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61話

 引っ越しでございますか? と長が訪ねてきた。あまりピンと来てないみたいだね。


「そう。この辺りにいても迫害され続けるだけなら、いっそ少し離れてるけど別の地に移動したらどうかな? って話なんだけどね」


 あたしがそう言うと、長は少しだけ困った様子をみせる。


「神様のご意見はとても嬉しく思います。ですが我々もこれまで何度と無く新天地を求めて移動を繰り返してきました。ですが、どこへいっても人間どもは我々を襲い続けます。正直コレ以上どこにいけばという話であり、だからこそ! 立ち上がる決意も固めたのですが……」

 

 長が少し申し訳無さそうに言う。神様と崇めてくるあたしの姿がその人間だから遠慮してる感じか。まぁそれはそれでいいけどね。

 下手にここでやはり人間どもを! なんて話になっても面倒だし。


「移動したと言っても、このチヨダーク領の中を巡っただけだろう?」


「……領、ですか?」


 不思議そうに小首を傾げる。どうやら領地とかの知識はないみたいだね。まぁそれもそうか。


「そう。人間はね、住む場所によって自分の管理する領地というのを定める生き物なのさ」


「ほぉ! そうなのですか! 流石神様! 博識ですな」


 嬉しそうに身体を揺らしながら言ってきたね。まぁあたしは人間だから知ってて当然だけど。


「それでね。あたしはそもそもこの領地の人間じゃないんだけど、あたしの暮らしてるメルセルク領なら、あんたらを受け入れてくれると思うんだよ。だから――」


 と話を続けようとしたら、ちょっと待て~~! と後ろからペチャが叫んできたね。全くなんだって言うんだか。


「何?」


 振り返りぶっきらぼうな感じに聞く。


「貴様! 本気なのか? このような奴らを、貴様の、領地にだと?」


「あぁ、もう全然本気。多分あいつなら文句言わないし」


「き、貴様は馬鹿か! 本当に何を考えて……だいいち試練はどうする気だ! ゴブリンを退治するのが、貴様の使命だろ!」


「それなんだけど、あたしは侯爵に解決してくれと言われただけだからね。だったらゴブリンがこの提案をうけてくれて、他の領地に移動すれば、もうこの辺りで煙たがられる事もないだろう?」


 な!? とか言ってたじろぎつつ。


「そ、そのような屁理屈がまかり通るわけがないだろ!」


 また噴火山みたいに怒鳴りだす。なんだかねぇ。


「屁理屈? どこが? むしろ教会的にいうなら平和的解決で済んで良かったって話じゃねぇの?」

  

 あたしの言葉に、うぐぅ、とペチャが唸る。


「……あの神様。そのメルセルク領ですか? そこであれば我々を人間が受け入れてくれるという事ですか?」


「あぁ、そうだよ。それに自由に田畑だって耕す事が可能になる筈さね」


 そこまで言ったらゴブリンがその小さな身体を小刻みに震わせ始めた。

 なんだ? 何か気に入らなかったか?


 けど、そしたら長が他の仲間を振り返り。そして声を張り上げて喋る。


「皆の者聞いたか! なんと神様は! 我々を許してくれたどころか! 新しい土地を与えてくれるという! まさに奇跡! この方はまさしく我らにとって神! 我は誓おう! そして皆も誓え! 今後一生我々ゴブリンは! 大地母神の生まれ変わりたるこの神様に、その身を捧げ忠誠を誓うと!」


 長の言葉にゴブリンたちが歓喜して喝采を浴びせてきた。

 凄いねマジで。ちょっと腰振っただけなのに。


「……念のためもう一度聞くが、本気なのか?」


 ペチャはしつこいね本当。


「本気だよ。特に害はなさそうだしね」


 な!? とかまた喉を詰まらせて驚いてるけどね。

 でもあたしからしてみたら逆に不思議なぐらいだよ。

 だってこいつら、ようは只の農業好きだろ? しかも持ってる力で作物が普通よりよく育つといったら、利用しない手は無いしね。


 まぁ精液が肥やしってのは若干気にはなるけど……でもまぁ確かに栄養は豊富だし、あたしだって結構飲んでるしね。

 そう考えたら問題はない。


「ところでさ」

 

 あたしは長に向かって一つ尋ねた。これ結構大事だけど。


「あんたらって給金とかいる?」


 すると長が首をひねって、逆に、給金? と尋ね返してきた。


 うん。この様子だといらないみたいだね。


「いや、一応越してきてからも田畑を耕したり作物を育てたりはしてもらう事になると思うんだけど……」


「はい! 我々はそれだけで十分すぎるほどです!」


 う~ん。なんて便利な奴らだ。


「あ、ただ。その」


 うん?


「もし一点だけお願いできるのであれば。その。このような事を神様に口にするのは心苦しいのですが……」


 あぁ。なんだろね、わかりやすいな。

 全く男はこういうことは、本当すぐ顔とかに出るからね。

 まぁこいつらには雄雌は無いらしいけど、あたしからしてみたら男と変わんねぇし。


「うん。そっちもちゃんと考えておくから大丈夫だよ」


 あたしがそう言ったら、こいつらも察したみたいで、随分喜んでるね。まぁでもそれを出汁に……。


「ただ一応、何も無く場所だけ提供ってわけにもいかないからね。育った作物なんかはこっちにも分けて欲しいんだけど」

 

 当然、コレがないと来てもらう意味がないしね。


「何を申されますか! そのような事は敢えて言わずとも当然の事でございます! 我々は必要最低限の分以外は全て神様に納めるつもりでございますので!」


 ……こっちの面でもチョロインだったなこいつら。


「あの、ところで神様」


 うん?


「何だい?」


 そうあたしが問い返すと、畏まった感じに頭を下げて口を開いてくる。


「我らの他の同胞も一緒に移住させて頂いても宜しいでしょうか?」


 あぁなんだそんな事か。


「別に構わないよ。皆まとめて越して来ちゃいなよ」


 人数いた方がむしろ助かるしね。


「なんと! 神様の優しさに胸が震えますぞ! 本当にこの出会いを与えし奇跡に――」


 う~ん、こいつ結構おしゃべりだね。このままだと延々しゃべり続けてそうだよ。


「まぁ細かいところはもうあんたらに任せるけどね。他のゴブリンと合流したりで準備にはどれぐらいかかりそう?」


「はい! なんでしたら今すぐにでも向かえの者をださせます! それほど離れてもいないですし、走り続ければ三日以内には合流可能でございます!」


 三日以内か。結構早いね。で、聞く分には他のゴブリンも二十体ぐらい居るみたいだね。


「思ったより早く準備できるんだね」


「はい。我々はご存知の通り、神様の加護の力で、いくら歩こうが走ろうが脚が疲れることはありませんので」


 得意気に話してきたけど、いや、全然ご存知ではないけどね。


「おい! 貴様ゴブリンを移住させるのは……とりあえず判ったとして、移動するまでの間はどうさせるつもりだ!」


「いや、それは当然ここにいてもらうしか無いだろうさ」


 しかしこの口調の時はペチャは本当声がでかいね。


「ふざけるな!」


 たく、なんなんだよこいつは一体。


「そんな物騒な物をもっているゴブリンを、このままにしておけるわけが無いだろう!」


 うん? 物騒……あぁそうか。


「そういえばさ。あんたらのその武器とか杖って自前?」


 ペチャから再度長に視線を変えて、訪ねてみる。すると、あ! とちょっと驚いた顔になって。


「も、申し訳ございません! 神様!」


 て、また土下座してきた。


「いや、なんで謝ってんの?」


「は、はい! 実はこの武器は突如現れた啓示と共に置かれていたもので……あ、いえ! 違いますな! 今思えばあれはむしろ悪魔の囁き! 何せ神様を処刑するように示されていたのですから!」


 ゴブリンの長はペコペコと頭を下げながら言ってくるけど……。


 あたしを処刑? ちょっと話がつかめないねぇ――

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