アトランタ
教室の中に入ると、まるで大学の教室のようだった。
とはいっても、俺自身実物を見たわけではないので確実にとはいえないが。
持ち物は各自自由なので、俺は何も持ってこなかった。
数分もしないうちに、先生らしき老人が教室の中へ入ってきた。
老人はどこからともなく水晶玉を出し。
「ぼくの授業は魔法の素質がある人しか参加させることはできません。この水晶玉は各個人が最も秀でている魔法、いわゆる『自在魔法』を伝えてくれます。あと、例え才能があったとしても使うことができないと、この水晶玉は反応しません。早めに終わらせたいので、皆さん並んでください。」
と、しわがれごえで言った。
並んでいると、前から「駄目ですね。」とか「合格です。」という言葉が聞こえてくる。
そして、俺の番が回ってきた。水晶に手をかざすと、空中に文字が浮かび上がる。
「なるほど、水、ですか。悪くはないですね。ごうか___」
老人が言い切る前に。
「おかしなことを言わないでください先生!こんな何処にでもあるモブ魔法で合格ですって!?」
少女の声が響く。
あいつは…昨日いたレギウスの取り巻きか?
老人は不思議そうに眼鏡をクイと上げた。
「ええっと、あなたは…?」
「私はシャルルフォーゼ・アトランタという者です。以後お見知り置きを。」
「丁寧な自己紹介をどうも、してアトランタ君、先程の言葉はどういう意味ですか?」
「そのままの意味です。戦場で水魔法を使っている者なんていません。例え持っていたとしても、精々水を補給するためだけにしか使われていないんですよ?本当の自在魔法というものをご覧にいれましょう。」
そういうとアトランタは、水晶玉に手をかざした。
「ほう…『推進』ですか。」
「そうです。私の自在魔法は実戦に非常に適した物なのです。実戦に適して初めて使用用途が生まれ、自在魔法と呼べるのです。」
「…」
老人はため息を吐く。
「確かに、あなたの考えにも正しいところはあります。」
「そうです!だから、こいつを不合格に___」
「しかし、それは拘束魔法に限る事です。」
「…え?」
「あなたが先程から言っている水魔法は、拘束魔法の範疇でしかないのです。自在魔法を使える母数自体が少ない故に、情報は回りにくいのです。軍人のうち、自在魔法を習得しているものがどれくらいだと思いますか?およそ1000分の1と言われています。君。試しにやってごらんなさい。」
俺は指示され、水を出し、槍の形へ変化させた。
「これでどうでしょうか。」
「充分です。投げてみなさい。修繕費は気にしないで大丈夫です。」
そう言われ、俺は10m先の壁へ思い切り水槍を投げた。
水槍は壁に深々と突き刺さっていた。
アトランタは唖然としている。
「アトランタ君、わかりますね。
あなたが知っている知識はごく一部のものでしか無いのです。
ああ、あなたも合格ですよ。
自在魔法が使える人数が少ないことはお伝えしましたよね。
『推進』についても気になるところはありますので。」
アトランタは顔を真っ赤にして席へと戻っていった。
「さて、皆さん、私の名前はポリエです。
これからよろしくお願いします。
さて、みなさんは恐らく魔法についての知識はあると思いますが、知識はあくまで情報として頭の中にあるものでしかありません。
魔法をいつでも出せるように感覚を鍛えること、自分に与えられた魔法というアドバンテージをいかに工夫して使うか、この二つが重要です。
逆にこれができていなければ、知識なんて全く役に立ちません。
だから、この学校の魔法教室には練習場があります。」
そういうとポリエは、壁際のレバーを倒し、それと同時に壁が上へとせり上がる。
とても広い。ここならいくらでも練習できそうだ。___
___授業が終わり、部屋へ戻る準備をしていると、アトランタが近づいてきた。
「村人さん、ちょっといいかしら?」
「なんだ。なにかようか?」
「ええ。あなたにお願いがあるんだけど。」
アトランタのさっきまでの愛想を振りまくような笑顔は無表情へと変わり。
「あなた、目障りなのよ、レギウスと朝ご飯食べたりだとか、授業で私よりも目立ったりだとか、だからあなた、この学校から消えてくれない?」
これはまずい。
トラブルが起きてしまった。どうにかして和解をしたいが…
「いや、俺もわざとやっているわけじゃ無いんだ。もしあんたの気に障ったのなら謝る。
だけれど、何をどうするかは俺の自由だし、あんたが俺の行動を制限する権利なんてない。そう思うんだが…」
気づくとアトランタの顔はさっきの笑顔に戻っていた。
そして今度は笑顔のまま俺の耳元で囁いた。
「私に刃向かうとどうなるかこれからじっくり教えてあげるわ。
あなたがこの学校からいなくなるまで執拗に、丹念に…」
そう言って、アトランタは寮の方角へと向かって行った。
…弱ったなぁ…___
___それから、アトランタによるいじめが始まった。
階段を降りているときに、上から水を掛けられたり、度々足を引っ掛けられたり、中には調理室の火で燃やされそうになったこともあった。
アトランタは複数の女子を従えているので、警戒すべき点が増えてしまうのも難点である。
ただ、まだ、耐えなければいけない。あいつが隙を作るまでの間は。
「なぁ、最近元気無いぞ、大丈夫か?」
レギウスが心配そうな声を俺にかける。
「ああ、大丈夫だ。」
「本当か?シャルの奴が何かしていたりしないか?」
「シャル…?アトランタのことか?」
「ああ。あいつは小さい頃からのダチなんだけどな、俺が他の奴と仲良くしていると、すごく嫌そうな顔をするんだよ。なんでだろうな?」
「なんでってお前…それ本気で言ってんのか?」
「本気だ。」
こいつなんでそんなに鈍感なんだ…
だが、これであいつがレギウスに異常に執着している事がわかった。
これなら解決の糸口が掴めるかもしれない。




