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79話

「マリヤ。本当に君だけで大丈夫なのかい? 自分の領地の事だ、本来は私がいくべきなのだが……」

 

 馬鹿が心配そうに言ってきたけどね。まぁ実際はそうなんだろうけど、犬と話して決めた。スラパイの事もあっからね。


 だから、今回はあたしと犬がマセコの操るユニコーン馬車に乗って、領地の様子を見に行くって事になったわけね。


 メンドイ気はしたけどねぇ。まぁ一応あたしにとってもメインの地でもあるからしゃあないかなって感じだ。


 それに、もしもって時は、子供二人を乗せて帰ることも考えなきゃ行けないって話もあるみたいだしね。


 更にその上で残りのゴブリンとも会わないといけないし。

 何せまだ結構残ってるらしくてね。

 まぁそれは領地の様子見てからになりそうだけどね。


「まぁあんたは、アリスの事をよく見ておきなよ。妊娠してるわけだしね。こっちは、い、

いやアレックスが付いてきてくれるしね。逆にあんたはこの城の事頼むよ」


 全く。つい犬っていいそうになるね。一度聞かれてるし気にすることでもないんだろうけど、まぁ一応そこは気を使ってる。


「……うむ! そうだな。この城も私の領地と思ってしっかり見させて貰うよ」


「我も全力で協力いたすぞ」


 そう言って、馬鹿とデカマラが握手した。

 最初は馬鹿の方がぎこちない感じがあったけど、大分慣れたみたいだね。


 まぁこの城はオークがいるし大丈夫かなとは思うんだけどね。


 その辺は一応犬とも話したけど、この城は森の中央の小高い丘の上にあって、城に備わってる塔からなら、森に入ってくるような連中も発見しやすいんだとか。


 ダークエルフは魔法にも長けてたって事もあって、そうそう攻め込める場所でもないんだと。すぐ後ろに湖があるのも大きいんだとか。


 で、後は出発だけど、これは犬が道のりを考えてくれている。

 流石にあまり目立っては動けないから、出来るだけ表立った街道は使わないで、少し遠回りになっても、まぁようは裏道みたいのを使っていこうって話。


 今日中にプランを練って明朝には出発できるようにしましょうって、まぁ忙しないことだよね。


「マリヤ様~今夜はふふ~ん」


「か、神様! も、もしよろしければなのですが、わ、我々にご加護を……」


 ……で、あたしはこれだよ。全く。

 まぁゴブリンにはあたしが居ない間に、この周りで畑が耕せるかやってもらう必要があるしね。

 

 まぁしゃあないかって事で、いつも通りマセコを片付けてから、次にゴブリンの相手をした。

 全員相手しても一時間かかんねぇしな。

 で、夜の行為も無事終わったわけだけどね。





◇◆◇


 さすがのオークも、夜まではダークエルフを抱かなくなっていた。

 捕まえてすぐの頃は恨みの念も大きかったのか、昼夜問わず腰を振り続けていたけど、今は夜はダークエルフも休ませるようにしている。


 とは言え、念の為、地下牢の前ではしっかり見張りのオークを立てているし、牢には牢で看守のようなものも見張っている。


――にも関わらず、奴等はその牢に侵入してきていた。黒いローブに身を包まれている者達だ。


 既に陽が落ちてずいぶん経つ。この時間は当然牢内も暗い。

 それが仇になったのか、看守を務めていたオークは、そのローブの足元に倒れていた。

 ただ、血は流れていない。どうやら気絶させられているだけのようだ。


 そして――ローブの一つがその中を覗き見た。そこは地下牢で一番奥に位置する、エロイーヨ女王が捕らえられている牢屋だった。 

 牢屋内とは硬い鉄格子で阻まれている。が、格子の隙間はそれほど狭くはない。

 黒いローブ達はお互い頷きあい、一人を残して飛散した。

 そして残った一人がローブの中から、キラリと光るソレを取り出した。諸刃の短刀(ダガー)で鋒が特に鋭い。


 そして黒ローブは、鎖に繋がれ眠っているエロイーヨ女王――まぁつまりエロババァに向けてダガーを投げようとしたんだけどね。


「たく、そんな物騒なもんで何するつもりだい?」


 あたしの声に驚いたのか……は、ちょっと判らないけど、黒ローブが振り向きざまに――躊躇なく突き刺してきたね! なんだコイツ! あぶねぇな! てか動きが素早くて、狼化してなかったらヤバかったかもしれないよ。


「マリヤ様大丈夫ですか!」

「マリヤ! 大丈夫か!?」


 犬とデカマラが同時に声を掛けてきたけどね、そっちはそっちでこいつの仲間に手を焼いてるようだよ。


「こっちは大丈夫だからそいつらしっかり頼むよ!」


 黒ローブは全部で三体。丁度数は合うけどね。で、こっちはこっちで、すばしっこい動きであたしの周りを跳ね回りながら、ダガーってのを投げつけてくる。

 暗いのと小さいのと素早いってのでちょっと厄介だね。

 

 チッ! 躱してばかりじゃラチがあかないか! しょうがない!


 あたしは相手の動きをある程度予測して、ダガーの一、二本は喰らってやるぐらいのつもりで一気に間合いを詰めた。


 で、実際肩と脇腹に一本づつ突き刺さったけど、狼化してるからか、それともオークの力を手にしてたのが大きいのか、あまり痛みは感じない。


 そして獣化したおかげで手に入れた鋭い爪――目の前に黒いのを捉えたときには腕を振り上げてある、それを、斜めに、引っ掻く!


 するとその一撃で黒ローブが引き裂かれた。正確には黒ローブだけが引き裂かれた。バタバタとはためきながら黒い残骸が床におちる。


 肝心の本体は、そこで初めてキーッ! って甲高い鳴き声を上げて大きく跳躍。そのまま天井に張り付きやがった。

 なんだこいつ、忍者みたいな奴だな。

 でも、顔ははっきりと判った。てか特徴的すぎるね。


「キーーーーッ! キキィ!」


 あたしが相手してた一匹が、再度耳障りな鳴き声を上げると、犬とデカマラが相手してた方も飛び上がって天井に張り付く。かと思ったら、そのまま揃って逃げていっちまったよ。


 正直追いかけようにも、ありゃすばしっこすぎだね。この身体でも追いかけられる気はしないわ。


「マリヤ様大丈夫でございますか? て! 怪我を!」



「うん? あぁ多分大した事ないよ。このぐらいならメイド長に治してもらえば大丈夫だと思うし……てかあんたらも怪我してんじゃん」


「我らなど大した事はない! それよりもマリヤが――」


 あたしがそう言っても、二人は自分の事よりあたしの事をえらく心配してくる。でもねぇ今はどっちかってぇと。


「てか、なんだいあの猿は?」


 二人の心配を他所に、あたしは猿の逃げた方に目を向けながら言う。

 実際あたしが目にしたのは、まんま猿みたいな奴だったんだよね。

 背は十歳程度の男児ぐらいはあったから、猿にしてはでっけぇなって思ったけど。


「アレは恐らくモンジャ族ですね。オークと同じように猿タイプの亞人です」


 犬がそう説明してくれる。オークは豚タイプの亞人で今のは猿か。

 だからあんなに身軽で動きが素早かったんだね。


「モンジャ族は独特の鳴き声でお互いコミュニケーションを取りますが、知能は高く、人の言葉も理解します。また武器の扱いに長けていて、特に今回のような、携帯しやすいダガーを好む種族ですな。夜に強く夜目が効くのも特徴です」


 それでこの時間にかい。


「でも、なんでダークエルフ達を狙ったんだろうねぇ」


 あの猿達は、エロババァだけじゃなく他の連中も狙ってたみたいだからね。

 ゴブリンとの行為も終わって、部屋を出た時にたまたま窓から変なの見つけたからいいけど、そうじゃなかったら全員やられてたかも。


 勿論これは性的な意味じゃなくてね。


「それは判りませんが……ただモンジャ族は本来チヨダーク領に根を張る種族です。かつては暗殺の為だけに仕えていたという話もあるぐらいですな。私も正式に見るのは初め……いや正確には二度目ですかな」


 二度目? とあたしは聞き返す。一度は会ってるって事だろうけど、その口ぶりだと、そんな昔の話じゃ無さそうだ。


「マリヤ様。あの時の事を思い出して頂ければと。マリヤ様がその姿になれるきっかけとなった――」


――あっ!? そか。思い出した。そういえば確かにあん時、ウェアウルフにトドメを刺していったのがいたっけ。

 そうか、アレがね――


「しかしこうなると、ここの警護も更に固めてもらった方が良さそうですな」


「うむ。そっちは我に任せておけ。こうなったら我自らも出来るだけ動く事としよう」


「お願いします。私とマリヤ様は明朝には出てしまいますからな」


 犬がデカマラに頭を下げてここの守りに関して一任したね。どうやら予定に関しては替える気は無いみたいだ。


「やっぱり行くは行くんだね」


「ワン! 勿論であります、寧ろこうなった以上急いだ方が良いとさえ思うのです。妙な胸騒ぎがしましてな――」


 顎に指を添えつつ、真剣な顔して何かを考えだしたよ全く。


 とは言えねぇ。基本は優秀な犬が胸騒ぎか……やっぱ気になるところだねぇ――

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