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88話

「一度話を聞いたことがあるのでございます。この地から北東に位置する、ジャイアントマウンテン。古より巨人の住む山脈として知られておりましたが、そこに神宝、【疾風の神足】が安置されていると――」


 エロババァの話が終わると、犬が即座に質問した。気になる点があるようだね。


「確か巨人は、魔導師達によって隷属化されてるのでしたな。それであるのに神宝はそのままなのですかな?」


「それに関しては、確かに一度は宰相の手によって神宝は持ち帰られたようなのであるが、その後、再び元の場所に戻し、今は巨人……いえ、【巨神】の手で守られてるようなのであります」


 きょじんじゃなく、きょしんに言い換えたね。随分と大げさな感じにも思えるけど。

で、あたしの怪訝な表情で察したのか、エロババァが補足してくる。


「巨神というのは、巨人たちを束ねる存在で、巨人の中でも最も膂力にすぐれ、より頑強な巨躯を誇っております。ジャイアントマウンテンで、永い間神宝を守り続けていたようで、その力を買われて引き続き、【疾風の神足】を奪われないよう護衛を続けているようなのです」


 ふ~ん、成る程ね。

 で、エロババァはその後、どこからか持ってきた地図を広げて砦と山脈の位置を説明してくる。


「この地図で行くと、ウエーノ砦と、ジャイアントマウンテンは距離がほとんど変わらないようですな。ただ、位置的には砦がここから真東、山脈は北東となりますが――」


 するとエロババァが口を開いて話を続ける。


「妾としては、この神宝が手に入るのであれば、先にそちらを手にしたほうがいいかと思うておる。それを奪ってしまえば取引の材料としても使えるしのう」


 ……そうか。それが奴らにとって大切なものなら、人質との交渉にもうまく使えるかもしれないって事だね。

 確かにスラパイと馬鹿の件もそうだけど、子供たちの事もあっからねぇ。


「しかし相手が巨人となると――簡単ではありますまい」


 犬が考えこむようにしながらそう言う。するとゴブリンが立ち上がって。


「しかし神様であれば、巨人であろうと巨神であろうと問題はないでしょう!」


 随分と自信ありげに言ってきたね。自分のことでもないのにどんだけだよって。


「むぅ、確かにマリヤの力は我も認めるところだが、巨人となると別格であるしな……」


「そうです。いくらマリヤ様といえど相手が巨人では、あの手も通用せぬでしょう」


 ……いや、あたしもまぁまぁ結構腕は上がってると思うし。


「そうであるな。確かに巨人も男であるとは妾も聞き及んでおるが、いくらマリヤ様といえど、巨人相手ではどうしようもないであろう。やはりこの案は」


 ……おいおい、更に相手が男だってんならねぇ。


「うん。それあたしやるわ」


 え!? と皆の目があたしに向けられた。てか、そこまで言われて手をこまぬいていられっかよ。ビッチなめんな!


「ほ、本気ですか?」


「本気だよ。巨人ぐらいなんだってんだい」


 あたしがしっかり股にはめてやんよ。


「さすが神様です! その言葉を待っておりました!」


 待ってたのかよ。


「しかし、砦の方はどういたしましょうか? そちらに向かうとなると――」

「その件ですが」


 犬の話に火の玉が割り込んできたね。


「私の知るかぎりだと、確かダークエルフの中には変化の魔法が使えるものがいると聞いたことがあります。砦の件はむしろそちらを有効活用した方がいいのではないでしょうか?」


 変化の魔法だって? なんだろうね。でも話の流れだと――


「どうなのだエロイーヨ?」


 デカマラが隣で寄り添うエロババァに聞く。てかこいつマジでデカマラにぞっこんだな。今も名前呼ばれて目見開きつつポッと頬染めてるし。


「ひゃ! ひゃい! 妾に掛かれば変化の魔法などお手の物なのだ! 見事マリヤ様そっくりに変身してみせよう! どうだ? 妾を嫁にして良かったであろう?」


「嫁? 我はお主を嫁にするなどと――」

「まぁとにかく、そんな便利な物が使えるなら話は早いやね。巨人とか巨チンの方はあたしが行く。そして牙に捕まる役目はあんたの方で頼むよ」


 あたしはデカマラを遮って、エロババァに指をさしそう命じる。


「マリヤ様のご命令とあれば喜んでお受けいたします」


 エロババァが頭を下げて引き受けてくれた。素直でいいね本当。


「しかしマリヤ。こやつを完全に信じてよいものか――」

「何を言うとる! 妾がお主を裏切るわけがなかろう」


 少し寂しそうに眉を落として、エロババァがデカマラに訴えたね。まぁこの様子だと大丈夫だろうねぇ。


「マリヤ様。その旅にはこの犬が同道させて頂きますぞ」


 犬が眉を引き締めてあたしに言ってきた。


「でも砦の方はいいのかい?」


「そちらに関しては私が付きましょう。このイメクラ! しっかり目を光らせますので」


「そういって頂けると頼もしく思います。それにマリヤ様に何かあられては、この犬もメルセルク様に顔向け出来ませんしな。マリヤ様が嫌だといってもついていきますぞ!」


 決心は固いみたいだね。まぁ別にあたしは構わないけどね。


「……ところで気になっていたのですが、何故犬と?」


 今更そこかよ!





◇◆◇


 犬の事はまぁ適当にごまかして、話もまとまったところで、あとはメンバーの選出となった。


 とは言え、巨人の方に関してはあたしの操るユリコーンでの犬との二人旅だ。

 

 砦に向かうメンバーに関しても作戦が作戦だけに、あまりぞろぞろとは行けない。三獣士の馬とマセコのユリコーン馬車のみで向かえるメンバーで行くことになるからね。


 どちらにしても城の守りもあるしね。だから砦に向かうのは三獣士、エロババァ、火の玉、腕の立つダークエルフに後はゴブリンも。


 ゴブリンは何で? という気もしたが、あたし達が領地に戻ってる間も、ゴブリンは畑を耕す以外に、クロスボウと矢を生産していて、的を作って射的を繰り返してたらしい。


 元々手先が器用なゴブリンはそれで随分と腕を上げたみたいだね。

 小柄で素早いのもあって、役に立つと思われたようだよ。


 で、そこにメイド長も名乗りを上げてきた。以前森で見ていたから、彼女が意外に腕も立つのは知ってたけどね。

 でもやっぱ犬は心配してた。でもあたしに変身したエロババァと三獣士だけだと、やっぱ不安って事になって、メイド長も捕らえられた事にして一緒に侵入してもらう形で話はついたけどね。


 正直お腹の面が気になるとこではあったけど、まだギリギリ目立たないし、メイド長の決意も固いしね。


「旦那様と奥様を助け出せるよう頑張ります! お任せくださいマリヤ様!」


 メイド長が拳を握りしめて随分張り切って見せてるね。


 まぁやっぱり、二人が攫われた事には責任を感じているのかもしれないよ。





「マリヤ。我が一緒に付いていくことが出来なくて歯がゆいが、信じているぞ」


 準備も整って、いよいよ出発となった朝、デカマラがあたしと犬に向けて、激励の言葉を述べてきた。


「あぁ巨人ぐらいあっさり何とかして、その神宝ってのを見つけてきてやるよ」

「この犬もついておりますしな」


「わ、妾も行くのだぞ! 少しぐらい心配してくれてもよいであろう!」


 ……横からエロババァが口を挟んできたね。胸の前に拳を持ってきて、悔しぃ! みたいな表情を覗かせてるよ。


「……裏切るなよ?」

「そんな事はせぬわ! いい加減信じてくれても良かろう!」


 いい加減といってもねぇ。実際はそんなに日はたってないんだけどね。


 デカマラに関してはこの城の守りの要だ。オークは全員残ってるし、ダークエルフも動ける奴はデカマラの命令に従うように言ってある。


 何せエロババァがこの有り様だからね。もう誰も文句を言うのはいない。てかオークにメロメロのが殆どだしね。


 残ったゴブリンは引き続き畑を耕したりさせて、またいざという時のために戦いの訓練もさせておく事にする。


 まぁこの辺は犬とデカマラが殆ど決めたんだけどね。


「マリヤ様。これをお持ちください」


 ふと火の玉があたしに、青い石の付いた指輪を差し出してくる。


「何だいこれは?」


 あたしは、火の玉から渡されたソレを手にとって、観察しながら聞く。


「それは遠話の指輪という魔道具でございます。私も身につけてありまして、持っている物同士であれば、遠く離れた場所からでも会話が可能です」


 へぇ、便利なものもあるんだねぇ。


「これ数あるの?」


「いえ、希少なものですので、私はこの一組しか持ちあわせては……」


 そっか残念だね。電話代わりにいいと思ったのに。


「とりあえず何かあればソレでご連絡を。こちらも進展があった際にはお知らせ致しますので」


 あたしは火の玉に、了解、と告げて、ユリコーンに跨った。犬もあたしの後ろに乗る。

 馬車は流石に邪魔だからね。切り離してユリコーンだけで向かうことにした。 

 

 ユニコーンと違ってユリコーンはメインになる乗り手の条件が合えば、後ろに異性が乗っても大丈夫みたいだからね。


 で、火の玉の方も準備が出来たみたいで、マセコが馬車を走らせる。

 それを見送った後、あたし達も出発した。

 振り向くとデカマラだけでなく、ゴブリンや城の上からはオークにダークエルフも手を振り続けていた。


「改めてみると随分とマリヤ様の臣下の者も増えましたなぁ」

 犬がなんかしみじみって感じに言ってくるけどね。


 まぁ臣下とかよくわかんねぇけどね。とりあえず今は目指せ! 巨チン! て感じだよ――

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