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48話

 ショタが来る理由は、犬にも良くは判らないって事だったね。ただ、そういう根回しをあまりしていない馬鹿と違って、ショタは教会連中ともずいぶん親しくしているらしい。


 まぁだからどうだって話ではあるけど。


 さて、大司教とやらが来るとなって、急に慌てだしたのが二十秒でね。


 そのなんだか偉そうなのが来る頃には、メイド長を一旦牢に入れさせて欲しいとか言ってるみたいだ。


 なんだか面倒な話だねっと。二十秒の事は本当どうでもいいんだけど、犬が、話をしたがっているようです、とか言うから、とりあえず犬と一緒に二十秒のところに向かった。


 二十秒は例の地下牢に繋がる小屋の前で雁首揃えていて、丁度あたし達がついたタイミングでメイド長もやってきた。


「マリヤ様!」


 一声上げて、あたしの目の前までメイド長が駆け寄ってきた。そして両手をぎゅっと握りしめて、なんか少し悲しい感じの顔見せてるねぇ。


「マリヤ様……お話はお聞きしました。大司教がわざわざやってくるとか……私、私――」


 あぁそっか。もとはといえは自分のせいだからって責任感じてんのか。

 確かにそれはそうなんだけどね。だからってメイド長攻めたってどうしようもないし、過ぎちゃった事をイチイチ気にしてもいられないしねぇ。


「別にそんな事気にしなくたっていいよ。それに、別に何か悪い話でくるって決まったわけでもないんだし」


 右手を振りながらそう返した。ちょっと微笑んだりもしておく。それでもまだ申し訳無さそうに頭を下げてたけどね。


「まぁまぁメイド長、マリヤ様はそのような過ぎた事を気にされる方ではありませんし。あまりメイド長が申し訳なくしていると、返って困ってしまいますぞ」


 犬が身体を揺らしながらメイド長に告げる。犬なりに気を使っての事だろうね。


「犬……ありがとう」


 うん。まぁメイド長は素直にお礼を言ってるんだろうけどね。犬の表情が微妙だよ。


「あ! ごめんなさいアレックス様! つい」


「あ、いえいえ、だ、大丈夫ですよ」


 つい、か。やっぱこいつ犬属性高いんだろうなぁ。メイド長が思わず犬呼ばわりしちゃうぐらいだからね。

 まぁあたしのせいってのも多少はあるのかもだけど。


「あ、あの……」


「あ? 何だ二十秒」


 声を発したのはメイド長だ……てか態度の違いが凄いな。腕くんで汚物でも見てるような目を二十秒に向けてるよ。


 で、犬は犬で、そんなメイド長をみながら頬を紅くしてるね。なんだM気が反応したのか。


「わ、我々は別にお前になど」

「お・ま・え?」

 

「……メイド長にではなくマリヤ様にお話が」


 で、あたしかい、なんだろうね一体。てか二十秒は揃いも揃って怯えた子犬みたいな目してるし。


「何?」


 面倒だなと目を細めて一応聞き返す。


「はい。あの、大司教がやってこられた時に、メイド長が自由にされてるとちょっと……」

「あぁ?」

 

 スゲェな。今のメイド長の、あぁ? は完全にヤンキーのソレだよ。

 てか、二十秒の件はやっぱソレか。でもなぁ。


「別にいいじゃん。面倒だし。メイド長も今はしっかり仕事もこなしてくれてるし、反省したようです、とでも言っておけば」


 あたしはあっさり言ってやった。そんな事で、あ~だこ~だ、正直メンドイ。


「いや! 流石にそれは! 私達の立場というものもあります!」


「知らないよ。あんたらの立場なんて」

「全くですわ」


 あたしの言葉にメイド長が同調した。まぁメイド長からしたら特にそうだろうね。

 でも、そんなあたしの横に犬がたって、ちょっと難しげな顔をしてるな。


「マリヤ様。ただこの二十秒が言っているからというわけではないですが、教会の許可も取らずに、牢から出したとあっては後々面倒なことにもなるかもしれません――ですからここはフリだけでも……」


 う~ん。ナルホドね。まぁそう考えるとフリだけならやっておいてもいいか。


「それじゃあメイド長。その大司教ってのか来るときには、まだ幽閉されているってフリだけでもやってくれるかい?」


「勿論ですわ。マリヤ様のご命令とあらば」


 そう言ってメイド長があたしに深く頭を下げる。全く二十秒に対してとは偉い違いだね。


「じゃあお前らもそれでいいだろ?」


「ちょっと待ってください!」


 まだ何かあんのかよ。


「その前に、一応フリといってもしっかり出来るかというのもありますし……」


 どうやら一度メイド長の演技をみておきたいって感じみたいだね。

 全くいいだろう適当でも。メイド長も眉を顰めて不満気だし。


「どうする?」


 メイド長に聞いてみる。が、応えはマリヤ様が望まれるなら、とそうなるかやっぱ。


 じゃあ……まぁでもよく考えたら暇だしな。

 てことで、とりあえず演技を見てみることにした。メイド長は二十秒と地下に降りていって、少したってからあたしと犬も降りていく。





「どうだ! 少しは反省したか!」


「わー。わたくしーもうこんなところにーとじこめられているのはーいやですわー」


 ……うん中々だねこれは。


「あーまりやさまー。わたくしーものすごくーはんせいーいたしましたわー」


 凄いね。動きも全くないね。音程も均一である意味で天才かも。


「もうわたくしーこんなおとこどもにーおかされたりーまわされたりするのはーごめんですわーおゆるしくださいー」


「いや! その事はあえて触れなくてもいいだろう!?」


 あぁやっぱ根に持ってるんだ。


「てか、これヒド! 何これ、こんなの大司教にとてもみせられないですよ!」


 二十秒のハゲたほうが、嘆くように言ってるね。


「うっさい黙れハゲ。二億五千万回死ね!」


「メイド長も中々言い方がキツイですな」


 いや、何故嬉しそうなんだ犬。


「メイド長。流石に今のままだと、ちょっとアレだから、もう少しだけ演技に磨きをかけておいてくれない?」


 まぁ二十秒ハゲの肩を持つわけじゃないけど、流石にこれはちょっとないなって感じだしね。


「マリヤ様! はい! わかりました! 私、全身全霊をもって演技に磨きを掛けてみせます!」


 いや、別にそこまで気合いれなくてもいいけど。


 で、屋敷に戻ってその大司教とやらが来るまでは、マジでメイド長演技の練習してたようだね。なんかあたしとヤル時間をその時間にあててたみたいだ。


「マリヤ様を楽しませる時間を使ってしまって申し訳ないのですが」


 そんな事を本当に申し訳なく言ってきたけど、あたしは別に構わないしね。別にこっちから求めてるわけじゃないし。


 で、更にそれから三日経って、いよいよその大司教とやらがやってきたんだけどねぇ――





◇◆◇


「ようこそお越しくださいました。コマゴメフ大司教」


 大司教とやらが乗る馬車が到着して、屋敷の外で、隣にいる馬鹿が出迎えた。流石の馬鹿もちょっと緊張してる様子だね。

 馬鹿を挟んだ向こう側に立つスラパイもやっぱ表情が固い。

 大司教ってのはそれだけ偉いってことなのか……まぁ確かにね。


 なんか凄そうだなってのは乗ってきた馬車で判るかなぁ。白銀色のずいぶんと豪華な雰囲気の車体だ。 

 扉のとこには教会らしく十字架みたいなデザインが施され、宝飾も多く鏤められている。

 で、そんなのが三台もきてるんだよね。大司教が乗ってきた一台と、後はその従者である神官、そして護衛の聖騎士がそれぞれ乗っていたようで、まぁ物々しい雰囲気も感じさせてるね。


 更に言うとね……引いてるのが馬じゃないんだなこれが。白い狼? 見た目はそんな感じかな。

 でも毛はかなり多くてフサフサしてそうだし、細長い瞳が四つある。更にデカイ! ライオンとか、いやそれより更に一回り大きいかな? そんなんが一台に二頭付いてるんだよね。


 それで、一体なんだろうなぁ? てちょっとあたしが見てたら、

「あれはフェンリルですな」

と、犬がそっと教えてくれた。


 なんでも教会本部のあるブンキョー領にしか生息しない神獣なんだとか。

 ユニコーンより早く走れて、風のような素早さを誇ってるらしいねぇ。やっぱパネェな異世界。


 だからか、ソレに引っ張られる車体も色々特殊な材料で作られてるらしいね。そういえば車輪も本来なら木製や鉄製だけど、白い柔らかそうな生地で覆われてるね。

 あれで、あたしがいた世界のタイヤみたく、衝撃を吸収してるのかもね。


 で、そんなフェンリルが引く馬車だから、御者も神官が勤めてるようだ。神官クラスだと普通に魔法は使えるらしいからね。


 そして今、馬鹿が出迎えてる大司教とやらは、犬の話だと聖衣と呼ばれてる金糸に銀糸をふんだんに使ったローブに身を包まれていて、如何にもといった雰囲気だ。

 頭にはやっぱり豪華な冠を被ってて、先端が十字型の杖を右手で握りしめてる。


 見た目は年は八十過ぎってところかな? 白い顎鬚を蓄えていて、歳相応の皺が顔に刻まれている。太い白眉に隠れるようになってるせいか、眼は開いてるか閉じてるかイマイチ判らないな。


 ただ腰はシャンとしていて、姿勢はいい。まだまだ現役ってとこなのかね。


「久し振りだねマリヤ。いや、今は神の使い様かな」


 ふと聞きお覚えのある声に、あたしが視線を動かすと――うん、ショタがいた。あぁやっぱきてたんだ。大司教から数人の神官を挟んで左側に立っているね。

 呼びかけてきた言葉はどこか冗談ぽく、あいかわらずの笑顔を見せてくる。


 そういえば教会の馬車につい目がいってたけど、ユニコーンの引く馬車も少し離れたところで控えてるね。

 て、うん? ショタの馬車とは反対側の方だけど、やけにこじんまりとしたのも見えるね。


「ふむ、ところで――」


 ふと、大司教とやらが顎鬚を擦りながら、ショタと馬鹿を交互にみた。はっきりした声で落ち着いてる感じがあるね。

 雰囲気的には一見真面目そうにも思うけど。


 するとショタは馬鹿に目配せを行った。したら馬鹿が慌てたように。


「ご紹介が遅れました。彼女こそが私、ベンツ・メルセルクの側室であります、マリヤ・メルセルクでございます」


 そう言ってまず馬鹿があたしを大司教に紹介した。本来なら正妻であるスラパイからなんだろうけど、今回来た理由から、先にあたしを紹介したのかもね。


「ご紹介に預かりましたマリヤ・メルセルクと申します。どうぞ宜しくお願い致します」


 あたしは大司教にむかって深く頭を下げる。とりあえずは行儀よくしておく必要はあるだろうしね。


 で、馬鹿はその後に続けて、隣のスラパイも紹介し、彼女も挨拶する。


「ふむ――」


 再びそう言って、大司教があたしとスラパイを交互にみた。眉毛が上がった事で隠れていた瞳が浮かび上がる。かなり鋭い目つきだねぇ。


「……なるほど。ぬほっ! 二人共偉いぺっぴんさんじゃのう」


 ……急に顔が崩れた。で、ついでに開かれた目尻も垂れ下がったね。


「それで、どっちが例の神の使いじゃったかのう?」


「向かって左側のマリヤ・メルセルクですよ大司教様!」


 と、教えてるのは、あぁそうだ、たしか支部長とかいう、え~と、名前なんだっけな。まぁいっか火の玉で。こいつも来てたんだな。

 あぁ、てことは、もう一台の馬車は火の玉が乗ってきたものだったんだな。


「ほぉほぉなるほど。このオナゴがそうか。いやいや」


 なんか一人納得しながらあたしに近づいてきたね。で、片目を見開きながら髭を擦って、ジロジロと上から下まで品定めするように見てきやがった。なんだこの爺ぃ……。


「――は、いくつかのう?」


「……はい?」


 思わず聞き返す。


「じゃから、お主のスリーサイズはいくつかのう?」


 いや、いきなりソレかよ。


「大司教! なんてことをお聞きになられてるのですか!」


 従者の神官が叫んだ。何か注意してるね。品位がどうとか。


 ……てか、どうやらこいつは只のスケペ爺ぃだったようだね。どうりで、周りを固める神官や聖騎士とやらも女が多いわけだよ――


 


 

 






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