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第三話 粒揃いの三人

第三話:粒揃いの三人①


 あのあと俺はこっぴどく叱られた。

 その証拠に俺の右手には。たくさんの反省文の用紙。

 

 いつのまにか初日は終わっており、俺は学校内で魔法科殺しの工業科生と噂になっていた。


「シルバー先輩、死んでないですよね。」


「まあ、お前を目立たせるためのオーバーな噂だろ。しっかし、弟に似て破天荒なやつだ!」

 


 工業科の担任であるボルト・A・オメガは大きく笑い、教室の窓を拭きながらそんなことを言う。

 そう言っても、シルバー先輩も下級生に上級魔法を使ったとして謹慎中である。


「しっかし、危なかしい野郎だ……。」


 俺の右隣の席の黒髪の男はそう言った。

 

「ええっと、君は?」


 たしか昨日見た顔だが、誰だか全くわからない。

 一年生は三人しかいない。ということで、親睦を深めるためにも一言優しく声をかけた、


「……工業科、クラス委員のギオラだ。」


 無愛想な顔、グレンデレラのようなタイプだ。

 両耳にゴツいピアス。かなり近寄りがたいような雰囲気を放っている。


「年中人気のない工業科に三人も来てくれるなんて、今年はかなり豊作だな。」


 窓を拭き終わったのか、清掃服を脱ぎボルト先生は教卓に前に立つ。


「やっと授業が始まるで候〜?」


「ああ、まあ言っても自己紹介からだ!!」


「自己紹介……。」


「……と言っても、ただ教卓の前に立って喋るのもなんだ。クエストを通してお互いを知ってもらおう。」


 クエスト。ヂーリム特有の試験のようなものだ。

 特定のモンスターを倒す。探し物を探す。と色々だ。

 たしか魔法科の授業で主にやることらしいが、工業科もやるのか。


「授業一発目で期末テストやるようなもんですよね。」


 黒髪で静かな男、ギオラが一言。


「まあ、いいじゃねぇか。ほらよ!」


 【人狼討伐クエスト】と書いてある用紙。


「テンション上がるだろ?」


「はい!三人とも頑張ろう!!」


「はーいで候〜。」


「足引っ張んじゃねぇぞ。」


 統一性のなさが際立った返事だ。


「今年は粒揃いだな。」


 ーーそれで、どんな試験なのか。その用紙に書いていることを読む。


「……ヂーリムの東の森で満月の時に現れる人狼を討伐せよ。」


 場所はヂーリムの東の森。三十分ほどをかけ俺たちは向かった。

 

 石造りの古びた遺跡。古代に荒れ果てた呪文の数々が刻み込まれている。

 ヂーリムの中だから、危険ということはないと思う。


「……密林って感じだな。」


「マジ、アチー。人狼ってどこで候〜?」


 相変わらずの感じの鎧奈。重そうな刀を二本ほどぶら下げているが息切れ一つ起こしていない。

 力仕事も多いこの工業科に体力はつきもの。


「はぁ、はぁ、はぁ。」


「ギ、ギオラ。大丈夫か?」


 そこらへんの枝を杖代わりにしているギオラ。少し足も震えている。


「……俺が疲れているだと……そんなわけないだろう!!」


「誰一人お前が疲れてるなんて言ってねぇよ。」


 先生が先頭になり、生い茂る草たちを払いながらひたすら進む。

 人に紛れ込む戦術を覚えた人狼。本当にそれが工業科の仕事なのだろうか。だが、俺のモットーは考えるより手を動かせだ。


 なによりも、自分で決めたんだ。魔法科に、グレンデレラに勝つと。


「どんとこい!人狼!!」


「うるせーよ。黙って歩きやがれ。」


「いいじゃないか、声を出すと勇気が出るぞ!」


 舌打ちをして俺の先へと進むギオラ。

 クラス委員とは言えない口調だ。


「というか、こいつがクラス委員なんだ?」


「フェア殿は寝てたっしょ?色々と昨日決めたで候〜。」


「そ、そうなのか。」


 適当な会話をしているうちに、草木が一切ない場所に出た。

 太陽の光がさして明るくなった。


 先生がその場で立ち止まり、そこらの切り株に座る。


「よし、じゃあここで夜になるまで待ってろ。」


「え?」


 優雅にコーヒーを沸かしている。なんならテントまで張ろうとしているようだ。


「言っただろう?人狼は満月の日に現れる。満月が出るところを狙うんだよ。」


「いや、それはわかるんですが。だったら夜に来たらいいんじゃ……」


「俺たちは工業科だぞ。仕込みなしでモンスターを倒せると思ってんのか?」


 俺の声を遮るようにギオラが言う。

 彼の方を見ていると、大きなカバンから縄やら木材やらを取り出している。


「お前が魔法科と戦った時みたいなポッと出の作戦なんか、意味ねぇよ。」


 そう言うと、黙々と作業を始めていく。


「ちなみに、自己紹介なんて絶対しないからな。」


 ギオラが小さく一言。


「私は鍛刀たんとうしかできないからよろしくで候〜。」


 相変わらずの気だるげな返事で鎧奈は刀の手入れを始めてしまう。

 かなりまずい。三人ともやることが何一つ合致していない状態。


 先生の方を見ると綺麗なハンモックが出来上がっている。

 完全に寝る気だな。


「というか俺、モンスターと戦ったことなんてないんだが。」


「まあ、何事も経験だ。魔法を使わなくたって武力や知恵があれば倒せる。」


 ゆらゆらとハンモックに揺られ、その後にいびきをかき始める始末。

 清掃員と教師を兼任していると言っていたから疲れているのは分かるが、人狼が出る森でこうも寝られるのだろうか。


「きゃぁぁぁぁぁ!!!」


 森の奥の方から、草を踏む音が聞こえてきた。


「まさか、人狼か!?」


 まだ満月は出ていないはず。

 だが完全に何かに襲われている悲鳴。


「こっちに向かってくるで候〜」


 鎧奈は音がする方向を向き立ち止まり、刀の柄にそっと触れる。


「人だったらどうする。」


 ギオラがそんなことを言う。そして音が近づく。


「今、言ってる場合で候〜?」


 にっと笑い刀が少し抜かれる音。居合の型をとる。

 

 ーーザッーー草を飛び越え、黒い液体が現れる。


「ブラックスライム!?」


 ブラックスライム。泥や汚染水から生まれるモンスター。

 水が多く流れている森の中特有の存在である。そして、その透明な腹の中には女性が一人。


「……一閃。」


 光が放ち、熱を帯びた刀が液体に触れる。


「炎よ、水を絶やせ。」


 鎧奈の一閃がスライムに当たった時、パチパチと炎の音が空から聞こえた。

 

「あっつ!」


 刀が炎を包む。それはブラックスライムの方にも燃え移り、燃やし尽くされる。

 ブラックスライムの水はなくなり、囚われていた女性がうつ伏せになり出てくる。


「……炎?」


「いい刀ですね。」


 チリン。鈴の音が静かに響き、鎧奈の元に一人が立っていた。


「だ、誰!?」


「魔法科教師のアルフです。よろしくね、工業科さんたち。」


 そして、空に三人。箒のようなもので空を飛んでいた。

 俺もあんな空飛べる乗り物に乗ってみたいものだ。


「どうもー。工業科の皆さん。」


 黒髪の女。


「すごい、何この機会!!」


 栗色の髪をした少女。


「……なんで、あなたたちがここに。」


 そしてもう一人。


「お前。グレンデレラ!?」


 何度も見たこの赤髪。そして嫌そうな顔。


「なんで、お前もいるんだ?合同クエストだったりするのか?」


「……なわけないでしょう。人狼を倒すクエストは私たち魔法科のものなのですよ?」


「は?」


 すると、あくびをする先生がハンモックから起きる。


「起きたんですね?ボルト先生。」


 魔法科の教師がそう言う。


「あ、アルフ先生。どうも。」


 寝ぼけたような声と寝癖。


「どうもじゃないですよね?なんで魔法科のクエストに工業科あなたたちがいるんですか?」


 ニコニコとそんなことをを言う。


「ええっと……」


 汗を垂らし、苦笑いをするボルト先生。


「先生、これは……」


「私たち魔真部は魔法科一年生の上位三人で構成されています。そして今日は人狼討伐の命を受けてこのクエストに参加してますのよ。」


「じゃあ、先生が勝手に魔法科の授業をパクろうとしたってことで候〜?」


「ボルト先生?すぐにその子たち連れて帰ってください。」


 頭に手を当てため息をつくギオラ。

 苦笑いをする鎧奈。


 鈴の音を鳴らし、アルフは杖をボルト先生の喉元に突きつける。

 というより、無断でここまで来たということなのか。


「は、話を聞いてくれ、アルフ先生!!一応校長にもアポは取っているんだ!!死んだら自己責任って言われたけど……。」


 たしか、クエスト依頼は学校の掲示板に貼り付けられている。

 だとしたら、魔法科とかぶってしまったということだろう。


「……先生。魔法科が来ること、知らなかったんですか?」


 ギオラが鋭く睨みつける。


「い、いやぁ〜。魔法科の一日の流れなんて知らないからなぁ。ま、今回はいいでしょ?ね?」


 先生は土下座をしてアルフに頼み込む。

 だが、彼女は納得していないようだ。


「そういう問題ではなく……。このクエストはS級ですよ?」


「S級……ってどのくらい難しいの?」



「クエストの難易度のことですわ。上から三番目の難易度です。」


 無知な俺に、そんなことも知らないのかという顔でグレンデレラが言葉を続ける。


「魔法使いじゃなきゃ、死にますわよ?」


「え?」


 ものすごくでかい、え?が出た。


 森の麓、その声を聞き取り、耳がぴくりと動く。


「そろそろ、人間を狩りに行く時間だな。」


 片手には血みどろの肉片。ガブリとかぶりつき、物欲しそうによだれを垂らす。


 ーー牙を向く影が潜んでいたのであった。


つづく

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