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35話

 宿を出て、ある程度走ったところで、犬が、はぁ、はぁ、と息を落ち着かせた。

 かなりの慌てようだったしね、身の危険を感じたのかも。優秀な犬でも苦手な物はあるんだね。


 まぁアレには、あたしもちょっと怯んじゃうけどね。あぁいうのはマジで嫉妬すると半端ないし。

 

 で、落ち着いたところで、その後は一緒にギルドに言って事情を話す。まぁ説明したのは殆ど犬だけど。


「事情は判りました。すぐにでも手練の冒険者を集めて森に向かわせます。しかしなんでまたワーウルフなんかが……チヨダーク侯爵殿下にも知らせを送らねば――」


 ギルドのカウンターにいたのは眼鏡を掛けた三十そこそこってとこの男だった。ショタの街にいたのと比べればナヨっとした感じかな。

 ただ真面目そうな奴だから、犬から話を聞いて相当慌ててるようだ。


 まぁとは言え、これ以上は出来る事もないので、と犬とあたしは早々にギルドを立ち去った。


 事件が起きたのは馬鹿の領内でもないし、あまりしゃしゃりでるわけにもいかないみたいだね。


 で、その後は教会に。これもまぁ当然だけど、ショタの街に比べればこじんまりとした作りだ。本当に町の教会って感じ。


 中に入ると、神父……というか治療魔法を施せるぐらいの身分だと司祭って言うらしいけど、痩せた馬面が対応してくれたんだけどね。


 犬はその場に残して、あたしは祭壇のある場所から別室に連れて行かれた。治療はこの部屋で行うみたいだね。


 部屋に入った後は司祭が椅子に腰を掛けてあたしにも薦めてきた。

 で、薦められるがまま座ると、

「では傷をみせてもらえますか?」

と馬面がいうから、あたしは服を脱いでみせた。


「い、いやいやいやいや! 傷だけみせてもらえればいいのですよ!」


 なんだかすげぇ慌てぶりで顔まで赤くさせて、ついでに鼻血まで出しやがったよ……。


 まぁつまり背中だけみせろって事か。でもめんどいじゃん。胸の一つや二つ減るもんじゃないし。

 てかコイツ女に対する免疫なさ過ぎだな。もしかして神に仕える身だから童貞ですってか? しょっぱいなおい。


「正直、あなたのような人は初めてですよ……」


 改めて服で前を隠すようにしながら背中を晒すと、そんな事を言ってきやがった。

 タダであたしの美ボディーを見れたっていうのに文句を言うなボケ! て感じだよ全く。


 治療に関しては十五分ほどで終わったね。

 なんか手を翳してきて、ちょっと暖かい感じが続いたってとこかな?

 これで治るんだからやっぱ異世界ぱないね。

 でも、鏡がないから自分で確認できないのが欠点かな。まぁ嘘は言わないだろうけど後で犬に確認しておっかな。


「しかし貴方も、女性としてもう少し恥じらいと言うものを持たれたほうがいいですよ」


 治療も終わって部屋を出ようかとおもったら、偉そうにそんな説教じみた事を言ってきた。

 ざけんな鼻血野郎の癖に!


 と思いつつも、まぁ外面では気恥ずかしそうにして、

「司祭様のような素敵な方に恥を晒してしまいました――これではもう……あたしは」

とか言って瞳を潤わせて手を握ったら、わ、私は神に仕える身として、なんて慌てふためきだして、椅子ごと倒れちまったよ。

 あはっ! ザマァ~。


 でもまぁその後も優しく起こしてやって、谷間を見せながら、からかってやったんだけどね。

 そしたら、しまいには治療費(お布施)は結構ですので、とすっかりデレデレになった顔で言われたよ。ラッキ~。





「お布施は本当に良かったのですかね」


「いいっていってんだから、いいんだろ」


 教会を出てからそんな事を犬が聞いてきた。全く細かいことを気にするよな犬も。


「……しかし治療の前と後で随分と顔が……なんというか頬が相当に垂れて、あと何で鼻血が……」


「色々と元気なんだろう」


 察しろよ犬。て、あ、そうだ。


「え、マリヤ様?」

 

 あたしは犬の腕を掴んで建物の影に連れて行く。戸惑ってる感じだね。


「ねぇ、犬――」


「はい!」


「違うでしょう。返事は……」

「わ、ワン!」


 そうそう。で、シャキンって感じに背筋を伸ばす犬の顎をスリスリとさすってやる。


「あ、あのマリヤ様?」


「ふふっ。判るでしょう? 犬」


 犬は、え、え! と慌てた感じを見せてるけどね、そこでスルスルとドレスを剥いでいって肌を晒す――


「マ、マリヤ様。まさか、こ、こんなところで……」


 犬の声が相当に上擦ってね。でもねあたしは早く――


「ねぇ犬。あたしの――」


 ゴクリと生唾を飲む音が聞こえた。


「あたしの背中、ちゃんと治ってるかい?」


「……え? せ、背中ですか?」


「そう。背中。自分じゃ確認出来ないし」


「……はい。しっかり治っておりますが」

 

 あたしは、そう、と言ってドレスを着直した。振り向いたら犬がめっちゃがっかりした顔してるし。何考えてんだよ犬~。

 大体こんなところでやるかっての。ましてやあたしから誘うわけないじゃ~ん。


「じゃあ帰るよ犬」


「え? もうお帰りで?」


 当たり前だろって。あ~あ、しょぼ~んってなっちゃって、まさにお預けを喰らった犬だな。本当からかいがいのある奴だなぁ~。





◇◆◇


 宿に戻ったら馬鹿が食堂の椅子でぐったりしていた。なんか、チョットやつれたようにも見えるな。

 精も根も尽き果てたって感じだ。


「彼、疲れ溜まってたみたいだから特別スペシャルコースを施しておいたわん。ウフン」


 バケモノのウィンクが再び犬に放たれた。うん確実に次を狙ってるな。こりゃマーキングだね。くわばらくわばら……。


 てか馬鹿マジで開発されたか? 


「ア、アレッ、クス――」


 お! 喋った! で、ゆっくりと上半身を起き上がらせる。やべぇゾンビみたいだ。


「な、なんでしょうかメルセルク様」


 とか言って犬もちょっと焦ってるね。まぁある意味、主を生贄に逃げたわけだしねぇ。


「お前。わたし、の、騎士だよ、な?」

 

「も、勿論でございます」


 まぁあたしの騎士犬でもあるけどね。


「じゃあ、主の命は絶対だな?」


「……ま、まぁ」


 そこだけあやふやな返しだな犬。


「そうか……主人。この者も随分、と、旅の疲れが出てる、と、思うので、な。その特別スペシャルコースで、英気を、養って、やってく、れ」


 主人という名のオネェ系化け物の眼が光る。


「承知したわ~ん」


「え? いえ! そのわたしは特に疲れては……ヒッ!」


 屈強な腕に捉えられて、犬はどこかの部屋に連れて行かれた。犬が最後に哀しげな瞳をあたしに向けてきたけど、しっかり笑顔で見送った。


 さようなら犬。貴方のことは忘れないわ。





 で、何となく馬鹿に聞いた限りだと指や手で色々弄くられたぐらいで、貫通はされなかったみたいだね。なんだつまんない。


 まぁでも、犬はさっき妙に興奮してたし丁度良かったかもねっと。





◇◆◇


 化け物のマッサージが終わって暫くは犬も馬鹿も部屋に閉じこもってしまってたけど、夕食の頃には大分回復したようだね。


 てか実際マッサージそのものは効果があったみたいで、馬鹿も犬も妙にテカテカしてるよ。すげぇな化け物。


「さぁあたしのお手製料理よん。たんとお食べ」


 この言葉は犬や馬鹿に向けられてるって感じだったけど、料理はしっかり全員分が用意されていた。まぁ当然だろうけど。


 ただ、足りないものがあったんだよね。それは――


「……カグラちゃん夕食いらないって」


 スラパイが心配そうに降りてきて言った。馬房に馬車を預けて、その後はマセコは部屋に閉じこもってしまってるらしい。

 

 一応声をかければ返事はあるけど、声もどこか辿々しいとか。


「やはりショックが大きいのかもしれないな」


「元気な素振りはみせておりましたが、無理をしてたのかもしれませんな」


「……でも困ったわ。こういう時にどう声を掛けていいか」


 三人が思い思いの台詞を吐く。でもここに来てねぇ……。


「こういう時は色々と経験豊富な者が最適なのかもしれないが……」


「そうですわね。でも経験といっても」


「ふむ。出来れば同姓で経験の豊富な――」


 ……おい! おいおいおい! あたしかよ! てか何だよ経験って! 何の話だよ! クッ、でも視線は完全にこっちにむいてるよなこいつら――


「わ、私が声を掛けてみましょうか?」


 チラチラと見てくるのがウザいから、とりあえず言ってみた。


「いや! 別にマリヤが経験豊富だからと言ってるわけではなかったのだぞ! だけど、お願いしてもいいかな?」


「わ、私もそのようなつもりではありませんでしたし、無理にとは言えませんが、お願いして宜しいですか?」


「経験豊富なマリヤ様ほど適任はおりませんし、お願いしても宜しいかな?」


 馬鹿もスラパイも遠慮がちにしながら、結局はあたしに任せてきやがるし、犬に関しては遠慮すらないな! 


 あぁくそ! もう仕方ねぇなぁ。とりあえず建前は飯を運ぶって感じで、あたしはマセコの部屋に向かう事にした――

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