34話
死体の確認は日が昇ってすぐに行った。マセコが起きる前にとの判断だった。
犬と馬鹿は、あたしやスラパイは無理して見なくてもいいと言ってたけどね。
あたしは一応気になるし、スラパイも近くまではきたね。
で、被せていた物を捲って中を確認したら、確かに犬が言うように変身は完全に解けていて、その三匹は三人の男の姿になってたんだけど――
「こいつらは確か……」
馬鹿が思い出したように言う。スラパイも遠目から眉を顰めてはいるけど、覚えてはいるようだね。
で、あたしもまぁ知ってる顔だ。と言っても一度あっただけだけどね。一人いけすかない奴だったから印象には残ってるよ。
こいつらはあたしが鍋を作った時の宿にいた冒険者の三人組だ。
でもまさかワーウルフだったとはねぇ。
ただこれが逆に馬鹿には疑問だったみたいだね。なんでこいつらが? て顔してるよ。
う~ん、あの時ちょっと絡んできたってのもあるから、それで襲ってきた――て、流石に無理があるよね。
それに、それだと最初に狙ったのがマセコってのがわからないし。
「やはりこいつらでしたか――」
馬鹿の横に立ってる犬が言う。うん? やはりって事は……。
「アレックス。何か見に覚えがあるのか?」
すると冒険者の死体をマジマジと眺めてた馬鹿が、犬を振り返って聞いた。まぁそこはやっぱり気になるよね。
「いえ、見に覚えという程ではありませんが、マリヤ様のお話だと、私の事を元王国騎士と言っていたようでしたので。その上で三人組という点を考えるともしやとは思っていたのです――」
そうか。確かにこいつらはあの時も犬の事を、元王国騎士って言っていたしね。しかしよく覚えてたな犬。
「でもなんでカグラちゃんを狙おうなんて――」
「うむぅ、何者かに雇われているのは間違いないとは思いますが」
「うん? そうなのか?」
犬の考えに馬鹿が聞いた。なんで判るんだ? て顔してっけど……。
「はい恐らくですが、それにこの殺され方は口封じと考えたほうが自然ですしな」
だよなぁやっぱ。ただの怨恨とかで狙ってきたような奴らなら、殺される意味が判らないしな。
「成る程……しかし仮にも冒険者が、依頼とはいえこのような――」
馬鹿が顔をしかめて言う。妙に暑苦しいとこもある男だからねぇ。ふてぇ奴らだ! 許せん! とか無駄に正義感もやしてんのかも。
「それに関しては彼らが本当に冒険者ギルドに登録してる者なのか、という疑問もありますな。前は私も見た目からついそう思ってしまいましたが、ギルドでこのような依頼がなされるとは思えませんし」
まぁ確かに自称冒険者って感じで振る舞ってれば一見じゃ判らなさそうだもんね。名刺持って社長って言ってれば何となくそれっぽいのと一緒で。
「……とにかく、森を抜けて町についたらギルドを探してみましょう。これだけの森を越える必要のある町ですし、設置されてる可能性も高いと思います。そこで事情を話して後の事は任せた方がいいかもしれません。もし、ギルドがなければ、誰か話の通じそうな者に伝言をお願いするのもいいでしょう」
犬の提案に馬鹿も頷いて納得してる。上手いことまとめたなぁ犬。
「あ、あの、皆様――」
ふと、マセコの声が後ろから聞こえてきた。どうやら目覚めたみたいだね。犬と馬鹿が慌てながら遺体を見えないように隠した。
「カグラちゃん、その、おはよう」
スラパイは、ちょっと掛ける言葉に迷ったみたいだけど、ぎこちない笑顔で挨拶する。あまり暗い顔してたら逆に良くないと思ってるのかもしれないんだろうけどねぇ。
「あ、あの本当に申し訳ありませんでした。私がしっかりしていないからご迷惑を」
「何を言うんだ。君は何も悪くなんてない。だから謝る必要なんてないんだよ」
深々と謝るマセコに馬鹿が振り向き真面目な顔で返した。まぁ確かにね。何が悪いかっていえば攫った三人が悪いわけだし。
で、馬鹿と犬が、その後も励ましというか、言葉を選びながら接してるね。
それに、心配頂いてありがとうございます、てマセコも頭を下げてる。
雰囲気的には、何時もどおりにも見えるけどね……。
そんなマセコの側にスラパイも寄っていく。肩を優しく掴んでから、大丈夫? なんて聞いたりしてるけど。
「はい。私は平気です。それにマリヤ様に助けて頂きましたから――」
そこまで言って、マセコがあたしに顔を向けた後、駆け寄ってくる。
「マリヤ様本当にありがとうございます。おかげで仕事を失わずにすみました」
と、マセコがちょこんと可愛らしく頭を下げてきたけど。
「そんな、いいのですよ。ただ――身体は大丈夫?」
一応あたしも気遣う形で声を掛ける。正直あたしがヤラれるのとは、やっぱりワケが違うだろうしねぇ。
「はい! 私は大丈夫です」
返事を聞く限りは元気な感じもあるけどね。
ただマセコはあたしに顔を戻したと思ったら――目を逸らすんだよね……もしかしたらあたしの顔を見たら思い出してしまうのかも。
「あ、あの、そういえば私お腹へってきちゃいました。何かありますか? 出るにしても先にお腹を満たしておきたいですよね」
唐突にマセコが手を叩いて皆に向かって言った。笑みも見せてる。
すると馬鹿も、
「あぁそうだな食材も余ってるし」
と馬車に向かって歩いて行って。
「では火を起こしますか」
と犬も後に続く。
スラパイも食事の準備にかかり始めた。
マセコが心配かけまいとしてるのは何となく皆察してるようだね。
だったらここは腫れ物を扱うみたいに接するのは逆効果かもって感じか。
とりあえずマセコにはあの死体には目を向かせないようにする形で、後は何時もどおりの雰囲気で準備を進め、朝食を摂る。
その後はマセコも見た感じは落ち着いた雰囲気で、ユニコーンの手綱を取った。
「危険な森に、いつまでも皆様を留めておくわけにはいきませんから」
と笑顔を振りまきながら馬車を走らせる。
幸い夜の出来事以外は、特に危険な目に合うことは無かった。
天気が崩れるような事もなく、順調な道のりで、日が傾く前には森を抜けて、その日は予定通り町に辿り着く事ができた。
町の名称は【フォレストサウスタウン】って、まぁ森の南に位置するってことでまんまの名前だね。
町と言っても村をちょっと大きくしたって感じかな? 建物もレンガ造りと木造が混在してる感じ。
とりあえずいつもどおり、先に宿の前でチェックイン。
記帳をスラパイが済ませてる間に、犬は力仕事。
先に宿の入口のところで荷をおろして、馬鹿はマセコと馬房に向かったね。
で、犬は荷物運びが終わったところで、ちょっと厳つい感じの宿の主人に、色々と質問する。
「いやだわぁ、貴方かっこいいわねぇ」
……厳ついオネェ系だった。犬のことを気に入ったみたいだね。良かったな犬!
「えぇ~? そうねぇギルドはあるわん。良かったらわたしが案内して、あ・げ・る」
「い、いえ! 場所だけで結構です!」
遠慮するなよ犬。この際だから色々案内して貰え。未知の世界に。
てわけで何となく面白そうだし、あたしはオネェな主人を応援してたんだけど、結局場所だけ教えてもらうことになったみたいだ。
なんだよぉ~勇気出して色々挑戦してみろよ~度胸ねぇなぁ。
「そ、それと、ここの教会には治療魔法が施せる司祭はいらっしゃるかな?」
「えぇいるけどん、もしかしてどこか怪我してるのかしらん? 良かったらわ・た・し、が、診てあげるわよん。色々と気持ちのいいマッサージ付きよん」
オネェな主人が不気味なウィンクをみせた。これは中々の迫力だね。傍から見てるあたしの背中にも何か悪寒を感じるよ。
勿論目の前で受けた犬は、なんか一瞬固まってるし。
「――はっ! いえ違います! 私ではなく、こちらの――」
言って犬があたしを目で示した。おい、あたしを化け物との戦いに巻き込むな!
「あら。ふ~ん、で、この人は?」
あんたあの子のなんなのさ、的な不快感丸出しの視線をあたしに向けてくるよ。
化け物眼力ぱねぇなぁ。
やばいね、これはあたしには勝てないわ。よし! 逃げよう! 犬を置いて!
「マ、マリヤ様どちらへ!」
「後は任せた! マッサージ頑張れ!」
「あら、判ってるじゃない。うふん、じゃあたっぷりと――」
「えぇ!?」
と犬の悲痛な叫びを受けながら、あたしが回れ右したところに馬鹿が顔を見せる。
「どうだアレックス。ギルドはありそうかな?」
「まぁ! こっちの彼もいい男!」
「え?」
「アレックス様、私はこれからギルドと教会に向かいます。後の事はお任せください! では! マッサージはどうぞその身で!」
「え? マッサージてなんだ? お、おいアレックス!」
犬があたしの腕を掴んで宿を出た。その後なんか馬鹿の悲鳴みたいなのが聞こえてきた。
……まぁこれはこれで面白そうだからいっか。頑張って開発されろよ~。




