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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
第四章 動乱編
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奴隷女と宰相~②

「本日はお日柄も良く国王陛下に置かれましてはご機嫌も麗しい様で、このバーン・ボッシュ、天の采配に感謝しておる処です」


「う、うむ。苦しゅうない表を上げよ。っていうかその気持ちの悪い前口上をやめよ」



 ボッシュの後ろで同じように控えるアリーがヤレヤレって感じで呆れているが、国王の前という事で平伏したままだったのでそれに気が付いた者はいなかった。


 昨晩、アデル王国の国王ジオブリント・フォン・アデルの為人を説明したのにまるで生かされていないのだから流石のアリーも遣る瀬無さが募るが、まぁ予想通りと言えば予想通りなので気にしてもしょうがないと開き直った彼女は、しかし致命的な失敗だけはしないで下さいと祈るような気持ちで頭を上げる



「では、失礼し・・・」


「おお、そちらの女性はアリー殿では無いですか。久しぶりですな」


「え、ええ・・・その節はお世話になりました」



 前口上を遮られたボッシュが会話を始めようとしたタイミングで宰相のアクセル・オクセンシェルナがアリーに声を掛けてきた。


 (わざ)とでは無いと思いたいアリーであったが主人が一番嫌うパターンになってしまったと曖昧な表情で返事を返す。 かつて帝国で高級奴隷として名を馳せていた彼女は乞われて外交の手伝いなどもしていたので宰相のアクセルとも顔見知りであった



「ウォッホン!改めまして、この度聖ザービス神国の使者という大任を承ったバーン・ボッシュと申します。以後よろしくお願いいたします」


「うむ、遠路遥々ご苦労じゃったな。して後ろの女性がアリー殿か・・・話しは宰相のアクセルから聞いておった。一度お会いしたかったのじゃが、まさかこういった機会になるとはな・・・」


「い、いえお気に為さらず。私などは所詮奴隷の身分。仕える主人は変わりましたが素晴らしい主人に仕える事が出来て私は幸せ者です」



 謁見の最中の咳払いなど著しく礼を失う行為だと言うのに、そこまでして自らに注意を向けたバーンの言葉は、しかしアッサリと王に流されしまう。


 しかも暗に亡国となった帝国の事を言い出すのだから、国王と宰相の意図は言うまでも無い物だった。 そうなるとバーンを無視した様な会話もおそらくは態とという事になる。 交渉という戦いの主導権争いは既に始まっているのだ



「どうやら我ら神国をお気に召さないようですな。しかし帝国を打ち滅ぼした我らを警戒なさるのは当然の事です。だからこそお互いの事を知る為に教皇様は私を遣わされたのです」


「いや、これは私めの不注意。つい懐かしさに使者殿を(ないがしろ)にしてしまったようで申し訳ありません」



 だが、バーンとて友好の使者に抜擢されるほどの男である。 内心の気持ちを隠して誠実さを演出しながら国王に向かって両手を広げながらアピールをする。 こんな事は外交では当たり前の話で如何に相手を揺さぶり自国を有利な立場に持って行くかが勝負なのである。


 選民意識の高いバーンであったが、その辺りは心得ているしまだ序盤の攻防で取り乱すことは無い。 しかし宰相のアクセルが邪魔だと内心は苛ついていた。 直接国王と交渉するつもりだった彼は先ずは宰相を論破しなければ国王まで辿り着けないのだ。



「して、バーン殿。貴国は具体的に我が国に何を望まれておるのでしょう?」


「はい。我らが教皇猊下は貴国との友好条約の締結とザービス教の布教を望まれております。確かに我が国は帝国を打ち滅ぼし、その座を奪ったように感じて見えるかも知れない。しかし我らは富みや権力を望んでいた訳では無いと言う事をご理解いただきたいのです」


「成程、事情があったと言いたいのですな・・・しかし長年続く帝国を武力で打倒した貴国がその牙を我らに向けないと言う保証はありますまい。他国からすればザービス教は武力で以って権力を掴んだ様に見えるし、事実貴国は元帝国の領域を支配している。つまり教皇には野心が在り我が国に布教というのも侵略の一手という考えなのではないかな?」


「確かに外から見れば貴公の言う通り我らは簒奪者に見えるかも知れん。しかしそこには長年の迫害と葛藤があったのだ。腐敗した帝国貴族達に虐げられた民たちを救う(まさ)に聖戦だったのだ。それを教皇猊下に野心などと馬鹿げた事を・・・」



 内心の苛立ちが徐々に隠しきれなくなりつつバーンは答える。 交渉相手と見込んでいた国王は一切口を開かず、格下の宰相如きが自分と対等に話し、更に態々ザービス教と教皇の名を出して此方を煽って来るその態度に我慢の限界も近かった


 この展開を読んでいたアリーが昨晩必死になって伝えてはいたのだが、ザービス教と敬愛する教皇の事まで否定されれば使者としての役目など吹き飛んでしまうのがバーンという選民意識の塊の様な男の限界であった



「聖戦ですか・・・また都合のいい言葉ですな」


「なんだと!貴様、黙って言わせておけば!!」


「アクセル、そこまでじゃ。流石に友好を望む相手国に対して礼を失しておるぞ」


「これは失礼しました。バーン殿申し訳ない」


「いえ・・・」


「じゃが、我が国の懸念も判って貰えたじゃろう。貴国の様に神とその代弁者では無く人が治める政治というのは面倒な事が多いのじゃよ」



 尚もバーンを煽るアクセルに流石に険悪な雰囲気が漂い始めた謁見の間に国王の鋭い叱責が飛ぶ 。その言葉にアクセルが素直に頭を下げ非礼を詫びる事で場の空気が落ち着き渋々であったがバーンも謝罪を受け入れる。 アリーには予定調和にしか見えないそのやり取りだが、表情を変えて人懐っこい笑顔を浮かべながらジオブリントがバーンを諭すように言葉を繋げれば、そうそう反論できるものでは無い



「あまり事を急いては上手く行かんものだ。此処はゆっくりと関係を熟成させるべきじゃと思うがな」


「いや、しかし・・・」


「折角、遠路遥々いらしたのだからゆっくりしていくがいい。今の季節は気候も良いし、そちの言う様にお日柄も良いからな。はっはっは」


「お、お待ちください!」



 朗らかに笑って席を立とうとするジオブリントに思わずっといった感じで縋る様に叫ぶバーン。 普通、謁見の場で退出する意思を示した国王を引き止めるだけで失礼というより不敬に当たる。 更に交渉事の場に於いてはハッキリとした悪手だった。


 なにせ引き止めた以上は交渉相手が意見を覆すような条件を示すしか手は無いのだ。 それはつまりザービス神国が一方的に大幅に譲歩する事に他ならない。 ましてやアデル王国としては使者に帰れとは言っていない、再交渉の場を持つ事を拒否していないし、こういった交渉事が一度で纏まる事が無いのが普通だ


 神国側からの条件提示もしていない今の状態ならば、餌によっては交渉が上手く行く芽はあると考えていたマリーにとって、ここで中途半端な条件を出せば即交渉決裂といった事態も予想されるだけに主人の短慮な行動に頭を抱えたくなるのを必死に抑えていた


 激高寸前まで散々煽られ国王の仲介によって場を和ますという王国側の鮮やかな外交手腕に焦ったバーンは致命的なミスをしてしまった事に気が付く。 その程度には頭は廻るのだが、だからと言ってミスを取り戻すほどの打開策を思い付く程には頭が廻らないのがバーンという男だった。


 一段高い位置の玉座から冷や汗を流しながら必死に打開策を考えるバーンを見つめるジオブリントの眼にはしてやったりといった表情が浮かんでいた



「ふむ。どうやら待つ必要は無さそうじゃの。行くぞアクセル!」


「こ、この奴隷女を差し出します。どうか、どうかもう一度考え直しては頂けませんか!」



 ジオブリントの言葉に焦ったバーンの提案に謁見の間が静寂に包まれる



「ご、ご主人様?・・・」



 アリーの悲痛な声が静寂の中に静かに響くのだった・・・


あれ?主人公どこ行った?




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