24話
馬鹿はその後、盗賊からあたしを助けた時の事からメイドとしてやとった経緯なんかを話して聞かせてた。
まぁ勿論、側室に娶った理由までは話してなかったけどな。あたしにあんな事やあんな事をされたなんて流石に言えないだろうし、細かく話してたら時間がいくらあっても足りないだろうしね。
うんで、ショタは馬鹿から話を聞いたあと、グラスの酒を一口飲んで瞼を閉じて見せた。
どう思ってんのかね? 表情の変化が少ないけど。まぁどう思われてもあたしは別に気にしないんだけど。
て、ちょっとショタの口元が緩んだな。で、馬鹿を見上げて。
「なるほどね。お前らしいな。相手の身分や素性には拘らない。勿論それがお前のいいとこなんだけど」
……いや、しっかし本当、子供みたいな笑顔みせるな。見た目が子供だからってのは当然あんだろうけど、妙に不自然な気もするよ。
「呆れたかい?」
「い~や逆だよ。その結果こんな出来た女性を射止められたんだ羨ましい限りだ。お前は夫人といい、女性には本当に恵まれている。羨ましいな」
とりあえずあたしは微笑んでおいたけど、何も知らないってのは幸せだよなマジで。
「ただな。お前のその性格のおかげで、必要以上に王国や教会の連中に睨まれる事もある。お前はもう少し駆け引きというのも覚えたほうがいいな」
「アキバ兄にそれを言われると耳が痛いよ」
馬鹿が苦笑してんな。まぁ駆け引きとかは確かに無縁というか、無理そうだよな。馬鹿だし。
「今回のギルドの件も出来れば本気でか、いやこの場で話す事ではなかったな。しかしお前はいつも――あの時も……」
そこで二人は思い出話に花を咲かせ始めた。ここまでくるとあたしには本当どうでもいい内容だな。
聞いてても疲れる。と微笑みは絶やさずも考えてたら、スラパイに腕を引っ張られた。ちょっと席を移動しようってことみたいだな。
まぁ話に夢中だし、大丈夫か。犬にちょっと離れるといって、スラパイと少し後方のテーブルに移動して酒を飲む。
ワインとかが多いな。ウィスキーも置いてるみたいだけど、まぁスラパイもワインだし、それに合わせて適当に料理を摘みながら話をした、んだけど、周りに聞かれるにはちょっと……な話も多くて疲れた。
性感帯の話とか場所わきまえろよと。てか大分酔ってきてるみたいだな――
◇◆◇
「ふぅ、やっぱりこういうとこは疲れんな」
あたしは小さく呟いて、息をつく。スラパイは完全に酔いが回ってるし、呂律も回らなくなってたんで、適当にあしらって、あたし一人で広間の奥のバルコニーに出た。
この広間は、階数でいったら三階にあたる位置にあるようだね。中は人が多くて少し暑かったりしたけど、ここは風が心地いい。
そして星が綺麗だ。うん、一応あたしにも星を愛でる心ぐらいあるさね。こんなのはあたしのいた世界じゃ中々お目にかかれないしね。
「お疲れかな?」
ふと背中からお声が掛かった。年の割に高い声音は、先ほど聞いていたから誰のものかすぐにわかる。
「少し夜風にあたり、酔いを覚まそうかと――」
まぁそんな言うほど酔ってないけどね。色んな男と付き合う内にアルコールには結構強くなったんだよね~。
で目の前の……年齢的にはあたしよりかなり上なショタが、チョコチョコって感じに脚を動かして近づいてきた。
あたしより背が低いから目線の位置に困る。とりあえず全体を眺めるように、嫌味にならない程度に視線を落とす。
「今宵の宴は気に入って頂けたかな?」
「えぇ。とても素敵な宴で、このような場に私のようなものまでご招待頂き感謝の言葉もありません」
酒と食べ物以外特にこれといってみるとこはねぇかな。宮殿がデカイとかはちょっとは凄いなと思ったけど。
「そう言って頂けるなら私も嬉しいよ。いや、しかし――そなたは本当に美しい。この満天の星空もそなたを前にすれば霞んで見えてしまう」
「まぁ、お、上手ですわ」
マジか! マジでこんな下手したらギャグにしかならない歯の浮くようなセリフを吐く奴がいるなんて! しかもこの見た目で! 異世界すげぇな! 危なく吹き出すとこだったよ! 笑いこらえるの大変なんだから勘弁してくれ。
「それにしてもあいつは、女性を虜にする事にかけては私なんかよりずっと優れているようだ。全く羨ましいよ」
おい、ざけんなショタ! 誰が虜だ誰が。逆だっつの。
と、まぁそんな本当の事を言えるわけもないけどね。ムカつくけど馬鹿をたてる言葉を返しておく。
「ベンツ・メルセルク様には盗賊に捕らわれているところを助けてもらい……しかもこのような身の上の私をメイドとして仕えさせて頂き凄く感謝しております。本来なら私のような者が側室などといった恐れ多いこと望んではいけなかったのでしょうが、メルセルク伯爵のその包み込むような優しさに私もつい甘えてしまいました。本当に……素敵な方でございます」
と、ちょっと言い過ぎたか。目をぱちくりさせてんな。とりあえず両手を振って、あ、ごめんなさい、つい――といいつつ、目を伏せてはにかんでみせた。
ちなみにあたりまえだけど、あの馬鹿に感謝の気持ちなんてこれっぽっちもない。
「いやいや。しかしベンツの奴が本当に羨ましくなるな。しかし……盗賊の一件は――」
それも大方嘘なんだけどな。いや、まぁ捕らえられたのは本当といえば本当と言えなくもねぇけど。
「もう、過ぎた事ですから……」
一応悲しそうな目しとこっと。
「――時に、そなたが捕らえられた時には他には誰か捕まっていたものはいたのだろうか? あ、いや済まない。ただ盗賊の被害というのは我が領地でも深刻なものでな。つい、言いたくないのなら無理せずとも」
「いえ、大丈夫ですわ。そうですわね。アノ時は私一人でした」
ここで嘘ついてもしゃあないしな。素直に言っておこう。でも盗賊ってのはこっちの世界には多いんだな。物騒な事だ。
「済まないね。嫌な事を思い出させてしまって」
「いえ。あの人のおかげで私も立ち直ることが出来ましたから」
しかし笑顔で平気で嘘を吐くあたしもたいがいだねっと。
「……しかし悔しいな」
「悔しい……ですか?」
「あぁ。もし出会えたのが私の方が早ければ、絶対に放っておかなかったのだが」
「まぁ。ご冗談でも嬉しいですわ」
なんだ? もしかして口説かれてんのか? まぁそれならそれでって気もするけど。
「冗談などではないよ。そなたのような美しい女性を私は知らない。独り身であったならばなんとしても妻として迎え入れた事だろう」
しかしこのショタ。よくこんなセリフポンポン出てくるな。
まぁだからってこっちもホイホイ乗っかって、こんな見た目餓鬼みたいのに舐められんのもアレだしな。
「本当にお上手で。でも私のような女は、チヨダーク侯爵殿下には勿体無いですわ。きっともっと素敵な方がいらっしゃるでしょうから」
「……そなたはもしかして、私がベンツが身分を気にしないことを褒めたから、私がそういったのを気にする男だとお思いかな? 私とて、重視するのは寧ろ内面の方なのだよ。それに比べたら身分や素性など……そうだな屁みたいなものだ」
「まぁ、侯爵ともあろう御方がそのようなお言葉」
別におもしろかないけど、冗談みたいなもんだろうから笑っておっか。
てか内面ってことだったらあたしは普通にアウトだろうけどな。見る目ねぇなコイツ。
「フフッ。私だってこのぐらいの言葉は使うさ。でもな、それぐらいそなたの事は本気になれると言える。……勿論、もしもまだベンツと何事もなかった場合の話だけどね」
そう言って悪戯っ子みたいな笑みを浮かべてきたな。見た目がこんなんだから本当に悪戯っ子って感じだ。
「しかし、そなたとこの空を私のベガサスで駆け巡れたなら、きっと気持ちが良いであろうな。理想の女性と共にペガサスを走らせるのが私の夢でね」
「素敵な夢ですわ――」
ペガサスってどこのお伽話だよ。全くやっぱ見た目通り頭の中もが……て……。
「ペガサス!?」
やば! 思わず素っ頓狂な声をあげちゃったよ。ショタも振り向いて目を丸くさせてるし。
でも、でも、ペガサスってまじか! いやユニコーンがいたんだペガサスぐらい――
「ご、ごめんなさい。ペガサスと聞いてつい――はしたなかったですわね」
と一応取り繕っておいて……落ち着けあたし。落ち着け!
「そなたはペガサスに興味が?」
あるよ! あるに決まってんじゃん!
「は、はい。私拝見した事がありませんでしたので」
マジか! マジでいるっぽいな! 異世界ぱねぇな! クッ、やべぇペガサス乗りてえぇええ!
「そうであったか。確かにペガサスは我が領土特有の種であるしな。ふむ、これは私の夢が一つ叶いそうだな。勿論ベンツには一つ断りを入れるが……良かったら私と一緒に乗って頂けるかな?」
ペガサスきたーーーーーーーー!!
当然あたしは即答だったね。断る理由ないじゃ~~~~ん。
あぁやっべぇ、ペガサス~。ペガサス~。
て、そうこう話してる内に馬鹿とスラパイも様子見に来たけどね。正直この時点でもうパーティーのことなんてどうでもよくなったよ~。もう完全に上の空。ペガサスのことで頭が一杯で何時の間にか部屋に戻って寝てたって感じさね。
あぁ、楽しみだ~ペガサス~~~~。




