84話
馬車で走り続けて、間もなく日が落ちそうって時になってから、あたしたちは近くの身を潜めるとこに馬車を移した、
急斜面の丘で、岩場になっている。
ここは普段は道として使われる事はないらしいね。今夜はここで野宿って事になりそうだよ。
で、あたしが御者台から降りると、ユリコーンが長い顔をすり寄せてきたね。
ユニコーンと違って、あたしに大分懐いてるっぽい。
うぅ、毛もサラサラで肌も心地いいよぉ~、思わずあたしも頬をスリスリさせる。
「マリヤおねぇ様にすごく懐いてます! 流石ですマリヤおねぇ様!」
まぁねん。美しいものにしかなつかないって事だしね。う~ん良くわかってるなぁこいつぅ。そう考えたらますますかわいく思えてきたよ~。
「いやはや。微笑ましい光景ですな」
犬も顔をほころばせながら言ってくるね。
「あ、あのマリヤ様」
うん? 後ろから火の玉が声を掛けてきたね。
「そ、そのへんで止めておいたほうがいいかと……出来れば離れたほうが――」
そこで言葉を切ったけどね。はぁ? 何いってんの? こんなに懐いてるのに離れる必要なんて――
ペロッ――
ん、て、長い舌であたしの顔を舐めてきたね。
「あはは。おい擽ったいよ」
全く。まぁ動物だから仕方ないかな、て、うん、いやでも、なんか舐めすぎってか、ちょ、おま、ん!
「ん、ぐぅ! んぉ」
ひぇ? 舌を口の中に入れてきて、長い舌絡ませてきて、へ? おい、何してん――
「ヒヒーーーーン!」
て! おい! なんか興奮したみたいに鳴き出して、今度はあたしのスカートの中に顔を突っ込ませて、ペロペロって、お、おい! 牝馬だよなこいつ?
「あぁやっぱり。ユリコーンは気に入った女性に対し興奮すると過剰なスキンシップを取ろうとするんですよ……」
するんですよ、じゃねぇよ! 早く言っとけよ!
「マ、マリヤおねぇ様――」
「い、いやはやこれは、馬と人の、こ、興奮しますぞ!」
いや! 違うだろ! 顔紅くして観察してる場合か!
「ヒヒヒヒヒヒーーーーン!」
て、え? 今度は何かユニコーンの方から――
「ハッ! しまった! カグラ様ユニコーンを抑えて下さい! でないと!」
「え? あ、ちょ! どうしたのですかユニコーン!」
カグラが近づいて落ち着かせようとするけど、ユニコーンの奴、すげぇ興奮した様子で……ユリコーンに近づいてきた!
「ヒヒーーーーン!」
で、漸くあたしからユリコーンが離れてくれたと思ったら、ユニコーンを威嚇するようにして鳴き出して、近づいてきたユニコーンを躱しつつ、後ろ足で蹴飛ばしたりしてるよ、
てか何だコレ!
「じ、実はユニコーンはユリコーンに大して性的興奮を覚えやすいらしく、特に形の良い尻を見てるともう辛坊たまらんとか……ただユリコーンは男も雄も大っ嫌いですので、このような形で喧嘩になってしまうのです! と、とにかく早く引き離さないと!」
……あぁだからユリコーンは後ろに付けと言っていたのかい。
てか、コレ凄いな。ユニコーンは超興奮してて鼻息荒くしながらユリコーンを犯すき満々なんだけど、ユリコーンの方は全力で拒否ってるよ……。
「ユ、ユニコーン! ちょっと落ち着くのです!」
「マリヤ様! ユリコーンをどうか!」
なんか騒然としてきたね。てかユニコーンもユリコーンも男を受け付けないんだから、結果的にあたしやマセコがなんとかするしかないじゃん。たく――
「ブルル……」
とりあえずユニコーンはあたしが横から殴りつけて、無理やり引き離した。
冷静に考えれば、今のあたしがユニコーンに負ける筈が無いからね。
今は岩場で気絶してるのを、マセコが見てる。
で、ユリコーンに関しては、ユニコーンが途中退場した瞬間に、また発情してきたから、もう逆にあたしの方から攻めて、イカせた。
今は地面に横たわった状態で、濡れた瞳をあたしに向けてきている。
大人しければ可愛いんだけどねこいつも。
髪とか撫でてやると嬉しそうだよ。
「い、いやはやマリヤ様は流石でございます! よもやユリコーンを逆に、その、そのような方法で大人しくさせてしまうとは!」
「あっはっは。それがマリヤ様のお力ですよ。どんな相手でも、あの性技に掛かればイチコロなのです」
「うむ! あれはまさに性技であり聖技ですな! 素晴らしい!」
う~んなんだろう、褒められてる気がしない。
「そっちは大丈夫かい?」
とりあえずマセコにも声を掛けてみる。一応手加減したから、怪我はしてないと思うけどね。
「はい。ちょっと気を失ってるだけですので時期に目覚めると思います! この程度ですましてしまうなんて流石マリヤおねぇ様~ふふ~ん。なので~す」
鼻歌交じりに返してきたね。この様子なら確かに大した事なさそうだよ。
で、この晩は馬車に乗せてた携帯用の食事を皆で摂って、夜を明かした。
次の日の朝にはユニコーンも目覚めて元気そうにしてたけど、念のためユリコーンとは距離を離しておく。
出発はユニコーンが先行し、あたしが後からユリコーンで後を付いていく形だ。
火の玉と犬が話し合って決めたルートで、メルセルク領を出るまで特に危険な目に合う事もなく、そのままチヨダーク領に出て、例のゴブリンが身を潜めてる場所に向かって馬車を走らせる。
行きで犬が言っていたみたいに、帰り道の途中にあるので、少し迂回する形で向かう。
と言っても道はあたしも覚えがあって、あの眠らされた山道から少し外れた位置になるらしいね。
山の間の道を抜けながら進んでいくと、途中木々の生い茂る場所に差し掛かる。どうもこの中にゴブリンは隠れているらしいね。
「神様!」
「神様だ!」
「神様が来て下さったぞ!」
あたし達が奥に入って行くと、ゴブリンが数匹姿を現して、喜びの声を上げてきた。
そしたらぞろぞろと他のゴブリンが出てきたね。
てか多いな! 数十匹ってとこかい? 背は小さいほうだし、押しこめば車体の中に結構入るとは思うけど、こりゃ屋根の上とかも利用しないと無理だね。
「いやはや。中々の数ですな」
犬が顎を擦りながら言う。少し戸惑ってる様子も感じられるね。
「これだけいると外側にも乗ってもらって、移動するしかないですな。ですが安心して下さい。私は姿隠しの魔法も使えますので」
胸を叩きながら火の玉が言う。やっぱ中々便利だねこいつ。
「でも姿隠しって便利そうだね。消えるってことだろ?」
「正確には消えたように見えるだけですが、そう思って頂ければ良いかと。あまり大きく動くと効果が消えてしまいますが、しがみついてじっとしていて貰えれば大丈夫でしょう」
なんだ消えた状態のまま動き回れないのか。ちょっとがっか――
「……マリヤ様! お気をつけを!」
犬も何かを察したようだね。確かに妙な気配と微かに物音が聞こえるね。葉の擦れる音で結構近い――
と、か思ってたら木々の隙間から矢が飛んできたよ!
「チッ!」
あたしが舌打ちしてると、犬が速攻で前に出て大剣で矢を薙ぎ払っていく。流石だね。あたしは丸腰のままだったから躱して何本かはキャッチした。
ゴブリンは結構すばしっこくて、上手いこと躱したみたいだね。
マセコもとりあえず大丈夫そうだけど。
「チッ! 外れやがったかよ!」
舌打ち混じりに、周囲から鎧着た男共が姿を見せたね。
参ったね囲まれた感じだよ。
「むぅ、追っ手ですかな? いや、聖騎士でも騎士でもありませんな。これは?」
「……盗賊、というわけでもなさそうです。冒険者と考えたほうがいいでしょう」
火の玉が疑問の声を発して、犬がソレに応えたね。
「その通りさ。あんたらマリヤ・メルセルクとその一行さんだろ? ゴブリンとも仲良さそうだし間違いねぇな。災厄の魔女さんよ」
なんだか、変な異名が付いてるみたいだね。
「お前らはな。今やシンジュルク王国全土に手配書がまわってるんだよ。捕まえれば高額の賞金も出る。狙ってる冒険者も多いのよ」
曲刀を片手に冒険者のリーダー格ぽい男が言う。てか、手配書ってマジかよ。どんだけ必死なんだ。
「マリヤ様。弓を持ってるのもおります。少し厄介ですな」
「ゴブリンとカグラ殿、それに馬車も守りながらとなると――」
確かにあたしと犬がいれば片付けるぐらいわけないんだけど、火の玉の言った問題があるね。
最初の一撃はなんとかなったけど――うん? てまた、何かガサゴソと。
「よう。ずいぶん楽しそうな事やってんだな」
て! おいおいまた冒険者ぽいのが現れたよ。ちっ! 増援って奴かい?
……て、あれ? 何かみたことがあるような――
「あん? なんだモブダヨ達か。おいおい、まさかお前たちもこいつを狙いに来たのか? 言っておくが先に見つけたのは――」
「いや、俺達はアネゴの事はよく知っていてね。だからお前らとは逆の目的で来てんだよ」
うん? あね……あ! そうか! ヨーツヤの町にいた連中じゃねぇか!
「さぁアネゴ! ここは俺達が食い止めますから! 早く逃げてください! 俺達はアネゴがそんな事する御方じゃねぇって信じてますから!」
モブダヨ……チッ、初めて名前は知ったけどバッチタイミングだよこの野郎!
本当にナイスだね。名前もバッチリ覚えたよ。
「な、てめぇらギルドを裏切るのか!」
「アネゴの為ならそれぐらいなんて事無いさ!」
モブなんとかってのと仲間たちが一斉に冒険者どもに向かっていった。あたし達への注意が完全に逸れてるね!
「マリヤ様今のうちに出ましょう! モブダヨ殿でしたか? 助かります! 感謝しますぞ!」
「マリヤ様! こちらも馬車の準備はOKです! ゴブリン達も乗り込んでます!」
おお! マセコナイス! 用意がいいね! て、すげぇぎっしり! 屋根や横まで張り付いてるみたいじゃん!
て、言ってる場合でもないね。あたしもさっさとユリコーン馬車に向かって。
「準備オッケーだ! さぁ! 出るよ!」
モブなんとかっての達が食い止めてくれてる間に、あたし達は馬車を走らせて山道を突き進んだ。
後ろから、信じてますから! って声を受けながら馬車を疾走させる。
さ~てっと、後は城に戻るだけだね――




