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MILK

アメブロ掲載作品。

まきはらのりちゃんのMILKより。

だめだだめだだめだ。


ぼくはぐっと唇と噛み締めると

古びた階段を一気に駆け上がる。

カンカンカン、と気分にそぐわない高い音が鳴った。



二階建てのアパートの部屋の前につくと

勢いよくベルをならす。

窓から灯りが漏れているからまだ起きているはずだと

強気にドアをたたいた。


「はーい」とノンキな声が聞こえて

パジャマ姿のあいつがドアをあける。

そしてぼくを見つけると「おや」と微笑んだ。



狭い部屋は小奇麗に片付いていて

小さなテーブルの上には仕事の途中なのか

書類が散らばっていた。


「…おそくにゴメン」

「いいけど、何かあった?」


無造作に書類をひとつに纏めて

あいたスペースにマグカップを二つ置いてくれる。


「…っう」

ここに来るまでずっとこらえていたものが喉まで出掛かって

でも泣いちゃだめだ、と戒める。


「しゃべっちゃえば、楽になるんじゃないの?」

あいつがぼくを見て、優しく微笑んだ。




新鋭作家のデザイナーとして名前が広がっていくにつれ

あれやこれやのしがらみや、やっかみや

自分らしさが出しづらくなっていく環境で

ぼくはずっともがいていた。


デビューする前は楽だったのだ。

自分の思い描くものを好きなように作れて

それが評価されていくのがとても嬉しかったのに。


いつの間にか認められていたそれが足枷となり

誰かの希望に沿うように求められ…


ぼくはぼくらしさを失っていっていた。


そして言われてしまったのだ。

「あいつももう終わりだな」と。

オリジナルさがなくなってしまって

ただの凡人になってしまった、と。



今まで確固たる自信のあったものが

両手から滑り落ちて

もう何も残っていないような気がして…


怖くなったぼくは思わずここに来てしまった。




要領をえていないだろうぼくの話に

小さく相槌をうちながら

「でも、おれはお前の作品がすごく好きだよ」と笑みを零した。

「いいじゃん、言いたいやつには言わせておけば。

お前の作るものは優しくて、温かい気持ちになる。

大好きだよ」


な?と柔らかな視線を投げられて

ぼくはとうとう堪えきれなくなってしまった。


男は簡単に泣くな、と両親に言われて育ったけども

これは簡単なことじゃないからと心の中で言い訳をする。

あとからあとから温かい雫がこぼれ落ちて頬をぬらした。

「…うぃ…っく」

しゃくりあげて変な声が漏れてしまっても

あいつはただ、ぼくの背中をなでてくれた。


大きな手のひらの暖かさがぼくをゆっくりと

包んでいく。

大丈夫だと言ってくれているのが伝わってくる。



まだ、ぼくは大丈夫だ。

流されることなく進んでいける力がある。


ぼくはぼくらしく生きていけるはずだから。



「ありがと」

掠れた声が出たころにはすっかり気持ちが落ち着いていて

顔をあげたらあいつの影がぼくを覆った。



「泣いてるお前も可愛かった」と囁きが耳に触れて

濡れたままの頬に唇が触れた。

「か…可愛いとか、言うな」

「だって、すごく可愛かった」


背中をなでていた手が少しずつ場所を変えていく。

「大好きだよ、本当に」

「…っ」



ぎゅうっと強く抱きしめられて

さっきよりももっと強い優しさに閉じ込められる。


うん、と答えたぼくはその優しさに身を預ける。

「うん…おれも、大好きだ」

「よかった」



近づく吐息に瞳を閉じて

心の中で呟いた。


お前がいてくれて、よかった、と。





fin



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