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第3話 新しい世界で

 「もう、戻ってくるなよ」


俺は、刑務官に挨拶をし荷物をもって刑務所を出て行く。


 「何とかできないかな。」


俺は珍しく深く考える。


 「やっちゃう?爆破しちゃえば、みんな脱走できるよ。」


エレナさんは、いつも後先を考えないで恐ろしいことをいう。


 「余計、大変なことになります。

  いや、アイデアはあるんだ。アイデアは。

  実現できるイメージがまだ浮かばないんだよ。」


俺はエレナに説明する

そう、ゴウゾウさんの脱走の手助けをしたいのだ。

恐らく、ゴウゾウさん達は長年にわたって計画を練っているだろう。

 

俺は知っていた。

3人がゴミ捨て場から、小さい配線やネジなどを持ってきては

枕の中に隠していたいのを。


そんなことは俺には一切、話さない。

何かあった時に俺に迷惑をかけないためだ。

そういう人達なのだ。

 

ゴウゾウさんなら、刑務官全員でも何とか出来るかもしれない。

レイマンさんならチップの問題を何とか出来るかもしれない。

クオンさんなら脱獄した後も何とか出来るかもしれない。


しかし、「何とか出来るかもしれない」では駄目なのだ。

絶対に大丈夫でなければ。

そのためには、強い力が必要なのだ。

俺は今まで自分のために力を欲しがっていた。

しかし、今は、誰かのために強くなりたいと思っている。


エレナによれば、エレナの星でもテレポーテーションが出来る

人間はいなかったそうだ。


 「まあ、ユウスケでは絶対に無理だと思うよ

  私の星の人間だって無理だったんだから」


エレナの星の人間でも駄目なのだ。

そして、俺の頭でも、物質を瞬間移動させるということは理解不能だ。

正確に言うと、理解不能だった。

しかし、テレポーテーションの開発をしていたレイマンさんに話を

聞いているうちに何となくはイメージが出来るようになった。

イメージが出来るということは不可能ではない可能性がある。


まさに、量子、素粒子以上の世界なのだ。

量子レベルや素粒子レベルで考えては駄目なのだ。

イメージはもっともっと、もっと違う世界での

単なるエネルギーとしてのイメージである。


 「あんっ。幸せ。何なの。あんっ。早く入れて。

  もっと入れて。あんっ。」


ラーメンを食べてからエレナの様子がおかしくなった。

目的地まで歩いている途中、

美味しそうなラーメン屋があったので

なけなしのお金で食べてきたのだが・・・・

エレナがニンニクをもっと入れてと、うるさいのだ。


俺は、5時間かけて歩き続け目的地にたどり着いた。

大きい門の前だ。


頭に埋め込まれたチップは、刑務所内で簡単に取り外し

鼻くそと一緒にチョビ髭刑務官のカレーライスに捨てた。

チップは極小で5mm程度である。

まあ、食べても害は無いであろう。 


大きい門の周りは高い壁が張り巡らされている。


 「すみません。

  今日から生活支援をやめるので、この中に入れて下さい」


門番の警察官に俺は申し立てた。

そう、フリー自治区、別名、スラム層への入口だ。


 「えっ?本当ですか?

  知っているかもしれませんけど一度入ったら、原則

  出ることは出来ませんよ。」


門番の警察官は驚いている。


 「学校で教わりましたし、

  刑務所の刑務官にも色々聞いてきました。」


 「そうですか、刑務所から来たんですか。

  私も中のことはわかりませんし、説明できませんが。

  少し、お待ちください。

  手続きの方法を確認します。

  ・・・・・

  生活支援解除の手続き及びフリー自治区手続き方法

  を教えてくれ。」


警察官が腕輪に、手続き方法を問いかけている。

よほど、この門の中に入る人はいないのだろう。

手続きを行う警察官がやり方をわからないのだから。


この社会の構造は学校で教わっている。

しかし、クオンさんの補足説明では、この社会は、

平等や自由という名だけの格差・差別社会ということだった。


簡単に言えば、働かなくてもお金が増えていく者たち、

つまり、グローバル企業の株主達がトップに立ち、

就労し、お金を稼げる者たちが次に位置する。

そしてその下の多くの人が

就労せずに生活できる者たち、つまり、俺達、生活支援者だ。

 

トップの人たちの収入の何割かが国際連盟に税金として納められる。

そして、各国政府に電子マネーが分配されるのだ。

各国といっても今では国という概念はない。

国際連盟の出張行政機関として政府があるのだ。

 

そして、政府に分配された電子マネーの一部と就労者の税金が

公務員の給料になり、公共事業となり、生活支援者に分配される。

 

BS、PL、つまり収入と支出や財産などの関係で考えると

おかしい仕組みなのだが、これらを無視しても大丈夫ならしい。

昔は、国の通貨というものがあって、比較するものがあったから

難しかったが、今は、世界中、ひとつの通貨になったので大丈夫とか。


生活支援者は、監視されているが安心安全を保障される。

その中では格差や差別がない。

一般人として普通の生活を送れるのだ。


しかし、

トップが恐れているのは生活支援者たちの反乱だ。

監視をしているとはいえ、人口の80%以上なのだから。

 

就労層は、豊かな生活を送っているし、人口も少ないから反乱は

考えにくい。

それに、監視社会で反乱が難しいことは、就労層が一番知っている。


つまり、生活支援者層に対して常に気を配っているらしい。 

常に自由という言葉で洗脳をしてくる。

生活支援が嫌なら、頑張って就労層に行くか、スラム層に行くか

現状維持を選ぶか、選択肢を与えて自由であるという錯覚を与えて

いるが、実は自由ではない。


生活支援から就労層に行く方法はコネを使うか結婚くらいしかない。

頭が優秀とか、何が優秀とかは今の時代、関係ないのだ。

だから就労層は、男性も女性もモテる。

だからといって、自分達より下のスラム層にはなりたくない。

つまりは、多くの人が現状維持を選ぶのだ。


 「政府から支給された腕輪はありますか?

  腕輪をもらうだけで手続きは終了になります。

  無断で出たりすると、ドローンによる射殺の可能性もありますので注意

  して下さい。」


 「あっ。わかっています。はい腕輪」


俺が、警察官に腕輪を渡し、確認を終えると

警察官が右手をあげた。


頑丈そうな大きな門がゆっくりと開いていく。

目の前には1本の道と、その先には森が見える。


俺は深呼吸をしてから、大きい門に向かって歩いていく。


この壁の中は、自由である。

監視も無いが、政府からの支援や干渉も一切ない。

人殺しがあっても自分達で対応するしかない

病気が流行っても自分達で。

人々に、究極の自由として用意された場所なのである。

 

電気もガスも何も自分達で何とかするしかない。

山や川、そして海はあるが、自給自足で不衛生な環境。

以上が、俺が学校で教わったことだ。


報道でも3年前に餓死者の人数が報告されたくらいで

隔離された世界なのである。

原始時代のような生活を送っているのかもしれない。


 「大丈夫だよ。私は食べ物がおいしければ」


エレナは何も不安がなさそうで羨ましい。


インスタントラーメンはリックに沢山詰まっている。

サバイバルのナイフや鍋なども買った。

こちらでは、お金が必要ないので使い切ってきたのだ。


そして、刑務所では、

俺の宝物ともいえる証拠品を返してくれたが、

刑務所に全て寄付した。

結構、喜んでくれたので良かった。

あんなもの、こちらではどうせ使えない。


大丈夫、何とかなる。俺は自分に言い聞かせる。

そして、俺は、森の中を歩き続け、

気持ちを引き締めて街らしき場所に向かっていった。

厳しい修行を求めて。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 「お兄さん、お兄さん、今日、可愛い子いますよ。

  写真見ます?」


何か、如何わしいお店のお兄さんが誘ってくる。


 「いや、お金がないので・・・・」


そうなのだ。俺は生活支援をやめたので、お金が無い。

この区域では、電子マネーはどうせ使えない。


というか何なのだ?

賑やかすぎじゃない、この街は?

どこが原始時代?

俺は森を抜けて街らしきところまで歩いてきたのだが。


ここの繁華街では、人々の声が飛び交っている。

壁の向こうの世界よりも人々が明るい感じだ。

イメージが全く違う。

八百屋や肉屋いろいろな店も並んでいる。

 

 「そっか。お金がねえのか。働くとこ紹介しようか?」


如何わしいお店のお兄さんが親切な言葉をかけてくれる。

そうなのか。まずは働かなくちゃいけないのか

飯付きの日雇いとかあれば良いのだけど。


 「えっ。良いんですか。

  出来れば飯付きの日雇いなんてあれば

  あっ。ごめんなさい、

  そんな都合の良いところなんて・・・」


俺は、自分の図々しさに恥ずかしくなった。

しかし、何でも良いので仕事を紹介してもらえれば助かる。


 「あいよ。飯付き日雇いね。いっぱいあるよ。

  いっぱい稼いで、遊びに来てくれよ」


軽々しく、お兄さんは言って、写真をいっぱい見せてくれた。


 「絶対に来ます。頑張って働きます。」


俺は、頑張って稼ぐことを決意したのだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 「ユウスケ、今日も良い働きっぷりだったな。

  ご苦労さん。

  今日はここまでで良いよ。あかげで予定よりずいぶん進んだ。

  家に帰って飯でも食うべ。」


与作さんが、俺に声をかけてくれた。


いや、土をいじるって気持ちが良い。

精神が落ち着くのだ。

今日一日で、能力を使いながら相当、耕したと思うけど・・・・・


 「お帰りなさい。ユウスケさん

  お風呂沸かしてあるから、入ってくんろ。」


与作さんの奥さん、芳子さんが出迎えてくれた。

奇麗な方でまさに熟女の魅力を感じさせる。

それでいて、働き者なのだ。


 「ふうー」


俺は湯船で息を吐いて色々と考える。

確かに、このお風呂は蒔で沸かしているが

生活に不自由さが感じられない。


俺の想像と全く違う。

こちらに来て1週間が経った。

 

現在、風俗店の呼び込みの洋一さんに与作さんを紹介されて、

農家で働いているが、飯付き、宿付き、給料つきだ。

給料は他より安いそうだが、お金の問題ではない。

 

何だろう。この充実感は?

生活支援者のときには味わったことがない。

刑務所での就労とも何か違う。


「 ユウスケ、今日の晩御飯なんだろうね。

  おにぎりが良いな。刑務所の米はマズかったもんね。

  白米めちゃくちゃ好きだよ。」


エレナは、ご飯のことばかり考えている。


そう、ご飯が美味しい。

生活支援者のときにも、コンビニ弁当などを食べてたけど、

全然違う。

違うのだ。

確かに、釜というところで、薪に火をつけ炊いて大変そう

だけど、とにかく旨いのだ。冷えても旨い。

米はたくさんあるらしく、何回もおかわりをさせられる。


 「何で、この家の白米は旨いんだろう?」


俺は、食事前にボソッと呟いた。


 「そりゃ、うちの米は天日で干して作ってんだ。

  乾燥機かけて、いろんなもん混ぜている白米とは味が違うべ」


与作さんが自慢げに教えてくれる。


足の短い大きいテーブルには、与作さんの隣に俺、

そして3人姉妹の百恵さん、明菜さん、愛菜ちゃんが

俺達の前に並んで座っている。


百恵さんは、やせ形の黒髪ショート、美人でおしとやかな感じだ。

与作さんと、しょっちゅう口喧嘩をしている。

俺より年上だろう

学校の先生だ。


明菜さんも、やせ型の茶髪ロング、幼さが残る可愛い感じで明るい。

女友達を家によんでは部屋で何やら賑やかに遊んでいる。

俺と同じくらいだろうか。

看護婦をやっている。


愛菜ちゃんは、前髪パッツンのショートヘアで小学生だ。

たまに、パンツをホレホレと見せてくれる。


毎日、賑やかで楽しい夕食を頂いている。


 「ユウスケさんは凄いね。

  ここで、ずっと働いてくれたら助かるんじゃない。

  お父さん。」


長女の百恵さんが俺を褒めてくれる。

使用人で良いので、ここでずっと働きたいです。


 「んだな。お前ら、誰かユウスケのお嫁になれよ。

  ガハハハハ。」


与作さんがお酒を飲みながら、娘たちに話す。

壁の外ではお酒は超高級品なのだが

こちらでは気軽に買えるらしい。


そして、与作さんは既に酔われているようです。

俺をイジメたいのだろうか?

皆に嫌がられて精神ショックを受ける未来しか見えない。


 「あら、私で良ければ良いわよ。」


百恵さんが、しらッと与作さんに言う。


 「あら、姉さんズルい。私だってお願いしたのに。」


明菜さんは百恵さんに向かって文句を言っている。


 「あたいも大きくなったらユウスケのお嫁になる。」


愛菜ちゃんは、俺に向かって言ってきた。


えっ?うそ?

まあ、社交辞令というやつであろう。

こんな展開は、俺的にありえない・・・・はず。


 「んだとよ。頼むなユウスケ。3人まとめて。

  ガハハハハハ」


与作さんは、酔われているようです。


 「あらあら、3人も4人も一緒でしょ。

  ユウスケさん、私もお嫁にしてくれっか?」


与作さんの奥さん、芳子さんが食事を運びながら

俺にプロポーズしてくれた。


 「馬鹿言ってんじゃね。

  ユウスケだって選ぶ権利があんだ。

  お前の相手したら、ユウスケだって死んじまうわ

  ガハハハハ」


与作さんは、酔われているようです。


しかし、こちらでは何人夫を持とうが、

何人奥さんを持とうが大丈夫らしい。

だって自由だから。

モテればハーレムだが。

 

しかし、芳子さんの相手をしたら死ぬ?

そういえば、夜中、地震のように家が揺れることが。


 「やだよ、あんた、

  ユウスケさんに、

  私が、すんごいのがバレちゃうべよ。」


芳子さんが与作さんの話に上乗せしてくる。

何がすんごいのか?


 「ユウスケ、どうしたんだろうね?

  あんたがモテるわけないよね。

  きっと今日の夕飯が残念なのよ。それで。」


エレナが頭の中で忠告してくれるが、

俺も、そんなことであろうと思う。


 「まあ、嫁の話は後にして、

  ユウスケさんが毎日頑張ってくれるから、

  今日はご馳走ね」


芳子さんがメイン料理を運んできてくれた。


えっ?ご馳走?

ま、まさか、この料理は?

幻の・・・・

コンビニで見たことあるけど高くて買ったことはない。

3人娘も喜んでいる。


 「牛肉のステーキよ。」


芳子さんが説明してくれた。


 「た、食べても良いんですか?」


俺は、プルプルと震えながら芳子さんに聞いた。


 「何言ってんの。暖かいうちに食べて。バターつけても美味しいよ。」


芳子さんが笑って勧めてくれる。


プルプル震える箸で肉を掴み

匂いだけでご飯が食べられそうだが、

ガブリッ


 「うおー」

 「ひやー」


俺とエレナは一口食べて、脳内で騒ぎ出した。

肉、ご飯、肉、ご飯、お味噌汁、肉、ご飯、お新香、肉・・・・・


 「もう、幸せ、思い残すことは無いわ」


エレナが満足そうである。

俺も、本当に美味しいものを食べることが、

こんなに幸せだなんて知らなかった。


 「ご馳走様でした。明日から、もっと頑張ります」


俺は、与作さんと芳子さんに感謝を告げる。


 「張り切り過ぎて、腰痛めるなよ

  なんったって、普通、1週間かかるのを、おめえは

  1日でやっちまうんだからよ。

  ほんと、おいら、毎日ビックリするべよ」


与作さんが褒めてくれる。


 「ホホホ。夜も楽しみね」


芳子さんが、笑いながら俺をからかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


実は、農作業は、エレナが精神エネルギーを使って手伝ってくれている。

肝心なところは俺がやっているが、エレナもやりたいというので

交代でやっているのだ。

 

そして、エレナが農作業している時に、俺はテレポーテーションの

練習をしている。

時間が無いのだ。

いつでもどこでも、テレポーテーションの練習をする。


 「頑張るね。コツは掴んだの?

  まあ無理よね。

  この私だって出来ないんだから」


農場に着いたとき、エレナが聞いてきた。


 「コツ?掴んだよ。ただ、まだまだ駄目なんだ。」


俺は、エレナに答えてやった。


 「嘘ばっかり。私に見栄なんて張らなくて良いのよ。

  張るのは下半身だけにして。

  最近、スケベの力が更に大きくなっている気がするの」


エレナ博士、最近、そちらに関心を持ちすぎです。

確かに、スケベの力は増えている気がする。

毎日、毎日、芳子さん、百恵さん、明菜さんに愛菜ちゃんに

からかわれているのだ。


 「よし、じゃあ、試しに、やってみるぞ」


俺は、出来るかどうか試してみる。


精神を集中する。

そして目的物の様々なエネルギーを全て感じる。

物質ではなくエネルギー

様々な種類の、波のような、振動のような

これが難しい。

 

多分・・・・出来た。

ここまでは、毎日練習して出来るようになった。

そして、そのエネルギー全てをまとめて・・・・・


 「フー。まだ、これが限界だな。チクショウ」


俺は、残念そうに呟く。


 「チクショウって。あ、あんた」


エレナは驚愕しいているようである。

俺が片手にブラジャーをもっていたからだ。

庭に干してあったブラジャーだ。

巨乳なサイズであるから、

おそらく、芳子さんのであろう。

そして、俺はすぐに、それを物干し竿に戻した。


 「さ、さすがね。ユウスケさん

  まさか、これほどとは。

  最近、あんた、何でもアリって感じじゃない。」


エレナが褒めてくれたが、しばらく考え込んでいるようである。


 「でも、そうね。この能力を使えば・・・・・・・・

  フフフフフ・・・・・・」


エレナの考えていることは、すぐにわかった。

そう、この能力で、お金でも何でも盗むことが可能ということに。

馬鹿なエレナでも気が付いたのであろう。

しかし、俺は、エレナのような下衆なことを考えない。


 「フフフ、

  俺はもっと力をつけて、こんな洗濯物ではなく

  暖かく生なものを・・・フフフ」


俺がこんなに頑張れるのには理由があるのだ。


 「刑務所に入ってまともになったと思っていましたが、

  イヤイヤ、ユウスケさんも変わりませんね・・・フフフ」


俺の頭の中で、2人の笑い声がしばらく響いていたのであった。


与作さんは、今日、出荷のために馬車で繁華街に行っている。

キャベツを収穫して、箱に詰めてくれと言われている。

そして、その箱は小屋に入れておけば良いとの事だった。


これまでなら、精神エネルギーでキャベツを収穫して

飛ばして箱に詰めて、まとめて箱を飛ばして小屋に。

という感じであったが。


先ほど、テレポーテーションが成功した。

ということで、コツを忘れないうちに反復練習だ。


 「じゃあ、私はマンガ読んでて良い?」


エレナは、暇になるといつも俺の頭で漫画を読む。

そんなに俺の記憶は残っていないのだが、思い出せないだけで

脳には記憶されているらしいのだ。

そんな記憶を取り出すエレナは凄いと思う。

俺には出来ないのだ。


まあ、静かにしていてくれた方が助かる。

俺は、そう思って、小屋に箱を並べて用意する。

農場から小屋までは500メートルくらいか。

そして・・・・


キャベツを収穫してはテレポーテーション

収穫してはテレポーテーション

収穫しては・・・・・・


 「うそじゃろ

  全部、終わっちまったのけ?」


与作さんが、小屋に積まれたキャベツの箱をみて驚いた。

調子こいて、やりすぎたか?

 

しかし、想像以上に疲れた。

精神エネルギーを使い果たしたのではないかと思えるくらい。


 「ユウスケ、精神エネルギーが弱まってるよ。」


エレナが心配して忠告してくれる。


 「そうだな。しばらくは回復しないと思うよ。」


疲れ切った俺はエレナに返答する。

こんなに、精神が疲れたのは初めてだ。


 「お帰りなさい。

  お疲れさまでした。

  ユウスケさん」


百恵さんが玄関で出迎えてくれた。

今日は暑かった。

暑かったけど・・・・・・

いや、暑いから・・・


百恵さんの格好はTシャツにミニスカートだ。

なんか、汗ばんでいる姿が素敵です。

 ラジャーが透けてませんか?

 

 「ふいー。今日も暑いですね。」


百恵さんが背伸びしながら俺に話しかけてくれるが、

脇の下が・・・・・

夏は最高です。


「 ユウスケ、精神エネルギーがだいぶ戻った。何で?」


エレナが疑問を呈してきた。

俺にもわからない。


しかし、

平凡な日常の中に、たまに刺激的な幸せがあると

とても、嬉しい気持ちになる。


 「平和だね。こんな毎日なら良いね」


エレナが地雷を踏んだ気がしたが、気にしない。


そして、

俺は、明菜さんの姿を見て精神エネルギーが完全回復したのであった。

家の中で、ハイレグビキニ姿はありえない。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


夏は、俺にとって最高の季節である。

しかし、良いことばかりではない。


雨だ。

しかも、連日の豪雨。

天気ばかりはどうしようもない。


与作さんをはじめ、消防団の人たちは、川の堤防の

見張りをしているらしい。


俺は、毎日、みんなの幸せそうな顔しか見ていなかったが

連日の豪雨で、心配そうな顔になってきたのがわかった。


 「3年前の豪雨では、堤防が決壊して農地が駄目になったわ。」


百恵さんが教えてくれた。


 「そう。あの時は悲惨だった。餓死者も出たし。」


普段、明るい明菜さんも不安そうな顔で話してくれた。


 「これだけは、私達にはどうしようもないことで、

  祈るしか・・・・」


芳子さんも心配そうだ。


 「学校早くいきたいな。」


愛菜ちゃんは、無邪気だ。学校が好きらしい。


 「与作さんたち、大丈夫ですかね?僕も何かお手伝いを・・」


俺は、芳子さんに聞いてみた。


 「危険だからやめて。3年前も死人が何人も

  決壊をなんとか止めようとして・・・・

  大丈夫よ、お父さんたちに任せておけば。

  お父さんなら死んだって。」


芳子さんは、そう言ってくれた。

いや、与作さんが死んだら大変でしょう。

そんな、心配をしていたが

連日の雨は昼頃に止んでくれた。


 「ただいま。」


与作さんだ。生きて帰ってきて良かった。


 「おかえりなさい。

  与作さん。

  良かった無事帰ってきて」


俺は、与作さんを玄関で出迎えた。


「いんや。まだだ。

 飯食ったら、また、行かねえとな。

 川っていうのは、後から水が増してくんからよ」


与作さんが真面目な顔で教えてくれた。


そうなのか。

俺は壁の向こうで、こんな緊迫感のある経験も

洪水のことも何も知らなかった。

生きるとは、死ぬことと隣り合わせ。

これが本当なのかもしれない。


 「私たちの星では、

  多くの人の精神エネルギーが不安定になると

  大きな災害が起きると言われているの。

  証明は出来ていないけどね。

  だから、みんな、笑う努力をしているのよ」


頭の中で、エレナが語る。


なるほどね。笑う努力か。

この場で、俺が笑ったら、みんなに怒られるだろうけどな。

しかし、何とか何事もなければ良いのだけど。

いや祈るだけでは駄目だ。

この街を守りたい。与作さん達を・・・・

 

この街にはこんな気持ちの人が多いのだろう。

街のために死人が出てしまうほどに。


 「雨が止んだので、ちょっと買い物に行ってきます」


俺は、芳子さんに告げて家を出た。

与作さんは、飯を食べて休むことなく堤防に向かっている。


当然、俺も堤防の様子を見に来たのだが。

あと、1メートルくらいで一杯になるんじゃないか。

与作さんの話だと、上流で降った雨がこれからどんどん

流れてくるという話だった。

だとしたら、堤防の弱いところは・・・・・・・・・・・


 「どうなる?どうしたら?」


俺は、色々と考える。

レイマンさんから教わったことや、

クオンさんの言っていたこと。

そして、自分の能力。


恐らく、壁の外の世界では自分達に被害が無いように

河川の設計や堤防の強化をしているはず。

その影響が近年、この街に来てしまったのだろう。

もしかすると、それも外の世界の計画かもしれない。


仮に、そうやって推測すれば、

この堤防は決壊する可能性が高い。


では、どこが決壊する?

水の流れや地形をよく観察する。


違いない

あそこだ。

少しカーブになっているところだが、

与作さん達が、土嚢を山にして強化している。

すごい人数だ。

みんな泥だらけになって必死だ。

確かにあそこが決壊すれば農地に被害がでてしまう。


土嚢を積み上げるだけでは・・・・

俺は、遠くから能力で土嚢に圧力をかけて、堤防を固める。

これで大丈夫か?

 

いや、待て、あそこを強化すると

今度は、俺が立っている場所に圧がかかって

ここが、今度はヤバいのか?

ここが決壊すれば、繁華街が・・・


これじゃあ、イタチゴッコになっちまう。

ここを強化するための土はどこから持って来れば?

与作さん達に協力してもらうか?

 

いや、きっと間に合わない。

焦るな、頭を柔軟にして考えるんだ。

 

 「あそこ、ぶっ壊せば、あっちに水が行くんじゃない。

  やっちゃう?」


エレナは、何でも壊したがる。本当にコイツは。

いや、待てよ。確かに。

堤防のあそこを壊した場合、あっちに水が流れるだろう。

そう、何もないあの区域に。


 「さすが、エレナ様。すばらしいアイデアです。」


俺はエレナを褒めたたえた。


 「でしょ。じゃあ私がドカーンと」


エレナが嬉しそうに言ってくる。


 「いや、エレナ様。ドカーンはヤバいです。

  水流がなだらかに流れるように考えて削らないと。

  エレナ様のお手を汚さずとも、私にやらせてください。」


俺は、やる気満々のエレナ様を止めた。

こいつに任せては危険なのだ。

そして、能力発動

水流の流れに逆らわないように、上から徐々に削っていく。

広範囲になってしまうのは仕方がない。

 

始めは水圧が小さかったが、川の水が漏れ始めてきたところで

圧が急激に上がる。

水は高いところから低いところに流れるのだ。

ひとつ間違えば、ドカーンと一気に堤防が崩壊してしまう。


削った土を壊れそうなところに運び、堤防に圧をかけて強化する。

それだけでは土が足りないので、

何もない区域から土を大量に運んで固めて水路もつくる。

おかげで、何もなかった区域には大きな沼が出来ている。

エレナにも協力をしてもらっているが、大丈夫か?


1時間後、水位はだいぶ下がった。

もう安心だろう。

水が流れた先には、大きな沼と田んぼのような

風景が出来た。

与作さん達も、片づけを始め、

帰る準備をしている。

俺は、座り込んでしまった。


 「エレナありがとう。お土産でも買って帰るか。」


俺は、フラフラでも、何とか立ち上がって繁華街に歩いて行った。

 

 「おかえりなさい。遅かったですね、ユウスケさん。

  買い物とか言って繁華街で遊んできたんですか?

  そんなフラフラになるまで。

  ユウスケさんも男だから仕方ないですけどね。」


芳子さんが、怪しげな笑みで出迎えてくれた。


 「いや、ケーキがどれも美味しそうで、

  ずっと迷ってしまいまして。

  いつもの、お礼です」


俺はそう言って、繁華街で買ってきたケーキを芳子さんに渡した。


 「えっ?ケーキ?」


芳子さんは、すごく驚いている。


 「皆さんで食べて下さい。」


俺は、笑っていった。


 「あーん。もう。駄目。

  早く食べさせて。見ただけで欲しくなっちゃう。」


エレナが頭の中でうるさい。

目の前にケーキがあるのだ。


 「ユウスケさんが買ってきてくれたの。

  みんなで食べましょう」


テーブルにみんなで座っている。

色々な種類のケーキを買ったんだが、

それぞれ、好みのケーキが配分されて良かった。


 「こんなの初めて。最高、最高よ。ユウスケ」


エレナは、美味しいものを食べると頭がおかしくなる。


与作さんの家族にはメチャクチャ感謝された。

壁の外の世界では、俺でもたまにケーキは食べていた。

しかし、こちらでは、ケーキは超高級品だ。

ケーキの材料が貴重で高価らしい。


まあ、給料をもらっても、使い道がない。

家賃も食費も光熱水費もかからないのだから。

貯金しか出来ない。


 「しかし、今回のことは、神様に感謝だべな」


与作さんが口の周りにケーキをつけながら話し出した。


 「まさか、堤防の頑丈な場所が決壊するなんてよ。

  晴彦も、どうやって計算してもあそこが決壊するなんて

  考えられねえって言ってたべ」


晴彦さんというのは、力学に詳しい人らしい。


 「しかも、あそこの土地に川の水が流れてよ。

  神の恵みだっぺよ」


与作さんが話す。


 「何で、神の恵みなんですか?」


俺は素朴な疑問を聞いてみた。


俺は、農地も家も何も無いからあの土地を選んだのだが。

まあ、小さな小屋みたいなのはいくつかあったが。


 「あそこの土地は昔、農地だったんだけどな

  化学肥料や農薬のやりすぎで土地が死んじまったんだ。」


昔は農地だった?

だから田んぼみたいな風景になったのか。

そういえばレイマンさんから聞いたことがある。

土壌の生態系が崩れると土地が死んでしまうとかなんとか。

 

 「だども、川の水が流れたことで

  晴彦が言うには、微生物が云々で

  有機物が何だかで、あそこの土地でも農業ができるとか。

  すごかっぺ。

  棚から牡丹餅とか・・・・」


与作さんが、珍しく興奮気味に自分で理解できないことを話した。

晴彦さんという人は、色々詳しい人らしい。


しかし、洪水で農地が増えた。

あらすごい。

棚から牡丹餅?

労せず幸運がきたという意味だっけ?


 「そう、すべて私のおかげです。計算どおりです。

  わたしって実は女神様なのかもしれない」


エレナ様が偉そうである。


いや、棚から牡丹餅などではない

まして、エレナのおかげでも・・・まあ少しはあるか。

俺はそう考えて。


 「神の恵みとかではないですよ。

  与作さん達が頑張ったからの結果ですよ」


俺は、自分の口の周りについたケーキをふいてから

まだ、体中、泥だらけの与作さんに言った。


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