第一話 弱小上等 前編
窓辺の泉から火が吹く。カラスは喋り、学校中を舞う。
この世で生きていくためには、自身を守る力が必要である。
自身で判断する知力、自身を守る体力。
そして、自身の実力を示す魔法。
時は完全魔法社会であった。
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魔法学校工業科
第一話弱小上等 前編
大きな門の前に、俺は仁王立ちで立ち止まった。
王都である街の中心にそびえる学校。
魔法学校ヂーリム。最強の魔法使い、魔導士、魔工学師を出している有名な学校である。
「ここが、俺の新たな居場所!!」
心の中で決意を固め、一歩足を動かす。
そして、一歩前へ出した足を止める。
「また止まってしまった……。」
これを繰り返すこと二時間半。
緊張がやばいのである。
かなりまずい状況、入学当日から遅刻なんて絶対にダメだ。
田舎にある小さな町で育ち、街の鍛冶職人の息子として生まれた俺だが。
16歳になるまでずっと父に鍛冶の修行をつけてもらっていたことにより、工業の方にはかなり詳しい。
とにかく、魔法が使えない俺にできるのは手を動かすこと。
目標はヂーリムを卒業することである。
すると、後ろからコツコツと軽い足音が響いた。
「そこ、どいてくださるかしら?」
赤髪の少女が私に声をかけた。
見事な縦ロールに赤みを帯びたガラスの靴。
邪魔にならないように門の端っこで立ち止まっているが、存在自体が邪魔ということだろうか。
「す、すまない!!」
二週間ぶりくらいに出す情けない声。
そんな俺の声を聞いて、少女はあからさまにも嫌な顔して言う。
「あなた、私が誰かご存知かしら?」
自身の胸に手を当て、今度は自信満々そうな回答を待っている。
ご存知と言われても、誰なんだろうかこの人。
少し違った学生服。たしか、黒い胸のカラスのデザインがあるのは魔法科の生徒。
「魔法科……の方だろうか。」
「そんなのは見ればわかるでしょう!!」
「じゃあ、どなたでしょうか!」
声がデカくて図太い性格は親譲であるが、相手はとても困っている様子である。
「うるさい男ね……。魔法科特待生、グレンデレラ・クイーン・マイハートですわ。以後お見知り置きを。」
ものすごい自信に満ち溢れた様子。おそらくものすごい魔法使いの末裔かもしれない。
自己紹介をしてもらって、俺がしないのは失礼だろう。
「工業科のフェア・クローズだ!よろしく頼む!!」
大きな声でそう言う。
彼女の方はなぜか、眉間に皺を寄せている。
「こ、工業科……。」
緑色の歯車の模様が俺の制服には刻まれている。
「……あなた、このヂーリムで工業科生として卒業するつもりなのかしら?」
「ああ、ヂーリムで卒業できれば、自分の工場も作れると思っていてな。」
「ヂーリムでの卒業争いは壮絶なもの。落とし合うのがフォーマット。そして工業科で卒業できる者なんて聞いたことないですわ。」
冷たい目で彼女は俺を見る。
ここで卒業するには魔法科に入ることが第一条件と言われている。
それだけの難関校なのである。
「俺は、工業科で卒業してみせる!!」
「……そう、無様ね。」
「えっ、ちょっと待て!」
その一言を残し、ガラスの靴を鳴らし去っていった。
ため息をひとつ。偉いようなことを言ってしまったことを後悔しているような気がする。
俺はそのまま門を進む。
学校全体は緑が多く、設備も整っている。
「炎系魔法部、我らと共に熱い三年間を過ごそうではないか!!」
「魅惑魔法部、君はモテを信じたことはあるかな?」
庭を通り抜ける頃には、たくさんの部活勧誘のチラシが手にあった。
楽しそうだけど、さすがは魔法学校。魔法系の部活しかない。
そっと学校内のマップを広げ、教室の場所を探す。
地下一階の南側。
「君、工業科の生徒かな?」
迷っていると、一人のおじさんが話しかけてきた。
作業服に、右手の箒左手のバケツ。どう見ても清掃員だろう。
「あの、地下一階の階段はどこにあるでしょうか……」
「やはり迷っているようだね。あそこの突き当たりを左に行けば階段があるよ。」
優しくその人は指を指して教えてくれた。
「ありがとうございます!!」
ひとつお辞儀をして、そのまま教えてもらった方へと急ぐ。
教室の集合時刻はもう五分を過ぎている。
走らなければ間に合わない。急ごうと足を踏み込む。
〝ズッ〟
「うぉっ。」
誰かの足に引っかかり、どてんと派手に転んでしまった。
「ふっ、やっぱり工業科は無様な姿が一番似合うね。」
顔を上げると、魔法科の生徒が俺を見てニヤニヤしていた。
センター分けの男はそんな俺に手を差し伸べる。
そして後ろにはもう一人、さっきのグレンデレラがいた。
「お、お前は!!」
「げっ、田舎者……」
俺の声を敏感に聞き取り、またもや嫌そうな顔をする。
「君の知り合いかい?」
「ち、違いますわ!!」
「はっはっはっ、魔法科二年の魔真部。
リアル・シルバーだ、よろしくね。」
魔真部ーー学校の中央委員会のようなものらしい。
俺は差し伸べられた手を握る。
「ありがとございま……おっと!」
すると、先輩は俺の手をまた放す。
咄嗟に足を前へ出し体勢を保った、だがその足に先輩が引っかかり転んでしまう。
「うわぁぁ!!」
尻から転ぶ先輩。
「あ、あの……大丈夫でしょうか?」
「くっ、くそ!このシルバー様を舐めやがって……グレンデレラこいつやっちまえ!!」
先輩は怒りの表情で俺のことを指を向ける。
「ですが、先に足をかけたのはシルバー先輩では……」
少し戸惑うグレンデレラ。
「……ちょっと待ってほしい!俺は魔法科と戦う気はない!!」
「黙れくそ工業がっ!!やっちまえ!!魔法科の名の下に!!」
話にならなかった。
「……仕方ないですわね。」
周囲の人々がザワザワとする。熱風、周囲が炎で包まれる。
たしか、特待生と言っていた。つまり魔法の使い手として上級なのだろう。
「この学校では敵を蹴落とすのが美学。ごめんなさいね、工業科さん。」
指先をこちらに向け、炎を魔力に変換させる。
やはり強いやつは固まると言う。
正直、工業科というだけで見下されるのは俺のこれからの学校生活にかかわる。
「……俺は、ただ工業科としてこの学校を卒業したいだけなのだがな。」
すぐさま構える。
「いきなさい、聖なる炎!!」
炎が舞う。
「……悪いな、炎は効かん。」
「なんですって!?」
少し驚いた様子。
俺は腰のホルスターから銃を抜く。
入学祝いと父からもらった代物が今ここで役に立つ。
持ち手にある歯車を20度回転。
「いけっ!!水鉄砲だぁぁっ!!!」
「はっ?」
俺の声の後、あたりは急に静まる。
グレンデレラの動きが止まる。その瞬間、銃からピューっと水を放つ。
炎には水。消す方法は明確……なはず。
〝パチパチッ〟
俺の服に炎がうつった音。
「あ!熱っ!!!」
羽織をすぐ脱ぎ、床に打ちつける。
側から見たらとんでもないバカだろう。
「あ、あなた。この強さの炎をそんな玩具で消せるとでも!?」
グレンデレラもものすごく呆れている表情。
魔法の炎は少し優しめの力だったのか、自身のダメージはかなり軽かった。
「本命はここからだ。」
俺は真剣な眼差しでそ言う。
ガラスの靴に炎を反射させ、後ろを向く。
「もう終いですわ。」
彼女は、髪を整えながら後ろへ下がっていく。
「おい、グレンデレラ。何で加減しているんだ。」
「私の美しい炎を見る資格なんて、工業科にはありませんわ。それに、この学校を卒業するのは私ですもの。」
相変わらずの冷たい表情。炎使いとは全く考えられない。
だが、先輩の方は不服のようだ。
「君ならないのなら、僕がかたをつけるとしよう。」
先輩が手を上げ、魔力を手に込める。
紫の光、生成魔法だ。それも大剣の生成。
「シルバー家の得意とする金属生成だ。では、二度とヂーリムに入れないような身体にしてやるよ!!」
「……まじでっ!!」
先輩は大剣を振るう。
ここで終わり。入学早々こんな目に遭ってしまうなんて……。
「最高に、おもしろい……」
銃の歯車を10度。
「死ねぇぇぇ!!」
大剣が服を破る。
〝バリバリバリバリッ〟
電撃の音が響く。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
電撃の音を追うように、先輩の悲鳴も響いた。
五秒ほど電気が流れ、大剣の耐久が切れ灰となり消えていく。
「……ぎっ、貴様。なにしやがったぁぁ!!!」
「身体に電気回路を張っているんです。この銃は回路に電気を流すスイッチの役割をしている。」
その銃には、俺の体に張っている回路につながっている。
大剣が斬った導線から電気が漏電し、その鉄製の剣を通して先輩が感電した。
絶縁体を一番下に仕込んでいるから、自身は無事である。
「お、お前……なんで身体に回路を巻き付けているんだ……。」
「この学校で生徒同士が蹴落とし合うのは知っていました。こっちも舐められたくないんですよ。あなたたち(魔法科)みたいな人たちにね。」
「なんですの……あの男は。」
「面白い奴だ!!」
後ろから年寄りの声が聞こえてきた。
さっきの清掃員のような男だ。
「あ、あなた、さっきの!」
あたりは急に静かになった。
「最高だ、フェアくん。」
ニコニコ笑った清掃員は俺の体をじっくり見ている。
「その感じだと……あと七つくらいは仕込んでるな?」
確信をついたその様子。当たりだ、この清掃員おそらくただものではない。
そんな静かな空間の中、グレンデレラが息を呑み一言。
「……発明王。ボルト・A・オメガ……。」
「魔法科の子たちは教室に戻りなさい。フェアくん、君は私についてこい。」
「ちょっと待てよボルトだか清掃員。僕はこいつとのけりをつけなれば」
先輩は、清掃員の肩を掴む。
「ふっ、元気な奴だ……。」
鋭い目で清掃員はそう一言。
そして、別の方向から声が聞こえる。
「ボルト先生の元を離れろ。」
どこからか現れた黒髪の生徒は言う。
そして、その反対側からは鋭い刃が先輩の首に当てられた。
「素直に去るのが吉じゃねー?候〜」
長い金髪の髪を揺らし腰に刀を携える生徒が一人。
「くっ、くそがっ!!」
その威圧感に耐えきれず、先輩は逃げていった。
「工業科フェア……覚えておきますわ。」
後ろ目にグレンデレラはそう言い、去っていった。
「改めて、ヂーリム清掃員兼工業科一年担任。ボルトだ。」
深く被った帽子を取る清掃員。
どことなく、見覚えのあるような顔だった。
「……と、父さん!?」
「……の兄だ。歳は離れているがな。」
「えっ、ええ。」
頭がいっぱいで俺はその場で倒れた。
血縁関係のある担任と同級生二人に囲まれたまま、俺の学校生活は始まった。
つづく




