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36話

※2014/09/19 修正版と差し替えました

 あたしは一応ノックして、

「あのカグラちゃん? マリヤですが。入ってもいいかしら?」

と声を掛ける。


「え? マ、マリヤ様? そ、その……」


 一応反応はあったんだけど、そこで声が途切れた。どうすっかな……あぁでも鍵は掛かってないな。


「入りますわね――」


 一言口にして、ドアを開け部屋に脚を踏み入れる。もう時間も時間だから中は暗いね。ただ例の虫がいるから、灯りを付けても? と聞いてみる。


 けど、布団を被ったままで判断が付かないね。まぁいいや灯してっと。


「お食事持ってきましたの。少しは食べないと身体に毒ですよ?」


 言って適当なところに置く。反応は――ないか。


「カグラちゃん。やっぱり――襲われた時の事を気にして?」


 ここはもうそのまま聞いてみた。でも、やっぱ反応は無いね。ふぅ。


 とりあえずあたしは近くの席に腰をかける。

 そしてまぁ色々考えながら口を開いた。


「カグラちゃん……実はね、私も、前に同じような目にあってるの」


 マセコの反応は無い。だけどさっき返事はあったんだ。話は聞いているだろう。


「正直、怖かった、なんでこんな事をするの? って何も出来ない自分が悔しかった」


 そう、だから――て、あたしも何を浸ってるんだか。


「だからカグラちゃんの気持ちは判る――なんてそんな事をいうつもりはないわ。だって心は人それぞれ違うもの。それなのに、きっと私と同じ気持なのよねなんて判った気になるのは思い上がりでしかないものね」


 ほんの少しだけ、布団が動いたような、そんな気がした。


「だからねこれはあくまで私の話でしかないかもしれないけど……私をねそんな状況から助けてくれたのはメルセルク伯爵やアレックスだった。そしてこんな私をアリスも受け入れてくれた。それはとても感謝しているわ。私に居場所を与えてくれたから。でもね――」


 勿論これは建前ではあるけどね――で、一呼吸置いて……。


「でも、結局立ち直るには自分自身の気持ちを強く持つしかないのよね――少なくとも私はそうしてきたから」


 て、何を語ってんだか。ま、勿論こんなのは何となく思いつくままに喋ってるだけなんだけど。


「ごめんなさい。私余計な事を言ってしまったかも……けどね、メルセルク伯爵もいぬ……アレックスも、アリス夫人も……そして私もカグラちゃんの事を思ってるし、それにまた元気な笑顔を見せてくれると信じてるわ。勿論すぐには難しいのかもしれないけれど――」


 そこまで言ったところであたしは立ち上がった。結局顔は見せてくれなかったけど仕方ないね。


「カグラちゃん。暫くはこちらで滞在させてもらえるよう、私からもメルセルク伯爵に言ってみますね。それで――」

「ごめんなさい!」


 うん? え? ごめん? は? てかマセコが布団をガバっと起こして……顔、見せたね。


「違うんです! 違うんです! 違うんです! 私ってば違うのにごめんなさい! それなのにマリヤ様の辛い思い出を、ごめんな、さ、い」


 て! 泣きだした! おいおいおいおい! 意味がわからねぇよ! なんだよコレ!


「か、カグラちゃんどうしたのですか? そんな急に……」

 

 仕方ないんで、食事に添えてあった手拭きを持ってマセコに近づく。


「とにかく涙をこれで」


「あ、ありがとう、ご、ごじゃいましゅ~。ヒック、ヒック、フビィイイイイ!」


 ……いや、鼻かんだらもうそれ使えねぇだろ。


「ごえんばざい。わたじぃ、皆さんに余計な気をつがばぜで~それにマリヤざまの~うぇ~ん」


 だからなんで涙声なんだよ……。


「そんな事はいいのですよ。気になさらないで。でも、違うというと?」


 とりあえず、それを聞いておかないと話が進まない気がするから聞く。


「え? ……その――」


 て、何か急に頬を紅らめて、視線を逸しはじめたな……そういえばこいつ、ちょいちょいあたしから目を逸らしてた気もするけど。


「わ、わたし、わたし、わ~ん! ごめんなさい~~!」


 また泣きだした! 何だよ一体!


「お、落ち着いてカグラちゃん。そんな泣いて謝ってばかりじゃ……ね? ちゃんと理由を聞かせて?」


「ヒック、ヒック、私、私悪い子なんです」

 悪い子?


「私……いけない子なんです」

 いけない子? いや何言ってんのかよく判んないんだけど……。


「私――変なんです」

 それは判る。聞くまでもない。


「実は!」


 お?


「あの、あの狼さんから助けてもらってから、変なんです!」


 布団をキュッ! と握りしめて、瞼をギュッ! と閉じて、それで狼さんときたか……それってワーウルフの事だよな? よりによって狼さんてか……で――


「変……と言うと?」


 あ~あ、布団を握る腕を更に強めて、瞼も更にキュッ! とさせちゃって……。


「お、おかしいのです。ま、マリヤ様の顔を見たり、思い出したりすると――か、身体が熱くなって、胸がキュ~~~~っと締め付けられて!」


 ……はい? て、まぁね。うん、途中からもしかしたら~って感じもあったけどね。


 まぁつまりだ。あの事件以来あたしから目を逸らしてたのは、あたしと目を合わせるのが恥ずかしかったからで。


 で、部屋に篭っちゃったのもそんな気持ちに気づいてしまったからで。


 あたしが声を掛けて慌てたように返事を返したのもそれが原因と。

 勿論あたしが部屋に入ってから布団をかぶり続けていたのも、あたしに顔を見られるのが気恥ずかしかったから……ってとこなわけだ。


 ざけんなマセコ。お前ちょっと、あたしのなんか語り入ってた時間を返せ。

 くそ! 無駄に恥ずかしいじゃねぇか!


「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! こんな気持ち! 私、只の御者なのにこんな事で皆さんに心配かけて! 大事なお客様にこんな! こんな!」


 なんか必至に謝ってるけど。うん、ますます顔が紅いね。まぁその気持が何かはうすうす感づいてるんだろうけど、どうしていいかわからないって感じかな。

 さすが生粋の処女!


 てわけで、まぁ、それはありがとう、で、済まして……って感じでもないよね。勿論それはそれで時間が何とかするのかもしれないけど、寧ろソレを知ったらあたしとしてはとっとと何とかしたい。


 て、わけで。あたしはこいつの気持ちに応えてやることにした。






 まぁそんなわけでマセコは経験が少ないだけに直ぐに絶頂を迎えたね。

 途中からあたしをおねぇ様とか呼ぶようになってた。

 でもまぁ好きに呼べばいいよって言ったら嬉しそうだったな。


 でもね。やることも終わって隣で眠るマセコを見てると、ふと犬の言葉が思い出された。

 うん。まぁあれだね。

 

 べ、別に、あ、あたしだって! し、したくてしたんじゃ、な、ないんだからね!


 ……て、何いってんだか。うん、まぁ不可抗力ってことで。

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