80話
※2014/09/19 修正版と差し替えました
次の日の朝には予定通り犬とマセコ、そしてあたしで、城を出た。
今回犬に関してはあのいかにもって感じの鎧は着ずに軽装でくるみたいだね。
流石に目立つからだとか。だから今はズボンに長袖のシャツって感じ。
柔らかい生地だから動きやすそうではあるけどね。
ただ大剣だけはしっかり馬車に積んでたけどね。
で、皆に見送られながら出発したんだけど、馬車に関しては森の中にまともな道は無いから、森を抜けるまではマセコが手綱を引いて歩く形になったね。
で、森を出てからも犬の立てたプラン通りに馬車は進んでいく。
あえて誰も通らないような崖沿いを進んだりと、中々スリルのある道のりだよ。
勿論途中宿には泊まれないから、基本は野宿。
今回ばかりは人数も少ないからあたしも見張りに立ったりもした。
まぁ八割がた犬に任せたけど。
そんな道を走り続けているからかね、道中は結構獰猛な獣に襲われたりする事も多かったね。
でも大抵は犬が片付けてくれたし、その結果食べ物に困るような事もなかったよ。
「この森を抜けてしまえば領地までもうすぐですぞ」
なんとかギリギリ馬車が走れる道を突き進んでっけどね。
犬の話だと、ここを抜けるのに二日程度、で抜けてしまえば更に二日……もう慣れちゃいるけど、こっちの世界のもうすぐは、やっぱ長いねぇ。
「マリヤおねぇ様! アレックス様! 前方に道を塞いでるのが――」
とっ……正面の小窓の向こう側からマセコが叫んできたね。
あたしと犬が左右の扉を開けて、箱乗り状態で前方を確認したけど……う~ん確かにやたらでかい獣がいんね。
「ヘラクレスバッファローですな。この森では獰猛な部類の猛獣です。気性が荒く、人も襲いますからな」
犬が説明するその獣は、名前の通り赤黒い肌を持つ。まぁデケェ牛だ。
角が太くて逞しいね。頭から二本伸びてて、左右に開いてるような感じ。
いい感じの曲線を描いた形してるね。
「ここは一旦馬車を止めたほうが良いですな。しかしかなり大きいので、少し厄介かもしれません」
どうも目の前のは、そのヘラクレスって中でも、でかい方みたいだね。
まぁ確かにユニコーンと馬車本体を合わせたぐらいの体格だよ。
「じゃあちょっと、あたしがやってみるかな」
犬に向かってそう言ったら、え? て驚いてるけどね。
まぁでも返事を待たずに、身を乗り出した状態から、屋根の上に飛び移る。
「マリヤおねぇ様!?」
マセコが驚いてあたしを見上げてきた。ユニコーンの動きは緩まってる。
けど、あのバッファローはこっちに気づいてるみたいで、生意気にも鼻息を荒くしながら、後ろ脚で、地面を掻いてるね。
やる気まんまんって感じだ。
あたしは、首を左右に振りつつ、拳を鳴らす。馬車の中で座りっぱなしは結構キッツいんだよね。たまには動かないと。
「マリヤ様武器は!?」
犬も馬車から上半身を乗り出して、あたしを見上げてくる。
手に何ももってないから驚いてるみたいだね。
まぁ確かに素手ってのもアレだしね。んじゃっと。
あたしは馬車から横の大木に向かって跳躍する。で、脚を振り上げて、ホイッ! と、手頃な枝に向かって、思いっきり踵を叩きつける。
ネリチャギって奴だね。
そんで着地と同時に落ちてきた枝を肩でキャッチと。中々重量感があるよ。丸太並みにでかいけど、グランドオークの力があれば大して問題はない。
で、メラメラと炎が燃え上がってそうなバッファローの両目を見ながら、正面に立って、あいてる方の手でカモーンっと挑発する。
それが効いたのかはしんないけど、予定通りヘラクレスバッファローが、正しくモーレツな勢いで突撃してきた。
けどね、赤黒い肉塊があたる前にあたしは垂直跳びでそれを躱して、空中で後ろを振り向きつつ、猛獣の背中に向けて肩に担いだソレを叩きつける。
直後に鉄球でも落下してきたかのような豪快な音。そして碎ける枝。
なんだ、もうちょっと丈夫かと思ったんだけどね。
そんで、あたしの一振りを受けたバッファローは、潰れた蛙みたいになって、それからピクリとも動かない。
ベロンと舌だけ飛び出して、なんとも間の抜けた姿だね。
てか、なんだよ一発で終わりじゃん。犬があんな事をいうから、もうちょい手強いかとおもったのに。
で、マリヤ様! と駆け寄ってきた犬にそれを伝えたんだけどね。
「いや……それはマリヤ様が人が――いえ、神がかり的な強さを身につけてしまったからかと――」
こいつまた人外っていいそうになったな……。たく、こんな美人捕まえて人外はねぇよマジで。
「マリヤおねぇ様~ふふ~ん。素敵なの~ふふ~ん。昼食はこれで決まりなのです~ふふ~ん」
あぁ確かにそろそろ昼食の時間か。てか鼻歌まじりに嬉しそうだなマセコ。
こんな現地調達が続く旅にもマセコは特に不満はないみたいだ。中々逞しいね。
◇◆◇
狩ったバッファローは前にやったのと同じように、馬車にロープで括りつけて引っ張った。
とは言え、今回は中々の重量だからか、ユニコーンとはいえ少しはペースも落ちたね。
ただ、犬の話だと近くに川があるらしくてね。丁度水の確保も必要だから、そこで昼を摂る話になった。
そうして辿り着いた川は、いい感じのスペースがあって、馬車も止められて、食材の解体にもピッタリだよ。
でかい肉の処理は、相変わらず犬が大剣使って器用にやってくれた。
こういう時はナイフとかの方が使いやすそうだけどね。
犬に聞くと、それでも大剣の方がしっくり来るんだとか。
ダークエルフとの時はレイピアとかも器用に使ってたから、大剣以外も使いこなせるは使いこなせるんだろうけどね。
でもまぁ確かに犬っていったらこの大剣かなって感じはしちゃうよ。
で、水の確保も済んで三人で昼食を摂る。適当に犬が見つけてきた木の実と、焼いただけの肉って簡単なものだったけど、素材自体がいい味してたから中々旨い。
「……それにしてもマリヤ様よく食べられるようになりましたな」
犬がちょっと唖然って感じの表情で言ってきた。
う~ん確かにそう言われるとちょっと……てか相当だね。バッファローの肉も半分以上あたしが平らげちゃったし。
前から食欲が増してきてるなった感じはあったんだけどね。デカマラとのことがあって更にって感じだ。やっぱアレとなんか関係あんのかね。
「でもマリヤおねぇ様は全く体型が変わらないのです! 美しいままなんて羨ましいのです~ふふ~ん」
相変わらずマセコが鼻歌交じりに言ってくる。楽しそうだなコイツ。
「うむ。確かにマリヤ様がお美しいままなのは、この犬にとっても喜ばしいことでございます」
目を細めて楽しそうに語る。まぁあたしの美しさは未来永劫変わることは無いんだけどね。
さてっと――
「おや? マリヤ様どちらへ?」
「花を摘んでくるんだよ」
あぁ成る程、と犬が納得を示すけどね。
「お花ですか~ふふ~ん。それなら私もマリヤおねぇ様と~ふふ~ん」
「いえカグラ様。マリヤ様の言ってるのは、ちょっと排泄――」
おい! わざわざ濁した意味がねぇだろうが。
「あ、でもマリヤ様お気をつけくださいね」
うん? あぁまぁ獣とかもいるからねぇ。でも正直この辺のじゃ、何が現れても大丈夫そうだけどねぇ~。
「ふぅ~」
とりあえずあたしは適当な木陰で用を済ます。宿とは違って基本野宿だと、まぁ外でするしか無いからね。
でも、この辺の葉っぱは大きさも手頃で柔らかいから、紙代わりとしては十分に使えたりする。
何せ紙はそれなりに高価だし、トイレットペーパーなんかある筈もないから、こういう自然の物を利用する必要もあるわけだけど。
まぁそんなわけだから、とりあえず近くの葉っぱに手を……って、ん? 何かシュルシュルって音が足元から――まさか蛇か何かかな? 今更蛇なんか出ても、驚きはしな……て、はぁ? 枝? え、枝が動いて――て、ちょ! 脚に絡みついて!
「キャッ! ちょ! どこに入ってきてんのよ!」
あたしは思わず声を尖らせた。こいつ、あたしの着衣の中に潜り込んできて……ん、胸に巻き付いて、クッ、来やがった!
何だこれ!? 樹の枝の癖に……くそ! 振りほどきたいけど、腕にも巻き付いてきて、引っ張っては見るけど、妙に弾力があって、力でどうにかなるもんでもない。
「て、てめぇいい加減に、むぐぅ!」
ふぁ――口がふせがれて。ぐぅ、皮がかてぇし、ゴツゴツしてっし――
「マリヤ様! どうかされましたか!」
い、犬。あたしの声に気づいたみたいだね。
「あぁ、マリヤおねぇ様が樹木に、樹木に犯されてるのです! 大変なのです!」
マセコは言い方がストレートなんだよ。てか……。
「んぐぅ! ふぁぁく、ひゃんふぁか、ふぁてぇ!」
あたしは犬に何とかしろ! と訴える。手に持ってる大剣は伊達じゃないだろ?
「カグラ殿。あれはですな、バキュームトレントと言う名の、魔樹と呼ばれるタイプの種でしてな」
「え? あ、あのアレックス様。そんな事より……」
「あれはですな。雌の身体から流れる汗や、排泄物が大好物でして、ですので、その匂いに引きつけられて、あのような形で採取しようとするのです」
……い、犬、てめぇ、なに長々と説明してんだい。いいから、さっさと。
「あのアレックス様? それよりも早くお助けしないと!」
「しかしですな。あの魔樹は捕えたものから十分な栄養を補給さえすれば勝手に離れていきます。ですのでまぁ命の危険というものはないのですよ」
はっはっは、て何か呑気に笑ってけど……ざけんな!
「だからって……それに開放ってどのぐらいで、されるんですか?」
「……まぁ陽が傾く前には。しかし、とはいえ、この状況はなんとも、むほぅ! あんなとこまで!」
「んふぇ! ふぉぬ! ふぐぉ……、ふぁ、ふぁけん、ふぁ……」
はぐぅ! こいつら更に奥まで来てやがる! チッ! ザケンな! あたしは必要ならなんぼでも股を開くけど無駄なのは嫌なんだよ!
「……アレックス様。もしかして楽しんでませんか?」
「え? いやいや! そんなことは――」
「ふぁぬぅううぅうう! ふぁめぇえええぇ!」
あたしは思いっきり殺気を込めた瞳で犬を睨みつける。てか、てめぇ、覚えてろよ!
「ヒッ! あ、も、申し訳ありません! この犬! 今すぐお助けを!」
で、犬が近寄ってきて、大剣で枝を切り裂いていった。
どうやら、斬るってのには弱いみたいだね。
しかも斬られたらすぐに、引っ込んでいったよ。
「アレは性格は臆病なものですからな。身の危険を感じればすぐに逃げてしまいます。いやぁしかし大丈夫でしたか、な――て、あ、あのもしかして、お、怒っておられますか?」
激おこだよこの野郎!




