85話
ユニコーン馬車とユリコーン馬車は、大量のゴブリンを載せたまま、道なき道を突き進んでいくよ。
かなりの重量の筈だけど、物ともしないのは流石だね。
で、途中何度も野宿して、二日、三日と旅を続けていく。
帰りの途中、あたしはなんとなく気になって、童貞版ユニコーンみたいのはいないのかい? とか聞いてみた。
いてもおかしくないかなって、興味本位だけどね。
それでね、答えとしてはいた。名はヲタコーンって言うらしい。正直名前からして惹かれない感じだったけど、話を聞いたらさらにそう思えた。
実際種族としてもあまり重宝はされてないようだよ。童貞にしか心を開かないとかユニコーンの逆っぽいんだけどね。
正確が臆病で体格もユニコーンに比べると丸っこい……ようは太ってるって話らしくて、動きも鈍いらしい。
いいとこないね全く。
で、アッキハバーラ平原てとこによく現れるらしいけどね。それ以上はもう突っ込んでは聞かなかったよ。
まぁそんな会話もしながら、何日か更に馬車を進めたら、漸く見えてきたね。あたしの城がある森が!
◇◆◇
城の様子がおかしいことに先ず気づいたのは犬だった。
途中で馬車を止め、あたしの方に近づいてきて、降りたほうがいいようですマリヤ様、て真剣な目つきで言ってきた。
何事だい? と聞き返しつつ、あたしも火の玉も馬車を下りる。
とりあえずユリコーンもユニコーンも、目立たないところに待機させた。
マセコにも待たせて、ゴブリンは護衛として立たせとくことにする。
配置は全部犬が決めた事だけどね。どうも只事じゃない雰囲気だよ。
てか、ここんとこずっとこんな感じだね。
で、身を隠すようにしながら、城の近くまでいく。
そして、ある程度近づいたとこで、目立たないよう森の中から城を覗くと……倒れてるねオークが。
てか、城からも煙みたいのが上がってるし。
全く次から次へと――
「たく! なんだよこれは」
あたしは思わずグチるように零す。
「どうやら敵襲と考えた方が良さそうですな」
犬がそんな事をあっさり言うけどね。
「この城は攻めにくいんじゃなかったのかよ」
「はい。塔からは周囲が見渡せますし、普段ならダークエルフの魔法もありますので……ただ、今はその魔法が使えないのが欠点ではあったのですが――」
駄目じゃん! てかそりゃそうだ! ダークエルフは、エロババァも含めてアヘッてるし使いもんにならねぇし!
「神様!」
うん? 何かガサゴソと草木の掻き分ける音と、聞き覚えのある声が……て、城に残してたゴブリン達だよ。
「良かった! やっぱり神様でしたか! いや本当に絶妙な!」
嬉々とした顔でゴブリン達が言ってきた。
そこで早速話を聞いたけどね。
どうやら日が落ち始めると同時に、数十人の鎧を着た男たちが城に攻め込んで来たらしいよ。
一応塔の上にも見張りがいたらしいけど、敵さんは黒色に染めた革鎧や、フートを被ってたりしたせいで、気づくのが遅れたらしいね。
「相手は猿野郎かい?」
「いえ。人間でございます。ただ何人かは魔法を使うみたいで、オーク達も数多く眠りの魔法にやられました。グランドオークだけは頑張って今も中で戦闘を繰り広げてますが、弓や魔法に苦戦してるようです」
そこまで言って、自分たちはあたしが近くに来たのを股間に感じて、連絡しようとここまで来たと付け加えたね。
「これはあまり時間がありませんな」
「だね。とりあえず急ぐとしようか! あたしも変身するよ」
言ってあたしは狼の姿に変化する。そして先に城へと向かおうと身を乗り出す。
この状態だとあたしの方が早いからね。
「マリヤ様、相手が眠りの魔法を使うならお気をつけ下さい!」
犬があたしの背中に向けて叫んでくる。眠りか……確かに、だとしたらあたしにも効いてしまうからね――
「ぬぅ、ぐ、ぐぉおおぉおお!」
城内に入って進んでいったら、大通路の真ん中で、デカマラが叫びながら斧を振り回していた。
その周りに侵入者。鎧を来て剣を構えたのが八人、その外側でクロスボウを構えたのが五人。更に柱の側に黒ローブを羽織ってブツブツ呟いてるのが四人。
デカマラの瞼が半分ほど閉じて、今にも意識を失っちゃいそうな雰囲気だね。そのせいか動きも鈍くて、攻撃も大振りだ。
あれじゃあ当たらないよ。
さてっと。そうなるとあたしが狙うは……決まってるね!
「ウォオオオォオオオォオン!」
あたしは大口を開けて、腹の底から力を込めて咆哮した。
これで詠唱は中断されるし、相手の意識はこっちにも向く。
「マ、マリヤ! 戻ってきたか!」
デカマラが嬉しそうに叫んだね。あぁ戻ったよ。
だけど再会を喜んでる暇はないね。
あたしは右足で思いっきり踏み込んで、そのまま跳躍する。狙いは黒ローブの奴等だ。
どう考えても魔法はやっかいだからね。
「――我が魔力を込め、敵を打たん!」
ん? 杖を前に突きだして、一人が次の詠唱に切り替えてきたよ。ちょっとはやるみたいだね。
杖から青白い弾丸が発射されて、あたしの身体に当たったよ。
でも効かないね! 急ぎすぎたのか威力が中途半端だよ!
「おらぁ!」
あたしは右腕を天井に向けて振り上げて、着地と同時にローブの頭に拳を叩き込む。
グシャン! といい音がしてローブの奴が床に叩きつけられた。
そのまま動かないから気絶したか、死んでるか。でもそんな事を気にしてる場合じゃない。
何せ後ろのもう一人が、その間に別の魔法を唱え始めてる。
眠りの魔法だったら厄介だね――
「切り刻め! 荒れ狂う旋風の刃よ!」
するとローブのもう一人が、詠唱を完成させた。その瞬間、あたしの周りで大気が渦を巻き始める。
嫌な予感がして、とにかくローブをぶっ飛ばそう! と、身を動かって、痛っ! 思わずあたしは顔を歪めた。
みると、狼の毛ごと肌が抉れ、鮮血が床に零れ落ちていく。
て、ちょ! 洒落になんなくない?
だけどそんな疑問符をあたしが浮かべた直後、渦巻いてたソレが掻き消えた。
断末魔の悲鳴と共にね。
声は魔法を完成させたローブの奴のものだ。横から飛んできた斧で、中心から上半分が吹き飛んで、残った下半身からは噴水のように紅い液体が噴き出している。
「大丈夫かマリヤ!」
斧はデカマラの投げた物だったね。あたしが危ないと思って黒ローブを狙ったようだよ。
でもおかげで助かったね。
「ぐむぅ!」
あたしがデカマラに、助かった、と微笑みかけた直後、その脇腹に侵入者の刃が食い込んだ。
丁度鎧ではカバーしきれてない隙間を狙ったみたいだ。デカマラも思わず、苦悶の表情を見せるけど。
「こしゃくな真似を!」
語気を強めて、鎧の男を睨みつけた。
男はビビったみたいに腰が引けて、剣を抜こうとしてるけど、ピクリとも動かない。
多分デカマラが筋肉を締めたんだね。あたしがアソコを締めるほどでないにしても、大分キツイはずだよ。
で、慌てる男にデカマラが……噛み付いたね――
肩口から上が完全になくなったよ。やっぱ獣の血が通ってるんだろうね。
まぁ中途半端に怒らせる方が悪いんだろうけど。
で、一人片付けて、口に含んでた肉塊をペッと吐き捨てた。そして、脇に突き刺さってた剣を自分の手で抜いて、それを別の侵入者に向けて投げつけたよ。
刃は見事にクロスボウを構えてた奴の首を貫いて、ゴボゴボと血の泡を吹き出しながら、膝から崩れ落ちていく。
でもね、まだまだ結構数は多いよ。数本の雷の魔法も飛んできて、デカマラを撃つ。
本来はデカマラも雷には平気で耐えるけど、今は体力が落ちてきてるのか苦しそうだ。
こうなったら! と、あたしは柱に突き刺さったデカマラの巨大斧に駆け寄る。
そして、フンッ! と力を込めて抜き取り、厄介な魔法使い共に向けて投げつけてやった。
ブンッブンッブンッ! と耳に残る回転音を奏でながら、斧が空気と黒ローブ達を切り裂さいて、逆側の柱に突き刺さる。
うん……流石にこれは死んだね。
まぁでもだからって、感傷に浸るようなあたしじゃないよ。
ビッチなめんな!
でも、魔法を使えるのがいなくなったせいか、残りの侵入者も狼狽え始めてるね。
「我が魔力より生まれし十本の矢よ! 敵を撃ち抜け!」
お? この声は火の玉だね。詠唱の声が通路に響いたかと思ったら、青白い魔法の矢が、残りの連中を貫いていく。
折り重なるように悲鳴が上がって、バッタバッタと侵入者達が倒れていく。
もしかしてこれで片が付いたかな? と思いきや。
「くそっ!」
魔法の矢から逃れた奴が一人、クロスボウをあたしに向けたね。だけど――
「させませんぞ!」
駆けつけた犬が横から飛びかかり、大剣で矢を向けていた相手の首を跳ねた。その勢いで、頭が一度天井にぶつかり、跳ね返った後、地面に落下しゴロゴロと不器用な動きで床を転がった。
見開いた瞳が、近くのデカマラを見上げてたけど、フンッ! と憎々しげに頭を踏みつぶしたね。
さて、どうやら犬がやったのが最後だったみたいだし、ふぅ、とりあえずここの連中はこれで片がついたようだねっと――




