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学園売店店員の穏やかではない日々  作者: 夢幻


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 うーん、困ったわね。

 いがみ合う美男美女を前にして、私は内心ため息をついた。


 ロイセン王国で最高峰の教育機関、王立学園。王族貴族は勿論、入学試験さえ突破できれば公費で通えるため庶民も多少いるこの環境で、最近話題になっていることがあった。

 6年制のこの学園の2年生に、転入生が来たのだ。

 第一王子の放蕩(おんなずき)っぷりから、転入生が劇的に増えているとはいえ、今まで来た転入生たちはどう考えても第一王子狙いで他の男子達に目もくれなかった。しかし、今回は違う。


 男爵の庶子で、永らく修道院で暮らしていたが、今年引き取られたらしい。栄養があまり足りていなかったのか小柄で、くるくる表情が変わり、誰とでも距離感の近い美少女。

 娯楽に飽きている(かわりものずきな)高位貴族男子は、ころっといってしまった。


 ここで問題が浮上する。なんと、我が国の第三王子までころっといってしまったのだもの。

 それに烈火のごとく怒ったのは、第三王子の婚約者であるカトリーヌ・メレル公爵令嬢、そしてその兄フリッツ・メレル次期公爵。それもそのはず、第三王子殿下と公爵令嬢は誰が見ても相思相愛だったのだから。

 ただそれぞれ3年と5年に在籍しているお二方は、ほぼ彼女と授業は被っていないため、休憩時間に苦言を呈しては風のように去っていく。


 しかし、例外がひとつだけ。


「フリッツさまあ、私そこでお買い物したいのです。どいてくださいません?」


「モラレス嬢、申し訳ないが私が先に購入している」


 この学園のすみにある売店では示し合わせたようにやってくるのだ。


 二人とも相当な甘いもの好きらしく、午後のお茶の時間頃になると、取り巻きがいるにも関わらずわざわざご自分でお菓子をお買い上げにくる。

 黒の王子とも呼ばれる黒髪黒目、誰にでも優しい次期公爵様が初めて来たときは驚いたものだが、お菓子を渡す時の他愛もないお話が好きなようで、緊張で固くなる私に優しく同級生の話を振ってくれたのを今日のように覚えている。フリッツでいい、と言われたのは何時だったか。皆に言っていることとはいえ、とてもときめいた。

 私の入学から始まり、もう5年目になるこのやり取りの時間に、モラレスさんは転入初日に割り込んできたのだ。学業に邁進しながら昼休みと放課後は家業を手伝う、多忙な私の癒しの時間は崩壊した。

 我が家的に見れば万々歳なのは分かってる。美男美女が買い物していると噂になり、学園外の本店は元々相手にしていた庶民に加え、お貴族様までいらっしゃっているという。

 私は巷で流行っている乙女小説のような、次期公爵様との二人だけの秘密の時間が結構好きだったんだけれど。


 思わずはぁ、とため息がこぼれる。しまったと思う前に、目の前の二人は言い争いをぴたりとやめてこちらを凝視してきた。


「どうしたんだ、疲れているのか?」


「何か悩みごとでも?」


 普段いがみ合ってるとはとても思えないほど、息ぴったりで私のことを心配してくれる美男美女。その勢いに少し引きつつ、頷き返す。嘘でもないがため息の理由ではない、無難なものを答えることにした。


「お二人が贔屓にしてくださってるお陰で、実家の商店が大にぎわいだそうで。貴族の方々に更に知っていただくにはどうしたらいいのか悩んでいるんです」


「ほう…?」


「商店は大騒ぎイベ!」


「はい?」


「いえ、なんでもないの。悩んでいるのね」


「パーティーを開くのはどうだろう?君の家のセンスは本当に素晴らしい。私が主催しようか」


「………え?」

 

 あまりにも唐突で、思わず二度見してしまった。まさか次期公爵様がそんなことを?もちろんセンスを褒めてもらえるのは嬉しいし、パーティーってことは食べ物は勿論、もしかしたら飾り付ける花やテーブルコーデまで、大量発注まちがいなしだけれど。モラレスさんもいい考えね、とか満面の笑みで言ってるけれど。

 いきなりの大事に不安そうな表情が出てしまったのだろう、フリッツ様は穏やかに笑った。


「学園内の交流の場、その発展として考えてほしい。来るのは生徒の保護者だけ、それでどうだろうか」


 貴族とのコネなんて、いくら積んでもすぐ得られないものだ。勿論足を掬われる可能性もあるけれど。でも、命令ではなく提案という形で手を伸ばしてくれているのだ。

 怖じ気づく自分を笑顔で包み込む。


「ありがとうございます。是非、やらせてください」


「じゃあ、実際に開くのはドーミエ嬢で、私は場所と費用を出す係で」


「お待ちください、どう言うことですか?」


 主催と言っていたような。思わず尋ねると、良い笑顔を浮かべられた。


「そのままの意味だよ?私は商売のことは分からない。パーティーは主催しよう。でも君の家の商品を売り出すのは、君だ」


「私もお手伝いしますから」


「君は結構」


「あら?好感度メーターが知りたいのでは?」


「何のことだか」


「…?」


 本当に何のことだか。

 何やらばちばちしだした二人をおいて、少し考える。女は度胸と愛嬌、それがあれば最強。


「分かりました、機会をいただきありがとうございます。頑張ります」


 早く帰って家族に伝えなければ。





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