお待ちです。そ、それでですね・・・あの、その~出来ればカルルク将軍を助けて頂けると・・・」


 言い難そうなその様子に首を傾げながらカイヤがいるであろう執務室へと急ぎ案内されるアルベルト達



「だから!なんでこんな書類を作ったのか聞いているんです!!普段は書類仕事しない癖に態々(わざわざ)・・・しかも印章まで押してこれじゃあ言い逃れできないでしょう!」


「いや、その・・・なんだ。儂なりにアルにも功績をじゃな」


「それは無しにって事で打ち合わせが済んでたでしょうに!」


「なぁ俺は関係ないだが・・・」


「五月蠅い!!!」



 ノックをする前から廊下に響き渡るカイヤの声。それを聞いただけで部屋に入るのを躊躇(ためら)うアルベルトだが、サニラの泣き出しそうな顔に後押しされて渋々部屋の中へと入っていく


 執務室の中では腰に両手を当ててプリプリ起こっているカイヤと正座でお説教を聞いているカルルク将軍と巻き込まれたバイマトの姿があった



「カイヤどうしたの?」


「あっ!アル。ちょっとこれ見てよ!」



 そう言ってカイヤが差し出してきたのは二枚の書類とメネドールのサインの入った手紙。更にはなんだか豪華な蝋に印章が押された手紙であった



 豪華な手紙は置いておいてまずは見やすい物から眺めていくアルベルト。一枚は自身のサインも入った見覚えのある物。帝国軍を撃退したのはカルルクの功績である事を証明する書類だ


 もう一枚はカルルク直筆で書かれた書類・・・その内容を見てカイヤが怒っている理由に察しが付いたアルベルトは苦笑いを浮かべながらカルルクを見る


 もう既にお説教の時間が長いのだろう、痺れる足をモゾモゾ動かしながらカルルクはバツが悪そうに視線を逸らすとポリポリと自分の頬を描く様な仕草をしている



「まぁ書いちゃった物はしょうがないよ。カイヤもそんなに怒らないで、ね?」



 アルベルトの言葉に表情を輝かせるようにカルルクが顔を上げる。



「流石は殿下じゃ!ホレ見ろ、そんなに目くじら立てる程の事では無い・・・」


「黙ってろ!ジジイ!!」



 本格的に言葉までも荒くなってきたカイヤに首を竦めて最後まで言葉を継げないカルルク・・・


 (はた)から見れば孫娘に怒られている祖父の様にも見えるが、エルフであるカイヤは見た目通りの年齢では無い。カルルクの何倍も生きている彼女の怒気にたじろぐアルベルト達・・・因みに同じく年齢と見た目が合わないヴィクトリアは平然とした様子でアルベルトに引っ付いている



「あら?ごめんなさい。おほほほほ」



 一瞬で表情を取り繕ったカイヤに突っ込んではいけないと悟ったアルベルトは次の書類、メネドールからの手紙を読むと流石に表情を変える



「これって・・・って、事はコッチの手紙がそうか!」



 アルベルトの頭上からマーリンが覗き込む



『ふむ、アデル王国の印章じゃな。これが押されているという事は王家からの手紙という事じゃ』



 その解説を聞きながら、見る間にアルベルトの表情が曇ってくる


 メネドールからの手紙と王家からの手紙・・・偶々砦に付いたのは同時期だがメネドールは王家から手紙が届くのを予見した上でアルベルトに準備を進めるように書いてある


 メネドールはカルルクの書いた書類で王家が調査に乗り出す事を予想していた。その上で自らに気を使う王家がそれでも直接呼び出すであろう事、更にその名目が例えお飾りであっても総大将の功を認め褒賞を出すという内容で断る事が出来ないだろうと書いて来ていた


 執務机の上に置いて有るペーパーナイフで手紙の封を開いたアルベルトは王家からの手紙がメネドールの予想通りだという事を確認して、父の凄さを実感すると共に自らに降りかかった災難に顔を(しか)める


 今頃はメネドールの方にも王家からの手紙が届いているであろう。手紙の内容は辺境伯のメネドールとアルベルト。それからカルルク将軍を首都にて歓待したいと書いてあるが、おそらく二枚の書類の矛盾点を突いてくるであろう事は簡単に予想がつく


 辺境伯家が全員で規格外のアルベルトの情報を秘匿していたのがこれでパァになってしまったのだからカイヤの怒りも尤もである



『ふむ。別に王家に知られたからと言って気にする事でもあるまい。どうせ何も出来んじゃろ』


「ん・・・気に食わなかったら潰せばいい」


「ちょ!マーリン。ヴィクもちょ~っと落ち着こうよ」



 生前から権力を撥ねつけていたマーリンと抑々(そもそも)人とは価値観の違うヴィクトリアが過激な事を言い出すのを必死に止めるアルベルト



「こうなったら辺境伯様とアルには首都に行って貰わなければ駄目でしょうね・・・」



 腕を組みながらカイヤが仕方無いといった風情で言葉を紡ぐ。カルルクにはこのまま砦に留守番してもらおうという事らしい



『まぁ一番つけこみ易い御仁じゃろうな』



 マーリンの人物眼に思わず苦笑いのアルベルト。確かに戦に関しては絶大な信頼を寄せる事が出来るが宮廷の策謀や騙し合いには向かないタイプだろうとアルベルトも同意する


 帝国への警戒の為に残ったと言えば取敢えずは反対されることは無い筈だ。そう考えたアルベルト達は早速準備に取り掛かる事にした



「な、なぁ儂、ソロソロ足が限界に・・・」


「もう少し反省してなさい!」


「俺、関係ないのに・・・」



 正座を絶賛継続中の二人が涙目で訴える。しかし流石のアルベルトも擁護する事が出来ずに部屋を後にするのであった



 ☆△☆△



 謁見の間での国王からの有り難~い言葉を緊張した面持ちで何とか乗り切ったアルベルト達。勿論これで終わる筈も無く晩餐会の後に国王の私室に呼び出される事になった


 先程とは服装も雰囲気もガラリと変えた国王が上座に座り、宰相もリラックスした様子で同じ椅子に座る。メネドールとアルベルトはテーブルを挟んでその正面に座っている



「そう緊張するな。この場は公式な場では無いからな」



 国王は気安い雰囲気を醸し出しているがその横に座る宰相は油断なくメネドールとアルベルトの表情を観察している


 いつもならマーリンがその事を指摘してくれるのだが、マーリンもまた国王の守護霊とバチバチと火花を散らしている真っ最中であった。一応アルベルトにはその様子が見えているのだが気付いていない振りをする


 今迄の経験からアルベルト以外に守護霊と話せる存在はいないと思うが念の為とマーリンから事前に言われていたからだ



「して伯よ、立派な跡取りで安心したぞ。まさか五歳で初陣とは随分と思い切ったな」



 来たよ!。やっぱりこれが狙いかとアルベルトは表情に出さずに身構える。メネドールからは儂に任せてニコニコしていれば良いと言われてはいるが、話が自身の事なのだからそうもいっていられない



「いやいや、優秀な家臣がおりますのでな。いい機会と思いましてな」


「そうじゃのバイマト殿やカイヤ殿。更にカルルクがいれば心配ないという事か?」


「ええ。有名な猛者、高名な魔術師。更に歴戦の将軍が居てこその決断です」



 お互い笑顔で腹の探り合いを進める二人、宰相は一言も喋らず観察係に徹する様だ。言われた様にニコニコしながらアルベルトも二人の様子を観察していた



「して褒美は何が良いか・・・辺境伯の息子だと爵位という訳にもいかん。金も要らんだろ?」


「辺境伯として当然の義務を果たしただけです。どうかお気を使わずに・・・」



 そう言って頭を下げ表情を隠すメネドールに宰相が探りを入れてくる



「いやいや。そういった考えはよろしくない。信賞必罰は厳にしなければ貴族共の秩序を保てません。この度の功績を測るにもう少し詳しいお話を聞かせて貰えませんかな?」


「とは言っても儂も別行動で公国の相手をしておったのでな。詳しい事は報告書に書いて有る筈じゃ」


「おお、そうでしたな。此度は親子での功績でしたな。はっはっは」


 態とらしく笑う宰相の姿にメネドールも苦笑している。どうせここからカルルクの書類の話に持って行くのだろうと察しはついている



「しかしですな。アルベルト殿のサインが入った書類とカルルク将軍からの書類では内容が違うのですよ」


「いやいや。お恥ずかしい。実はカルルクの奴、愚息を随分と可愛がっておりまして、老い先短い自分はこれ以上の功績はいらない、とか申して独断で書類を作ったようですな」


「それが二通の書類の正体ですか・・・」


「ほれ、カルルクは武勲一辺倒の男ですからな。その辺が上手な人間ならばアルベルトのサインの入った書類を隠すのでしょうが徹底できておらん処が奴らしいとは思いませんか?」



 はっはっはと大きく笑うメネドールにつられて国王も同じように笑う。笑って誤魔化すの典型だが国王も宰相も目が笑っていない



「成程な、理由は相判った。まぁカルルクの今迄の功績に免じて報告書の事は忘れよう」


「有り難き処置に感謝いたします」



 どうやら誤魔化せそうだと安心するアルベルト・・・



「しかし功は功です。流石に偽りの報告書を作ったカルルク殿に褒美を取らせる訳には行きませんし、ここはアルベルト殿に褒賞を与えましょう」


「そうじゃな。まずは正式に跡継ぎと王家が認めようではないか」



 国王が正式に跡継ぎである事を認めるのはかなりの意義がある。跡目争いや他の貴族などの介入を防ぐ意味でもそれは大きな意味が有るのだが、やはり国王から認められる、ましてや五歳の時点で認められるという事は大変な名誉である。アルベルトが養子だと公表している辺境伯家にとって大きな意味を持つのは言うまでもない


 アルベルトの将来は自分で決めさせたいと思っていたメネドールではあるが、取敢えず受け取らねば話が進まなくなるので黙って畏まる。ナニ、最悪は廃嫡という手段も有る。大事なのはアルベルトが自分の人生を好きに選べることなのだ、と彼は表情には出さずに独りごちる



「しかしそれだけでは此度の功績にはちと足りんな~」


「そうですな。なんでも聞く処によると帝国の侵攻で五歳の儀式を執り行えなかった聞きます。これを王家で執り行うのはどうでしょう?」


「おお!それは良い提案じゃ。大聖堂にて執り行えばより神々にも声が伝わろう。盛大に執り行おうではないか!」



 これが狙いか!国王と宰相の棒読みのセリフにメネドールの瞳が光る。



「いやいや。我が領民たちも楽しみにしている事であります。そこまで王家に甘える訳には・・・」


「なに大したことでは無い、国を守った小さな英雄の為じゃ。」


「そうです。大聖堂での儀式の後に領都にて祝いの席を設ければ領民たちも納得いたしましょう」



 畳み掛ける様な二人の勢いに流石のメネドールも否定の言葉が続かない。いつもならば得意の偏屈振りで躱すのだが、色々隠している後ろめたさが有るので強く出れないのだ



「良し決まった!誰かあるか!大聖堂の司教に連絡を取れ!!」



 決まった内容に異議を唱えられる前に外堀を埋めようと国王が近習に団取りを進めさせる。おそらく大聖堂の司教にも既に話を通しているのだろう


ニコニコ笑っているだけのアルベルトであったが、流石に顔が引き攣るのを隠す事が出来ない



(なんでこうなるの!?)



 三度心の中で叫ぶアルベルトであった・・・



この話で一章を終わらせるつもりでしたが、終わりませんでした・・・


もう少し御付き合いください



読んで頂いて有難うございます

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